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2024年 03月の記事 (2)

『快鳥童子シーガルマン』制作ノート#21

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第二十一回目の制作ノート、今回は『快鳥童子シーガルマン』における主要な登場人物の口調に関するお話となります。

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快鳥童子シーガルマン八戸夜話 第四回

八戸。時折積雪も見られる冬真っただ中の、一月のある日。

「スケルトンには連絡を?」
「勿論。スチルシャークとコールダーが支援のためこちらに向かっている、と」
「よしよし、問題なし。後は……」

 ――黒ずくめの彼らとはあまりに対照的な……純白のアーマーをした男が、そこに立っていた。

「……毎度お疲れ様です」
「全くだ、アンタのお陰で疲れるよ」

リーダーらしき五人組の男の先頭が、悪態をついた。彼らヌルズ第四班は、対シーガルマン戦闘に特化した精鋭部隊だ。市内での戦闘活動の後にシーガルマンと会敵、遅滞戦闘の後、市内ビル群に退いてきていた。

「安給料でよ、アンタみたいなチートの塊とドンパチやる身にもなってくれよ」
「イージー、今日の晩飯なんですかね」
「さあな。肉食いてえよな肉。もう随分カレー続きじゃねえか、作りすぎたって。確かに寝かしたカレーは美味いけどよ、それも度が過ぎりゃあ腐敗という名の退化に過ぎねえんだぜ?」
「イージー!アンタ味噌と納豆、その他諸々の発酵食品を侮辱しましたね?!」
「してねえよ!」
「いいやしたっ!カレー付きの福神漬けの立場をアンタは微塵も考えてない!!カレーの野菜を悪魔のような顔で刻む人間並みに悪辣極まりない!」
「何で!」

 ――班内は早速瓦解しかけていた。

「あの」
「何だ!!」
「カレーにも、肉は入ってるんじゃないですか?」
「……シーガルマン。野郎が先を争って食うんだぞ?一週間過ぎのそれに肉なんて残ってると思うか?」
「……ご愁傷様です」
「と言うわけだ。俺たちのQOL向上と明日以降の栄光の晩飯の為に、手合わせ願おうじゃねえか」
「おう!」
「……」

 結束を取り戻した第四班が相対する。シーガルマンはガルセプターを構え、イージーは大仰にファインティングポーズを取り……残りの四人は棒状の何かと、礫状の何かを取りだした。

「新兵器……?」
「まあ、アンタに対しちゃ役不足かな……まあいい、やれ!」
「!!」

 殴打の連続。その攻撃はシーガルマンの各所にヒットし――

「……あんま効いてねえな?」
「う、嘘だっ!次の時代を切り開くリーサルウェポンだって、俺は……」
「だから俺は信用ならねえって言ったんだ……」
「肩こりが取れました」
「こ、このっ!」

 ――その後、ヌルズ第四班は壊滅状態に陥り、後詰めの二人も投入されたが、シーガルマンを捕縛せしめるには至らなかったという。

『しかしあの新兵器……果たして新兵器だったのか?』







 一ヶ月後。八戸市湊町、ITOビルサービス第2営業所。

「ん、来だが」
「どうも、スケルトン」

 上司から呼び出しを受けたヌルズ第五班長チャーリーは、その上司の執務室に居た。

「まあ、掛けてけんだ」
「ええ」

 執務室の主スケルトンはそう言うと、机の引き出しから小箱を出し、途端英語で話し出した。

『プレゼント、だそうだ』
『へえ、俺に?』

 双方とも海外も、そして付き合いも長い。英語の会話に何ら不都合はなかった。

『だそうだ、とは。……まさか、パパ・スミスから?』
『やはりそう言うのか……』
『悪いか?親父殿がそう自分でおっしゃってるなら、別に構わないだろう』
『慣れの問題、とは言ってもだな……』

