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ユリイカ 2023/11/03 14:30

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ユリイカ 2023/11/02 18:48

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ユリイカ 2023/11/01 16:07

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ユリイカ 2023/11/01 16:04

強面中堅冒険者第1〜3話

せっかくなので、こちらでも公開します。
有料プラン限定で先行公開などするかもしれません。

第1話「怒れる中堅冒険者」

 冒険者パーティ〈|極光の剣《オラリア》〉は結成からまだ日も浅く駆け出しと言って差し支えないものだったが、すでに周囲から多大な期待を集める新進気鋭だ。巷でその話題を席巻している理由には彼女たちの実力もさることながら、四人のパーティメンバーが揃って美女ばかりであるという点も多分に含まれている。
 高貴な家の出身でありながら類稀なる剣技の才能を発揮し、生来の勇敢さによって〈姫騎士〉の異名を取るパーティーリーダー、シエラ。剛毅なる槍の使い手にして強靭な獣人であるネルヴァ。慈愛に溢れ、女神への深い祈りを携えた神官ファナ。若々しい風貌ながらも絶大な魔力を宿す魔術師パテマ。
 将来を嘱望された彼女たちはその期待に応えるように、連日のように華々しい戦果を挙げてきた。そして、そんな完全無欠の冒険者たちは――。

「おい、分かってんのか? テメェら、自分で何をしたか分かって謝ってんのか? ああ?」
「ひぐっ、ぐすっ」
「……っ」
「うぅ、ごめんなさい。ごめんなさい」
「ひぃっ」

 ――横一列に座らされ、凶悪な顔面の大男に激詰されていた。
 シエラは美しい金髪まで涙で汚し、きっちりと揃えた両膝に手を乗せて嗚咽を漏らしている。
 ネルヴァは反抗的な目つきこそしているものの、腰から伸びる尻尾は小さく丸まり、頭の上のケモノ耳もぺたんと伏せてしまっている。
 ファナは土下座の勢いで体を倒し、神官服の下から主張する豊かな双丘を痛々しいほどに潰しているし、パテマも涙目になって怯えきっている。
 勇敢さで知られ、不屈の精神で多くの艱難辛苦を乗り越えてきた〈極光の剣〉のメンバーは、全員が全員、完膚無きまでに心を折られていた。

「馬鹿の一つ覚えみたいに謝ってんじゃねぇ。何が悪かったのか言えと言ってるんだ」
「うぅぅ」

 彼女たちの正面に立ち雄々しく睥睨しているのは、熊のような巨漢だ。全身を使い込まれた革の鎧で包み、手足や急所には金属製の防具も取り付けている。何よりその威圧を発揮しているのは、背中に背負った巨大な戦斧――ではなく、鬼のように凶悪なその顔面であった。

「おい」
「ひっ」

 彼が低くくぐもった声を発するだけで、シエラたちは電流を流されたようにびくんと肩を跳ね上げる。
 ここがひとけの少ない森の中であることが、不幸中の幸いだった。平時の自信に満ち溢れ輝きさえ帯びているような〈極光の剣〉が無様に泣き顔を晒しているのは、彼女たちとて見られたくはない。

「言ってみろよ、ほら」

 鬼面の男――バルクが急かす。これ以上彼の機嫌を損ねたら、今度こそその凶拳が振るわれるかもしれない。そんな恐怖に苛まれ、シエラは震える口で必死に言葉を繋げた。

「あ、わ、わたし……私が……悪いんです」
「責任の所在は聞いてねぇんだよ」

 しかし、仲間を庇うための言葉は無慈悲に一蹴される。バルクはそんなものを望んでいなかったのだ。シエラは全身から血の気が引くのを自覚する。人形のようだと褒められた美しい顔が恐怖に歪む。ぎゅっと拳を握り締め、なんとか口を動かす。

