【裏の裏は表】あの日あの時あのぬいぐるみ【全体公開】
全年齢向け防災ノベルゲーム『あの日あの時あのぬいぐるみ』のメイキングや制作裏話です。
震災・防災関連の補足資料も紹介してます。
トゥルーエンドを含む本編のネタバレもありますので、ゲームを一度プレイしてから読むことをオススメします。
ノベルゲームコレクションではブラウザでプレイできます。
https://novelgame.jp/games/show/8206
>制作理由
ゲームのreadme文に書いた通りですが、こちらにも記載します。
2011年の東日本大震災という巨大地震は当時の日本に大きな影響をもたらし、私自身も非常に衝撃を受けました。
その後、震災が起きたことを忘れないようにしようと、あちこちで「あの日を忘れない」と繰り返し言われました。
もちろん東日本大震災に限らず、多くの自然災害での被害を忘れてはいけないと思います。
しかし、時間が経つにつれて「あの日を忘れない」という言葉は、日本国内だけに向けられているように私は思えてきました。
「あの日を忘れない」は日本国内の後世に向けて伝えるのではなく、世界に向けて伝えるべきだと私は考えております。
日本は世界有数の地震大国であるため、何度も大きな地震被害を受けたことから、少しでも地震について知り、地震に強くなることを目指してきました。
ですが、日本と同じように地震について知っている国はどれ程あるのでしょうか?
被害の大きさだけを忘れないようにするのではなく、地震発生直後に何が起きるかを世界中の人々が知れば、今後も起こるであろう災害の被害を軽減するにはどうすれば良いかを考える切っ掛けになる、それこそが「あの日を忘れない」の真意であると思い、このゲームを作りました。
こんな偉そうなことを述べる私自身、防災について完璧に出来ているとは思っておりません。まだまだ足りていない、出来ていないことばかりです。
だからこそ、出来ることから少しずつ始めていこうと思います。
その一つが、このゲーム制作でした。
こんな短いゲーム制作に何年もかかってしまいましたが、ようやく完成出来ました。
このゲームを切っ掛けに、少しでも地震や防災について考えてくだされば、大変嬉しいです。
>翻訳版制作理由
現在、中国語版(簡字体・繁字体)の翻訳を依頼しております。
地震は日本だけで起きるものではなく、世界各地で起きております。
地震が起きないごく一部の国や地域もありますが、地震について知っている人を少しでも増やすことに意義があります。
そのために使用話者の多い言語の翻訳版を制作を決めました。
※英語・スペイン語版は諸事情により、今しばらくお待ちください。
>キャラクター編
過去の地震災害に基づいているとはいえ、特定の事例に基づいて制作はしておりません。
だから主人公を含め、全員に名前を付けておりません。
特別なケースではなく、誰にでも起こりうることと見てほしいからです。
・少女
幼稚園児なので、本来であれば○女が正しいのでしょうが、○女だとよちよち歩きしているイメージがあるので、却下しました。
服装ですが、オレンジ色の薄手ジャケットと、縞柄のズボンはパジャマです。
深夜の避難だったので寒くないように、とりあえずジャケットを着せてもらった形です。
不安なので、両手でジャンパーの裾を握ってます。
作者としては生まれて初めて低年齢の子供の絵を描きました。
何も考えずに描いたらとんでもないことになりました。何事も調べて描くことは大事です。
・役場職員
避難所運営の支援に来ました。想定以上に避難者が多く、支援物資の配分に頭を悩ませています。
・警察官
強面警察官。仕事に真面目なので、強面が更に強面になり、子供や気の弱い人を怖がらせてしまいがちです。
・自衛官
災害派遣された自衛官たちです。
災害のため医療体制が不安定な状況下なので、健康状態や怪我の有無は非常に大事な報告なのです。
あと、本物の迷彩柄はもっと細かい柄です。あんなものじゃないです。
・謎の男
火事場泥棒二人組。被害が少なかった地域から来ました。
着ている服の「Internet Meme Preservation Committee」の意味は「インターネットミーム保存委員会」です。
ネットミームは何が切っ掛けで生まれたのか、誰が最初に発言したのか、そこを記録しておこうという意味ですが、着ている本人は意味をよく理解していません。
・救助隊員
