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傭兵部隊ローレライ 2024/03/15 03:13

特別編 月明かりの舞踏会②

数日後、ローレライ小隊は潜入を開始した。

 首都フォートシュタットから続く、商業及び工業が盛んな街カウンティ。
 上流階級が住む高級住宅街のエリアと労働者のエリアは隔離されている。高級住宅街のエリアでは低所得者層によるテロ行為が散発的に起こっている。
 そのため警備は厳重で、怪しい者は適当な理由で射殺されることも少なくない。
 このタウン・ハウスもそんな中にあった。
 
 少し離れた位置に装甲車を停めている。ローレライ小隊の残りのメンバーは装甲車内で待機していた。

 何か異常があれば春樹か渚沙から彼らに連絡する。

 装甲車とは別地点に、RAを隠せるほどのコンテナを積んだトラックがこの建物の近くに停まっていた。とある物流業者に偽装している。敷地は広いため、特に違和感はなかった。
 RAは本来の作戦と違い、1機のみとなった。作戦が直前で変わったためだ。

 依頼主である正規軍が本来、機体を待機させるはずだった建物の確保に失敗したのだ。正規軍からはこの件について説明はなかった。代替案の作戦が決行。偽装トラックは用意された。
 しかし、RAを積んだトラックをそういくつも置いておくわけにはいかない。不自然であるためだ。そのため、1機分だけに留まった。

 
 春樹は黒服を思わせる防刃スーツに、サブマシンガンで武装していた。
 警備員の1人として会場内を眺めた。

 椅子に座り、楽器を演奏する者たちが並んでいる。簡単な軽食も用意されているようだった。

「……くだらねぇな」

 煌びやかな装飾は100年単位で戦時中の国の建物だとは思わせない。ここの人間たちが持っている資産があれば新型機だって買えるだろうな、と春樹は人々を眺めた。

 どの人物も華美な服装をしている。中には若い男女もいた。
 その中の女性の1人と目があったが、その目は間違いなく春樹を見ていなかった。ここでは警備員は人としてすら認識されていないようだ。

 いや、次に視線が合ったもう1人の女は違った。

(ん……?)

 金髪の女性は春樹の顔を見たかと思うと、微笑みかけた。すぐに視線を外し、近くの男性に声をかけた。

「嘘くせぇ笑顔……。なんだったんだ?」

(それにあの顔、見覚えがあるような……)

 春樹は考え込み、女性の顔を再び見ようとしたがすでに彼女の姿は人混みに消えていた。
 
 渚沙は正規軍の将校に連れられ、挨拶しているところだった。一応将校の娘となっているが、当然偽装。この将校に娘はいない。

 渚沙のドレス姿は美しかった。口を開かなければ上品な顔立ちをしている。碧いドレスがその美しさを際立たせていた。

 しばらく渚沙のことを見つめていると、演奏とともにダンスが始まった。

 渚沙は上品な容姿の壮年の男性にダンスを申し込まれ、受け入れた。
 春樹は任務を忘れ、渚沙のダンスを見ていた。
 20名以上の武装した警備員が警備しているのだ。そうそう非常事態が起こるものでもない。

 渚沙の踊りは見事なものだった。──そして相手の男も。
 あそこにいるのが自分だったらと思ったが、似合わないなとため息をついた。

「くそっ……」

 渚沙が他の男と踊っていると思うとどうも虫のいどころが悪い。春樹とて任務だと分かっているのだが。

「き、君……」

「あ……?」

 渚沙を見つめているのを邪魔された春樹は若干声を荒げ、声の主を見た。
 顔を真っ青にした50代くらいの男が春樹に近づいてきた。
 要人の1人だ。

「──じゃなかった。どうされました?」

「どうも体調が優れなくてね。トイレはどこかな」

「向こうです。案内しますか」

 春樹はトイレの方角を指さした。任務外ではあるが、上流階級の人間を邪険に扱うと後が面倒だ。春樹は案内を提案した。

「頼む……」

 春樹は内心、彼が自分で勝手に行くことに期待したが、自分で提案したうえ、頼まれてしまった以上は仕方ない。

「タンゴ6、要人を便所へ案内する。フォロー頼む」

 春樹は他の警備員に無線で連絡を入れた。
 タンゴ6は警備員としてのコールサインだ。ローレライのコールサインを使うわけにはいかない。

「了解」

 春樹は男をトイレまで送り届けた。

(あのおっさん、我慢してはいるが相当苦しそうだぞ。悪いもんでも拾い食いしたのか)