「ば、バルク様の言うことを……き、聞きませんでした」
「……それで?」

 なんとか首の皮一枚繋がった。しかし、まだここからだ。
 シエラは必須に思考を巡らせながら、男の怒りを刺激しないよう細心の注意を払って言葉を選ぶ。

「た、立ち入るなと言われたところへ、立ち入ってしまいました。私が行きたいと言ったんです! み、みんなは悪く――」
「誰が悪いとか聞いてるんじゃないって言ったよな?」
「ひっ!? す、すみませんっ!」

 地の底から響くような低い声に、シエラは震え上がる。そこに〈姫騎士〉の凛々しい姿などは微塵も残っていなかった。頭の中を支配するのは圧倒的な恐怖。そして、破裂しそうな膀胱を抑えるためのわずかな理性。ただそれだけ。

「誰が言い出したとかは問題じゃねぇ。お前ら全員、一蓮托生のパーティなんだ。言い出した奴も止められなかった奴も全員悪い。――あの洞窟には入るなって、俺は四人ともにしっかり伝えたはずだ」
「す、すみませんでした……」

 事の発端は、彼女たちが駆け出しの殻を破るために中堅の壁とも呼ばれる“トラガの森”のペインサーペントの討伐を計画したことにある。
 地方都市トリタンから馬で三日ほどの位置にあるこの森には凶悪な魔獣も生息している上に見通しが悪く動きにくい環境が揃っている。特にこの森の生態系において頂点に君臨するペインサーペントの討伐には、運や勢いだけではなし得ない確かな実力が必要不可欠と言われていた。
 しかし、当初から持て囃されていた〈極光の剣〉の面々は、自分たちなら問題なくペインサーペントを打ち倒せると疑わなかった。そこで意気揚々と討伐依頼を受注しようとしたところ、思わぬ横槍が入ったのだ。
 それが、目の前で怒り狂っている中堅冒険者のバルクであった。

「ペインサーペントの討伐は、トラガの森の歩き方に慣れてからじゃないと難しい。散々説明したはずだな」

 気迫に満ちた言葉にシエラたちは粛々と頷く他ない。それ以外の行動、特に少しでも反意を見せようものなら、瞬間首をへし折られそうだった。
 トリタンの冒険者ギルドで依頼を受注しようとした時、ギルドの受付嬢は彼女たちの実績を見て難色を示した。その時点でトラガの森に立ち入った経験がない、というのが主な理由だった。しかし、シエラは自分たちの実力を疑わず、ぜひにと進言。
 その時、横からバルクが現れたのだ。

「トラガでの戦い方を俺が教える。最低でも三日間慣れるまでは洞窟には入らない。俺の言葉には従う」
「はひ」

 バルクが太い指を一本ずつ立てながら並べたのは、〈極光の剣〉がトラガの森に入るに際してギルド側が課した条件だった。
 中堅の壁であるトラガの森は危険である。ゆえに中堅冒険者として十分な実力と経験を持つバルクが、教官役として引率することになったのだ。しかし、自信に満ち溢れていたシエラたちは不機嫌そうな熊男にいちいち学ぶことなどないとたかを括っていた。そもそもバルクの経歴を見てみれば、ここ数年目立った活躍もない。そんな男の言うことなど、素直に聞けるはずもなかった。
 そんなことで、シエラたちは勇み足となった。トラガの森は確かに足元が悪く視界も木々の枝葉で遮られるが、それでも一日で慣れたつもりだった。そのため、バルクが目を離した隙に四人で禁じられた洞窟――ペインサーペントの棲家へと突撃を敢行したのだ。

