八卦鏡 2022/05/15 00:00

寮長日記10[星女3]

アパート
逃亡していた、殺人鬼の鬼島三郎は捕まった。
しかし、首だけ置き去る、猟奇殺人は再び発生した。
逃亡中の殺人鬼の犯行という線は、完全に消えた。
ここは、築25年の古い木造アパートの一室だ。
老いた刑事の足元には、中年の男の首が置いてある。
中年男の首の傍には、メッセージカードが添えられている。
メッセージカードには、こう書かれている。

弱者を虐げる、素晴らしき悪漢。
その体は、主への最高の供物となる。
その首は、悪徳を称えこの地に飾る。

被害者は、電気部品工場に勤務する中年男性。
この男の部屋の押し入れから、大量のゴミ袋が発見された。
ゴミ袋には、大量の猫の死骸が入っていた。
また、猫の毛にまみれた、半田ごても複数発見された。
野良ネコを拾ってきては、半田ごてで虐○していたようだ。

老いた刑事「これで、二人目か」
老いた刑事「花屋の事件と、同一人物の犯行だろうな」

若い刑事「悪人を狙う事から、英雄扱いする連中もいるようです」

老いた刑事「ふざけてる!」
老いた刑事「やってる事は、猟奇殺人だ!」
老いた刑事「しかし、わざわざ首から下の体を、持ち去る理由が分からん」

老いた刑事は、臓器販売と関連があるのではないかと思い調べた。
しかし、心停止状態で臓器移植できるのは、腎臓、膵臓、眼球だけだった。
しかも、設備が整った施設で、24時間以内に移植手術を行う必要がある。
それに、眼球がある頭部は置き去りにしており、臓器販売の線は考えにくい。
そもそも、首を切断せずに遺体を持ち去った方が、証拠も残らず簡単だ。

老いた刑事「やはり、宗教関係が一番臭いな」

無彩学園
聖良「正直、驚きました」

それが、一冊の詩集を渡された、聖良の感想だった。
ヤディス人の情報の相談された時、一冊の詩集の存在を伝えた。
しかし、その詩集の入手は、かなり難しい事も伝えた。
だが、聖良の手には一冊の詩集がある。

聖良「どんな手段を使って、この詩集を入手されたのですか?」

刹那「日本酒好きの女将が、仕入れてきてくれた」

聖良「えっ、それはどいう事ですか?」

刹那「その詩集の入手の経緯は、今は重要ではない」
刹那「君には、その詩集の解読を依頼したい」
刹那「それは、普通の詩集ではなく、魔導書なのだろう?」

聖良「はい、ヤディスからの幻視は、詩集の魔導書です」
聖良「しかも、これは復刻版ではなく、オリジナルの限定版です」
聖良「これなら、かなり価値のある情報が得られるでしょう」

刹那「それが、オリジナルの限定版だと何故分かる?」

聖良「オリジナルの限定版と、復刻版には違いがあります」
聖良「復刻版は装丁が粗末で、内容が省略されています」
聖良「そして、決定的な違いがこれです」

聖良は詩集を開き、あるページを提示した。
そのページは、謎の言語の羅列で埋まっていた。

刹那「何だそれは?」

聖良「これは、呪文です」

刹那「呪文だと?」
刹那「何の呪文だ?」

聖良「それは、解読してみないと分かりません」
聖良「復刻版には、この呪文が省略されてありません」

刹那「そうか」
刹那「ヤディス人の仕業だと思われる、猟奇殺人が起きている」
刹那「全て学園外の事件で、生徒会は介入できない」
刹那「だが、この学園の生徒が、全く無関係な状態ではない」
刹那「学生寮の生徒の肉体が、ヤディス人に乗っ取られている」
刹那「できるだけ早く、その詩集の内容が知りたい」

聖良「分かりました」
聖良「すぐに、この詩集の解読に取り掛かりましょう」

コンビニ
深夜のコンビニの裏口の扉が開いた。
店舗の中から、茶髪の女店員が出てくる。
廃棄商品が詰まったゴミ袋を、両手に持っている。
店舗の裏には、鍵付きの大きなゴミ箱が設置してある。
女店員は、鍵を開けると、ゴミ袋を中に放り込む。