 しばらくはトイレから出てこないだろうな。と春樹は内心、お気の毒と男に言葉をかけた。

「そういや、さっきのおっさん。あの女と話してたな」

 先ほどの男性と、春樹に微笑みかけた女性が話していたことを春樹は思い出した。それだけだった。

 春樹が配置に戻ろうとすると、数人の警備員が慌ただしく走っていくのが見えた。

「何があったんです?」

 春樹は警備員の1人に向かって行った。

「テロだよ。近くの建物で爆発が起きた。念の為、会場内の人間を退避させる」

「俺も参加します」

「いや、いけよ。君には君の仕事があるんだろ」

 警備会社にはローレライ小隊のことは伏せているが、特殊な仕事を請け負った傭兵であることは伝わっていた。

「え、えぇ……。ここは頼みます」

 春樹は渚沙の元へと走っていった。

傭兵部隊ローレライ 2024/03/01 19:43

特別編 月明かりの舞踏会①

 八城春樹と渚沙・エイデンは荷造りをしていた。

 ここは傭兵部隊アリアの本拠地。傭兵部隊ローレライ小隊が間借りしている部屋の一つ。任務に必要なものをかき集めているところだった。

「俺たちが護衛任務とはな」

「えぇ、なぜ我々へ依頼が来たのか説明はされましたが、納得はいきませんね」

 ローレライ小隊は秘密裏に正規軍に雇われている暗殺部隊である。対幻種戦に駆り出されることも少なくはないが、潜入任務はやったことがない。

「まぁ、いずれにせよ我々に拒否権はありません。今回の依頼は正規軍から直々のものですから」

「ま、スポンサー様の依頼は断れないよな」

 ローレライ小隊の今回の任務は上流階級のパーティに参加し、秘密裏にある要人を護衛することである。

 今回のパーティを襲撃しようという未確認情報があるらしい。それを警戒してのことのようだ。
 政府に対して不満を持つものはごまんといる。それ以外にも貧富の差が拡大しているこの時代、富を持つ者も狙われることが少なくない。
 だが、正規軍がRAで大々的に護衛するわけにはいかない。そのため、ローレライ小隊が付近で機体と共に待機。有事の際はそれで迎撃することになったのだ。

「それにしても、護衛とはいえお前だけで大丈夫なのか?」

「おや、春樹くんは私が上流階級のパーティには相応しくないと?」

 だが、会場内部で銃撃が行われる可能性も決して低くはない。ボディーチェックがあったとしても、会場に銃を持ち込む方法はいくらでもある。
 そのため正規軍から警備に話を通し、渚沙は正規軍のお偉い方の娘として潜入。春樹は警備の1人として潜入することになった。もちろん、ローレライ小隊であることは隠し、とある傭兵部隊ということになっている。

「あー……いや、別に見た目は大丈夫だと思うが。お前、上流階級の作法とか知ってるのかよ」

「それなら私と響子が入った傭兵ギルドのカリキュラムである程度はやっています」

「スパイってやつか?」

 春樹のいた傭兵ギルドの養成所では、単純な戦闘技能しか学んでいないので意外だった。春樹のいた養成所は小さい場所だったから、規模の大きいところではカリキュラムも違うのだろう。と、春樹は内心勝手に納得していた。

「スパイというより、潜入任務ですね。こういった特殊なケースも想定して訓練はしてきましたから。ダンスも踊れますよ」

「なんか想像つかないな」

「ただ、響子はこういうの苦手で、疑わしい人間全員に銃ぶっ放しかねないので今回は待機です」

「あー……やりそう。それにしても、俺は警備の制服は借りるからいいとして、ドレスはどうするんだ。持ってるのか?」

「今から仕立てている時間もありませんし、レンタルするしかありませんが……どうしたものやら。私はそのあたり詳しくないんですよね」

「カリキュラムでやったんじゃないのかよ……」

「ドレスの借り方なんて学んでませんよ……技能が必要になるとも思ってませんでしたし」

「まぁ、それもそうか。セフィア指揮官に頼んでみたらどうだ?あの人アークライト重工の社長令嬢なんだし、ドレスなんて腐るほど持ってるだろ」

「腐ったドレスは嫌ですね……。まぁでも他にあてがあるわけでもないですね……」

「他の4人は指揮車で待機だろ。俺もそっちがよかったなぁ」

 ローレライ2、響子・エイデン。ローレライ4、ノエル・フォルスター。ローレライ5、クルト・ヴェルナー。ローレライ6、葵衣・グラシアの4人は付近に装甲車を停め、待機する。
 春樹もそっちに入りたかった。