「そのうちのどれか一つでも守ったか? ああ? こんなことも守れねぇのに、新進気鋭なんてよく言えたもんだなぁ?」
「ごめんなさい……」

 結果はどうだ。
 シエラたち〈極光の剣〉はペイルサーペントにさえ辿り着けなかった。深く入り組んだ洞窟は迷宮のようで、そこには凶悪な魔獣が無数に棲みついていた。彼女たちはそれに追われるうちに体力を消耗し、もはやここまでかと諦めかけていたその時、憤怒の表情を浮かべたバルクによって助け出されたのだ。
 ケイブバットの群れを匂い袋で遠ざけ、足を挫いたネルヴァを担ぎ、シエラたちを叱咤しながら立ち上がらせた。彼が洞窟を進みながら落としていた光石のマーカーがなければ、彼女たちは外に出ることすらできなかったはずだ。
 そうして九死に一生を得た〈極光の剣〉の面々だったが、安堵する暇はない。約束を違え、勝手に洞窟へ入って死にかけた彼女たちを待っていたのは、激怒したバルクだった。
 悪魔のような顔面で、決して捲し立てることなく静かに怒る。だからこそその恐怖は彼女たちを心底震え上がらせた。自分たちが井の中の蛙であったことを、伸びた鼻っ柱を粉々に粉砕された痛みとともに強く心に刻みつけられた。

「今日はテントに戻れ。そこから出ることは許さん」
「ひっ」

 一通りの説教が終わったのち、バルクは唸るように言った。そこに一言でも反論しようものなら、今度は物理的に出られないような体にされるのではないか。そんな恐怖が真実味を帯びてくる。
 シエラ以下、完璧に自信と自尊心を折られた少女たちは、コクコクと必死に頷く。そして鬱血して感覚のなくなった足でヨタヨタとテントへと戻っていく。その背中に、バルクが声をかけた。

「おい、ネルヴァ」
「っ! なんだ……なんですか?」

 名を呼ばれた獣人族の槍使い、ネルヴァは明らかに怯えて振り返る。〈極光の剣〉の中でも最年長で、ファナほどではないが豊かな胸を持つ美女だ。褐色の肌も艶めかしく、彼女にナンパを吹っかける男も枚挙にいとまがない。
 そんな美女に、バルクは舐め回すような視線を向ける。湿度すら感じるような不穏な目に、〈極光の剣〉の面々が嫌な予感を脳裏に過らせた時だった。

「後で俺のテントに来い」
「ッ!」

 その言葉が何を意味するのか。それが理解できないほど彼女たちも初心ではない。元々が男にも負けない荒々しい性格であるネルヴァは思わず声を荒げそうになったが、状況を思い出す。ぎり、と奥歯を噛み締め、仲間たちを見る。

「ネルヴァ……!」

 リーダーのシエラが、瞳を潤ませて微かに首を横に振っていた。しかし、ネルヴァは神妙に頷く。ここは、年長者である自分が出るべきであると。

「――わかり、ました」

 はらわたが煮えくりかえりそうになりながら、ネルヴァはぎこちなく頷く。それを見て満足げに凶悪な笑みを浮かべるバルク。その姿に、シエラたちは唇を噛み締めて震えを抑えていた。

第2話「震える少女」

 トラガの森は最寄りの都市であるトリタンでさえ馬で三日という距離にあるため、入り口手前でのキャンプが基本となっている。
 シエラたち〈|極光の剣《オラリア》〉は二人に一張りずつ、二つのテントを使っていた。シエラとネルヴァは同じテントを使っており、バルクの説教が終わってそこに戻った二人は、押し黙ったまま向かい合っていた。

「やっぱり、私が――」
「駄目だ!」

 顔を上げ、口を開いたシエラの声をネルヴァが遮る。
 説教の後、四人をテントへ向かわせたバルクは、その際にネルヴァに声をかけた。「後で俺のテントへ来い」――その言葉が何を意味しているのかは明白だった。
 バルクのテントは〈極光の剣〉とは少し離れたところに建てられている。しっかりと天幕が下されており、簡単には中を窺い知ることもできない。そんな密室に、負い目の女を呼び込んですることなど。
 ましてやネルヴァは目の覚めるような美女だ。シエラも貴族令嬢らしく金髪の美しい美女であるし、ファナやパテマもそれぞれに方向性こそ違うものの見目美しいことに違いはない。〈極光の剣〉が有名であるのは、四人が揃いも揃って並外れた美貌であることも大きな理由のひとつなのだ。

