官能物語 2021/08/09 10:00

美少女との生活/30

 午前中は、美術館で絵を見た。
 貴久としては、遊園地でもどこでもよかったのだけれど、美咲がそれを望んだのである。

「でも、遊園地は今度連れて行ってください」

 と彼女は屈託の無い笑みを浮かべた。ここに来てから全く変わりが無いにこやかな笑みであり、貴久は、本当にこの子は今夜自分の身の上に起こることを理解しているのだろうかと不安になった。処女喪失という事態が、女性にとってどのような事態であるのかということは、もちろん、女性ならぬ身である貴久には理解しようもないけれど、相応に重要性があることには違いないはずだった。少なくともそのように聞いている。それなのにこの軽やかさはなんだろうか。

 貴久は、自分の童貞喪失時のことを思い出そうとした。それは随分と昔のものであったけれど、思い出そうとしてみれば、すっきりとそして鮮やかに思い出すことができた。とすれば、それなりに記憶に残るものであって、貴久にとっても重要な体験だったということである。

 男性にとってそうであれば女性にとってはなおさらに違いないと思うのは、今の世の中では男女差別と言われてしまうのかもしれないけれど、どうしても貴久にはそう感じられてしまうのだから仕方が無い。

「ああ、とってもステキでした」

 美術館に併設されたレストランの中で、美咲はホッと息をついた。

「そうだね」
「退屈じゃありませんでしたか?」
「印象派の絵を見て退屈を覚えるんだったら、美術館には来ない方がいいな」
「わたし、美術館に来るのが好きなんです。美しい物を見ていると、自分も美しくなったように感じられるから」
「印象派の絵に負けないくらい、美咲ちゃんは綺麗だよ」

 美咲は頬を染めた。
 褒め言葉にいちいち反応してくれるのが愛らしい。

「わたし、色んな所に貴久さんと行ってみたいです」
「いいよ。おれ一人だとそんなに出かけることもなかったから、こっちとしても望むところだね。この辺りだったら、ちょっと電車に乗っていけば、大抵の所には行けるしね」
「わたしがどんなに幸せな気分か、表現できる言葉があったらいいんですけど」
「その言葉が見つかったら、いの一番に教えてほしいね」
「はい!」

 広々とした芝生の庭に春の清爽な光が降るのを見ながら、野菜や魚や肉がおしゃれにちょこちょこと盛り付けられた皿に、貴久はフォークを伸ばした。同じようにする美咲は、一口食べるごとに、

「美味しい!」

 と感動するような声を出すのだから一緒に食事をするのに気持ちのいい相手だった。

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