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メカギャルの記事 (58)

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ダブル・ディーリング 03

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ダブル・ディーリング 01

今日から『ダブル・ディーリング』をアップします。
立ち読み版は全体公開です。
苦手な方は逃げてください!!


ダブル・ディーリング 01


主人公の数斗視点でスタートします。
無料公開しているところまでは、こちらでも無料公開しますです。


 積極的に帰りたくない、というほどではないが、出来れば遅く帰りたい。かといって部活をするほどの意欲はない。最近は部活で使う以外では、パソコンも勝手に使わせて貰えない。だから学校に居座ったところですることもない。

 羽島数斗は学校から帰っている理由を心の中で反芻した。ふざけながら一緒に帰る友達はいるが、それほど付き合いが深い訳じゃない。帰る途中でどこかに一緒に寄ることはない程度の付き合いだ。

 電車に揺られつつ、数斗はこっそりため息を吐いた。夏の暑い車内もうんざりするが、寒くなるに従って一人一人の着る物が分厚くなった分、席が狭くなるのも好きじゃない。乗り込んできた客が、数斗の左隣に空いていた狭いスペースに腰掛けようとする。数斗は仕方なく隣の客を気にしながら右に寄った。

 最寄り駅に到着した電車から降り、数斗はのろのろとホームを歩いた。こんな風に時間稼ぎをしても無駄だということは判っているのだが、どうしても足が重くなる。エスカレーターに乗り、階段を昇り、改札を抜けた数斗は深いため息を吐いた。券売機の近く、いつもの場所で、よく知る人物がにこにこ笑いながら手を振っている。

「カズくん! おかえりなさい」

 全開の笑顔で言い放った人物を睨むように見つめ、数斗はもう一度ため息を吐いた。

 見た目は自分と同級生くらいの驚異的な若さ、ついでにクラスメイトの女子よりずっと可愛く、更に言えばスタイルもいいこの女は、実は数斗の母親で千紗という名前だ。だが改札前で足を止めていたら、今度はタックル紛いの抱きつき攻撃を食らってしまう。逃げたくなる気持ちを堪えて数斗は無言で千紗に近付いた。

「今日もあまり元気が無いのね? もしかして、最近、学校で何かあったの?」

 そんなことを言いながら、千紗が数斗の顔を覗き込んでくる。くりっとした目で覗き込まれ、数斗は千紗から顔を背けた。

「別に」

 ぼそっとそれだけ言った数斗を見つめ、千紗が考えるような顔をする。数斗はそんな千紗をちらちらと伺った。黒くさらさらな髪は背中の中程まで伸びている。身長は数斗より低く、並ぶと見下ろす感じになる。だが千紗の体型は小柄な割にめりはりが効いていて、ウエストは細く、胸はかなり大きい。

 今日の千紗はふんわりとしたパステルカラーのセーターを着て、その胸に大量の花を抱えている。きっとまた花屋のオヤジに持っていけ持っていけと押しつけられたに違いない。千紗はこの容姿だからなのか、駅前の商店街のオヤジ共にやたらと人気があるのだ。

 二人で並んで地上に続く階段を昇る。その間、千紗は唇を尖らせて一人でぶつぶつ言っていた。カズくんが冷たい、とかいう愚痴が聞こえてはいたが、数斗は聞こえない振りをした。

 地下鉄の駅を出ると赤い空が見える。いつものように駐輪場に向かおうとした数斗はふと足を止めた。

「今日は自転車じゃないの?」

 いつもなら数斗に並んで駐輪場に向かうはずの千紗が、何故か商店街の方に歩き出している。振り返った千紗が今気付いたという顔をして数斗に駆け寄る。

「一緒にお買い物しましょ!」

 爽やかな笑顔で千紗が数斗の腕にしがみつく。抱えていた花を片手に持ち直し、わざわざ胸を腕に押しつけ、間に挟んでくる念の入れようだ。しかもこれがわざとでないらしいから笑えない。ふんわりとした膨らみの間に腕を挟まれ、数斗は顔を強ばらせた。

「買い物はいいけど、何で腕組むんだよ」

 低い声で指摘をすると、千紗が驚いたような顔をする。以前、このパターンで抱きつかれ、ついつい振り解いてしまい、千紗が泣き出しそうになったことがある。そのことを思い出しながら、数斗は振り解きたいという衝動を懸命に我慢した。

