ナーフ(弱体化調整)について考える
私のプレイしているゲームにナーフ(弱体化)祭りが開催されました。これを機に、ひとつゲームのバランス調整について考えてみようと思います。
もんもんとした思考を書きながらまとめていく形式のため乱文雑文となります。アレルギーをお持ちの方はブラウザバックをお願いいたします。
ナーフと一口に言っても、そのゲームはオンラインなのか、PvPなのかPvEなのか、何をメインコンテンツとしているのか、これらの前提条件で全く違ってきます。
とはいえ全てのパターンを考えていたら本一冊分になってしまいかねません。
なので、
こういうゲームにこういう物があったらどう調整するべきなのか?
まずこうして条件を固定します。
こういうゲーム
オフラインRPG
◇多彩なビルドによる戦闘の面白さがある
◇燃えるストーリー
「こういうゲーム」にしてみましょう! スタンダードなRPGをイメージしてください。
それでは次に、調整の対象となる「こういう物」を出してみます。
こういう物
周囲の武器に比べて数段攻撃力が高いデバグシロヤーという武器
◇ゲームの序盤で手に入る
◇他の武器がダメージ100程度なのに対して1000以上出る
◇全員が装備できる
「こういう物」が実装されてしまっている、ということにしましょう!
「いやお前こんなの調整以前にデバッグしてないだろ」というご意見、ごもっともです。しっかりデバッグしていれば後から調整することも無いですからね。なにやら耳が痛くなってまいりました。
まあまあともあれ、気づかず実装してしまったということにしてください。
ではこれを「どう調整するべき」か? ――その前に知るべきことがあります。
この武器がどんな問題を生むのか?
問題が分からなければ答えを用意できるはずもありません。もし軽微な問題であれば調整なしでも良いわけですよね。
では、デバグシロヤーが存在することで一体何が起こるのでしょうか?
プレイヤーが他の武器を使わなくなる
他の武器よりダメージが10倍出るデバグシロヤーがあれば戦法も何もありません。状態異常を与える武器も多彩なスキルをもった武器も使う必要なし。ビルドを考える必要だって無くなるかもしれません。「弓を極めたらデバグシロヤーを超えられる!」と言われても、「クリアするだけならこれでよくね?」となればほとんどの人がデバグシロヤーを振るうでしょう。
せっかく用意した他の武器が使われなくて悲しいとかそんな話ではありません。多種多様な武器による攻略という、本来提供すべきはずの楽しみが失われている。これはプレイヤー側の損失となります。
敵を簡単に倒せる
敵をサクサク倒すだけが面白さではありません。強い敵と出会い、あれこれ対策を考え、自分の戦法がぴったりハマって勝利する。この快感を提供するはずが、デバグシロヤーさえあれば最後まで走り抜けられるとなれば戦闘というコンテンツは大きく損なわれるでしょう。
ただ、ある状況ではこれもOKなのです。
戦闘はあくまでストーリーやその他システムのオマケというゲームであればむしろ喜ばれるかもしれません。
もしくは、メインコンテンツではないからと難易度調整を軽視して難しくなりすぎたゲームであれば救済措置となりえるかもしれませんね。
しかし! このゲームのコンテンツ=プレイヤーに提供したい楽しさは戦闘とストーリーです。戦闘というコンテンツが損なわれてはゲームの面白さは半減してしまいます。
ストーリーにおいてもそれは発生します。
例えば、《強国と10年戦い続けても負け知らずだった英雄》が子供を人質に取られて敵対した。こんな強そうな設定の敵が現れたとしましょう。しかしプレイヤーはデバグシロヤーを振るって一撃で葬りました。
そのとき何を思うのか? 「あんな強そうなやつ一撃で倒す俺カッケーwww」とか、「この武器爽快感あって面白い!」とか? そういう人もいるでしょう。
しかし、普通の武器で英雄の10年を超えてみたかったなと後悔する人もいるはずです。戦闘の面白さに惹かれて買っているのですから。
「使う使わないはプレイヤー次第。ゲームの寿命を削るのは自己責任でしょ」。これも理解できます。私もユーザーの立場ではそう思っていました。
ですが、大半の人はズルが好きなのです。チートや卑怯なことが好きなわけじゃなく、正式にあるものを工夫して有利になることが好きなのです。人間とは工夫が何より好きな生き物ですからね。大半のプレイヤーはこれを使うでしょう。
それを自己責任で片付けてしまうのは、私は違うと思います。これはデバグシロヤーを放置した制作側の責任であり、制作側は責任もってこの問題の解決に努めるべきです。
とは言っても、はい削除しましたっていうのはエンターテインメント性に著しく欠けますよね? 納得するかしないかの2択しか与えないのではプレイヤーも面白くないんですよ。
さあ、では制作側はどうするのか? ……既にめちゃ長文になっていますが、ここから調整編へと続きます。
どういう調整をするべきか?