少女を抱えて階段を駆け上がる馬力の持ち主。実は救助隊に任命されてから初めての現場出動。
今まで訓練を重ねてきたものの、未曾有の大災害に不安を感じており、少女と同じように服を握ってます。
・〇〇ちゃん
少女の仲の良い友人。タイトル画面にのみ登場しています。
顔が描かれていないのは、大人になった少女は、もう〇〇ちゃんの顔を覚えていないからです。
一緒に撮った写真が無く、少女は震災後に引っ越しをし、地元の幼稚園も卒園していないので、〇〇ちゃんの写真は一枚も手元に無いのです。辛うじて髪型だけを覚えています。
〇〇ちゃんの家族は震災で亡くなっており、親戚との繋がりも少女家族には無いので、少女にとって〇〇ちゃんとの思い出の証は犬のぬいぐるみだけなのです。
・防災ナマズ
元々、解説編は警察官や救助隊員が少女に解説していくことを考えていたのですが、気力と時間を天秤にかけた結果、ああいう形になりました。
ありがとう、いらすとやさん。
>タイトルやキャッチコピーの意味
タイトルフォントを仮で設定したら、ビジネス雑誌PRESIDENTみたいな見た目になりました。
・タイトル「あの日あの時あのぬいぐるみ」
ドラえもんのエピソードの一つ「あの日あの時あのダルマ」のパロディタイトルです。
どんなエピソードなのかは、てんとう虫コミックス18巻を読んでください。
仮題としてつけたのですが、仮題を上回るようなタイトルが思いつかず、そのまま行きました。
・キャッチコピー「また会えると、信じていた」
キャッチコピーには二重の意味があります。
大震災が起きる前、いつもと同じようにまた幼稚園で〇〇ちゃんと会えると信じていたこと。
20年後、どんな姿であれいつか〇〇ちゃんと再び会えると信じていたけれど、最近になってその気持ちに揺らぎが生じ始めてきていること。
>没ネタの数々
没にした理由色々。時には思わぬ発見をしたり、大事なことに気付いたり。
・複合災害
震災に限らず、噴火や大雨など他の災害も取り入れようと当初は計画しておりましたが、それは非常に無謀な行為だなと気付き、断念。
原発事故も絡めることを考えましたが、原発事故直後は子供どころか大人でさえ一人で
うろうろ動き回れるような状況ではなかったので、それも却下。
・たべっ子アニマルビスケットの絵
スーパーやコンビニでお馴染みのビスケットのパロディです。以前、防災用品に描かれている動物たちがヘルメットを被っていることで話題となりましたね。
ただ、ビスケットなんかで足りるかと怒る展開を入れているので、あんまりパロディ元を明確にするのも良くないなと思い、台詞だけにしました。
・テレビ局の中継車に乗っているところを津波に巻き込まれる
津波から逃げる際、被災地からの生中継のために来ていた中継車に乗せてもらうも、間に合わなかったというエンディング。
そもそも道路状況が不明確な中、中継車が被災地に簡単に入れる訳がないんですよね。
本震と同規模の余震が来るかもしれないのに、「余震に気をつけてください」と現地からの中継を行うリポーターたちの姿を見ていると、矛盾しているように思えます。
危険が迫っていることを大勢の人にどうやってわかりやすく伝えるか、現場中継しているスタッフの安全をいかに守るか。
災害中継の報道のあり方については、防災と同様に正解は無いですが、1991年6月に起きた雲仙岳火砕流災害のケースを忘れてはならないように、二次災害を起こさないことも大事であると考えております。
NHKノート『報道ヘリは救助の妨げになっていないのか? NHK航空デスクに聞いてみた』
https://www.nhk.or.jp/d-navi/note/article/20210430.html
NHKノート『「怖い、怖い、怖い…」熊本地震 あの夜、私はデスクと抱き合い絶叫した』
https://www.nhk.or.jp/d-navi/note/article/20230501.html
・20年後は桜の季節だった
桜の時期に合わせて作ろうとしてました。
はい、お気付きの通り、桜の時期に間に合いませんでした。
南半球は逆の季節理論も通用しません。
とりあえず新たな背景素材探しのためにぱくたそに行ったら、震災から12年が経過した福島県を撮影した「ただ いま ふくしま」が公開されたばかりで、「これ、これを入れなきゃいかん」となり、エンディングの背景素材は全て福島県で撮影された写真を使いました。