「え、だって! カズくんは私のこと、嫌いなの?」

 そんなことを言いながら千紗が目を潤ませる。ぎくりと身を竦めて数斗は反射的に千紗から離れようとした。だがその寸前で思いとどまる。そんな真似をしたら本当に千紗は泣き出してしまうかも知れない。

「きっ、嫌いとか好きとか、そういうことじゃなくて」

 出来るだけ声を絞って数斗はそう言った。すると千紗が不思議そうな顔をする。駄目だ。ここで千紗を納得させる時間を使うくらいなら、いっそのこと色んなことを我慢してでもこのまま買い物した方がいい。

 母親なんだから何にも問題ない。腕を組んでいようが、胸に挟まれていようが、別に母親なんだから関係ない。

 心の中で自分にそう言い聞かせ、数斗は深いため息を吐いて商店街に向かった。数斗が納得したと思ったのか、千紗はまたにこにこと笑いながら横を歩いている。

「悩みがあるなら、私が聞いてあげるから。まず、お茶しましょ」

 ぎゅっと数斗の腕を抱きしめて千紗が一人で頷く。数斗は思わず足を止め、怪訝な顔で千紗を見た。

「買い物するんじゃなかったのかよ」

 それに悩みなんてない。そう付け足して数斗は顔をしかめてみせた。すると千紗が唇を引き結び、数斗をじっと見据える。

「このところ、ずーっと眉間に皺出てるの、気付いてないでしょう?」

 千紗が花を持った手で数斗の眉間を押さえる。変なところで鋭いくせに、数斗の顔が花に埋もれてしまうことには考えが及ばなかったらしい。むせるような花の香りをいっぱいに吸い込む羽目になり、数斗は花の中で咳き込んだ。

「悩みなんかないし、話すこともない」

 仏頂面で文句を言った数斗は花を手で退けた。ついでに眉間を押さえていた千紗の手もさりげなく退ける。目の前から花がなくなってほっとした数斗は、千紗が目を潤ませていることに気が付いて焦った。何でこう、千紗はすぐに泣きそうになるのだろう。

「そんな顔しても無駄だ。買い物するんだろ? どこで?」

 千紗が泣き出したら面倒だ。かと言って相談することなんかないし、悩みだってもちろんない。数斗はさっさと頭を切り換えて話を買い物に戻そうとした。

「今日は、カズくんが欲しいものをプレゼントしちゃいまーす! 何か欲しいものある?」

 目尻に浮かんだ涙を拭い、千紗が何故か花を持った手を空に向かって突き上げる。どうやら挙手のつもりのようだ。

「別に」

 千紗が何でそんなことを言い出したのかを考えるより早く、数斗は反射的にそう答えた。するとまた千紗が目をうるっとさせて上目遣いで数斗をじいっと見つめてくる。

「やっぱり、カズくん。私のこと嫌いになったんだ……」
「あー、もう、しつこい! 嫌いとか好きとか関係ないし、悩んでもいない! 買い物さっさと済ませないと、今日はオヤジもいるんだろ!?」

 何かあるとすぐに泣きそうになる千紗に我慢出来ず、数斗は少し強い口調で言った。すると千紗が目元を拭って不思議そうな顔をする。

「清次さんからは、二十時まで帰るなって言われてるから」
「は?」

 疑問の声を返してから数斗は今朝のことを思い出した。数斗の父、清次はロボットの開発などを手がける科学者らしい。らしい、というのは数斗は実際に清次の仕事の内容を知らないためだ。清次が自分の口からそう言っただけで、その実、何を作っているのかは判らない。ぶつぶつ言いながら家の中を歩いていることもあるが、耳を澄まして聞き取っても何を言っているのかさっぱり判らないのだ。

