美少女のいる生活/20
貴久は反応に困った。それはそうである。以前に女の子から、自分が処女だなどと告白されたこともなければ、そんなことを告白される日が来るということなど予想だにしていなかった。しかし、大人として何かしらの反応を見せなければいけない限りは、
「これまでカレシいなかったっていうのは、本当だったんだ」
ととりあえず無難――であると思われる――答えをすることにした。
美咲はムッとした顔を作った。
貴久はドキリとした。
どうやら、何か応答を間違えたようである。
「わたし、今、すごく恥ずかしい思いをしています」
「そうだろうね。おれも自分が童貞だって言わなければいけないとしたら、恥ずかしいと思うよ」
「そういう告白を自分からしたことは?」
「童貞だったとき?」
「はい」
「いや、無いな」
「じゃあ、想像してみてください。どのくらい恥ずかしいか」
貴久は想像してみることにした。それなりに恥ずかしい気がしたが、童貞だったときのことなど随分と昔のことである。その頃のことを想像してみようとするのは、ちょっと無理があった。
美咲はその涼やかな目元を厳しくした。
「その恥ずかしさを思い出したとところで、もう一度、わたしのさっきの発言に対する答えを許可します」
「了解です」
「では、どうぞ」
「……おれのために取っておいてくれたんだな?」
貴久は、おそるおそる少女の顔を見た。
彼女は、真面目にうなずいた。
「いつにしますか?」
「『いつ』とは?」
「わたしの処女卒業の日です」
「この前、高校を卒業したばかりだろ」
「ごめんなさい、貴久さん、わたし今冗談に付き合っている気分じゃないんです」
処女であることの告白などという行為が冗談では無いのだとしたら、今後いったい何を冗談と呼べばいいのか分からなくなるだろうと貴久は思ったが、口には出さなかった。
「それで、何、卒業?」
「そうです。つまりは、わたしと貴久さんが結ばれる日です」
「おれが、美咲ちゃんと」
「そうです!」
貴久は、じーっと美咲を見た。
どこからどう見ても可憐な少女である。
「やだ……そんなに見られたら照れちゃいます……」
ちょっとノリがいいところが玉に瑕だが、そうは言っても、それほどの瑕では無いばかりか、その瑕さえも愛おしいと思わせる魅力がある。しかし、その魅力的な少女と自分が交わるという図は、どうにもイメージできなかった。
というかしたくない。美しくない。何やら醜悪である。美女と野獣みたいなものだ。
とはいえ、彼女が自分のことを好きと言ったからには、当然にそこまでの行為を含んでの「好き」なのだろうけれど、そういうのは、たとえそうなるとしても、もっと時間を置くものではないだろうか。エッチの、しかも、初体験のリザーブなど聞いたこともない。
「入学式がある週の週末でどうですか?」
「美咲ちゃん」
「『はい』か『いいえ』で」
「いいえって答えたらどうなるんだよ」
「その次の週末を推します」
「分かった」
「えっ……」
「えって何だよ」
「疑っているわけじゃないんですけど、何かごまかそうとしてませんか?」
「そんな男だったら、きみが処女を与えるに値しない男だろう。他のやつを探した方がいい」
「じゃあ?」
「もらいうけるよ。きみの処女を」
「ありがとうございます!」
美咲は、契約が取れた営業ウーマンででもあるかのように、深々と頭を下げた。