whisp 2019/03/08 00:00

20190308_ハチロクお誕生日記念SS「炭鉱ランデブウ」(進行豹

ハチロクお誕生日おめでとう!!!!

と、いうことで、ハチロクのおとうさんの一人であるわたくしからも、
ハチロクにプレゼントでございます!!!!

今年のハチロクのお誕生日を寿ぐショートストーリー
「炭鉱ランデブウ」

どうぞみなさまにもお読みいただき、
ハチロクのお誕生日をお祝いしてあげていただけましたらうれしいです!!!

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2019/03/08 ハチロクお誕生日記念SS
「炭鉱ランデブウ」 進行豹


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「間もなく、術仙。術仙に到着いたします。
ホームと列車の間にスペースがございますので、
お降りの方は、お足元にお気をつけください」

「うふふっ、かしこまりました」

回送列車への添乗だ。
車内放送の必要などない。

けれどもあえての放送に、
ハチロクは、とびきりの笑顔で小さく応える。

「双鉄さま? 
足元、気をつけなければいけないそうでございます」

「そうか。ならば、きちんと対策をとるとしよう」

「対策、でございますか?」

「うむ――それっ!」

「まぁっ!」

ハチロクをお姫様抱っこする。

「これなら、足元には問題なかろう?」

「は、はい。ありがとうございます。双鉄さま」

「なに、僕自身のためでもある。
大事なお前に怪我でもされては、大変悲しい」

「……双鉄さま」

(がくんっ!)

「おっとっ!!」
「きゃっ!!?」

ポーレットらしくもなく、ブレーキがキツい。
いや、これは、ひょっとして――

「うふふふぅ。とってもとっても仲良しさんでいいですねぇ」
「あっ」

僕にぎゅうっとしがみついていたハチロクが、ぱっと離れる。

頬をわずかに朱を足して――
そうありながら、嬉しげにはにかむ顔が、なんともいえず愛らしい。

「……素晴らしいブレーキ扱いだったと、運転士さんに伝えておいてくれ」

「はぁい。うふふぅ。ちゃあんと伝えておきますねぇ」
「足元! ほんとに気をつけてくださいね」

「うむっ!」

――よく晴れている。
まだ3月のはじめというのに、陽気に近いものさえ感じる。

「これは、歩くと汗をかくかもしれんな」

「うふふぅ、おあついですもんねぇ」

「なっ!」

れいなの思わぬからかいに振り返るなら、ドア閉だ。
その向こうから、れいなの大きな大きな声。

「帰り、営業列車で拾う方がよければ、共感でしらせてくださいねぇ」

「わかりました。れいな。ご安全に。良い乗務を」

「はぁい。ハチロクさんと双鉄さんも、素敵なお誕生日をでぇす」

(ふぉん!)