 清次は仕事が忙しいのか、毎日家には戻らない。研究所で寝泊まりすることが多いのだ。そんな清次が今朝は家に帰ると言っていた。

「じゃあ、どうするんだよ。八時までって、何してろって言うんだ」

 数斗は眉間に皺を寄せてため息を吐いた。こんなことならもっと時間を潰してくれば良かった。

「とりあえず、喫茶店いきましょう!」

 何故か嬉しそうな顔をして千紗が改めて数斗の腕に抱きつく。また二つの膨らみの間に挟まれた感触にぎょっとしつつ、数斗は今度は抵抗しなかった。

 少しは疑ったりしないのかよ。

 腕にしがみつく千紗を見下ろし、数斗はこっそりため息を吐いた。清次に時間指定までされて帰ってくるなと言われたことを、千紗は何とも思っていないのだろうか。それでなくても清次は千紗にいつも冷たい。数斗の目から見ても清次は千紗に関心がないのではないかと疑いたくなるほどだ。なのに千紗はいつもこんな風にけろりとしている。

 引っ張って連れて行かれたのは、駅前のコーヒーショップだった。カウンターで飲み物を注文し、出されたコーヒー二つをトレイにのせてテーブルに着く。千紗の持っている花が気になるのか、それとも本人が気になるのかは判らないが、店内の客の目は千紗に集中している。だがそのことに千紗は全く気が付いていないようだ。

 言われるままに席に着いた数斗は、諦めのため息を吐いて片方のコーヒーカップを寄せた。ソファに花を乗せた千紗が、嬉しそうに数斗のカップに砂糖を入れる。

「お砂糖はふ・た・つ」

 弾んだ声で言って千紗が今度はミルクを注ぐ。自分で出来ると言ってもきかないのはよく判っている。判ってはいるのだが、やっぱり恥ずかしい。子供じゃないんだぞ、と文句を付けようとして数斗は思いとどまった。そんなことを言ったら、千紗はきっとまた泣きそうになるに違いない。

 スプーンでコーヒーを混ぜた千紗が笑みを浮かべて数斗を見る。数斗はため息交じりに仕方なくいただきますと言ってカップを取り上げた。

「カズくん。やっぱり、何か悩み事、あるんでしょ?」

 また最初に逆戻りしてしまったらしい。真正面から上目遣いで見つめる千紗から目を逸らし、数斗はため息を吐いた。学校を出て、これで何度目のため息だろうか。数えるのも馬鹿らしいくらいため息ばかりついている気がする。

「だからないって。それとも母さんは、俺が悩んでることにしたいのか?」

 うんざりした気分で数斗はそう言い返した。すると千紗が困ったような顔をする。

「だって、そんなにため息ついて……」

 あんたのノリについていけなくて勝手に出るんだ。……と、正直に言うわけにもいかず、数斗は少しの間黙って考えた。千紗は心配そうな顔をしているし、実際、本当に心配されているのだろう。だがだからといって千紗に相談する気にもならない。ちらっと千紗を見てから数斗は熱いコーヒーを少しずつ啜った。

「進路のことでちょっと」

 どう言えば千紗が納得するだろう。考えた末に数斗はそう口にした。すると千紗があからさまに明るい表情になる。

「そうよね! まだ一年生だって言っても、大学受験なんてすぐなんだし。塾に通いたいとか、家庭教師つけるとか、必要だったらいつでも相談してね!」

 悩み事を相談された割には千紗はほっとした表情をしている。どうやら納得してくれたらしい。手軽だな、と思いつつも、数斗は曖昧に頷いてみせた。

「でも今はまだ、はっきり決まってる訳じゃないし」

 数斗は先回りしてそう言った。放っておいたらきっと、千紗は目を輝かせながら塾や家庭教師のパンフレットを並べ始めるに違いない。そんな数斗の考えはどうやら当たっていたらしい。途端に千紗がしょんぼりとした顔になる。

「ま、そっか。でも、考えがまとまったら、絶対相談してね!」

 一人で頷いた千紗がにこにこしながらテーブルに肘をつく。何をするのかと思ったら、千紗は小指を立てて数斗の方に向けた。

 まさかと思うが、これは指切りをしようとしているのだろうか。

 千紗の細い指を見つめ、数斗はしばし静止した。まさかな、と心の中で呟いてみる。

「なに、それ」

 数斗は眉間に皺を寄せて低い声で訊ねた。

「えっ? ゆびきりげんまんっていつもしてたでしょ?」

 不思議そうな顔をした千紗は、小指を引っ込めるつもりはないらしい。一体、幾つの頃の話だよ、とぼやいて数斗はうんざりした顔になった。

「そんなことしなくても必要になったら相談するし」

 コーヒーを啜りながら数斗は横を向いた。すると何故か嬉しそうに頬を緩めて千紗が小声で言う。

「もしかして、カズくん照れてるとか?」
「恥ずかしいだけだ」

 仏頂面をしてそう言い切り、数斗は残っていたコーヒーを飲み干した。千紗は恥ずかしいとかみっともないとか下らないとか思わないのだろうか。小さな子供にするのなら判る。だが見た目には千紗は数斗と似たような年頃に見えるのだ。

