勿忘草です。
いつも応援ありがとうございます。
今日は七夕です⭐⭐
あなたのお願いが叶いますよ願っています⭐
七夕に願いをこめて執筆しました。
とても短いショートショートなので読んで頂ければ嬉しいです。
なにとぞよろしくお願いします。
桜ヶ丘高校文芸部 七夕に願いをこめて
この作品は七夕の読み切り短編となります。
七夕のお願い
「1年に……1度しか会えないのは……さ…淋しいですよね」
「まーあ……そうだな」
「それに……雨なら……あ…会えないの……ですよね」
「あー確かに、そう言う伝承だったな。七夕は、織姫さまと彦星さまが天の川を渡って──1年に1度だけ会える日だね。日本では7月7日、 短冊に願い事を書いて、笹竹に飾り付ける風習があるな」
僕は本仮屋を見てそう言って、夜空を見上げてから続けて言った。
「そして本仮屋が言う通り、雨が降ると、織姫と彦星は会えないらしいな。ちなみに2人が会えない理由は、コンビニがなくてビニール傘が買えないからじゃないぞ」
「えっ? そ……そうですよね」
「雨が降ると、天の川が氾濫して渡れないのが理由らしいな──天界も財政難で公共工事が出来ないんだろう」
夜空を見ながら、ため息をついて僕は言った。
「今日は……雨じゃないから……良かったですね」
「あーそうだな、しかし、本仮屋、せっかくの短冊の願いごとに、織姫様と彦星様が幸福になれますように──なんて書くのは、もったいないぞ」
僕がそう言うように、七夕の願い事は年に1度しかないのだから。
「そ……そ…そうでしょうか?」
「しかも、みんなが幸福になりますように、なーんて本仮屋が書くと、神様も困ってしまうと思うよ」
僕は幸せの定義なんて曖昧で人それぞれだから、神様もみんなを幸福にするなんて難しいと思ってそう言った。
そもそもこの非情な世界に、全知全能の神様が存在すると言う前提は、推理小説的には論理的でないだろう。しかし、せっかくの本仮屋の願い事を根本から否定するほど、僕は非情にはなれなかった。
「お……お願い事は……1つでないと…ダメですか?」
うつ向いていた顔を上げ、本仮屋は少し困ったように聞いた。
僕と本仮屋は、桜ヶ丘高校に近い商店街の広場にいる。
「たくさん願い事があるのは、神様にも不都合だと思うよ」
商店街の広場には見事な大きな笹が飾られ、たくさんの色とりどりの短冊が吊るされていた。
僕はその吊るされている短冊の願い事を読み上げた。
お金もちのイケメンと結コンデキますように 仕事をしないでセイカツできますように 中学に合格デキますように お父さんに仕事がみつかりますように
「例えばこの短冊だ。こんな他力本願な小学生の数多くのお願いを、神様も全部は叶えられないだろ?」
僕は明らかに子供の下手な文字が書いてある、黄色の短冊を指差しそう言った。
「えっ? そ……そうですか」
マユが幸福になれますように。マユが笑顔でいられますように。マユと結婚出来ますように。結婚が無理なら、側にいられますようにお願いします。
「このサクラ色の短冊も願い事が多過ぎるだろ。あっ? ちょっと待てよ……この文字、うーん、どっかで見たことあるぞ」
「あっ! こ……これは…もしかすると……えっ? ……えーと」
「まーあ、誰だか知らないけど、他人の幸せを願うのは素晴らしいことかもね……しかし、こちらのフルネームが書いてある赤い短冊、これは問題だろう」
席替えで、古見正子さんのとなりの席になれますように
「でも……お願いごとは……1つ……ですよね」
「まーあ、お願い事が1つなのは良いけど、こんなどうでもいいことを、年に1度のお願いにするなんて、向上心もないし、問題意識が低いし、夢がなさすぎるだろ?」
夢も向上心もない僕に言われたくないだろうけど、個人のフルネームを公開するのは問題だろうと思う。
就職活動が、性向しますように!