「こういうのは、年上のあたしに任せな」

 パーティ最年長のネルヴァは自分の胸を押さえて強気に切り出す。しかし、シエラもそれに一歩も引かない。

「それなら、リーダーは私だよ」
「シエラはお嬢さんだ。こんなことで自分を汚しちゃいけない」
「そんなの……そんなの、みんなおんなじだよ」

 唇を噛み締め、握った拳を振るわせるシエラ。そんな彼女をネルヴァは悲壮な顔で見る。
 シエラは元々、冒険者などにならなくとも輝かしい将来が約束されていた。貴族の令嬢として生まれ、両親に愛され、兄弟とも仲が良かった。ネルヴァはそんな彼女の護衛役として雇われ、そして彼女が卓越した剣の才能を見せてからは武術指南役としても彼女を導いた。
 冒険者となり世界を巡りたいとシエラが言った時、心配する周囲と対立して彼女の側に立ったのは他ならぬネルヴァである。
 冒険者の暮らしが、これまでとは比べ物にならないほど過酷であることは分かっているつもりだった。それでも自分が矢面に立ち、守ればよいと思っていた。それがまさか、こんなところで躓くことになるとは。

「――あんまり遅くなっても奴の怒りを買うだけだ。そろそろ行くよ」
「ネルヴァ!」

 まだ痛む足をこらえながら、ネルヴァはテントの外へと向かう。その背中をシエラは泣きそうな顔で見る。幼い頃から姉のように慕ってきた、種族こそ違えど確かに家族と言える存在だ。そんなネルヴァが、これからあの醜い男の元へと向かう。自らの身を捧げに行く。

「――ごめん、ネルヴァ」
「がっ!? シエ、ラ……!」

 いつも飄々としているようで気を張り続けている姉貴分が、らしくもなく油断していた。シエラが首筋に手刀を落としたことにも反応できないほどに。
 ネルヴァは薄れゆく意識のなか、己を見下ろす妹分を見る。シエラの濡れた青い瞳に決意の光があることに気付きながら、彼女は抵抗もできずに気を失った。

「ま、まことに申し訳、ありませんでした!」
「……」

 〈|極光の剣《オラリア》〉のテントからは少し離れたところに建てられた、バルクのテント。ネルヴァの意識を刈り取り、優しく寝かせたあと、シエラは意を決してそこを訪れていた。
 テントの前の焚き火は落ち着いており、教官役の男はテントで何やら準備をしているようだった。ネルヴァを呼び出して、彼女が訪れるのを虎視眈々と待ち構えているのだ。
 シエラは意を決して、テントの中へと飛び込む。それと同時に膝を折り、深々と頭を下げた。三つ指をつき、額が床に触れるほどの平身低頭である。長い金髪が扇のように広がり、より一層彼女を惨めにさせた。

「ネルヴァはどうした」

 予定とは違う者が来たというのに、バルクは取り乱すこともなかった。まるで、シエラが訪れることが分かっていたかのようだ。
 シエラは謝意を示しながら、悔しさも感じていた。この男はわざと選ばせたのだ。パーティリーダーである自分ではなく、あえてネルヴァを指名することで、お互いに自ら身を捧げるように。なんという悪略か。決して許せるはずがない。
 しかし、〈極光の剣〉は彼に逆らえない。彼がトリタンの冒険者ギルドに戻り、不適格と告げれば、彼女たちに中堅以上へと進む道はなくなるのだ。だから、シエラはこうして訪れる他なかった。

「ネルヴァは、テントで身を休めております。――足を痛めておりますので。どうか、どうかご容赦いただきたく」
「そうか……。休息か。それもいいだろう」

 テントの中にはむせかえるような甘い香が満ちていた。男の寝袋とは別に、見せつけるように毛布が敷かれている。ここで何を行おうとしているのか、シエラもすぐに分かった。

「で、ですので」

 シエラは貴族令嬢である。蝶よ花よと育てられ、礼節や貴族の矜持を叩き込まれてきた。もちろん、齢十八となり婚姻も考えられる頃になると必然的に男女の交わりについても教えられた。しかし、このような森のなか、しかも野獣のような男によって純潔を散らすことになるとは思いもしなかった。冒険者を志した時には、考えなかった未来である。

