whisp 2020/04/20 21:09

2020すみお誕生日お祝いSS「有島ありすからの贈り物」(進行豹

2020年 沢井すみお誕生日お祝いショートストーリー
「有島ありすからの贈り物」 進行豹

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この物語はあやかし郷愁譚世界線。
すなわち、すみアフターアフターのお話でございますが、「ものべの」か「あやかし郷愁譚」どちらかしかご存知なくても問題なくお読みいただけるかと存じます。

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「あ、すみちゃん! ちょうどよかった」

「うむ? いかがした有島ありす。『ちょうどよかった』とは、何がじゃ」


「うん。あのね、えみちゃんなんだけ」「ひうっ!!?」

「ひう?」

「う、うちのえみが、なにか……そのっ。なにか……なにか、また、ぞろ……ご迷惑なぞ…………」

「え"っ――なにその反応。……って、えみちゃんそんなにあちこちでなにかやっちゃってるの?」

「う、うむ。先日、学園の少等部の入園式の様子を偶然みかけてしまって、の?」

「うん」

「そのときに、わらわはついつい、
『次の春にはえみも一年生じゃの』と伝えてしもうたのじゃ」

「別に、普通の会話じゃない?」

「であろ!? なのじゃが、そこからのえみの盛り上がりが異常での……
『もうつぎのはるになった!?』『あとなんにちでつぎのはる!?』『えみ、いちねんせーになるの!』と。
いやもう、会う人会う人会うあやかしに」

「ああ、アレかー。
わたしももちろん聞かれたけど、うん。
わりと簡単に誘導できた感じだったから」

「誘導!? それはいかようにして」

「うん。ええっと、たとえば――
『えみちゃんはりんごをよっつもってます。うたれちゃんにいっこ、ありすちゃんにいっこあげました。のこりのりんごはいくつですか?』
とか、今のえみちゃんにならギリギリとけるラインの問題だしてあげて」

「うむっ」

「『それが解けたら、一年生になれる日が、解くのにかかった時間と同じだけ近づくよ?』
って教えてあげたら、夢中になってうんうん考えて、静かになってくれるから」

「おおおおおお!!! さすがは有島ありす! なんと狡猾な詭弁であろうか!」

「あれー、褒められてる気がしないの、なんでかなー」

「いやいや、褒めておる! と申すかむしろ、感謝しておる!!!
そのやりかたはとても良い! えみの質問攻めに悩まされておる面々と共有させてもらおうぞ」

「ご自由にー。ってか、そんなにえみちゃん……あー、えみちゃんだもんねー」

「うむ。えみの顔は、家に付くあやかしであるわらわの顔の何倍も……ああいや。もはや、何十倍も広いであろうの。
わらわがまだ名前さえ聞いておらぬような、ものべのに新しく移住してきたあやかしたちにも親切にしてもらっておるゆえ」

「それってすごくいいことだと思うけど」

「うむ。大変ありがたいことじゃ。
とは申せ……
やれハンカチをお洗濯してもらっただの、やれゆず氷菓をごちそうになっただの、やれお歌を歌ってもらっただの、やれお相撲をしてもらったの――と
そこまではまこと良いこと尽くめなのじゃが……
……誰に世話になったのかをえみがさっぱり覚えていてくれぬゆえ」

「あーー」

「誰に親切にしてもらったものかを訪ね歩いて確認し、お礼の菓子折りを届けることが、わらわにはかなり難しくて……の」

「そっかー、いますみちゃんとこ、旦那さんお仕事でお留守がちだもんね……」

「うむ。居ってくれれば見当もつけやすくなるのじゃが。
……夏葉は人間にこそ顔が広いが、ことあやかしとなると、なかなか接点も少ないようでの」

「そっか。
……でもさ、すみちゃん。それもきっと、考えようじゃない?」

「と、申すと?」

「だってそれって逆からみれば、すみちゃんの交友関係、えみちゃんがひろげてくれてるってことじゃない。
えみちゃん、すっごい親孝行!」

「おお! いわれてみれば左様じゃの!
むぅ……えみの巻き起こすことが多すぎて、その後始末が大変すぎて、そこまでの広い視点……
いや、広いこころを持てぬようになってしまっておったようじゃ。これは反省せねばならぬの」

「まぁまぁ、すみちゃんもそれだけ頑張ってるんだよ。
あ! ていうかそう。わたし、それで来たんだった」

「それで、とは?」

「んっとね……じゃ~ん! これ見て、これこれ!」

「おお! なんと! 桂浜水族館の無料招待券ではないか!
クジラさんがおらぬことこそは残念じゃが、カワウソと握手をしたり、ペンギンやウミガメにごはんをあげたりできる、素晴らしい水族館じゃの」

「だけどこれ、三枚しかなくて。だから、すみちゃんに選んでもらいたいかな~って」

「選ぶ……なにをじゃ?」

「この三枚をそのままプレゼントして、すみちゃんに自由につかってもらうか」

「うむ」

「それか、この三枚でわたしがなっちゃんとえみちゃんを連れてって、すみちゃんに夫婦水入らずの時間をプレゼントするか」

「おおお!? なんと――うむ……。
正直、そうしてもらえるとかなり助かるかもしれぬ。
えみも夏葉もかけがえのない家族でなにより大事ことはまちがいないのじゃが――」

「うんうん」

「ここ最近の、えみの興奮っぷりに夏葉が引きずられてしまっておる毎日は……
あまりにも――あまりにせわしなく、休まらなくて、の」

「オッケーわかった! じゃ、今年のわたしからのお誕生日プレゼントは、『夫婦水入らずの時間』ってことで」
「あ!」
「え!?」

「いや……急になにゆえ、かくも気前のよいことを……と思ったが。
左様か。今日は、わらわのお誕生日であったのじゃな」

「だよ。ってか、それすら飛んじゃうくらい忙しいんだ。
……お母さんって大変なんだね。
――お疲れさまです、本当に」

「いや……うむ。有島ありすにそういわれると、こそばゆうてならぬ。
が――感謝する。
あくる年の3月14日には、盛大にお返しをさせてもらおうぞ」

「あはは、ありがと。
けど、来年の話をするととおこさんとかサキさんとかが笑っちゃうから。
今日は、ね? 今日の話だけ」

「ふふっ、まことじゃの」

「っていことで――あらためまして。こほん。
『すみちゃん! お誕生日おめでとーーーー!!!』」

「うむ! ありがとう、の!!」


;おしまい

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