被災地であっても、その土地で今も暮らす人たちがいて、生活が営まれているのです。
株式会社人間・ぱくたそ『ただ いま ふくしま』
https://tadaima-fukushima.jp/
・ラストに〇〇ちゃんと会う
慰霊式に参列するために訪れた主人公が、黙祷の鐘が鳴る中、ふと目を開けると、犬のぬいぐるみを抱えた、幼い姿のままの〇〇ちゃんが目の前に立っている。
主人公が驚いて更に視線を上げたが、〇〇ちゃんはぬいぐるみで顔を隠している。
そういうエンディングを考えていたのですが、ちょっと主人公が〇〇ちゃんの顔を覚えていない背景がわかりにくいかなと思い、慰霊式ではなく個人的に訪れるという形になりました。
・最後の一文に「遺体」という言葉を使う
最初は「〇〇ちゃんの遺体は、今も見つかっていない」という一文で締めるつもりでした。
しかし行方不明者を探す人たちにとっては、骨の欠片さえも見つからない中、長い間行方不明だから当人はとっくに亡くなっていると断定するだろうか。
諦めと、無事に帰ってくるという願望の葛藤を踏みにじっていないだろうか。
身近に行方不明になった人がいないから、気安く「遺体」という表現を使おうとしたのではないか。
そう考えた結果、「遺体」という言葉は削除しました。
そういえば「遺体」というドキュメンタリー本は映画化もされてますが、冒頭の、顔面蒼白になった警察官と主人公がすれ違うシーンで「これは観たらトラウマになる」と予感し、観るのを止めてしまいました。
同じような理由で、今も東日本大震災直後に撮影された津波映像は観れないです。
>こだわった点
出来るだけ多くの人にプレイしてほしい気持ちから、UD(ユニバーサルデザイン)を意識しながら制作しました。
もっと私に技術力(と気力)があれば、色々出来たと思います。
UDと自分がやりたいデザインとのせめぎ合いは、これからも永く続くことでしょう。
AIの技術を使えば、オリジナルのデザインを基に、個々人に合わせた最適なデザインを表示する仕組みができるかもしれませんね。
ただ、アレンジの度合いが強すぎると、オリジナルデザインとは全く異なる別物になってしまうかもしれません。
万人に対応したデザインはなかなか難しいです。
・UDフォントやデザイン
題字は「いろは角クラシック」と「UDデジタル教科書体」です。
どちらもUDフォントで検索したら出てきたので使いました。
本文フォントも「BIZ UDゴシック」です。
UDフォント設定前
UDフォント設定後
ゲーム画面のデザインや登場人物の服装の色彩もUDにこだわっているともっと好かったのでしょうが、個人的に限界が来てしまいました。
セーブやロードを選択するボタンだけ、弄ってます。
・ルビ振り
小学生や日本語を母語としない方でもゲームプレイできるように、本編テキストには全て読み仮名を振りました。
ただ、ルビを振り振りし過ぎて、二度と全文ルビ振りなんてしないと心に決めました。
chatGPTにやらせようとしたけれど、指示内容が悪かったのか、失敗しました。
・効果音の字幕
効果音を字幕で表示するようにしました。
外国語映画を字幕で観る時の字幕と違う点は、聴こえに不自由がある人に向けているという点です。
目の見え方に個人差があるように、聴こえにも個人差があります。
効果音の字幕が無いために作品の魅力が半減してしまうことは、観客やプレイヤーにとっても、制作者にとっても残念です。
特にトゥルーエンドは、効果音表示が無ければ主人公が何をしているのかがわかりにくいと思います。
・俗語をなるべく使わない
俗語はプライベートでも作品の中でも使いたくないのです。
もちろん、気付かぬ内に使っていることもあると思いますが、出来るだけ使わないようにしています。
本作を翻訳依頼することを前提としているので、翻訳しやすいように俗語を使わなかったこともありますが、その俗語が10年後も通用するかわからないからです。
俗語や時事ネタも、制作当時は話題になっているから誰もが知っていても、世代が後になれば後になるほど、解説が必要になってしまうのです。
幅広い世代を対象に、尚且つ、長い間読まれやすい・プレイしやすいことを意識しています。
・被災地で撮影された写真を使用
地震がどれ程の被害をもたらすか、やはり現地で実際に撮影された写真が一番伝わりやすいと思い、(一財)消防防災科学センター「災害写真データベース」からお借りしました。