 珍しく苦虫を噛み潰したような顔のスケルトンに、くつくつとチャーリーは笑う。

『シガリロか。流石親父殿、好みを分かってらっしゃる』
『……点けるか?』
『吸わんだろう?』
『執務室だ。今日は仕事も入ってない、構わん』
『どうも』


『さて。チャーリー、呼んだのは他でもない。これを見てほしい』

 渡された封筒の中身を見るなり、チャーリーは怪訝な顔をした。

『なんだこれは』
『ヌルズの内情だ』

 ――異様な光景だった。ヌルズの活動中の写真、その全てに……

『バットと、石?』
『そうだ。連中の間じゃ”粉砕バット”と呼ばれているらしい。後者は不明だ』

 ――棒状の、何か。黒く塗られたそれは先端は太く、そこから手元に向かって絞られ、最終的に手元過ぎで再び太くなる……俗に言う、バットだ。礫状の何かに対しては……礫状の何かとしか、形容しようがない。

『一応聞くが。チャーリー、お前は?』
『持ってるわけないだろう。しかも初耳だ』
『と言うことは、第五班ではまだ流通していないのか』
『ああ。装備課の連中か?いや、なら俺の所に連絡が来てるはずだよな……』
『流通経路は現状不明だ。一月ほど前から、急に流行り始めた』
『ふん』

 二人は首を傾げる。

『……と言うわけでだ、チャーリー。この件について、早急に調査してくれ。無論俺も協力する』
『それは良いが……エイブルには連絡を?』
『いや、していない。それとなくカマを掛けたが、のらりくらりだ』
『逆に怖いな……』
『この調子だと、途中での介入はないだろうが……』
『エイブル、だからな。静かに、かつ早急に解決するほかないだろう』
『そういうことだ。よろしく頼む』





翌日、チャーリーは市内某所の病院を訪ねた。パーシアス・エンタープライズの附属病院だ。

「失礼。先刻連絡差し上げた、寺内ですが」
「伺っております。内田様は六階の六二一号室です」
「どうも」

 やはり基本は聞き込みということで、壊滅した第四班隊長・イージーこと内田に、当時の状況を聞いてみることにしたのだ。見舞いの菓子折を抱えて、六階へ上がった。

「……寺内!」
「災難だったな、内田」

 広い個室は一人部屋だ。

「調子はどうだ」
「大分良いぜ、来週には復帰だな。それはそうと寺内よ、他でもないお前が来たってことは……何かあるんだろ?」
「……」
「話せよ。……三日前にここに移されたんだ。上がそうしたんなら、そういうことだろ?掃除も手入れも、行き届いてるってわけだ」

 チャーリーは一つ頷くと、話し始めた。

「聞き取りやら何やら、来てるか?」
「いいや?いつも通りの報告書だけさ、後始末書な」
「成程」

 上は現状、黙っていると言うことが分かった。

「病み上がりの所悪いが、あの時の状況を教えてくれないか」
「状況、ねえ……ほぼ部隊全員がバットで突撃した、それで負けた。それ以上の事実はねえよ」
「そのバットについて、知りたいんだ」

イージーは首を傾げた。

「知りたいって言ってもよ……俺も分かんねえんだよな」
「と言うと?」
「なんか気づいたらな、凄え流行ってたんだ。部下連中に聞いても教えられませんの一点張り。そんな信用ねえかなあ、俺?まあ、あの具合じゃ何の変哲もねえバットと石だろうがな」

 あの白いのにも碌に効いてなかったしな、とぼやく。

「……お前は?」
「使うわけないだろあんな得体の知れないもん。あいつらはどうしてもって言うから、その辺の意を汲んで使わせてただけで……寧ろあの白いの以外には案外善戦してたのが怖いよな、何だかんだであいつら強いからなあ」
「……」


(ますます、分からないな)

 湊町の営業所に戻るなり、チャーリーは食堂に腰を落ち着けた。

(モノの威力と真偽はともかく……バットの震源地は何処だ?)

 基本、ヌルズの装備は装備課からの供給品だ。だが一応少数精鋭の部隊とあって、個人の装備にはある程度の自由が許されていた。それでも殆どの隊員は余程の事情でもない限り、正規の供給品を使うのが大多数なのだが。

(それに装備課経由でないのなら、まず間違いなく出所は外部だ……よもや間者か?)

 それはない、とチャーリーはかぶりを振った。何せこの閉鎖空間だ。自由はある程度はあると言え、外部接触は一部の例外を除いて極端に少ない。ましてやここの上層部は、八戸を実効支配する天下のパーシアス・エンタープライズだ。情報戦は専門部署付きでお手の物、果たしてそのセキュリティを容易に突破できるものか?

