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クリスマスの記事 (1)

じゃが 2023/12/25 19:00

クリスマス

簡単なキャラクター設定はこちらになります。
https://ci-en.dlsite.com/creator/22687/article/1029032

***

 昔は大好きだったクリスマスも、母がいなくなってからはただの虚しい行事へと変わってしまった。キラキラと光るイルミネーションや道行く楽しそうな人々、それら全てが自分とは別世界にあるように思えた。
 綾さんと入ったこのホテルも、当然のようにクリスマスの装飾が施されていた。綺麗だとは思うが、それ以上心動くことはない。なのに――。
「雪! メリークリスマス!」
 パァン! と破裂音が鳴り、中から色とりどりのテープが飛び出てくる。満面の笑みでそれを持つ綾さんになんだか申し訳なくなって、私は小さく拍手を送った。
「お、おめでとうございます?」
「おめでとうじゃなくて、メリークリスマス、でしょ?」
「メリー、クリスマス······」
 よくできました、と頭を撫でてくる綾さんに、やっぱり今日は会うんじゃなかったと後悔した。
 自前で購入してきた装飾品を部屋に沢山飾り付け、机の上には二人では食べきれないほど大きなホールケーキ。綾さんがこんなにクリスマスを楽しむタイプだとは思っていなかった。
 私といたら、盛り下げちゃうな。
 クリスマスの独特な空気感は、どうしても母を亡くしたあの冬を思い出させる。以前より立ち直ったとは言え、この季節になるとどうしても体や心が重くなってしまう。
 綾さんにクリスマスを誘われた時も断ろうと思ったのだが、「雪と一緒に過ごしたい」の一言に負けてしまった。それに、いつものように綾さんに激しく抱かれていれば、何も考えなくて済むと思った。
 だが、そんな私の気持ちとは裏腹に、いつもはホテルに入れば即ベッドの彼女がウキウキと部屋に装飾を始めたのだ。それからも全く手を出す雰囲気はなく、最後にあの巨大なケーキまで出されてしまったら、私に逃げ場はなかった。
「今日、雪と過ごせて嬉しいなあ」
 そう言って目を細める綾さんに、不覚にも胸がどきりと跳ねる。
「······正直意外でした。綾さんはこういうイベント事に興味無いと思ってました」
「ないわよ」
 表情を変えないまま言う綾さんに、思わず「まさか」と乾いた笑いが出た。
「見るからに大好きじゃないですか」
「私が大好きなのはクリスマスじゃなくて、雪よ。雪と過ごせるから、クリスマスが大好きなの」
 ······ずるい。真っ直ぐそんなことを言われたら、一人うじうじしている私が馬鹿みたいだ。
「綾さんって、恥ずかしい人ですね」
「雪は本当に可愛い子ね」
 私の嫌味なんて、綾さんには通用しない。
「そんな可愛い雪に、プレゼントがあります」
「えっ」
 どうしよう。クリスマスを楽しむなんて意識が飛んでいたから、プレゼントを用意する思考に辿り着かなかった。
「綾さん、私――」
「いいの。そんなことより、はい」
 私の言葉を遮って押し付けられたのは、誰もが想像するような"プレゼント"の箱。こちらは何も用意していないのに私だけ貰えない。遠慮しようと綾さんを見るも、貼り付けたような笑顔で「あけてみて」と圧をかけられれば、もう何も言えなくなった。
 そっと箱に巻かれたリボンを解く。子供のように、胸がどきどきと高鳴りだす。包装紙を破かないように取り外し、剥き出しになった白い箱を開けた先には――。
「······これって」
「今日と言えば、これしかないでしょ?」
 うっとりとしながら言う綾さんと、箱の中身を何度も見比べた。
「っ······!」
 そして遂に、我慢できず口から息が漏れた。
「っ、あはは! なんなんです、これ!」
「何って、サンタコスプレ! クリスマスなんだから! 雪がこれを着てくれる機会なんて、一年に一度しかないじゃない!」
 ぷりぷりと怒る綾さんにまた笑いが込み上げる。
「私が断るとは思わないんですね」
「クリスマスくらい、いいじゃない! 私へのプレゼント!」
 本当、一人で感傷に浸って、悲劇のヒロイン気取って、何してたんだろう。
 綾さんはこんなにも、私を楽しませようとしてくれているのに。
「仕方ないですね。今日だけですよ」
 綾さんにまじまじ見られながらサンタ服を着る。何故かサイズがぴったりのコスプレは、当然のようにミニスカート。綾さんがそれを見て、キャーと黄色い声をあげる。
「雪! 可愛い! めちゃくちゃ可愛い!!」
「············どうせすぐ脱がすくせに」
「脱がさない! 今日は脱がさないままする!」
 二人でどさりとベッドへ倒れ込み、自然と唇が重なる。

 そして朝、疲れきって眠った私の頭元には、小さな手のひらサイズの可愛らしい箱が置かれていた。その中に入っていたのは一本の口紅。
 来年は綾さんのために、絶対に何か用意しようと決めた。今から綾さんの喜ぶ顔が目に浮かぶ。来年のクリスマスが、少しだけ楽しみに感じられた。

