フリーセンテンス 2021/08/31 18:10

今回の犠牲者のお披露目

こんにちは、フリーセンテンスです。
コロナ騒動で離脱していた職員が戻ってきて、どうにかまた業務が通常に戻りつつあります。つ、疲れた・・・・・・。

そんなわけで、以前の記事でも書きましたように、新作の続きを書いております。
とりあえず、今回のメイン犠牲者という感じで、本編の抜粋を載せておきますので、読んでいただけると幸いです。
(一応、今回の犠牲者登場までに色々あってそこも書いておりますが、今回は割愛させていただきました)

・・・・・・女神の巫女であるエルリカの人生は、順風満帆を絵に描いたようなものであったといっていいだろう。銀行家で富豪の父親と、元女神の巫女である母親の間に生まれた彼女は、幼い頃から何不自由なく大切に育てられた。
 彼女は生まれた時から美しく、それは成長するに従って拍車がかかっていったが、その美しさには氷に似た冷利さがあった。その原因は、彼女の両親にある。
 エルリカの両親は女神の信徒であったが、信仰心は決して厚くなく、そのため貧しい者や劣っている者、心身が不自由な者に対して厳しく、彼らを「醜い」者として扱い、軽蔑や侮蔑する傾向が強かった。
 父親は、事あるごとに娘に言って聞かせた。
「いいかい、エウリカよ。この世の中には美しいものだけでなく醜いモノも満ち溢れていることを知りなさい。施しを受けて当然と思っている者、救いの手を差し伸べられて当然だと思っている者、働くこともできず社会に養われて暮らしている者は、この世に存在する価値の無いおぞましい存在なのだよ。こういう自分で立つこともできないような輩とは決して関わってはいけないよ。汚れてしまうからね」
これほど差別と偏見に満ちた言葉を吐く者こそ「おぞましい存在」だと糾弾されて然るべきなのだが、エルリカの小さな世界の中では父親のその言葉こそが全てであって、絶対であった。
 かくしてエルリカは、両親の教えを忠実に守り、自分よりも弱い者を差別し、虐げることを当然だと思い、なおかつそれを実行に移した。
 路上で物乞いをしている老人を見かけた時は「汚い」と罵りながら頭に石を投げつけ、生まれつき身体に障害を負っている者を見つけた時はその身体的な特徴を嘲笑い、聖都の郊外で知能に傷害がある者と遭遇した際は従者に命じてその者を馬車で轢き殺したこともあった。当然、これは問題になったが、彼女の両親が金銭で解決したため、エルリカが罪に問われることはなかった。
常日頃より、エルリカは公然と言ってはばからなかった。
「醜い者は存在しているだけで罪。生きている価値などありはしないわ。死んで当然。むしろ殺してあげた方が、醜い者たちにとっての救済になるのよ」
その言葉を聞いて、心ある者は内心で眉をひそめたというが、面と向かって彼女の発言を正そうとする者はいなかった。そんなことをすればどんな酷い目に遭わせられるかわかったものではないからだ。触らぬ神に祟りなしである。
 エルリカは差別的な思考の持ち主であったが、それでも美の女神は彼女の味方をし、さらにはえこひいきしたようである。成長するに従って、その容姿の美しさには拍車がかかり、乳房や臀部など女性の魅力を象徴するような部位にだけ肉が集中して豊かになっていったからだ。そのため、彼女が聖女の候補者に選ばれた時、エルリカを知る者は誰もが彼女が次の聖女になると疑わなかったほどであった。
 しかし、上には上がいる者で、この時、聖女に選ばれた者は、エルリカよりも美しく、そして黄金比に彩られた蠱惑的な肉体の持ち主であったミリーアであった。
