途絶えた真理の風
途絶えた真理の風
「うむ、今日も実にいい有意義な時間だった。100年以上生きて来たが、まだまだ世の中には不思議が尽きんのう♪」
ある日の夕暮れ時。
ファルザンは研究を終え、教令院の廊下を歩いていた。
一日の心地いい疲れを感じながら、帰路へ就いていた所、突然その行く手を遮るように一人の男が現れた。
「ファルザンちゃん、だよね?はーっ、よかった。ここで会えて」
「……なんじゃ、お前は。ワシを呼ぶ時は敬意を持って先輩と呼べと言っておるじゃろう!」
「は、ははっ、ファルザン先輩。僕は100年の年月が経っているのにもかかわらず、若い姿のまま現代に現れた先輩という存在の神秘を研究している学者だよ。どうか、その体を調べさせてもらいたいんだ……!」
「なんじゃと?」
教令院の学者を名乗っているが、どこか怪しげな中年で、肥満体型で脂ぎった肌、お世辞にも好意的な印象は持てない容姿で、その上でファルザンのことを好気の対象として見ているような口ぶり。
当然、彼女がそれに協力を申し出るはずもない。
「それに協力してワシに何の利があると言うんじゃ。礼儀も知らぬ愚か者め」
そうきっぱりと断り、怒りながらずんずんと歩きその横を通り過ぎようとする。だが。
「君には協力する理由がなくても、僕にはこの謎を解き明かす理由があるんだ!」
「なっ!?いつっ……!これ、放さんか!!」
男は突然、乱暴にその腕を掴み、引き止めてそのままどこかへと連れて行こうとする。
突然のことに驚きながらも、ファルザンは必死に男の手を振り払おうと暴れ、大声で助けを求める。
すると、騒ぎを聞きつけた教令院の職員らしき若い二人の男が現れ、すぐに男から彼女を助け出してくれた。
「はーっ、はーっ……!こやつめ、いきなりワシの体を研究すると言い出し、乱暴に連れて行こうとしたのじゃ!本当の学者かも怪しいところじゃ、すぐに捕まえてくれ!」
「それはそれは……恐ろしい思いをされたでしょう。どうぞ私どもにお任せください」
「うむ……全く、このような男をあっさりと教令院に入れるとは、お前らも褒められたものでは……うっ!?」
ところが、二人の男の内、一人がいつの間にやら彼女の背後に回っており、いきなり羽交い締めにされたかと思うと、その口と鼻に湿った布を押し付けられてしまう。
「うっ、ぐっ、むうううっ!?」
すぐにもう一人の男も正面から彼女の抵抗を封じて、ファルザンの小柄な体は大の男二人によって完全に拘束されてしまっていた。
まもなく、布に浸された薬品の刺激臭が胸いっぱいに広がり、急速に意識が朦朧としてきて、視界がグニャグニャに揺れ、体から力が抜けていく。
「(しまっ、た……こやつらも、あの男の息がかかって……)」
完全に意識を失う直前、そう察しはしたが、何もできるはずもなく、彼女は糸の切れた人形のように男たちに抱きかかえられてしまった。
「よし、お前は安全なルートを確認しろ。誰にも見られないように運び出すぞ」
「わかった。……ドクターも、先にお戻りを」
「うんうん、頼んだよ。君たち」
変装したタチの悪い傭兵である二人の男は、手際よくファルザンの拉致の手はずを整え、雇い主である自称学者も、去っていく。
そして、ファルザンは誰に見られることもなく、どこかへと運び出されていくのだった。
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