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 昔は大好きだったクリスマスも、母がいなくなってからはただの虚しい行事へと変わってしまった。キラキラと光るイルミネーションや道行く楽しそうな人々、それら全てが自分とは別世界にあるように思えた。
 綾さんと入ったこのホテルも、当然のようにクリスマスの装飾が施されていた。綺麗だとは思うが、それ以上心動くことはない。なのに――。
「雪! メリークリスマス!」
 パァン! と破裂音が鳴り、中から色とりどりのテープが飛び出てくる。満面の笑みでそれを持つ綾さんになんだか申し訳なくなって、私は小さく拍手を送った。
「お、おめでとうございます?」
「おめでとうじゃなくて、メリークリスマス、でしょ?」
「メリー、クリスマス······」
 よくできました、と頭を撫でてくる綾さんに、やっぱり今日は会うんじゃなかったと後悔した。
 自前で購入してきた装飾品を部屋に沢山飾り付け、机の上には二人では食べきれないほど大きなホールケーキ。綾さんがこんなにクリスマスを楽しむタイプだとは思っていなかった。
 私といたら、盛り下げちゃうな。
 クリスマスの独特な空気感は、どうしても母を亡くしたあの冬を思い出させる。以前より立ち直ったとは言え、この季節になるとどうしても体や心が重くなってしまう。
 綾さんにクリスマスを誘われた時も断ろうと思ったのだが、「雪と一緒に過ごしたい」の一言に負けてしまった。それに、いつものように綾さんに激しく抱かれていれば、何も考えなくて済むと思った。
 だが、そんな私の気持ちとは裏腹に、いつもはホテルに入れば即ベッドの彼女がウキウキと部屋に装飾を始めたのだ。それからも全く手を出す雰囲気はなく、最後にあの巨大なケーキまで出されてしまったら、私に逃げ場はなかった。
「今日、雪と過ごせて嬉しいなあ」
 そう言って目を細める綾さんに、不覚にも胸がどきりと跳ねる。
「······正直意外でした。綾さんはこういうイベント事に興味無いと思ってました」
「ないわよ」
 表情を変えないまま言う綾さんに、思わず「まさか」と乾いた笑いが出た。
「見るからに大好きじゃないですか」
「私が大好きなのはクリスマスじゃなくて、雪よ。雪と過ごせるから、クリスマスが大好きなの」
 ······ずるい。真っ直ぐそんなことを言われたら、一人うじうじしている私が馬鹿みたいだ。
「綾さんって、恥ずかしい人ですね」
「雪は本当に可愛い子ね」
 私の嫌味なんて、綾さんには通用しない。
「そんな可愛い雪に、プレゼントがあります」
「えっ」
 どうしよう。クリスマスを楽しむなんて意識が飛んでいたから、プレゼントを用意する思考に辿り着かなかった。
「綾さん、私――」
「いいの。そんなことより、はい」
 私の言葉を遮って押し付けられたのは、誰もが想像するような"プレゼント"の箱。こちらは何も用意していないのに私だけ貰えない。遠慮しようと綾さんを見るも、貼り付けたような笑顔で「あけてみて」と圧をかけられれば、もう何も言えなくなった。
 そっと箱に巻かれたリボンを解く。子供のように、胸がどきどきと高鳴りだす。包装紙を破かないように取り外し、剥き出しになった白い箱を開けた先には――。
「······これって」
「今日と言えば、これしかないでしょ?」
 うっとりとしながら言う綾さんと、箱の中身を何度も見比べた。
「っ······!」
 そして遂に、我慢できず口から息が漏れた。
「っ、あはは! なんなんです、これ!」
「何って、サンタコスプレ! クリスマスなんだから! 雪がこれを着てくれる機会なんて、一年に一度しかないじゃない!」
 ぷりぷりと怒る綾さんにまた笑いが込み上げる。
「私が断るとは思わないんですね」
「クリスマスくらい、いいじゃない! 私へのプレゼント!」
 本当、一人で感傷に浸って、悲劇のヒロイン気取って、何してたんだろう。
 綾さんはこんなにも、私を楽しませようとしてくれているのに。
「仕方ないですね。今日だけですよ」
 綾さんにまじまじ見られながらサンタ服を着る。何故かサイズがぴったりのコスプレは、当然のようにミニスカート。綾さんがそれを見て、キャーと黄色い声をあげる。
「雪! 可愛い! めちゃくちゃ可愛い!!」
「············どうせすぐ脱がすくせに」
「脱がさない! 今日は脱がさないままする!」
 二人でどさりとベッドへ倒れ込み、自然と唇が重なる。

 そして朝、疲れきって眠った私の頭元には、小さな手のひらサイズの可愛らしい箱が置かれていた。その中に入っていたのは一本の口紅。
 来年は綾さんのために、絶対に何か用意しようと決めた。今から綾さんの喜ぶ顔が目に浮かぶ。来年のクリスマスが、少しだけ楽しみに感じられた。

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