「――不肖ながら、わ、私が、ネルヴァの代わりを」
「うん?」

 バルクはシエラの震える声を聞いてなお、わざとらしくトボけて見せる。その態度が、余計に彼我の立場を感じさせ、シエラは涙を溢しそうになった。
 だがここで泣き叫べば、それこそ男の思う壺である。だからこそせめて、貴族らしく気高くありたい。自分は仲間を守ため、ここにいるのだと。

「私のことは如何様にもお使いください。ですが――ですが、仲間だけは。仲間だけは何卒お許しを!」
「……そうだな」

 シエラの懸命な懇願にバルクは少し間を置いて頷く。
 そう、これでいいのだ。仲間たちは自分の我儘に付き合ってくれただけ。だから責任を取るべきはリーダーである自分なのだ。シエラはそう自分に言い聞かせ、折れそうになる心を保つ。

「お前たちの考えは分かった。よく分かった」
「ひっ」

 ドスの効いた低い声は、女に本能的な恐怖を与える。そのことを自覚しているのかいないのか、バルクは土下座したままのシエラを見下ろして呟く。
 その程度の謝罪でいいのか、と言外に問われている。シエラは震える手で服の結び目を解いた。

「おい。何をしている」
「どうか、お許しください。わ、私はネルヴァほど豊かな胸もありませんが……」
「ちょっと待て。何か――」

 一度動き出せば、後は勢いだった。バルクがネルヴァを要求する前に、事実を作ってしまいたかった。
 シエラは服を脱ぎ捨て、傷ひとつない純白の柔肌を露わにする。いまだ男の指に触れさせたことのない清い体である。冒険者らしく引き締まっているが、女性らしい柔らかさも同時に備え、貴族らしい気品すら纏っている。胸もネルヴァやファナと比べれば小ぶりと言えるが、年齢を考えれば相応それ以上のものである。
 はらりと布を脱ぎ捨て、足元に落とす。シエラが前を向くと、バルクは眉間に深い皺を寄せていた。やはり、自分のような幼い体は趣味ではないのだろう。だが、今更後には退けない。

「どうぞ、お好きなようになさってください」

 熊のような大男の元へと歩み寄り、その体を撫でるように指先で触れる。バルクはびくりと震え、シエラの両肩を押し離そうとした。シエラも負けじと密着する。ここで男の興味を惹けなければ、〈極光の剣〉は終わりなのだ。

「待て、何か勘違いを――」
「っ! こ、これは……」

 バルクが何かを言いかけた時、シエラはちょうど己の下腹部に当たる硬い異物の感触に気が付いた。それが男のズボンの下から強く主張する男根であることを知った彼女は、電流を浴びたかのような衝撃を受けた。

第3話「鮮烈な記憶」♡

 大きい。
 野獣のような体躯に見合うだけの、凶器と見紛うほどの雄々しさだ。それが布を隔ててなお滲み出ている。今にも布を破りそうなほどの勢いでそれを押しあげ、強烈に自己を主張している。
 トリタンから馬で三日、更にトラガの森で一日を過ごした。その間、男も欲望を滾らせていたのだ。若い女ばかりのパーティと行動を共にしていたのだから、理性が決壊するのは時間の問題だったのだ。
 怒るように見せて、腹の中ではほくそ笑んでいたのだ、この男は。大義を掲げて、女の身を喰らう千載一遇の機が巡ってきたことに。

「いや、これは――」
「失礼、いたします」

 バルクは自らそれを曝け出そうとはしない。むしろ両手で隠そうとする。そう、シエラに自ら誘えと言っているのだ。ここまで状況がそろえば、あとはどうするべきか分かるだろうと。
 シエラは直立する男の前で膝立ちになる。体格差によって、ちょうどバルクの股間が、彼女の視線の高さと合った。その喜ばしくもない偶然に、彼女は唇を噛む。だが、ここで怯めば男をいたずらに楽しませるだけだ。