(それに、突破したところでバットと石……何をする気だ?)

 そんなことを考えていると、突然背後で破裂音が響いた。

「?!」
「いやあ、当たんないもんだなあ」

見れば、ヌルズ第五班のピーターが、僅かに顔を赤らめながら拳銃を発砲していた。具合が悪いわけではない。酒だ。

「……???」
「あ、寺内さん!おはようございます!」
「……昼だぞ池田。一応聞くが、何をしてるんだ?」
「射撃訓練です!」
「食堂でやることではないな……」

 彼はヌルズ第五班きっての問題人員だった。射撃の腕、特に乱戦でのそれは十分以上だったが、それ以外が全て問題と言っても過言ではなかった。
 ――だがチャーリーはそんなことよりも、別の所に目を向けていた。

「……池田、その石はなんだ?」
「何って、石ですが。鉱物の石です、人間のじゃなくて」
「何処から手に入れた?」
「買ったんですよ、御利益あるとかなんかで。まあ俺はそういうのあんま信じない口なんで、こうして使ってるわけですが」
「ウチの……第五班の連中も、皆持ってるのか?」
「皆と言うより……若槻さんは持ってましたよ?」
「若槻……ハウが?!」

 チャーリーは頭を抱えた。数少ない常識人枠の同志が、よく分からないものを買っている姿に驚愕したのである。

「や、福田のヤツはまだ買ってませんでしたかね?まああいつだからなあ、その内……」
「呼びました?」

 驚いたチャーリーが振り向いた先――粉砕バットを嬉しそうに抱えた、ヨークこと福田が立っていた。





「もう生き残りはお前だけか……小渕」
「勝手に他の人たち殺さないで下さいよ」

翌日、社用車を借り出したチャーリーは、生き残りのエ……オブチを伴い、湊町を流していた。

「お前は何で持ってなかったんだ?」
「ああ……勧誘は来たんですけどね、あれタダのバットと石でしょう?そこら辺の店で手に入るじゃないですか」
「そのお前の感覚に助かったよ……それで、どこから勧誘が来たんだ?」
「三班からですよ。でもあの連中ヤバ目でしょう?対人専門部隊だからかどうかは知りませんけど、凄い腕利き、でも少しまともな池田さんみたいなメンツが五人揃ってるって……」
「そうだな。あそこも優秀なんだがなあ……」
「装備課の一班からだったら、買ってたかも分かりませんが……それで、今日は何処へ?」
「聞き込みだ。あのバットと石の出所を、本格的に突き止めに行く」


 車はやがて公園に着いた。ここも、パーシアス・エンタープライズ所有の公園だ。無言でランニング中の男連中五人に、チャーリーは気さくに声を掛けた。

「よう、清浦。精が出るな」
「ああ。誰かと思いましたよ、寺内さん」

 先頭の男が、見た目に似合わぬ物腰の低さで返した。部隊内ではフォックスの名で通る班長だ。

「え」
「どうだ調子は」
「特に変わりありませんね。最近は目立って困難な出動もなし、平和なものです」
「そりゃあ良い」

 ――対人専門部隊、ヌルズ第三班。単純な任務遂行能力ではヌルズ有数の実力を誇り、またその姿勢からヌルズ内部からをも一目置かれる部隊だ。

「トレーニングの邪魔をして悪いんだが、少し聞きたいことがあってな」
「いえいえご遠慮なく。寺内さんであれば大歓迎です」

 男は満面の笑みで返した。

「……第三班も、粉砕バットと礫を導入したと聞いたんだ。どうだ一つ、戦闘のプロの意見を聞かせちゃくれないか?」
「腕はあなたの方が上でしょうに……まあそうですね、個人的な意見を言わせて頂くなら」
「?」
「粗大ゴミです」
「ひっ」