昨今ならAIで地震災害が起きた被災地の写真を生成することも出来るのでしょうが、その手のAI生成された災害写真がネット上に出回り、混乱を生んでおります。
AIに災害画像を作らせないように設定しているものもありますね。
AI生成の使い方がまだ手探り状態である以上、著作権者が明確である組織から借りた方が問題も起きないかなと思います。
お借りした写真は、なるべく人が写り込んでいないものを選んでます。
(一財)消防防災科学センター『災害写真データベース』
http://www.saigaichousa-db-isad.jp/drsdb_photo/photoSearch.do
・解説ページの作成
本編だけでなく、地震や津波の仕組み、防災の重要性についても学べられるよう、
解説ページを作りました。
解説ページの「はじめに」にも注意書きとして書きましたが、専門家の監修は受けてないです。
小学校低学年でも読めるような、簡単な表現で解説しようとすると、ここでも個人制作の限界が見えてしまったので、「難しい漢字は辞書で調べてね」の一文で逃げてます。
最近の小学生は、家庭でも学校でも辞書を調べないなんて 言 わ せ な い。
防災についてはいくらでも書くネタはありますが、世界各地と日本とでは防災対応が国によって異なるので、本当に最小限のことしか書いてないです。
エレベーターについては書けばよかったかなとちょっと後悔する半面、海外のエレベーターは地震発生時も動くのかな、そもそもエレベーター管理会社への通話ボタンが有るのかなと不安が半面。
※もしエレベーターに乗っている時に地震が発生したら、全部の階のボタンを押してください。最寄りの階に着きます。
扉が開かない、エレベーターが動かない場合は落ち着いてエレベーター管理会社への通話ボタンを押しましょう。
最近は備蓄品を設置したエレベーターもあります。
公衆電話の使い方を知らない世代が出てきていますし、海外からの訪日旅行者へ災害情報をいかに迅速に伝えるかも課題です。
逆に、日本から海外へ旅行した先で災害に巻き込まれた時の避難方法も、事前に調べておくと安心ですね。
となりのカインズさん『死んだら備蓄は無意味。木原実が本気で訴える「防災」の盲点』
https://magazine.cainz.com/article/112880
警視庁警備部災害対策課
https://twitter.com/MPD_bousai
避難場所などの標識は自作です。
公共で使われる標識だからフリー素材化してほしいのに何でフリー素材化されてないんだろう変な商品に使わなければ自由に使っていいんじゃないかと文句を言いながら作ってましたが、フリー素材化したらしたで、色々トラブル起きるのでしょうね。
制作した人の不器用さがよくわかる、標識の絵
・“絶対安全”とは限らない
津波に関する解説ページにて、津波避難ビルや津波避難高台を紹介した後に、「そこに避難したからといって“絶対安全”とは限らない」という表現を入れるのは矛盾しているようですが、その時にどれ程の規模の津波が来るか、来てみなければわからないのが現状です。
過去の記録を基にここまでの高さなら大丈夫と思っても、次に来る時はその想定を上回っている可能性は捨てきれません。ゼロではないのです。
ではどこまでの高さなら大丈夫なのか、それを決めようとすると、最終的に「海岸近くには住まない・立ち入らせない」という暴論に辿り着いてしまいます。
安全性を求めるあまり、「空が落ちてきたらどうしよう」などと気に病んでしまっては意味がありません。
しかし、今の防災・安全対策がこの先も永久に通用するとは思わないでください。
防災において“より安全”はあっても、“絶対安全”は無いのです。
>エンディング曲選定理由
今回の制作にあたってエンディング曲を選んだ基準は、以下の二点だけです。
・いきなり大きな音から入らない(静かな場面から切り替わった時に驚くので)
・長時間、何度も繰り返し聴いていられる
祈りや希望、慰霊をテーマにしたものなど、曲の雰囲気によってはかなり暗いものもあり、暗い雰囲気のまま終わらせたくない(むしろ制作している私の気持ちが暗くなる)と思い、色々聴き比べた結果、ピアノソロ曲「君と語らえば」を選びました。
のる『君と語らえば』
https://dova-s.jp/bgm/play18112.html
>補足の資料本