この武器があることで損なわれる面白さとは戦闘というコンテンツに関連したこと、と判明しました。
では、いくつか調整案を出してみましょう。
弱体化してみる
デバグシロヤーの攻撃力を大きく下げます。突出した一点を下げて均一化する。わかりやすいですね。
これを実施すれば損なわれた面白さは復活するでしょう。制作側のコストも低く、迅速な修正で済みます。
もちろん問題はあります。プレイヤーとしては弱体化(ナーフ)なんてほとんどの場合気分が良いものではないです。プレイヤー全員の総戦力が低くされるわけですから。もしくは「愛用の武器が弱体化した」と悲しむ人もいるでしょう。
ともかく歓迎される調整ではないってことです。
代償を追加する
単純な数値の弱体化では面白くないということで、路線はそのままに別の手段に出てみます。
性能はそのままで代償(コストやリスク)を追加してみましょう。
一度使ったら壊れるとか、装備中はHPが1になるとか。
弱体化路線ではありますがプレイヤーからすれば印象は違うはずです。
「一度使ったら壊れる」であれば、多くの人は「ラスボスにとっておこう」と考えるでしょう。あるいはストーリー上でムカついたボスの顔面にぶち込んでやるのもいいかもしれません。
「HPが1になる」のであればまともな運用はできません。では使えないかといえばそうではない。「他のキャラで庇いながら戦ってみよう」といった発想が出ますよね。これは新たなビルドの可能性を提示します。
代償を追加することで戦略という面白さが生まれるのです。
ただし、コストは大きく掛かるでしょう。新たなデバグシロヤーはレベルデザインを破壊していないか念入りにチェックする必要があり、まだバランスを損なっていたら他のスキルや敵などを調整しなければなりません。
他の武器を強化してみる
弱体化を喰らったことがあればこう思ったこともあるはずです。「弱くするんじゃなくて周りを強くしてバランス取れよ」と。
わかります。私もユーザーの立場であれば思います。
ですが制作側に立ってみたとき、そう簡単に決断できることではないと理解しました。
もう恐ろしくコストが掛かります。10倍や100倍の話ではありません。まず他の武器を全て見直す必要が出てきます。1000個の武器があるとしたら残り999個を調整しなければなりません。
そして、武器を強くしただけでは何を使ってもつまらないものとなるだけです。敵ユニットにも調整を入れなければなりません。1000体の敵がいるなら……。じゃあその強化した999の武器と1000体の敵を殴り合わせるテストを……。
――と、そういうことです。
プレイヤーにとっては最善手に見えるかもしれません。ただこのコストというのは制作側だけでなくプレイヤーの問題にもなります。
「999の武器と1000の敵を調整するため追加コンテンツの予定は無くなりました。申し訳ございません」
となる可能性だってあります。
これを「どっちもやれ」というのは酷です。
装備できるユニットを固定してみる
特定のユニットしか装備できない、という条件を追加するのはどうでしょう?