どこかのどかな響きのタイフォン。
ことことと、キハ07sは、レールの向こうに消えていく。

「さて、僕らも行くとするか」

「はい……ですけれど――」

きょろきょろと、お姫様抱っこをされたまま、
ハチロクはあたりを見回し、僕を見上げる。

「いったいどこへ、わたくし、連れていっていただけるのでしょうか?」



「まぁ! まぁ! まぁまぁまぁまぁ!!!!」

ヘッドライトだけが頼りの廃坑道で、
けれど眩しく、笑顔が輝く。

「わたくし――わたくし、産まれてこの方、100年近く!
数多の石炭を噛み砕き飲み干してまいりましたが」

下ろしてください、とその目で仕草で訴えてくる。

望みに応じて下ろしてやればハチロクは、
とんとんとん、とブーツのかかとで地面を叩く。

「……廃炭鉱のものとはいえど、
坑道の中に入れていただいたのは、はじめての経験でございます」

大きく大きく吸気する。
あたりをきょろきょろ、何度も見回す。

「ずいぶんと楽しそうだ。
初めてなのに懐かしい場所、といった感じか?」

「それも、確かにございます。帰ってきたと――
わたくしの回路のどこかが、チリチリと、
心地よく音を立てております」

うれしげだ。
僕まで嬉しくなってくる。

「けれど、それだけではなく。
ええと……なんと申しましたでしょうか。あの童話」

「童話?」

「はい。こども二人が捨てられてしまい、パンくずを撒いて帰り道を」

「ああ。『ハンスルとグレトル』か――うむっ!?」

「そう、あの童話の、幼いグレトルと、わたくし同じ気持ちかもしれません」

「あははっ! なんと、そうなのか!!」

ハチロクは存外くいしんぼうだと知ってはいたが、
その感想は、まるで想像もしていなかった。

「お菓子の家を見つけた気持ちか!」

「うふふっ、左様でございます。
この坑道の、前も左右も天井も床も、掘り進んだなら、
そこには石炭があるのでしょう?」

「だろうな」

「でしたらここは、まさしくわたくしにはお菓子の家です!
こわぁい魔女に捕まらないよう、
こっそりと、つまみぐいでも試みたいような気持ちです」

「ふふっ」

愛らしい。
あどけない。

れいなやポーレットの前では――いや、日々姫や真闇姉さえにも見せぬ、
僕だけがひとりじめできる表情だ。

「廃坑道なのが残念です。
もし願うなら、いつか九代(くしろ)にあるという、今も現役の炭鉱にいき」

「掘りたての石炭を食べてみたい、か?」

「はい。うふふっ。わたくし、欲張りすぎですね?」

「いいや」

だから、もっと笑わせたくなる。
どこまでだって喜ばせたくなる。

僕はハチロクを大好きなのだと――
その単純な事実が僕を、どこまでだって嬉しくさせる。

「れいなが調査してくれた内部構造は教わっているし、
所有者である市の許可も取得している」

手を伸ばす。
ハチロクがその手をごく当然と受け取ってくれる。

恋人つなぎに手をつなぐ。
ただそれだけのことでこれほどまでに、胸がときめく。

「おいで、ハチロク。
僕からの誕生日プレゼントは、この先だ」

「――はい! 双鉄さま」

ヘッドライトの明かりをたよりに、ただ歩く。
かつかつ、こつこつ。

かつてのトロッコのレールの上を、
小さな足が嬉しげに、丁寧に丁寧になぞって歩く。

「……設備や機材が、今もそのまま残っているのですね」

「うむ。いつかの採炭復活を夢見て、
そのまま残していったのだろう」

「どのような形であっても――
その夢が、叶ってくれるといいのですけれど」

きゅっと。繋ぐ手に力を込める。
簡単に約束できることではもちろんないが――

いつの日かきっと叶えてやると、
そんな思いを指先にこめ。

「うふふっ」

きゅっと。ハチロクの手も応えてくれる。
信じていますと――声ならぬ声が伝わってくる。

「あ」
「おお!」

れいなに教わっていたとおり。
坑道内の様子が一気に変化する。

トンネル全てを覆い尽くしてガードしていた、
コンクリートがその姿を消す。

「まぁ! まぁまぁまぁ!!!
この黒は――気品に満ちた、この真っ黒な輝きは!」

「石炭層――というものらしい。
かつてはここを最前線に、まさしく採掘をしていたわけだ」

「この大きなドリルでございますね?
ああ、このこが動いてくれたら」

「故障させてもこまるゆえ、通電させることはできんが。
その代わり」

「まぁ――ああ! 双鉄さまっ」

バックパックに収まるサイズの、
とても小さなツルハシだ。

けれどハチロクは、まるで宝剣でも受け取るように、
手を震わせて、ツルハシをきゅっと握りしめる。

「許可は得てある。存分にやれ」

「はい! 双鉄さまっ!!!

(ぶんっ! がつっっ!!!!)

「おお」

なんという思い切りの良さだろう。

あるいは投炭経験が、
ハチロクの手を、背中を支えているのかもしれん。

(がっ! ガツッ! こぉん! ガツっ!!)

とても初めてとは思えぬツルハシさばきが、
ハチロクの意図を明確にする。

(ガッ! ガッ! ガッ! ぼろっ!!!!)

「やりました!」
「うむ、見事だ!!!」

突き出していたおおきな石炭の塊を、
その周りからえぐり取るようして、ハチロクは見事切り出した。

「採炭物の所有の許可ももちろん得ている。
それは、ハチロクの石炭だ」

「ああ……産地直送。新鮮。とれとれ。
どの言葉も、わたくしのこの身には、機能停止のその瞬間まで
縁の無いものと思い込んでしまっておりましたが」

袖で、拭く。
石炭よごれが付きづらい――そうであるとは確かに聞いたが。

(きゅっきゅっ、ごしごし)

「はぁぁっ――ふううっ――」

息をふきかけ、丹念に。
石炭塊に、ハチロクは美しい制服のその袖で、
幾度も幾度も磨きをかける。

「ああ――この鈍い輝き。
なんて美味しそうなのでしょう」

「いくといい。がぶりと、好きなだけ食するがいい」

「はい――それでは、遠慮なくいただきます!」

(ぼりんっ!!!!)

盛大な――いっそ痛快と呼びたくなる音。

(ばりっ! ぼりっ! ばきっ! ごきっ!!!!)

「ふふふっ」

なんと幸せな音だろう。
ハチロクは、この瞬間を、五感全てで味わっている。楽しんでいる。

それが、僕にも伝わってくる。
なんと嬉しい瞬間だろう。

(ばきっ――ぼりっ――ごりっ――ごりっ――ごくんっ)

「ふうぅ……」

ハチロクの両手に余っていた。
バスケットボールほどもあった石炭塊が、もう全て、ハチロクの胃(?)の中に収まっている。

ハチロクの体の中ではごうごうと、
罐の火が燃えているのだろうかと、ふしぎに思う。

「大変、おいしうございました」

「だろうな。実に旨そうだった。
叶うなら、僕も食してみたいほど」

「うふふっ、でしたら双鉄さま。
あら? お顔に石炭くずを飛ばしてしまいましたね」

「うむ? んむっ!?」

キスだ。

しゃがんだ瞬間、不意打ちの――
ハチロクが、僕に仕掛けてきたキス。

「ん……ちゅっ――ん……ふっ……」

ハチロクの鼻からの排気がとても熱い。
舌もまた熱くぬらつき、僕の唇をノックして――

「ぁ……んっ――(ちゅくっ――ちゅるううっ)」

「!!!!?」

「――ぁ――ん――ぷあっ」

僕の驚きが伝わったのか、ハチロクがキスをほどいてしまう。

「お口に、あいませんでしたか? 石炭の味」

「ひどく苦くて、粉っぽくある。
だが、なハチロク」

「あっ!」

今度は僕から、不意打ちのキス。

「ん……は……んっ――ほーへふ――はまっ――」

丹念に丹念に、舌を、歯の裏を、口腔内を、
僕の舌全部で蹂躙していく。

「……ぷあっ――。ふふっ。
ひどく苦くて、粉っぽく――
けれども同時に、どうしようもなく甘いな、これは」

「双鉄さまっ!!」

ハチロクがどんっ! と抱きついてくる。
小さな体を受け止めて、ぎゅっと、ぎゅうっと抱きしめ返す。

「ハチロク」

愛している、といいかけて。
それより先につたえるべきを、思い出す。

「ハチロク――お誕生日、おめでとう」


;おしまい

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