補足として、読んでおくと勉強になる資料リストです。
エンディングに流れる参考文献リストを全部カバーできたか、自分でもちょっと不安です。
書きたいこと、伝えたいことがあればあるほど、どんどん文章量が増えてしまうものです。
・東北建設協会編(2012.8)『津波被災前・後の記録 2011.3.11東日本大震災』河北新報出版センター
東日本大震災で津波被災を受ける前と、後の様子を、航空写真によって比較掲載した写真集です。
被災前、どれほどの家屋やビルが密集していたのか、そのことがよくわかります。
・伊福部達/監修・筒井信介/著(2012.1)『ゴジラ音楽と緊急地震速報 あの警報チャイムに込められた福祉工学のメッセージ』ヤマハミュージックメディア
独特なメロディで地震への警戒を促す緊急地震速報の警報チャイムは、どのようにして生まれたのかを綴ったものです。
伊福部達氏は、映画ゴジラのテーマ曲者伊福部昭氏の甥にあたる方で、聴覚障害に関する福祉工学の専門家でもあります。
文春オンライン編集部『“ゴジラ音楽の父”と「NHK緊急地震速報チャイム」の不思議な縁 福祉工学のパイオニア・伊福部達教授インタビュー』
https://bunshun.jp/articles/-/4889
・葉上太郎(2013.3)『瓦礫にあらず 石巻「津波拾得物」の物語』岩波書店
津波によって流された数々の私物品を回収し、綺麗に洗い、持ち主や遺族などに引き渡した活動に関する本です。
展示会場へ訪れた人々や、展示場を管理する職員・ボランティアの様々な想いを知ると同時に、津波拾得物の法的な取り扱いの難しさを実感しました。
・夏緑/作・たかおか ゆみこ/絵(2012.3)『子どものための防災BOOK -72時間生きぬくための101の方法-』童心社
小学生向けの本ですが、災害発生から72時間、どのようにして身を守っていくのか、その方法を時系列順に解説しています。
・木村玲欧(2014.8)『戦争に隠された「震度7」 1944東南海地震・1945三河地震』吉川弘文館
太平洋戦争末期に起きた二つの地震、しかしその情報は当時の軍部によって報道管制を敷かれ、多くの人が地震のことを知らないままとなりました。
隠された地震はどのような地震だったのか。当時の資料や被災者の証言から、その実態に迫っています。
・川崎一朗(2006.3)『スロー地震とは何か 巨大地震予知の可能性を探る』日本放送出版協会
物理や数学が得意な高校生であることを前提とした内容なので、ド素人の私には半分も理解できたかどうか。後述の地震本部の用語集では「スロースリップ(ゆっくりすべり)」として、解説されています。
地震本部『スロースリップ(ゆっくりすべり)』
https://www.jishin.go.jp/resource/terms/tm_slow_slip/
・関東大震災映像デジタルアーカイブ
1923年9月1日、後に「防災の日」制定の切っ掛けとなった関東大震災被災直後の様子がわかる、当時の貴重な映像を公開しているサイトです。
https://kantodaishinsai.filmarchives.jp/
下記サイトは、どちらかと言うと専門家向けのページです。
・地震本部
日本各地の断層帯の地震発生確率を評価したり、専門用語の解説があります。
※子供向けページ有り
https://www.jishin.go.jp/
・防災科研(NIED)
国立研究開発法人防災科学技術研究所のサイトです。
24時間以内に発生した地震や揺れ、降雨量など、リアルタイムのデータが見られます。
https://www.bosai.go.jp/
>防災アプリ
訪日外国人も使える防災アプリはあるか探したところ、観光庁監修による「Safety tips」というアプリを見つけました。
災害発生時に身を守る行動などを、事前に学べることができます。
難点として幾つか挙げるとすれば、Safty tipsのオフラインで使えるコミュニケーションカードは、日本語・英語・韓国語・中国語(簡・繁)のみで、それ以外の言語や細かなやりとりには音声翻訳アプリ「VoiceTra」を紹介しています。
しかしVoiceTraはインターネットが使える環境で無ければ機能しないようです。
災害時はネット回線が込み合うので、これはちょっと使いにくいですね。
