ちょっとイケないこと… 第十四話「大人と子供」
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純君のアソコは膨張していた。パジャマのそこだけテントを張っているみたいに、はっきりと雌雄を主張していた。
彼の紛れもない欲情の象徴に私は動揺する。頬を紅潮させたまま硬直してしまう。ついこの間まで小学生だと思っていた弟の目覚ましい成長の兆候を直視したことで、未熟な姉である不肖の私は目の前の現実を上手く受け止めることが出来ないでいた。
あるいは何かの見間違いかと。ズボンに皺が寄ることで偶々そう見えただけだと。あえて見当違いな検討をすることで、あくまでも正答から遠ざかろうと試みる。
だけど現に彼は自問について言及し、元気におちんちんをギンギンにさせていた。さも準備万端であるというように。禁忌たる近親間における相姦を懇願するように。
悪寒にも似た予感を抱きながらも視線は自然と股間を視姦する。丘陵の強調というあからさまな現象にあてられて、脳漿に浮かんだのはありきたりな感情だけだった。
――純君も、大人になったんだね。
思わず場違いな感傷に浸ってしまう。間抜けな感想。そこに感慨を抱くこと自体がそもそも間違いであるというのにも拘らず、ついつい埒外なお節介を焼いてしまう。
肉体自体の堂々たる態度とは対照的に、彼自身は自信無さげにおどおどしている。そしてもう一度、彼は私に訊いてきた。
「僕、おかしいのかな…?」
と。病むべき闇を抱えたままの彼の疾しい悩みを。
――そんなことないよ!
すぐにでも払拭してあげたかった。それは男性に備わっている生命機能であって、生殖本能によるものに過ぎないのだと。
だけど問題は、その発情が果たして何によってもたらされたものであるかだった。
仮に女子の下着への執着なのだとしたら、あくまで正常な反応なのかもしれない。だけど彼が欲望をむき出しにしているのは、他ならぬ「姉の下着」に対してなのだ。それはあまりにも異常である気がする。明らかに常識を外れて、常軌を逸している。
「お姉ちゃんのことを考えると、ここが硬くなっちゃうんだ…」
すかさず彼は告白する。私に対する劣情なのだと、そう自供する。
姉としてはやはり忠告すべきなのだろう。その現象ではなく、その対象について。断固として私は警告を発すべきなのだろう。
「ねえ、僕『ビョーキ』なのかな?」
弱気な声で問う彼に対して。「そんなことも知らないの?」と訊き返したくなる。あるいは知っている上で、あえてとぼけているのかもしれない。
「病気なんかじゃ…(ないと思うよ)」
私は否定を保留する。断定を避けることで、それ以上の追求を逃れようと考える。
「でも、すごく苦しいんだ…」
彼は悩みをより具体的な苦しみとして表わす。それこそ私の知ったことではない。そういうことは私にではなく、仲の良い友人や未来の恋人にでも打ち明けるべきだ。(それはそれで少し淋しい気もしたが)
「なんか、すごく落ち着かなくて…」
まるで焦燥に駆られたかのように。そこで彼は暴走を始めた。
純君はあろうことか、ズボンの上から自分の股間を弄り出したのだった。
彼の小さな手が陰部をまさぐる。浮き上がった陰影越しに陰茎を掴んで手淫する。
――自らの、自らによる、自らのための行い。
性の知識もままならぬ癖に、どうすれば気持ちよくなれるかは心得ているらしい。だとしてもそれは私が居なくなってから、部屋で一人になってからするべきことだ。
「もう、やめなさい!!」
私は強い口調で制止を要求する。彼は萎縮したように静止した。
「そんなことしないで。お願いだから…」
一転して気弱な声音で私は言う。これ以上、純君のそんな姿を見たくはなかった。このままでは彼のことを本当に軽蔑してしまいそうだった。
「どうして?」
私の願望に対し彼は理由を問い、返答を待つことなく右手による運動を開始する。あたかもその動きが、最も効果的に刺激を与えられることを熟知しているみたいに。
私は彼の元に近づく。ドタドタと怒情を歩調に込め、彼が座るベッドに詰め寄る。そして、捻り上げるように彼の利き腕を掴んだ。
彼のか細い腕の感触が伝わってくる。未だ異性にも及ばない非力さが感じ取れる。
「やめなさい」
もう一度、今度は抑えた調子で言う。正面から彼を見据えて、目を逸らさずに。
「純君」
彼の名を呼ぶ。ゆっくりと確かめるみたいに。じっくりと言い聞かせるみたいに。それ以上、何も言わずとも伝わることを願って。
だけど彼は私の手を振り払った。強引にも、暴力的ながら。それはもはや強靭な、確実な男性の力であった。
私は困惑する。彼が、弟が、純君が、姉の言うことを聞き入れてくれない状況に。
彼は再び股間に手を伸ばす。行為を再開するためではなく、予想外の行動に出た。
純君はパジャマのズボンを脱いだ。さらにパンツまでも同時に下ろしたのだった。
「ポロン」と可愛らしい擬音で彼のそれが飛び出す。これまで影だけは浮かびつつも隠されていた物体がついに正体を現す。
それは純君の「おちんちん」だった。
ふと既視感に襲われる。私の人生においてあまり目にしたことのない男性のそこ。だけど純君のならば何度も見たことがあった。
彼が幼少の頃、よく一緒にお風呂に入っていた。その時に見た、弟のおちんちん。
私はそれを見て、もちろん何の感慨も抱くことはなかった。あくまで飾りとして、弟の股の間にぶら下がったそれ。せいぜい私の人差指くらいのサイズしかない一物。幼いのに一丁前に性別を識別する記号に愛おしさを覚えた。