「待っ」

 バルクが何かを言う前に、ズボンの縁に手を掛けて一息に引き下ろす。

「きゃっ!?」

 その瞬間、何かが弾けた。勢いよく立ち上がった黒い影が、シエラの白い頬を強く叩いたのだ。その正体が屹立する男根であることに気づくまで、少々の時間を要した。
 あまりにも、大きすぎるのだ。
 棍棒。いや、腕。男は股間に三本目の腕を。
 否、それは確かに、シエラも知識として知っているものであるはずだった。血管が浮き上がるほどに張り詰め、膨張した、あまりにも野生的で暴力的なもの。力の象徴という意味が実感として理解される。
 テント内に満ちる甘い香すら上書きするような、濃厚な臭い。男も近くの水場で体を濯いでいたはずだが、それすら意味をなさないほどの獣臭。

「あ、ぁ……」

 高く天に向かって掲げられたソレを見て、シエラは唖然とする。自然と手を下腹部に向ける。ソレが本当に収まるのか。股が裂けてしまうという、直感的な恐怖があった。

「シエラ、その、これは」

 男が何かを言っている。しかし、もはやシエラは目の前のそれから意識を移すこともできずにいた。こんなもので貫かれては、生命の危機すら考えられる。頭脳が警鐘を鳴らし、生存本能とでも言うべきものが動き出す。――ともすれば、それは女という性に宿る火であったかもしれないが。

「んっ!」
「シエラ!? 何をやってる!」

 気がつけば、シエラは顎が外れるほどに口を大きく開け、その高熱を帯びた男根を頬張っていた。ゴツゴツとした立体を舌で撫で、その形を粘膜越しに感じ取るように。
 男は戸惑い、怒っていた。己のプランと違う展開に戸惑っているようだった。それでもシエラはそうするしかなかった。せめて、せめて一度力を抜いておかなければ。これをそのまま己の秘部に迎え入れるのは、あまりにも大きすぎる。

「シエラ、くっ」

 はじめは逃れようとしていたバルクだが、シエラが必死に喰らいついたことで遂に観念したようだ。少女の唾液がぬらぬらと光り、テント内に淫靡な水音が響く。
 シエラは一心不乱にそれを舐めまわしながら、一刻も早く終わらせたいと考えていた。口を塞がれ、喉奥まで貫かれ、苦しくないはずもない。酸素の補給は鼻が頼りで、それすらフガフガと無様な音を伴う。
 貴族令嬢とは思えないほどの無惨な姿で、拙い技で、懸命に快楽を引き出そうとしていた。

「や、やめ……。離れろっ」

 バルクが叫ぶ。酸素が薄く、頭の動きも鈍くなったシエラは、反射的にそれに逆らう。男のがっしりと筋肉のついた腰に腕を回す。

「んぶぅっ」

 頬を窄め、じゅぞぞぞ、と吸い込む。唾液がとめどなく溢れていた。ダラダラと垂らしながら、舌でまさぐる。男の足が震えていた。絶頂が近いことが予感された。
 シエラ唇に力を込める。ジュッポジュッポと頭ごと前後に動かし、長いストロークを加速させる。膝立ちになり、上半身を露わにし、淫らに動く姿は、理性を失った獣のようだった。

「おごっ、んごっ」
「シエラ、やめろ。止まれ!」

 バルクは声を荒げる。だが止まるわけにはいかなかった。シエラは恐怖に突き動かされるようにして、必死に肉棒をねぶる。滲み出す体液が己の唾液と混ざり合った。熱を口腔で感じ、桃色の唇をふしだらに濡らす。

「ふー、ふーっ」

 鼻で息をする。鼻水が垂れ、風船のように膨らむ。それでも、恥を捨てて。
 上目遣いで男の様子を見ると、押し寄せる快楽に耐えているようだった。その姿に、一瞬だけ喜びが浮かんだ。口淫どころか、性的な行為そのものが初めての経験である。にも関わらず、この野獣のような男を満足させることができている。それは、強い自信となった。