 そう考えてから数斗は深々とため息を吐いた。同い年くらいに見えるのが一番の問題のような気がする。例えば千紗が実年齢通りの容姿なら、こんな恥ずかしいことは思いつかないのかも知れない。

「やっぱり照れてるんじゃない」

 うふっ、と嬉しそうに笑った千紗を数斗は呆れた顔で見た。どういう思考回路なのだろうか。みっともなくて恥ずかしいのと、照れくさいのは違う。真面目に説明しようと思いかけて、数斗はすぐにそれを諦めた。どうせ何を言っても無駄のような気がする。もし数斗の説明に納得するような性格なら、嫌だと言うのに毎日毎日駅まで迎えに来たりはしないだろう。

「はいはい。指切りね」

 半ばやけくそになって数斗は手を差し出した。千紗の小指に自分の小指を触れさせてからすぐに手を引っ込める。すると千紗は不満そうな顔になった。

「ちゃんと、指きった、まで言わなきゃ!」
「あー、もう、何でそんなことしなきゃならないんだよっ」

 指を触れさせただけでも最大限に譲歩したつもりだ。数斗は引きつって反射的にこの場から逃げようとした。立ち上がりかけた数斗を見つめた千紗がまた目を潤ませる。

「ごめんなさい」

 目を潤ませつつも千紗がやけに大人しく手を引っ込める。だが手を引っ込めながら千紗は本当に照れ屋さんなんだから、と小声で言っていた。突っ込みたいのは山々だが、ここでまた蒸し返すと面倒になる。数斗は心の底からうんざりしつつも千紗の呟きを聞き流すことにした。

 しばらく時間を潰してから、数斗は千紗と一緒にコーヒーショップを出た。花を持った千紗に腕を拘束されつつ、数斗は大人しく買い物に付き合った。八百屋や肉屋の店主が千紗に絡んでくるのをさりげなく退けつつ、商店街をうろつく。

「ところで夕飯は帰ってから作るのか?」

 材料から察するに、今日はハンバーグというところだろうか。挽肉や野菜の入ったポリ袋を見下ろしてから、数斗は千紗に目を移した。

 千紗は相変わらず胸の谷間にがっしりと数斗の腕を挟んでいる。いくら実の母親とは言っても、このふわふわ感は立派な凶器だ。数斗は出来るだけ何も考えないように努力した。

「これは明日のお弁当の材料よ。清次さんが、もう食事の準備はしなくていいって」

 数斗の持つ買い物袋を見下ろして千紗が頷く。数斗は驚きに目を見張り、思わず立ち止まった。

「は? 俺の飯は!?」

 あのオヤジはともかく、自分の食事は確保しなくては。焦る数斗とは対照的に、千紗がのんびりと首を傾げてみせる。

「お弁当はちゃんと用意するから大丈夫」

 そう言って顔を上げた千紗がにっこりと笑う。数斗はその返事に呆然となった。夕飯をどこかで食べて戻れという意味なのだろうか。それとも今日の夕飯は抜きということなのだろうか。

 だがそれにしては千紗はのんびりし過ぎている気がする。数斗の夕飯もそうだが、千紗だってまだ食事はしていないはずだ。なのに何でこんなに余裕があるのだろうか。

 まさかと思うが、あのオヤジが作る訳じゃないよな。

 一度、実験と称した、限りなくまずい清次の料理を食べさせられた時のことを思い出し、数斗はぶるりと身を震わせた。二十時まで帰るな、というのは、もしかして料理をしているからなのではないか。そう考えた数斗は急ぎ足で家に向かい始めた。


可愛い女の子にしか見えない母親って脅威ですよねw

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