 ミリーアが枢機卿たちの圧倒的な支持を受けて聖女に選ばれた時、エルリカは妬心を抱かなかった。彼女はミリーアの類稀な美貌と、神話に登場するような女神的な肉体にすっかり魅了されてしまっていたからだ。
「美しい・・・・・・ああ、なんと美しいお方なのでしょう、ミリーアさま。このお方こそ、まさに女神の代理人にふさわしい!」
聖女落選後、女神の巫女になったエルリカは、率先してミリーアの世話を引き受け、彼女と親しくなった。
 そして、ミリーアと親しくなったことで、エルリカは蟲使いたちについて知ることになった。この世でもっともおぞましく、醜さの権化たる彼らのことを。ミリーアのことを神聖視するエルリカが、蟲使いたちのことを、その名を聞くだけで全身の毛が総毛立つほど嫌悪するようになったのは、ある意味では当然だったといえよう。
 それから刻が流れた。
 蟲使いたちの総攻撃によって聖エルマン王国が敗北し、聖都が陥落した後、女神の神殿にいた彼女は他の巫女たちと共にその身柄を捕縛され、永らく地下の牢獄に繋がれていた。
 牢獄での生活は劣悪のひと言に尽きた。食事は粗末(それでも栄養価の高い物であったが)で与えられた衣服は布切れ(そのため乳房や臀部がはみ出てしまい、秘部しか隠せなかった)そのもの。寝床は藁を敷いてあるだけで、排泄は床に開けられた穴にしなければならなかった。そして、毎日のように、同僚の巫女たちが連れて行かれて、二度と帰ってこなかった。遠くから聞こえてくる悲鳴や絶叫が、連れて行かれた者たちの末路を物語っており、それを聞いて他の巫女たちはすすり泣いた。
「うぅ・・・・・・怖い、こわいよぉ・・・・・・」
「どうして・・・・・・どうしてあたしがこんな目に・・・・・・」
「うぅぅ・・・・・・うわぁぁぁん・・・・・・」
「助けて、助けてよ・・・・・・お母さぁん・・・・・・」
しかしエルリカは、他の巫女たちのように泣いたり嘆いたりはしなかった。彼女はその美しい面差しに、怒りと憎しみの炎をたぎらせて、毎夜のごとく呪詛めいた言葉を口にしてやまなかった。
「おのれ・・・・・・おのれおぞましき蟲使いたちめ・・・・・・! 下賤な輩の分際で、よくも高貴なわたしを貶めてくれたわねッ! こんな・・・・・・こんなボロ切れのような衣服を着せて、冷たい床で寝かせてッ、あまつさえ家畜でも食べないような物を与えて・・・・・・ッッッ! 許さない、絶対、絶っ対に許さないッ、この報いは、必ず千倍にして返してあげるわッ!」
その発言を、無知の極みと断ずるにあたっては、反論の余地は皆無であるに違いない。世間知らずもいいところだからだ。
 巫女になって以降、エルリカは、ずっと美しい神殿の中でなに不自由なく暮らしてきた。蟲の大群に聖都が包囲され、一般市民たちが悲惨なまでの飢餓の苦しみを味わっているその最中も、彼女は飢えの苦しみとは無縁の生活を送ってきたのである。ゆえに、エルリカは、いまだに王国が完敗を喫したことを知らず、いまは一時の辛抱で、王国が劣勢を覆して最後は必ず勝つと信じて疑っていないのだった。
 ゆえに、屈強な蟲人兵を率いたジュルレなる人物が現れ、エルリカを牢獄から連れ出すよう指示を出した時、彼女は彼の顔めがけて思いっきり唾を吐きかけ、怒りに任せて大声で罵ったのだった。
「わたしに触るな! この卑屈で薄気味わるい豚め! ゲス! クズ! 生きているだけで害悪を振りまくこのゴミ虫が!」
「・・・・・・」
罵られても、ジュルレは特に何も言わなかった。ただ、口元に付着した唾を拭って、ニタリと笑っただけだった。

 ・・・・・・こんな感じです。はい。
 これからまた頑張っていきますので、どうぞよろしくお願いいたします。

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