また、近隣の避難所情報は、「全国避難所ガイド」という別のアプリを入れなけれならず、しかも「全国避難所ガイド」は日本語のみとなっております。
オフラインでもキャッシュ保存された避難所や地図は表示できるほか、避難所までの道案内も可能だそうなので、外国語版があれば被災時の混乱を緩和できると思います。
こういうのはデジタル庁管轄になるのでしょうが、今のデジタル庁はマイナンバーカードの件で揉め揉めしているので、防災アプリの統合または大幅なアップデートは当分の間は無理かもしれません。
>本作に込めたメッセージ
制作理由でも触れましたが、地震に関する知識は世界中で持つべきだと思います。
地震や津波の被災経験も地震の知識も無い人に、地震の怖さを理解してもらうのは非常に難しいです。
しかし、滅多に大災害なんて起きないからと防災を軽んじれば、多くの犠牲が生じます。
災害時の被害は人命や建物の被害だけではありません。
インフラや土地、その土地で生産されていた農業・畜産物、漁業などの一次産業も被害を受けます。
下手をすれば何年もその土地で人間が暮らすことが出来ず、土地が荒れてしまうこともあります。
滅多に犯罪に巻き込まれなくとも、警察へ通報できる番号を知らない人はいません。
犯罪の手口を知ることから防犯が始まるように、防災も災害を知ることで自分の身を、財産を、生活を守ることにつながります。
一人一人が自分の身を守る意識を持つようになれば、それは社会を守ることにもつながります。
本作のタイトルも、制作者の名前を忘れても構いません。
震災で何が起きるのか、“絶対安全”が無いこと、何故復興が大変なのかだけは忘れないでください。
>大変だったところ
制作中の悩みを誰にも相談できなかったこと。
ゲーム制作は19年頃から考えていて、最初に震災関連の資料を読もうと思い、NHKの『証言記録東日本大震災』を読みました。
しかしショッキングな内容が続き、気持ちがどんどん滅入っていきました。
折しも新型コロナが世界各地で報告され、私自身も就職状況が不安定になり、誰かに話を聞いてほしかったのですが、皆が皆、コロナで不安を抱えている中、私の話はしにくかったです。
自分の悩みの内容よりも、もっと辛い状況に置かれている人の話ばかりが目に入り、「この人と比べれば自分の状況はマシだから」と思って余計に話し辛かったです。悩みの内容に違いはあれど、苦しみの感情は誰もが同じはずなのに、悩みの内容を比べるようになってしまいました。苦しい辛いと周りが言っている中、自分も辛いとは言い辛かったです。
震災をテーマとしたゲームであるので、もしかしたら震災で辛い思い出を持っている人かもしれないと思うと、ネットにも気軽に「こんなゲームを作っています」なんて書けませんでした。せめて楽しいことを書こうと思いました。
もちろん、誰にも苦しい感情を吐露しないなんて、その場にいるだけで魔を祓うような強靭な精神力の持ち主でなければ出来ないことなので、どうしてもブログで唸ることもありました。
去年どうしようもなくなって、悩みに悩んでカウンセリングを受けようとしたものの、新患受付枠がいっぱいになったと断られてしまいました。
それから間を置かずに安倍元総理銃撃事件により宗教と信者二世や、政治との癒着問題が注目され、「ああ、これで心療内科はもっと混むんだろうな」と思い、受診を諦めました。
ゲーム制作だけじゃなく、他にも色々話したいことはありましたし、受診を諦めてはいけないのでしょうが、それを聞いてくれる相手に余裕が無いなら、当分の間は一人で何とかするしかないと思ったのです。
ゲーム制作の苦しみは、ゲームを完成させない限り解消しないと悟りました。
それからは制作スピードが上がりました。
リアルでもネットでも、自分の気持ちや考えを瞬時に相手に伝えるのは苦手なのですが、誰かに自分の気持ちや考えを知ってほしい、私の話を聴いてほしいという気持ちは
人並みにあります。むしろ人一倍強いのかもしれません。
でも、どうすればそれを言動に現わせられるのか判りませんでした。
何故こんなにも気が滅入るのか、原因がわからず、只々一人で抱え込んで右往左往していました。
今年の春頃になってどうしてこんなに苦しいのか気付きました。
コロナ禍の雰囲気が東日本大震災の時と同じなんですよ。
コロナと震災の内容はまるきり違いますが、先行きが見えない不安感、滝のように流れるデマ情報、避難者・感染者への差別感情。
10年前と同じことを繰り返している上に、今度は世界規模で起きたのです。
