本日と明日、2日続けて小説「姪っ子さまっ!」をお届けいたします。
文字数の関係上、2回に分けての掲載になることをご了承ください。
本日は「幕間――夏の記憶――」を全体公開いたします。
明日の「夏祭りの夜~Sっ娘すみれ発動+年上お姉さんで自由研究~」はいつも通り日曜日の12時に掲載予定です。
フォローすることで冒頭部分までお読みいただけます。
後半では、すみれと朱里による年上少女虐めをお楽しみいただけます。
その中での主人公、稔彦のポジションに注目です。
それでは、まずは幕間をお楽しみください。
◇◆◇
幕間――夏の記憶――
立ち並ぶ出店の灯りに照らされながら、歩みを進める。食欲をそそるソースの香りに続いて甘いチョコの匂いに釣られてしまうけど、お兄ちゃんと離れるわけにはいかない。
繋いだ手は少し汗ばんでいたけど、不快な感じはしない。見上げる視線の先には、お兄ちゃんの笑顔があった。
「やっぱ祭りと言えば出店の食いものだよな」
わたしにとってはお兄ちゃんと歩くことにこそお祭りの楽しみがある、それは気持ちの上では分かっていたのだろうけど、今よりもずっと幼い自分にはそれを言葉にすることはできなかった。こくこくと頷くわたしに、お兄ちゃんは無邪気に微笑む。
「お前、よく食べるなぁ」
おいしそうにりんご飴を頬張るわたしを、呆れ顔で見降ろしていた。
「ママがね、たくさんたべてつよくなりなさいっていつもいってるから」
「そのアカネェが小遣いあんまくれないからたくさん食べれないんだっつーの!」
小銭入れの中をあさり愚痴るお兄ちゃん。
わたしは突然、そわそわし始める。
「どうした?」
もちろん、申し訳なくなったわけじゃない。そんな感覚を、当時のわたしが持ち合わせてるわけがない。
「うー、おトイレぇ」
「えっ、ちょとっ…まて、な? 我慢しろよっ。確か、あっちか…」
わたしの手を引いて手洗いへと急ぐお兄ちゃん。
「――ッ」
突然、お兄ちゃんの手から伝わって来る熱と汗が増したように感じたのは、気のせいではなかった。きっと、お兄ちゃんは視線の端に異変を感じていたんだと思う。なぜって、学校でいつもお兄ちゃんを虐めている子たちが、お祭りにきてたからだ。
わたしは、どうかお兄ちゃんって気付かれませんようにって神様にお祈りしたけど、その願いは届かなかった。
「お、お兄ちゃん…」
「な、なんでもないよっ」
逃げるようにして足を速めたことからも、焦りが伝わって来る。
わたしがお手洗いを済ませている間、お兄ちゃんは外で待っていた。今思えば、一緒に付いて来てもらえば良かったんだ。
『怖いから終わるまで側に居て』ってお願いするとかして、お兄ちゃんの気持ちを傷付けないように言うことはいくらでもできたのに。
「ようナルオ、何やってんだよこんなとこで」
手を洗っていたわたしの耳にもはっきりと聞こえる大きな声。怖そうなお兄さんが何人か外にいるんだ。歳は、お兄ちゃんと同じぐらいだと思う。
そっと影から様子を見ると、暗闇の中でもはいっきりと、お兄ちゃんが真っ青になってる様子がうかがえる。そのぐらい、怯えていた。
「まぁ、ちょうどいいタイミングだったよ、金もなくなってきたとこだしな」
名案を思いついたとばかりに目くばせする。何をされるのか予感したお兄ちゃんは絶望しただろう。
「おい、持ってるんだろ? オレたちに恵んでくれよ」
「だ、だめだよ。きょ、今日のは、ぼくのお金じゃないもん」
苛立った相手が、突然お兄ちゃんの胸倉を掴んできた。
「や、やめ…やめてよっ」
「うっせぇ!」
胸を押されて倒れるお兄ちゃんを見た瞬間、自分の中でなにかが切れたのを感じた。
「千円もあんじゃん、隠してんじゃねぇよ」
「そ、それはすみちゃんに…ぐすっ」
泣き顔を相手に見せるわけにはいかない。わたしはすぐに、かばうようにお兄ちゃんの前に立った。両手を広げていたけど、小さな背中でお兄ちゃんの姿を隠し切れたかどうかは思いだしてみると疑問だ。
「なにやってるの!? ああっ、ナルくんのお財布!」
突然の乱入者に驚きながらも、二人はわたしの前に立つ。
「生意気なチビだな、おい、こいつらまとめてボコってやろうぜ」
「ははっ、女みてぇなナルオとチビ相手ならちょろいな」
そう言った上級生の男子に両肩を掴まれる。さすがにわたしと同い年の男の子よりも力が強い。必死に痛みを堪えるけど、不思議と怖くはなかった。その逆だ。溜め込んでいた怒りが、頂点に達した瞬間、とでも言うべきだろうか。
「さわるなぁああッ」
ほとんど無意識の内に、脚を振り上げていた。
相手の股間に下駄の尖端を滑り込ませる。足の甲が見事に男子の急所を仕留めていた。男の子は大股開きで立っていたうえに半ズボンだったから弱点に入れるのは簡単だった。そのまま、ママから聞いていた通り、体重を乗せて手前に引く。固い下駄の尖端が、キンタマを裏側からつらぬいた感覚が伝わってくる。
「――うっ、い、痛っ…ゥガッッ!!!」
突然の衝撃を股間に受けた男子はショックだったんだと思う。呆けていた男の子の顔がみるみる青ざめていくのが見てとれた。襲い来る痛みが頂点に達したのだろう、半ズボンの股間を両手で押さえながら悶え苦しんでいる。
「お、おい、大丈夫かっ、このヤロウ――」
取り乱したもう一人が、拳を振り上げて突進してくる。
無防備にもほどがあるよ。わたしはその力を利用して、突き立てた膝を相手の股間にお見舞いしてやった。
「うっ!!!」
二人が股間を押さえて蹲っている間に、わたしはお兄ちゃんの手を取ってその場を離れた。
「ナルくん、大丈夫?」
人目の届かない林の中で、まだ泣きそうなお兄ちゃんの顔を覗き込んだ。
「う、うぅん……それより、すごいよ、スミちゃんは」
涙を浮かべながらも、笑顔でわたしの両肩を抱いてくれた。
すごくドキッとしたけど、うれしかった。
「俺も、スミちゃんみたく強くなるよ――うん!?」
幼いながらも感情を抑えられなくなったのかも知れない。年上のくせに頼りないお兄ちゃんが可愛くて、気付けば口付けしていた。
「す、すみれ…ちゃん!?」
涙に潤むお兄ちゃんの瞳をみつめながら、わたしは、りんご飴を舐めたときのように満足げに微笑むと、唇を舐めた。
そんな計算し尽くされた行動は、あざといことこの上ない。後々思い出して見ると恥ずかしくて悶えそうになるよ。
[大丈夫だよ。わたしが、護ったげるから]
遠くで花火が上がる音と周囲の歓声で、その声は届かなかったかも知れない。
でも、その口の動きから、お兄ちゃんは何かを察してくれたんじゃないかな?
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お疲れ様でした。明日掲載する「夏祭りの夜~Sっ娘すみれ発動+年上お姉さんで自由研究~」もお楽しみに!フォローすることで冒頭部分までお読みいただけます。参考にしていただければ幸いです。
明日もよろしくお願いします。