 男は満面の笑みで言い放った。

「……その心は?」
「ここからも個人的な意見になりますが。武器というもの基準を語るなら、それは十分な威力と時に過剰なほどの耐久性が、その条件と信じます。この粉砕バットと礫……まあその辺の安物のバットと石でしょうが、とても私が信奉するそれに当てはまっているとは思えません。まあそうは言っても、一応武器と括られていれば武器で、それなりに使えるものではありますし、一般的に武器と括られていないものでも、状況によって敵に対する十分な脅威になり得る……つまりは武器と見なし、人によっては活用できる――いや活用しなければならないことも多々あるでしょう。しかしどうです。この粉砕バットやら礫やら、タダのバットと石です。石はまあ、自然界のなかに存在するものですからそりゃあ武器にはなりましょう。しかしですね、いけない。これはいけない。僭越ながら我々は特殊部隊です。大いなる仕事を最小限のエナジーでこなすことを自身らに課し、また上層部から命じられています。つまり我々の目指すべき目的から逸脱、いいや正反対だ。そうなんですよ。ですからこれらは少なくとも、現状の我らヌルズ第三班の基準においては、武器と言えないわけです。――ああご心配なく。無論先達の歴史上の苦労とその威光を侮辱するつもりは毛頭ありません。確かに我らが先達は石で木の実を割り、火をおこし、狩りをした。槍で直接、また矢尻で間接的に打撃、出血ダメージを与えた。傑作でしょう。素晴らしいとも思います。……しかし残念なことに今は現代です。人は行き着くところまで到達し、そして未だに戦争を遂げている、おぞましいもの。我々がその尤もたるものですがね。つまり何が言いたいかと言いますとね、こういう俗に言う石ころはその現場において突発的、なおかつ応用的に使用するものであって、こうしてあらかじめ用意するべき程のものではないんですよ。しかもそのようにして使用したところで、相手に致命的ダメージを与えうる可能性は限りなくゼロに近い。同じく礫として直接的、なおかつ相手への致命的ダメージを期待するなら、もっと空気抵抗とダメージ効果を突き詰めた上でその速度を上げるか、礫自体の物理的ダメージを上げるか、どちらが有効な手立てとなるわけです。……寺内さんと小渕君なら、もうお分かりでしょう。……銃器です。そうなんですよ。人間は斯くして礫を高速度発射するという天啓を得てしまったために!ああ!大量消費と絶対的な大火力を引き換えに、こうも混沌の世を結果として導いてしまった!」
「…………それで、バットの方はどうなんだ?何か有効な使い道はあったのか?」
「中に砂を詰めました。威力が多少上がりました、焼け石に水ですがね。有効活用はしていますよ。後、勘違いなさっているようですが、正式導入はしていませんよ?」
「え?」

 男はさらに笑みを深めた。

「ウチの部下達が、どこからともなく持ってきたんですよ。それで実践で使ってみましたらね、これがまあ使い物にならない。いくら御利益だリーサルウェポンだと騒いでみても、実戦で役に立たなければその存在意義がありません」
「……まあな」
「ということで実戦に使えるようにしたんですよ、部下の個人努力で。静音性を求められる任務には、威力に難があるとはいえ問題なく使えましたから、まあ及第点といった所でしょうかね」
「それで、そのバットは一体何処から?」

「一班のクイーンから、貸しがどうとかで、そいつは同じ班のアンクルから」
「俺は二班のロジャーから、何か装備課経由だって」
「僕は四班のシュガーから」
「同じく四班のシュガーから……あれアイテムだったかな、何かアイテムだったような気がするな……アイテムから貰ったアイテム……くふふ……」


「結局、分からずじまいでしたね」
「ああ」

 その後も調査を続けたが、分かったのは各人の調達経路が錯綜していることだけだった。

「あるんですかね、こんなこと」
「実際に起こってるんだ。事実と認めるしかないだろう」

 新井田川に架かる橋だ。鉄道橋の向こうに橋が二本、その先川は左右に分かれ、左は工場街で行き止まりの旧河川、右はもう一本橋を越えれば太平洋に至る。欄干にもたれながら、互いに缶コーヒーを呷る。

「上がりましたねえ、値段」
「どこも好景気、ってわけじゃないからな」
「益々酷い」
「それでもやってかなくちゃならないさ。人生の義務って奴だな」
「嫌ですねえ」

 会話の内容とは相反して、緩慢な雰囲気が流れる。

「寺内さん、今の仕事どう思います?」
「え?どうってもなあ。何か不満でもあるのか?」
「不満ってわけじゃあ、ないんですけどね。……俺たちのやってることがどうにも分からなくなるときが、時たまあるんですよ」
「……そうか」

