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官能小説の記事 (7)

ArtCrime 2023/03/05 20:00

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ArtCrime 2023/03/04 20:00

【レム惑星モジェ地区にて】0人目【全体公開】

 ハイヒールが好きだ。
 特にハイヒールと硬い床面がぶつかり合う時に立てる音が好きだ。
 幼少時はその周囲に響き渡る音に憧れ、早くハイヒールを履けるようになりたいと願い、履けるような年齢に達すると、入浴時とベッドに上がる時以外は常にハイヒールを履くようになった。
 だからこそ大好きなハイヒールを履けない時は苦痛を感じ、落ち着きを失くしてしまう。
 学校では無骨な革靴を履いていなければならなかった時期と比べれば、十数時間のフライトを我慢できると思っていた。
 ほんの些細な我慢だと搭乗する前は侮っていたが、ハイヒールを脱がなければならないと他者から強いられることが、どうやら最も不愉快なようだと今頃になって気付き、女は小さく溜息を吐いた。
 未だに避難時の転倒を防ぐためという理由で、搭乗時はハイヒールの着用を禁止されている。
 外を見てもまだ目的地の近くではないため、地球の海中映像が流れている。
 あとどれくらい苦痛の時間に耐えねばならないのかと時間を確認しようとすると、ポーンというやや間延びした音と共に、前席との間に空中ホログラムが現れた。
「お客様にご案内致します。当機はこれより10分後にワープ空間を抜け、レム惑星付近に到着致します。
 降下中は席をお立ちになれませんので、お手洗いをお済ませくださいますよう、お願い申し上げます。
 降下には20分程を予定しており・・・」
 ホログラムにも乗務員が話している機内アナウンスの文字が流れていたが、女はそれを無視し、手元の携帯端末で着陸後に向かう予定の場所を確認した。

 宇宙歴4022年。
 地球人類は数多くの異星人との交流を重ね、技術を発展させていた。
 女―セイル・ロス―は、生まれ育った地球を離れ、レム惑星モジェ地区で娼婦として新しい生活を始める。

 二時間後。
 セイルは一面ガラスの前に立ち、雇い主が与えてくれた部屋から見える景色を眺めていた。
 地球にも高層ビルが乱立する街はあるが、この星と比べれば大海の一滴に等しいだろう。
 建築に用いられている素材が地球で使われているものと違うとは言え、何百億もの人々が暮らし、それ以上の数の人々が毎年訪れる、このレム惑星はその人口の多さゆえに、宇宙で最も栄えた惑星の一つだ。
 空は地球とは全く異なる薄紫色に染まっている。日中は雲が無いが、夜になると時々どこからともなく雲が立ち込め、土砂降りの雨になるという。
 本来の地上は高層建築物を支えるための支柱や下水道パイプ、エネルギー施設などで密集しており、上層エリアからの落下物による損傷を防ぐため、この星の人々が“砂紙”と呼ぶ仮の地上で覆われている。
 高層ビル群の間には何本ものラインが敷かれており、エア・カーは交通局から指定されたラインに乗って目的地に向かう。窓の向こうでもひっきりなしにエア・カーが行き交っている。
 セイルは振り返り、与えられた部屋を見渡した。
 地球人向けに作られた内装とあって、何に使うのか分からないような部屋や家具は無かった。
 リビングを中心にキッチンや“仕事用”の寝室やバスルームがあり、小さいながらも“プライベート”用の寝室も備えられていた。
 キッチンスペースには親切にも一週間は賄えられるような食材が入っていただけでなく、来客の要望に対応できるような各種飲み物、食器類も用意されている。
 玄関扉脇には金魚鉢が置かれており、その中ではホログラムの金魚がのんびりと泳いでいる。
 しかし、これからこの部屋でセイルが行おうとしている仕事や“来客”について説明してくれる者がいるかと思っていたが、セイルが部屋に来た時から誰もおらず、そろそろ到着のメールでも入れるべきかと考えていると、リビングの一角に置かれた通信機が鳴り出した。
 セイルは通信機に駆け寄り、直ぐに通話ボタンを押したが、相手の姿が表示されず、通話中の文字が浮かんでいる。
「どちら様?」
 セイルが声をかけると、
「セイル・ロスだね」
と、女とも男とも判別がつかない、ややしわがれた声が聞こえてきた。
「あなたがボスですね」
 セイルは警戒していた緊張感を少し緩める。
「そう、アタシがあなたの雇い主。リピエツ。今後はアタシとのやり取りは全て、この通信機で行うからね」
 セイルは頷いた。最初から姿を見せない設定で通信してきたということは、これからもその姿をセイルの前に晒すことはないだろう。
「部屋の使い心地はどうだい? 地球人を雇うのは初めてなんでね。何か不都合があったら遠慮なく行っておくれ」
「地球と同じなので、今のところ支障は感じてません」
「メールでも伝えてはいるが、ここでもう一度これからの仕事について説明させてもらうよ」
 セイルは頷いた。
「これからその部屋を訪れる“客”をもてなすのが仕事だ。大半の客は性的サービスを望んでいる。地球人の女はこの手の仕事に就くのは珍しいから、最初は忙しくなるよ。
 それからプライベート用の部屋以外、つまり仕事用の寝室やバスルーム、リビング、キッチンも含めて監視カメラを設置してある」
 リピエツはそこで少し黙り込んだ。
「ずっと見張られているのはあまり良い気分じゃないかもしれないが、これも業界の条例でね。被雇用者の安全を守るためなんだとさこちらとしても客と従業員の間でトラブルが起きてほしくないんだ。監視カメラは判らないように仕掛けてある。探しても無駄だからね。
 あと、外出時は身分証を必ず忘れないように。地球では警察官に呼び止められて、あれこれ質問されることはなかったかもしれないが、このレム惑星ではありとあらゆる星人種が職務質問の対象になっている。身分証を持たずにウロウロしていると、最短でも3日は警察署で寝泊まりする羽目になるから、充分気を付けて」
 セイルは再び頷いた。
「さて」
 リピエツの声の調子が変わる。
「改めて確認するが、地球では性風俗どころか、水商売をしたことが無いと言っていたね」
「ええ」
「さっきも言ったが、地球人以外の星人種を相手に性風俗の仕事をする地球人はとても珍しい。ましてや水商売未経験の女であれば尚更だ」
 セイルはリピエツから見えないように、背中に回していた握りこぶしに力を入れたが、部屋のあちこちに仕掛けてあるというカメラで見られているかもしれなかった。
「はるばる此処まで来たということはそれなりの覚悟を持って来たんだろうけれど、こちらとしても素人をいきなり上客にあてるつもりはないんでね。
 テストというわけではないが、試しに今から客の相手をしてもらう」
「今からですか?」
「話は既についている。先方もあんたと同じ地球人だ。男の肉体だから、どうすればいいかもわかるだろう?」
 セイルは了承の意を込めて頷いたが、先程までの頷きと違い、ぎこちない動きになってしまった。
「レム惑星では母星が同じ人種に出会う方が奇跡と言えるくらい、色々な人種の客が来る。中にはこのアタシでさえ初めて会うような遠い星からの客も来る」
 リピエツはセイルの反応を伺うかのように黙った。
 セイルは何も言わず、やや大袈裟に頷いた。
「気張る必要は無いよ。うちは顧客からの紹介が無ければ店を利用させない仕組みなんだ。顧客も自分と異なる肉体を持った相手と性行為したがっている。
 どうやったら相手を絶頂させられるのかを考えるよりも、どうやったら相手を楽しませられるのかを考えるんだ。それを忘れなければ長く続けられるし、あんたの目的も果たせるだろうよ」

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