美少女のいる生活/28
広いとは言えないかもしれないが、都心で2LDKは、独身者にとっては狭いとは言えない。実際、もてあましているくらいだったのだ。とはいえ、確かに2人で住むとすると、もうちょっとは広いところでもいいのかもしれない。
親友とその妻を駅まで送っていったあとに、美咲に提案すると、
「必要無いです。広いところに住めば、物が増えるだけですよ。わたしは、大好きな貴久さん以外に、何も要りません」
彼女が微笑みながら言った。
「あ、ありがとう」
「どういたしまして」
「ところで、お父さんは、おれたちの関係性に気がついているのかな?」
「どうでしょう。分かるけど、分かりたくないっていう気持ちなんじゃないですか?」
「なるほど」
「でも、景子さんには話しておきました。貴久さんのことが好きで、結婚したいと思っているっていうこと」
「感じのいい人だったな」
「好きになっちゃダメですよ。人妻なんですから」
「了解」
「でも、いい人です。あんなにいい人がお父さんと出会っちゃうんですから、世も末ですね」
「きみは、ちょっとお父さんに対して厳しすぎるんじゃないか? 彼はおれの親友でもあるんだぞ」
「でも、本当に昔から口うるさかったんですよ。わたしの好きにしていいって言いながらも、事あるごとに、ある方向――自分の理想の女性像――にわたしを誘導しようとするんです」
「お母さんの役割もこなそうとしていたんじゃないのかな」
「一人で二役なんていうことはできないですよ。できないことは、無理にやらない方がいいんです。早めに、景子さんみたいな人を見つけていればよかったんですよ」
「お父さんは、きみのお母さんを深く愛していたんだよ」
「貴久さんは、お母さんと親しかったんですか?」
「おれの元カノなんだ」
「ええっ!」
「失礼」
「そういう冗談はやめてください!」
「了解。でも、こういうところにも慣れてもらわないとな。一緒に暮らすわけだから、おれの素のところもちょっとは見てもらわないといけない」
「悪ぶっても、貴久さんがいい人だっていうことは分かります」
「そうかな」
「はい。だから好きになりました」
貴久はこの短い会話の間に、彼女は何度、「好き」という言葉を言ってくれただろうかと考えた。二回、それとも三回? それに対するに、貴久も好意をあらわにした方がいいだろうと思って、
「おれも、美咲ちゃんのことが好きだよ」
その通りにすると、美咲は頬を染めた。
言葉にしてみると、貴久はずっとその言葉が、すっきりと胸に響くのを感じた。
確かに、このほんの1週間前に同居を始めたに過ぎない少女のことが好きなのだと、貴久は自覚せざるを得なかった。