缶コーヒーの、その最後の一口を煽った。

「俺も分からん」
「え?」
「パーシアスに入ったのはそこそこだが、この稼業自体はもう随分やってる。でもな、俺たちは何やってるのか、何のためにやってるのか。そんな根底の価値観から分からなくなる、よくあることさ」
「……どうしてるんです?」
「思考を止めるのは簡単さ。だけどな、それは現場どころか日常でも悪手だ。かといって思考にふけって下手に行動を疎かにするのは、少しばかり個人的には性に合わない。場合によっちゃあ有効かもしれないけどな」
「と、すると」
「対症療法。まずは自分なりに支柱を決める。そこから現在の手持ちの資源の範囲内で、自分の希望を現実とすりあわせて、あわよくば叶えていく。多少の博打も含めてな。個人主義も、個人でやる分には善悪もへったくれもないだろう?」
「はあ」
「あとはその支柱を突き詰めるなり、変更するなり、上を目指すなり、好きにすれば良い。その頃には資源もある程度はあるだろうしな、使うなり借りるなり助力を乞うなりすれば良いさ」
「えらい理想的ですね」
「……そういう気だけでも持ってないとどうにもならんさ。で、話を戻すが、何か引っ掛かる点とか、そういうのはあったか?」
「どうにも。ああも調達経路が錯綜しているんじゃ、元がどうだか……しかも同じこと、言ってるんでしょう?」
「『売り手のことを話すと御利益や効果が薄れる』……チェーンメールか何かか?」
「いや、案外そうかもしれませんよ?」
「ネズミ講?このご時世で?」
「寧ろこのご時世だから、じゃないですか?世間には色んな人が居ますし」

 二人は二本目のコーヒーに手を付けた。西日が眩しい。

「しかし、よくウチみたいなとこにネズミ講を仕掛けられましたね。震源地はどこでしょうか」
「そこだな。外部からだったとしても、やはり広がる要員は身内の誰か。パーシアス社内全域は厳しいだろうし、スケルトンがそれとなく調査をしている。となると」
「ウチのビル……でもヌルズ全班調査でこれですよ、他に探すところなんて」
「……いや、待てよ。あるぞ」
「え?」

 小渕が怪訝そうな顔をする。

「成程、ある意味盲点だったな。灯台下暗しって奴か」
「というと?」
「考えてみろ小渕。湊町のビルを使ってるのは誰だ?」
「え?そりゃあ俺らヌルズと……あ!」
「……そうだ。まだいるじゃないか」
 

十数分後、チャーリーとエクスレイは湊町のビルに帰還していた。

「おう。んがんど、帰ってきてらったが」
「ええ。少し気になることがありまして」
「……んがも、見逃しに気づいたが?」
「……成程。着眼点は同じだった、か」
「んだ。あれがわんつかでもそんなことするのは、考えられねんども……可能性があるんだば、聞くしかないべおん」

 そんな話をしていると、食堂の方から声がする。

『つぎのセカイタイセンはこのバットがシュリョクなんだってよ!』
『ええ……』

 聞き覚えのある声だった。全身濃灰色のノコ使いに、ブルーメットにレザーコートの冷凍人間。対シーガルマン部隊として、往々にして彼らの補助を務めることの多いヌルズ第五班には、特に。

『なんでも、えーと、たしか、フランケンシュタインとかいうえらいガクシャがいってるんだって!』
『それは聞いたことあるけど……』
『しかも!いまならセカイタイセンようの石がついてくるぞ!おトクだぜコールダー!』
『い、石?』
『ああ!これをもってるとな、えーと、もってるヤツのセン……センザ……』
『……潜在能力?』
『そうそれ!センザイノウリョク!それをたかめてくれるんだってよ!』
『どうやって?』
『それはワカンねえ!でも、こう……石をにぎってロックパンチ!石をなげてロックシュート!!』

 直後、食堂の窓ガラスの割れる音が響いた。

『ス、スチルシャーク!食堂の人怒ってるよ!戦争起きちゃうよ!』
『あ……すげえ!さすがセカイタイセンよう!』
「……これ以上は余計な被害が出るぞ」
「……んだの。行くべ」

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