震災の時期も当初はニュースを逐一チェックしていましたが、段々耐え切れなくなり、
関連ニュースは極力避けるようになりました(発生当初は何度も津波映像が流れていました)。
ニュースから離れて時間が経つと、関連ニュースも減っていきました。
でもコロナ禍は世界中で起き、一年経ってもニュースが減ることはありませんでした。
今、日本では感染症5類扱いになりましたが、今後もコロナに限らず、大規模な感染症は起きるでしょう。
紛争、戦争、テロリズム、経済不安もまだまだ続いています。
この作品は、制作当初は災害への啓蒙を目的としていると同時に、私にとって東日本大震災と向き合うものになると考えておりました。
しかし図らずもコロナ禍が切っ掛けで、社会に対する向き合い方も考えさせられました。
東日本大震災に限らず、大きな出来事を受け止める方法は人それぞれです。
身近な人と話して心の整理をする人もいれば、SNSやコメント投稿できるサイトに書き込んだり、日記に書く人もいます。
私も日記に書いていた時期がありますが、反応が無い分、どうしても内向きになってしまうんですよね。
目の前の相手に気持ちを伝えることは、言葉にすることが一番大事です。
でも、目の前の相手の数が多くなればなる程、目の前にいない、遥か遠く離れた距離にいる人たちへ伝えようとすればする程、伝えたい気持ちだけが膨らみ続け、本当に伝えたいことからどんどん離れてしまっているように思えてしまうのです。
新聞やテレビのニュース原稿のように、伝える内容のチェックや文章校正を自分一人で担っているので、沢山の人に一度で理解してもらえるように、誤解を生まない表現にしようと、肩に力を入れてしまうからかもしれません。
私は社交性も知名度も実績も無いです。
自分の顔をネット上に晒す勇気も無いです。
防災やコロナ禍の苦しみを訴えても、誰もが自分の意見を簡単に発信できる時代であり、それが許される国に住んでいるからこそ、知名度や数値化された人気指標が無い者の言葉は有象無象の言葉としてサーバーを圧迫することでしょう。
でも作品という形であれば、私のことを知らなくても作品そのものに興味を持ってもらえますし、私の伝えたいメッセージも大勢の人に届きやすくなると思います。
私にとって、自分の気持ちを伝えるということは、創作をして、作品という形で自分の気持ちを表現し、遺すことだったのです。
人に話すことが得意な人もいれば、書く方が得意な人もいます。
世の人から見れば回りくどい伝え方だと奇異に思われるかもしれませんが、この考え方に至るまで本当に長かったです。
>今後のこと
今後は本作のような、作っていて脳みそがギチギチになるような作品は作らないです。本当に疲れたので・・・・・・。
また作りたくなっても、辛くなるので、その時は誰かと一緒にやると思います。
本作は震災のみを主題としておりますが、本作のように一つのことだけを主題とした作品は二度と作りません。色々な要素を含めた作品を作ります。
このゲーム販売も予定しておりますが、売り上げは最初は翻訳の経費に充てられ、その後は私の生活費になります。制作活動で生活できるようになりたいからです。
暗い作品であっても、根本のところではその作品に触れて楽しんでくれたら嬉しいです。
出会えて良かった、楽しかったと笑っていただければ私も楽しいですし、私も笑えます。
誰もが幸せを感じて生きることは難しくとも、一人でも多くの人が幸せを感じて生きている世界を、私は生きたいです。
6月に身内が急逝し、葬儀や介護のことで立て続けに感情を大きく揺さぶられているので、余計にそう思います。
本作に対して出会えて良かったと思えるかどうかは、制作した私自身、疑問に感じることはあります。
苦手なら無理に見る必要は無いです。
辛い気持ちを呼び覚ますために作っていません。
沢山の人に見てほしいけれど、無理には望みません。苦手な人に見てほしいとは望みません。
私も、評判は素晴らしくても、どうしても苦手な作品はあります。
将来、いつになるかわかりませんが、地震を含む地球科学を専門的に学びたいです。研究員になりたいわけじゃないですが、大学の一般公開講座とか参加してみたいです。
メガリス大崩落なんて、字面からしてロマン溢れる言葉ですね。
こんな長文を最後まで読んで下さり、ありがとうございました。
今日も明日も、皆様にとって素敵な日が続きますように。