だけど今目の前にあるそれは、その頃のものとは明らかに異なっている。
まず大きさが違う。変貌した彼のアソコは今や私の三本指にも迫ろうとしている。そして形状。それは単に飾りとしてではなく、れっきとした男性器の形をしている。
純君のそれはすでに「大人のおちんちん」だった。
いや「チンコ」というべきだろう。その醜悪な物体は愛らしい響きで呼ぶことさえもはや憚られた。より正式に言ったところの「ペニス」である。
「お姉ちゃん…」
彼は私を呼ぶ。アソコを握り締めたまま、まるで呼称すらも滋養に変えるかの如く私を見つめたまま行為を続ける。
私が見ていることを知ってか知らずか、彼は丸出しになったペニスに手を添える。片手で隠し切れないそれを両手で覆い、やがてしごき始めた。
直接手で触れることがよほどの快感なのだろう。「あぁ…」とか「うぅ…」など、彼は声にならない吐息を漏らす。私はそれを見守ることしかできなかった。
――もういっそ、このまま最後まですればいい。
私は諦め交じりに呆れながらもそう思った。
精を尽くして盛大に精液を解き放ったのなら、きっと彼も沈静化することだろう。一時の威勢に身を委ねて、束の間の達成と引き換えに、直後の自省に苛まれたとして決して私のせいではない。
出したいなら出せばいい。気の向くまま、気の済むまで。心のまま、心ゆくまで。
「お姉ちゃん…」
それでも彼は私を呼んだ。淋しげな顔で、すがりつくような目で、媚びるみたいに情けない声を上げた。
私はそれに応えるつもりはなかった。もうとっくに姉としての領分を過ぎている。彼を弟として見ることが今後一切できないかもしれない。
「お姉ちゃん、お姉ちゃん、お姉ちゃん…」
彼はきつく目を閉じたまま、うわ言のように繰り返す。果たしてその瞼の裏側ではどんな想像が繰り広げられているのだろう。私は知りたくもなかった。だけど…。
「お姉ちゃん…大好き!!」
そこで追い詰められたように。彼は私に対する想いを打ち明けたのだった。
どうしてだろう?あんなに嫌悪し掛けていたというのに。彼からそう言われると、甘露に満ちた私はつい反応してしまう。火の消えた暖炉に薪がくべられるかの如く、冷え切った心の温度が上昇してしまう。そうして私はいつの間にか彼のことを許し、いつでも彼の言いなりになってしまう。
そうだ、純君には私しかいないのだ。誰にも言えない秘密を話すことが出来るのは姉である私を置いて他にいないのだろう。
思春期に訪れる肉体の変化。それに伴う感情の機微。それは個人的なものであり、大いに個人差のあるものでありながら、どうしたって同年代の者達と比べてしまう。自分は早すぎるのか、あるいは遅すぎるのか、どちらにせよ異質だと感じてしまう。私にもある経験だった。というより私自身、現在進行形で抱えている悩みであった。
その時の私はおかしかったのかもしれない。後になって振り返ると、そう思う。
今夜はあまりに多くのことが起きた。彼の家でしたこと。家に帰って知ったこと。それらの出来事が重なり合うことで、私は少なからず冷静さを欠いていたのだろう。
私は純君のペニスにこっそりと触れた。私の手が彼のペニスをがっしりと掴んだ。私の指が彼のペニスをすっぽりと包んだ。
そうすることが紛れもない過ちだったことは今さら言うまでもない。だけどそれは今も私の間近にあり続け、さも私の手が差し伸べられるのを待っているようだった。間違いを○すことが、あたかも正しいことであるかのような誤解を抱いてしまった。
純君のペニスは不思議な感触をしていた。まるで鉄みたくカチカチになったそれ。血流が集中することで剛強を増したそれは、だが少しばかりの柔弱を内包していた。
硬いようで柔らかい。柔らかいようでやっぱり硬い。矛盾するようなその感触は、それこそが彼自身の不安定な居場所を表わしているみたいだった。
大人と子供の境界線。そのモラトリアムな立ち位置で迷い、彷徨い続ける彼の心。時に「もう子供じゃない」と宣い、時に「まだ大人じゃない」と駄々をこねるように都合よく両者を行き来できる存在。それこそが彼の現在の所在なのだろう。
私は純君のペニスを観察した。こうして見ると、彼のそれは頼りなさげに思えた。成人男性のそれと比較してみる。だけど私の知るそれは数時間前の記憶のみだった。
私が今のところ知り得る、唯一の一本。それはまさしく○○さんのものであった。彼のそれと純君のそれとは、大きく違っている。
まず凶暴さが足りない。彼の肉棒には女性を○すという傍若無人ぶりが窺われた。純君の珍宝にそれはない。ただただ呆然と自己の欲望を満たそうとするのみだった。
実際、長さも太さも彼のとはあまりに異なる。彼のモノに触れ、彼のモノを咥え、彼のモノを挿入されたからこそ分かる。彼のそれは私の性器を征服するのには充分、あるいは余りあるほどのものだった。(彼が射精したのは私の非正規の穴だったが)
それに形だって違う。私はさきほど純君のを「大人のおちんちん」と形容したが、そう呼ぶにはいささか無理があった。彼のそれは「子供のおちんちん」なのだった。
純君は「剥けて」いなかった。
いや、それを言うのはちょっぴり可哀想かもしれない。彼は未だ成長途上なのだ。今後少しずつ変化していくのだろう。だけど彼のそれは、現時点では不完全だった。
未成熟の子供チンポ。皮被りの包茎ペニス。それが純君の性器の現在の姿だった。
――続く――