息子の告白/17
頼めば、もう一度してもらえるだろうか。さっき、高典は、もう一度立つかどうか分からないと言っており、それ次第ということになるだろう、と思った久美子は、高典にとっての初体験の時なのに、なんという自分勝手なことを考えているのかと、自分で自分に呆れた。
唇を離した息子が、ぐったりと身を任せてきた。
「大丈夫、高典?」
久美子は、息子の頭を軽く撫でるようにした。
すると、彼は、大儀そうに顔を上げて、その顔を嬉しそうに微笑ませた。
「母さん、ありがとう。おれ、幸せだよ」
それを聞いた久美子は、目の奥が熱くなるのを感じた。この子を幸せにしたくて、これまで頑張ってきたのだった。もちろん、体を交えて、幸せを得させるなどということは、間違っているかもしれない。世間的に見れば、非難されることかもしれない。そうであってもなお、久美子の感動には、いささかも水を差すことはできないようだった。
「泣くなよ、母さん」
「……泣いてないわ」
「泣いてないけど、泣きそうな顔してる」
高典は、そこで真面目な表情になると、
「母さん、後悔してない?」
と訊いてきた。
久美子は、すぐに首を横に振った。「してないわ」
「本当?」
「ええ、本当よ」
「明日になったら、おれと一緒にいたくなくて、家を出てたりしない?」
高典が真剣な顔でそんなことを言うので、久美子は思わず噴き出してしまった。
「おれ、結構マジなんだけど」
「ごめん、ごめん……大丈夫よ、そんなことしないわよ」
すると、高典は、心の底からホッとしたような表情を見せた。そうして、
「もうちょっと、このままでいてもいい?」
と訊いてきたので、好きにさせることにした。
今度は、彼の方が噴き出して、どうしたのかと尋ねると、
「だって、こんなに間近で、母さんの顔見たこと無いからさ」
言うので、
「そこかしこに小じわのあるおばさんの顔が面白いのね?」
とちょっと口を尖らせてやったところ、彼はゆるやかに首を横に振った。
「母さんは綺麗だよ。おれの知っている人の中で誰よりも綺麗だ。昔からずっとそう思っていたし、これからもずっとそうだよ」
息子の言葉に、久美子は、不覚にも胸の奥をきゅんと鳴らしてしまった。そんな音がまだ出るということが、自分で不思議である。
「ああ、母さんのがなんかすごい……しぼるようにしてくるよ」
息子がうっとりとした声を出した。