八卦鏡 2022/06/15 00:00

寮長日記11[眠女・前編]


その部屋の時計の針は、夜中の12時を指していた。
ベッドの上に寝そべり、台本を読む少女の姿がある。

水谷八織(みずたに・やおり)

無彩学園に通う、3年生の女生徒だ。
演劇部に所属し、今年部長に就任した。
八織は台本から視線を外し、枕元の時計を見た。

八織「もう、こんな時間なのね」
八織「さすがに、もう寝なくちゃだわ」

八織はベッドの上で大きく背伸びをする。

八織「……………………………」

八織の顔が憂鬱で曇る。
今から眠るのが怖いのだ。
八織は夜尿症に苦しんでいた。
夜尿とは、睡眠中に無意識に排尿してしまう行為である。
いわゆる、おねしょと呼ばれるものだ。
八織のおねしょは、小学生の頃に治ったはずだ。
しかし、ここ半年前から、またおねしょをするようになった。
泌尿科に行って診察を受けたが、膀胱や腎臓に異常はなかった。
結局、今もおねしょをする原因が、特定できていない。
おねしょなんて、友達にも恥ずかしくて気軽に相談もできない。
そんな事もあり、夜尿の不安から、不眠症も併発していた。
夜中に何度も目覚め、ベッドのシーツを確認してしまう。

八織「はぁ…」

八織は大きな溜息を吐くと、ベッドから立ち上がる。
部屋着のジャージを脱ぎ捨て、下着姿になる。
そして、部屋の壁に設置してある鏡の前に立つ。
八織は色々なポーズを取りながら、ボディーラインをチェックする。
もうすぐ、演劇部の公演がある。
上演する演目は、赤ずきんだ。
八織は、ヒロインの赤ずきん役での出演が決まっている。
その為の体型維持は必須だ。
しかし、甘いものが大好きで、ついつい食べてしまう。

八織「ケーキの食べ過ぎには、注意しなくちゃね」

八織はタンスに移動し、引き出しの中から寝間着を取り出す。
寝間着のネグリジェを着ると、床の紙おむつの袋に手を伸ばす。

八織「………………………………」

紙オムツをしてれば、夜尿してもシーツを汚さずにすむ。
しかし、逆に紙おむつの安心感から、夜尿してしまう気もする。
八織は、紙オムツに伸ばした手を引っ込める。

八織「今夜は、寝ている姿も撮影しなくちゃだしね」

八織は泌尿科に通院しているが、全く夜尿が治らない。
かなり悩んだ末に、無彩学園の保健医に相談した。
保健医は、医学部の白滝聖良を八織に紹介した。
聖良は眠たそうな顔をした、頼りなさそうな女生徒だった。
しかし、医学部の部長で、生徒会からの信頼も厚いと聞かされた。
聖良は八織を問診した後、ビデオカメラを八織に手渡した。
簡単に撮影方法を説明し、寝てる姿を撮影するように言った。
そういう理由で、今夜はいつもの睡眠とは状況が異なる。
いつもは、ジャージのまま寝ているが、今夜は寝間着を着た。
紙おむつ姿を撮影したくないので、今夜は着けない事にした。

八織「ビデオカメラの位置は、ここでいいかしら」

八織は、机の上にビデオカメラを設置した。
ここなら、ベッド全体が撮影できる。

八織「…さすがに…今夜は緊張して眠れそうにないわよね…」

八織は机の上に置かれた紙薬袋から、錠剤を取り出した。
通院する泌尿科から処方された、ゾルピデムという睡眠薬だ。
八織は眠剤を口に含むと、ペットボトルの水で胃に流し込んだ。

八織「…はぁ……おやすみなさい…」

八織はビデオカメラの録画ボタンを押すと、ベッドに横になった。


八織は小屋の中に立っていた。
赤い頭巾を被り、腕に籠をさげている。
籠の中には、道中で摘んだ花が入っている。
八織は自分が赤ずきんである事を理解した。
そして、この小屋の中が舞台セットである事も。
そう、ここは赤ずきんの舞台なのだ。
八織の目の前には、毛布が大きく膨れたベッドがある。
おばあさんに扮した狼が、その中に潜んでいるのだろう。
だがこの時点で、台本とは違う想定外の事態だ。
それは、次からの赤ずきんの台詞が、全て矛盾するからだ。

おばあさんの耳は大きいのね

おばあさんの目も大きいのね

おばあさんの口も大きいのね

これらの台詞は、狼の顔が見えていなければ意味がない。
八織は慌てず、アドリブで続ける展開に切り替える。

赤ずきん「おばあさん、待ちくたびれて寝ちゃったのね」

八織はそう言って、ベッドの毛布を捲る。
これで、狼の顔が見えて台詞を続けられる。
しかし、毛布の下には、八織の予想外のものがあった。

赤ずきん「きゃあああ!」

八織は思わず悲鳴を上げてしまった。
毛布の下には、おばあさんの死体が寝かされていた。
その顔は生気なく青白く、シーツが鮮血で染まっている。
特におばあさんの股間周辺の出血が酷い。
本物の死体と見間違えるほどの特殊メイクだ。
八織は、これは舞台であると、懸命に自身を落ち着かせる。