女店員「…………………………」

女店員は、ゴミ箱のゴミ袋を見詰めて不機嫌になる。
そして、そのゴミ袋に唾を吐き捨てる。
女店員は、子供を産んでは、ゴミ袋に入れて捨てていた。
一人目は、学生の頃の教師との子供だった。
二人目は、社員の頃の上司との子供だった。
三人目は、泡姫の頃の太客との子供だった。
妊娠を武器に、全員から多額の金を脅し取った。
子供が大嫌いだったので、産んで育てる気はなかった。
だから、生ゴミを捨てるように、産んだ子供をゴミ袋に入れて捨てた。

女店員「ふぁあああ…」

女店員は大きなあくびをした。

カシャン!

突然、乾いた金属音がして、女店員は首に違和感を覚えた。

女店員「えっ?」

女店員は、両手で首元に触れた。
ひんやりとした、金属の感触を感じる。
首輪のように、首を覆っている。

女店員「なっ、何これ?」

戸惑う間もなく、全身の力が抜けてその場に尻もちをつく。

女店員「ちょ、何なの?」

不意に、女店員は傍らに人の気配を感じた。

女店員「だっ、誰?」

黒いフード付きマントの人影が、女店員を見下ろしている。
その顔は、奇妙な仮面に隠れて全く分からない。
その仮面には、牙のある口を縦にしたような模様が描かれている。
そして、マントの下から、白い肌の女体が垣間見える。

女店員「……………………!」

女店員は、悲鳴を上げようとする。
店舗には、男の店員がいるからだ。
しかし、叫んでも声が全く出ない。

生まれ落ちた生命を、罪悪感なく消し去るその行為。
我が主は、汝の悪徳を称賛し、かの地でお喜びである。

どこからともなく、女の声が聞こえる。
仮面の女が、喋っているのだろうか。

カシャン!

突然、乾いた金属音がして、女店員の首が地面に落ちる。
首を失った女店員の体は、地面にうつ伏せに倒れ込む。
仮面の女は、血を吹き出す首のない体に屈み込む。
女店員の制服と下着を、丁寧に脱がして全裸にする。
脱がした衣服は、丸めてゴミ箱の中に投げ捨てる。
仮面の女は跪き、生首を自分の股間に据える。
大きく両手を振り上げると、呪文を詠唱する。

悪徳と倒錯を運ぶもの
煉瓦の壁の向こうの悪意
美徳をけがすのもの
善意を嘲笑う口を利く手
いあいあイゴーロナク

仮面の女の周囲に、赤い毒々しい霧が立ち込める。
赤い霧の向こうに、赤い煉瓦の壁が見える。
赤い煉瓦の壁に歪みが生じ、おぞましき怪物が滲み出る。
それは、ぶよぶよと太った、人型の肉塊だった。
それは、首があるべき場所に首がない。
それは、両手にあるはずがない口がある。
怪物の右手が、地面に倒れている女店員の体を掴み上げる。

びくっ

びくっ

びくっ

空中に持ち上げられた首のない体が、大きく痙攣する。
再び地面に戻された体は、意思があるかのように動き出す。
それに首はない、しかし、その両手に口が現れる。
それはまるで、その怪物の子供のように見える。
怪物は、それに両手を差し伸ばす。
それは、差し伸ばされた怪物の腕の中に飛び込む。
子供を抱える母親のように、怪物はそれを抱え込む。
そして、赤い煉瓦の壁の中へ、ゆっくりと戻ってゆく。
赤い霧が晴れ、赤い煉瓦の壁が消え去る。
後には、仮面の女と生首と静寂が残される。

悪意の子供たちは増え続ける
煉瓦の壁の向こうで待ち続ける
世界が悪意に満ち堕落する日を

仮面の女は、生首を地面に置くと、カードを添えた。

寮長日記10[星女4]

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