重量級ユニットのみ装備可能、とかだとダメですね。軽量級ユニットは趣味枠でしか使われなくなります。
主人公のみ、であれば? 特別感はありますね。デバグシロヤーが最終装備となるので魔王を倒す前に先代勇者から譲り受ける勇者王の剣などが産廃、となりかねないのが怖いところです。アリ寄りのナシって感じ。
ゲストキャラのみ、はどうでしょう? 一時期しか一緒に戦えないキャラのみ装備できる。
強さはそのままで使えもしますが、愛用していた人からすれば没収と変わらないんですよね……。
無効化する何かを追加する
チョウセイバリアというスキルを追加します。このスキルの効果中はデバグシロヤーのダメージを無効化します。また、追加されたモンスターであるアンチダマラセルはパッシブスキル(常時発動するもの)としてこの能力を持っています。
と、対応スキルや効かない敵を追加することで万能でなくしてみます。
使用プレイヤーの誰もが「対策入ったか」と思うでしょう。それはどうなのか?
ここで「じゃあつまらない」と感じるプレイヤーはそもそも戦闘や装備の試行錯誤といった楽しさを望んでいないのでしょう。制作側が提供したい面白さとの明らかな乖離があり、そういったプレイヤーはゲームのターゲットユーザーではありません。なので、あえて厳しい言い方をすると、無視するべきです。
ほとんどの人はショックを受けつつも思考を展開させるでしょう。この武器を捨てて別の武器を使うか? この武器を使いつつこの敵を倒す方法はないか? この武器をさらに煮詰めれば突破できないか?
別の方法。対策の対策。それらを考えることが面白さに繋がります。
取得条件を変える
まずはデバグシロヤーを没収します。
そして、物語後半にある隠しダンジョンで強敵を倒したのちに手に入る、という条件に変えます。
努力の末に入手できるのであればこれはプレイヤーにとっての勲章であり面白さに繋がるでしょう。デバグシロヤーという名前はアレですが、ゲームの歴史を入手するという意味でユニークかもしれません。
ただ結局プレイヤーにとっては削除とほぼ変わりません。没収しないとしたら既にデバグシロヤーを持っているプレイヤーには戦闘の面白さを提供できないということになります。難しいところですね……。
結論
コストが大きい順に、
◇他の武器をアッパー調整
◇代償を追加する
◇無効化する何かを追加する
◇装備できるユニットを固定
この辺りが良いんじゃないかな~と。
なんというか……言うは易く行うは難しですけどね。プロジェクトが大きくなればなるほどコストも跳ね上がります。商業でやるといったら1武器の調整につき数万円掛かるとかもあるんじゃないかな?
それを理解した上でも、単純な弱体化じゃなくてユニークな調整にしてほしいのです。エンターテインメントを提供しているのですから。
そして私も制作側として、この考えを常に持っていたいです。私のような個人製作者にはコストを払えるだけのリソースはありませんが、頭の片隅にでもプレイヤーが面白いと感じるような調整にしたいという気持ちがあれば何か変わるかもしれませんからね。……なかなかそんな余裕はないのが現状ですが。
終わり
長々とお付き合い頂きありがとうございました。いやマジで長くなったね!
一番大事なポイントとして。
バランス調整はプレイヤーに楽しさを提供するもの
これさえ忘れなければそう悪いことにはならないんじゃないかと思います。ゲーム寿命を延ばすためだけの措置じゃなくて、常にプレイヤーのことを考えてエンターテインメントを提供していく。そうありたいものです。
さて、書きながらもんもんとした思考を整理できました。皆様にも何かしたら得るものがあったら幸いです。
ではでは!
ここでは簡単に手に入る武器を例としましたが、何十時間も厳選した装備が弱体化喰らってゴミと化したら萎えるよね……。そういうナーフはダメだよ、うん……。