赤ずきん「おっ、おばあさんが死んでいる!」

八織は瞬時に、おばあさんの殺人事件へと路線を変更した。

赤ずきん「いっ、一体誰がおばあさんを殺したの!」

八織はベッドの周囲を調べるように、ゆっくりと歩く。
すると、おばあさんの死体が、びくんっびくんっと痙攣する。

赤ずきん「えっ?」

おばあさんの死体が、ベッドからゆっくりと身を起こす。

赤ずきん「おっ、おばあさん生きていたの?」

改めておばあさんを見ると、腹部が妊婦のように膨れている。

赤ずきん「おっ、おばあさんのお腹は大きいのね」

八織は何とか話を繋げようと、赤ずきんらしい台詞をひねり出す。

それは、狼を返り討ちしにて、そのお肉を食べたからよ

おばあさんの演者が、そうアドリブを返す事を期待した。
本来の展開と違うが、これはこれで、面白い展開のはずだ。
しかし、おばあさんは返事をせず、沈黙したままだ。

ボンッ!

突然、おばあさんの腹部が爆ぜた。

赤ずきん「きゃあああ!」

八織は再び悲鳴を上げた。
ぱっくりと裂けた腹から、何かが這い出てきた。
それはもう、特殊メイクのレベルではなかった。
それは、とても狼と呼べる存在ではなかった。
その口は、異様に大きく裂けている。
その目は、不気味に赤く輝いている。
その体は、毛が全くなくツルツルしている。
その前脚は、細く長い。
その後脚は、太く短い。
その背中には、燃えるような赤毛が、逆立ち揺れ並んでいる。
その腹部には、ぱっくりと裂けた穴があり、大きな舌がくねっている。
それは、おばあさんのお腹に入っていたとは思えない大きさだった。
それは、ベッドからゆっくりと床に降り立った。

赤ずきん「いっ、いやあああ!」

もはや、八織は恐怖で演技どころではない。
八織は、舞台から逃げ出そうと踵を返す。
しかし、恐怖で腰が抜けその場にへたり込む。

赤ずきん「…たっ…たすけて…」

それでも逃げようと、四つん這いになって床を這う。
その進みは遅く、舞台袖までの距離が果てしなく遠い。
八織は助けを求めるように、観客席の方に顔を向けた。
観客の視線は感じるのに、観客席には誰もいない。

赤ずきん「…そっ…そんな…」

じりじり這う八織の背後から、それはゆっくり覆い被さった。

赤ずきん「えっ?」

突然、八織の視界が真っ赤になった。

赤ずきん「なっ、何なの?」

生暖かい空気と鼻を突く臭気、耳障りな粘液質な音。
それは、吐き気を催す、きわめて不快な空間だった。

赤ずきん「きゃあああ!」

赤黒い巨大な舌が、八織の身体に絡み付いて拘束した。
八織は、身体が持ち上げられるような感覚に襲われる。

赤ずきん「へっ?」

背中を焼くような熱い感覚と、身体を蹂躙する粘液質な肉の感触。
腹部の裂けた大穴に、八織の身体がすっぽり収まっている。
いつの間にか、赤ずきんの衣装が、それの爪で引き破られている。

赤ずきん「いゃあああ!」

八織は得体が知れない状況に、悲鳴を上げた。

しゅるるるるる

それの股間から、何かが伸び出る音がする。

赤ずきん「ひぎぃいいい!」

八織は、股間を焼かれるような熱さを感じた。
息を荒げながら、自分の股間に視線を落とす。
二本の赤い触手が、股間の二つの穴に入り込んでいる。

赤ずきん「あっ…ああっ…あっ…」

二本の赤い触手は、小刻みに蠕動する。
八織の子宮と直腸に、不快な刺激が広がる。

赤ずきん「あっ…あっ…あああっ…あああっ…」

背筋に悪寒が走り、下腹部を激しい尿意が襲う。

赤ずきん「あっ…あっ…だっ…だめっ…だめっ…あっ…あっ…」

八織は身をよじって、尿意を我慢しようと、股間をもじもじさせる。
二本の赤い触手は、放尿を促すように執拗に蠕動し続ける。

赤ずきん「うっ…うっ…もっ…もうっ…もうっ…うっ…うっ…」

膣口と肛門が刺激され、尿道口から黄金の尿が噴出する。

赤ずきん「ああああああああっ」

舞台の床の上に、黄金の尿が広がっていく。
放尿の快感と羞恥心で、八織は身を震わせる。

パチパチパチ
パチパチパチ
パチパチパチ

誰もいないはずの観客席から、拍手が起こる。
鳴りやまない拍手の中で、舞台の幕が下りる。


八織は、下半身の生温い不快感で目覚めた。

八織「…………………………」

部屋の時計を見ると、朝8時を過ぎていた。
そんなに、眠ったという感じがしない。
何か夢を見ていた気がする。
しかし、内容が全く思い出せない。

八織「……………はぁ………」

八織は大きな溜息を吐く。
下半身の不快感で、既に何が起きたか理解していた。
八織の股間のショーツは、ぐっしょりと濡れている。
ベッドのシーツには、黄金色の染みが広がっていた。

寮長日記11[眠女・後編]

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