「ふんっ。ふぐっ。ふーっ、ふーっ!」

 更に動きを加速する。口腔の空気をなくし、口を窄め、内壁で粘膜を擦る。舌全体を使って、男根をくまなく刺激するのだ。蠕動する。巡るように動く。ジュポジュポと音を立てながら目を合わせると、男の反応が男根から伝わってきた。

「んふぅ、んっ」

 決して離さない。激しく動きながらもしっかりと喰らいつく。男の反応の機敏を感じて動きを変える。飽きさせることなく、一直線に決着へと導くのだ。
 そして――。

「くっ、出る――!」
「んんんっ!? んぼぁっ」

 力強い吐精だった。もはや固体と錯覚するほどの濃厚な体液が、無遠慮に吐き出される。それは強かにシエラの喉奥を叩き、数秒に渡って続いた。瞬く間に彼女の小さな口腔は満たされ、唇の隙間と鼻の穴から漏れ出す。

「おごっ」

 むせそうになりながら、シエラは必死にそれを堪える。吐き出せば、もう一度と言われるかもしれない。彼女は溢れ出たそれを手のひらで受け止め、啜るようにして口に戻す。指先で掴み上げられるほど濃い白濁液は喉に引っかかり、不快感を強めた。

「お、おい」

 今更になって男はシエラの華奢な肩に手を置く。
 シエラは、目の奥が明滅するような感覚に耐えながら、全てを飲み込んだ。そして息も絶え絶えになりながら前を見て、唖然とする。

「そんな、まだ……ぜんぜん……」

 男の棍棒は、未だ屹立を誇っていた。いささかの衰えも見せない凶器に、少女の心がぽっきりと折れる。

「すみません、ごめんなさい。許してください」

 泣き崩れうわごとのように謝り続ける。もはやそれ以外にできることはなかった。これまで積み上げてきた自信も誇りもかなぐり捨てて謝り続ける。バルクはそんな彼女に水を与え、脱ぎ捨てられた服を押し付ける。

「と、とりあえず今日は寝ろ」

 許しが出た。そう思った瞬間、彼女は逃避を始めていた。テントから飛び出し、服を抱えて走る。自分のテントに戻ると、寝袋に身を押し込んでいつまでも震える。恐怖と惨めさを味わっていた。鮮烈な記憶として刻み込まれていた。
 身を挺して仲間を守ると誓ったのに、敵の強大さに恐れをなして逃げてしまった。ネルヴァはいまだ気を失っている。そんな彼女の隣に駆け戻り、自分は力なく震えることしかできない。

「あんなの、どうすれば……」

 脳裏にくっきりと残るのは、自分の顔ほどの長さと、片手では握り込めないほどの太さを持つ肉棒。あんなものを見たのは初めてだった。そして、今後忘れることはできないだろう。

「んっ」

 まだ経験のない少女は、なぜ自分の体が熱くなっているのか。その理由すらも分からないまま健気に唇を噛み締めて、下腹部から滾る強い熱に耐え続けた。

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ユリイカ 2023/11/01 13:32

新作小説投稿始めました。

ご無沙汰 しております。
最近は本業の方が忙しくなかなか浮上できていなかったのですが、11月に入ったということで心機一転、仕切り直しということでひとまず生存報告をしようと思います。

本日11月1日よりノクターンノベルズの方で新作小説「しがない強面中堅冒険者、新進気鋭の美女パーティの全員に「私のことは好きにしていいから仲間だけは助けてください」と体を差し出された。」を公開しました。長文タイトルで、あらすじも大体こんな感じです。

8万字まで書けたら、オトナの小説大賞とかに応募しようかと思ってたりします。イメージイラストなどは特に固まっていないのですが、余裕が出て描けたらこちらでも公開しようと思います。あまり期待せずお待ちいただけると幸いです。

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