「逃しませんよ……」

「分かってるよ……〈リッパー〉でドンパチリやってる方が楽そうだぜ……」

 春樹と渚沙は同時にため息をついた。
 



 渚沙は早速、傭兵部隊アリアの執務室へと向かい、指揮官であるセフィア・アークライトに相談した。

「……と、いうわけなのですが」

「ん……構わん。貸してやろう」

 事情を説明すると、意外なことにセフィアは即承諾した。

「本当ですか?お代は後で支払いますが……意外ですね」

「父のスポンサーの護衛にもなる。父に恩を売っておくのも悪くない。一応建前上はローレライはウチの隊員ということになっているからな」

 ローレライ小隊は秘密の部隊だが、当然基地がないと運営などできるわけがない。そこで、傭兵部隊アリアを隠れ蓑として使っているのだ。

「歩、手伝ってやれ」

 セフィアが、自身の横に秘書のように立っていた歩に言った。渚沙はあえて気づかないふりをしていた。単純に彼女のことが嫌いだからである。

「はい。お部屋に入りますがよろしいですか?」

 歩がセフィアに尋ねた。

「構わんよ。変なものに触らなければな」

「変なものがあるんですか?」

「ない」

「残念です……。それでは渚沙さん、こちらへ」

 執務室を出ると、渚沙は歩の後ろをついていく。セフィアの私室へ向かい、中に入る。
 兵士用の部屋とは広さが段違いだった。さらに奥に部屋があり、中には社交用のドレスやらが並べられていた。

「ここ傭兵部隊の本拠地ですよね」

 渚沙が呆れた顔で言うと、歩はクスッと笑った。
 渚沙はそれがおもしろくなくて、眉を顰めた。しかし、歩はそれをみてなお笑みを浮かべる。

「まぁ、これは指揮官の趣味というより押し付けられたようですが。定期的に使用人が整理しています」

「それでは渚沙さんに合うドレスを選びましょう」

「え、えぇ……」

 歩はドレスを次々と渚沙に向け吟味していく。
 普段、歩は渚沙を挑発したりからかってはくるものの、こういうときに手は抜かない。そういうところだけは信頼していた。
 人の男にちょっかいをかけなければ仲良くなれるのですが、と渚沙は内心思った。

「これでいいでしょう」

「はぁ……」

 渚沙にはどのドレスも色が違うくらいにしか思わなかったが、歩は決めたようだ。

「白い肌に深い碧のドレスは映えますよ」

「そうでしょうか……」

「直しは私がやります。ローレライ小隊が出発するまでには仕上げます」

「できるんですか……?」

「ある程度は」

(脳筋ゴリラとばかり思っていましたが、知性もあったんですね……)

 歩は渚沙の採寸を始めた。時折わざとらしくうんうん唸っている。

「さて、どの長さなら渚沙さんが転びやすいかなんとなく分かってきましたよ」

「そんなことしたら殺しますよ」

「あら、構いませんよ。私の方が早くあなたを殺せますから」

「ふん……」

「冗談ですよ。でも、いいなぁ、春樹さんとパーティ」

「遊びじゃありませんってば。あと私の春樹くんです」

「あら、略奪愛っていうのはご存知ない……?」

 2人はしばらく睨み合っていたが、それぞれ準備に入った。

傭兵部隊ローレライ 2024/02/10 04:26

最近の


最新の立ち絵。
スカーレット・ハウンド軽装甲
火炎放射器装備

385設計局が小型化した試作品
対RA用の火炎放射器で、人間が受ければ即黒焦げになるほどの代物
ただし、小型化の影響で燃料が少なく、実戦向きではないとされ量産化されなかった

開発当初は対RA用だったが、実際の運用は人間や装甲車相手となった

傭兵部隊ローレライ 2024/01/23 01:53

最近の

お久しぶりです。

ここ最近はずっとシナリオ制作に集中していたので、あまり絵を描けていませんでしたが、必要なものはまだまだ出てくるので少しずつ絵を描いていこうかなと思ってます。

早速出来立ての立ち絵のご紹介。


イグニス・ブラナー

傭兵部隊ブランケスB部隊のRA操縦兵であり、B部隊の隊長を務める。
とある事情でヴィオラたちを逃すために奮戦する。
作中では故人


現在制作中の作品に登場するイグニス・マスカレイド小隊は彼の名から取られています。

ヴィオラたち、イグニス・マスカレイド小隊は彼の仇を討つことを目的に戦っています(理由はもう一つありますが)。

傭兵部隊ローレライ 2023/12/08 04:04

進捗




進捗イラストです。
12月中に完成させれればと思っていたんですが、BGMの変更、一部シーンへの新規アニメーションの作成等の理由でもう少し延びそうです。
新規アニメーションについては、作れたらという感じではあります。
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