「この短冊は論外だよ。神様にお願いする前に、国語を勉強するべきだろう。文法も漢字も間違っているから、就職活動は書類選考で不採用だろうな」
「そ……そうですね……就職出来ると…よ……良いですね」
ママが好きなので パパがいなくなりますように
「この短冊はマザコンの戯言かもしれないが、深く考察すると闇が深いぞ。犯罪の香りがするな……児童相談所に連絡すべきかもしれない。いやいや、ママとパパと言うのが両親とは限らないな」
「えっ? 犯罪…は……犯罪の香りですか」
どんな意見も、厳しい批判でも聞きますと言った営業部長に意見したら、パワハラとセクハラされました。部長が地獄に落ちますように
「このお願いも大問題だ。確かに営業部長は、二枚舌だし、パワハラもセクハラは犯罪だから問題がある。しかし地獄落ちを願っては絶対にダメなんだよ──人を呪えば穴2つ、その呪いの言葉は自分に返ってくるんだ」
「た……たいへんです……え…えーと……どうしたら…いいですか」
「しかし、世の中大丈夫なのか? せっかくの七夕にこんな願い事しかないなんて。ちょっとまてよ……この願い事はまともだぞ」
世界が平和になりますように。学校がテロリストに占拠されますように。
「えっ? へ……平和の願いは…私も……でも……テロリストは」
「なんだ、本仮屋? 学校がテロリストに占拠されるよう、僕は小学生の時からずっと祈っているぞ。小学生の時のテロリストはアサルトライフルで武装している設定だったけど、いまはEMP爆弾と、グロック拳銃なんだよ」
僕はより設定がリアルに実行可能だと伝えたかったけど、本仮屋には説明してもムダだろう。
「えっ? あ……葵さん……そ…そうなんですか」
公共料金を値上げしたら 生活出来ません
「うーん、この切ない短冊の願いを国会に届けて、国会議員の定数を削減して欲しいけど、桜を不正資金で見たら、税金で国葬されるんだから、国会に届けてもムダだろうね。そもそも文章が願い事じゃないしね」
「えっ? あ……えーと……あわわ」
「本仮屋のお願いを1つにする方法を考えたよ。まーこれは方法でなく、織姫様と彦星様は実は幸せだって、本仮屋に教えてあげたいんだ」
「あ……ありがとうございます……でも……どうして…織姫様と彦星様は……幸せなんですか?」
長い黒い髪の間から、本仮屋は不思議そうに僕を見てそう聞いた。
「その理由は簡単だよ。織姫様と彦星様は星になっているんだ。ベガとアルタイル、夏の大三角形で有名な星だよ。説明するから──その暗がりまで一緒に、いいかな?」
僕は商店街の先の空き地になっている暗がりを指差し、本仮屋に聞いた。
おりひめ様とひこぼし様
「本仮屋と僕は、2人であと10回、いや多くとも100回は会えないだろう」
「そ……そうなんですね…それは……えーと」
「織姫様と彦星様は星になっているんだ。ベガとアルタイルがまだあるかは解らない。なぜなら、星の光が地球に届くまで果てしない時間がかかるんだから」
僕は星空を見上げそう言った。
ベガは25年前、アルタイルは17年前の光を見ているんだ。
商店街から少し離れても、地上には明かりがあって、天の川なんて満天の星は見えなかったけど、雲がない空には夏の大三角形が見えていた。
「えっ? そ……それは……さ……淋しいですね」
「淋しくないさ。少なくとも人類の歴史以上の時の流れ、1年に1度永遠とも言える時間──2人は会えるんだから」
星空を見てそう言って、僕はこの地球に立つ本仮屋に視線を移して続けて言った。
「本仮屋は、1年に1000回会えるけど──もう永遠に会えないのと、1日に1回しか会えないけど──100年会えるのはどっちが淋しくないかな?」
「え……そ…そうですね……1日に1回でも……100年の方が淋しくないです」
暗闇の中で幽霊のような本仮屋は、相変わらず小さな声でうつ向きながら呟いた。
「それなら、織姫と彦星はお星さまになったのだから、永遠とも言える星の時間、果てしない時の1年なんて、人間の一生の一瞬と比べたら、1日のようなものだと思うよ──だから、人間の一生より永遠に愛し合える2人は、幸せなんだよ」
僕はそう言って、夜空に輝くベガとアルタイルを指差した。
「そうなんですね……あ……ありがとうございます」
「だから、本仮屋の短冊のお願いは、1つで大丈夫だよ」
幸福の定義なんて、論理的に考えることじゃないかもしれない。
「あ……葵さんは……な……なんと短冊にお願いするんですか?」
本仮屋がうつ向いていた顔を上げ、僕を見てそう聞いた。
「僕が短冊にお願いをするなんて、なんだからしくないけど……そうだな」
僕は星空を見上げ、何億光年という果てしない星の旅に思いを馳せながら──続けて言った。
「本仮屋のお願いが叶いますように、そうお願いするよ」
夜空だから、星は輝くんだ。
さー夜空に願おう、幸せになりますように星に願おう。