https://www.dlsite.com/maniax/work/=/product_id/RJ305867.html
色仕掛けまとめブログ様より発売の、色仕掛け文庫 第三巻 に参加させていただきました!
よろしくお願いします!
以下、サンプルになります。
依頼をしてきたのは、金髪のショートヘアをした可愛らしい少女だった。名前はリア。遺跡荒らしを主な稼業としていて、手に入れた宝を売って生計を立てているという。
普段は一人で遺跡へと潜っているが、今回の目的地は危険が多く、護衛が欲しいとのことだった。
報酬は宝の半分。彼女が言うには、数年は遊べるほどの価値の宝が眠っているという。そのため山分けしても十分な額になるとのことだった。
最初、その依頼を断るつもりだった。彼女とは面識がなかったし、何よりも怪しかったからだ。こういう依頼を受けていい目を見たことはほとんどない。だから僕は他を当たってほしいと伝えた。
しかし、彼女は引き下がらなかった。
「えー、そんなこと言わないでよぉ、一緒に冒険しよーよぉ」
柔らかそうな唇に指を二本当てたまま、上目遣いでこちらを覗いてくる。瞳は潤んでいて、懇願するように熱い視線をぶつけてきた。
「こんな可愛い女の子と歩けるんだよ? それだけでお得なのに、さらに宝の半分までついてくるんだよ♡」
悩まし気に唇を突き出すと、わざとらしくちゅぱっと鳴らす。思わず視線が唇に集中する。ぷるぷるの質感の唇が、僕に向けられていた。
「ねえ、いいでしょ?」
とどめとばかりに、リアはウィンクを送る。
怪しい。怪しすぎる。絶対に断ったほうがいいと、僕の勘が言っている。だけどリアから目を離せない。誘惑するように突き出される唇から視線を外せない。
「依頼受けて、ね♡」
気が付けば、僕は頷きを返していた。リアはありがとうと言って、二コリと微笑んだ。
リアに連れられたのは、古代に繁栄したと噂される王家の墓所だった。
地下は至るところが土埃に覆われ、長い年月の間放置され続けていたことが見てとれる。視界はうす暗くはあるが、松明がいらない程度には明るかった。石壁に取り付けられたロウソク台のおかげだ。道の向こうまでずらりと並べられたロウソクは、オレンジ色の炎をちりちりと揺らしながら道を照らしていた。
道はずっと先まで一本道に伸びている。先のほうは薄っすらとしか見えず、ここからではどれくらい距離があるかはわからない。だが道に迷う心配はしないでよさそうだ。
「ここからがあなたのお仕事だよ、私の傭兵さん」
リアはにこりと笑いながら、道の向こうを指さした。
「見た感じだと何もなさそうだけど──ここには罠がたくさん仕掛けられているの。アタシは宝箱の開錠は得意、でも罠とかは専門外。だからこれを傭兵さんに何とかしてほしいな」
何とかしてほしい。その言葉だけで、この仕事が割に合わないものだと察知した。
僕だって罠の専門家などではない。冒険者としての経験から罠を察知できても、確信まではできない。つまりこれの意味するところは一つだ。
「先導役、よろしくね♡」
身体を張って、安全な道を見つけろという命令だった。
自分の勘を総動員させて進む。不自然に綺麗な床、少し色が違う壁、隙間が見える天井──何度もダンジョン探索をしてきた知識で何とか安全ルートをつかんでいく。しかし王家の墓というだけあって、如何せん怪しい箇所が多すぎる。
進み始めてから数分経った頃、僕はついに罠の一つを踏み抜いてしまった。
右側の壁からガタンと無機質な音が鳴った。同時に僕はほぼ反射的に背中を後ろへと反らす。次の瞬間、胴体の前を何かがすごい速度で横切った。
「わーお、おみごと」
伸びてきたのは鉄の槍だった。切っ先は反対側の壁のギリギリにまで到達している。しばらくすると槍はゆっくりと引かれていき、何事もなかったように元の壁の中へと戻っていった。
どっと冷や汗が流れる。後もう少し身体を反らすのが遅れていたら串刺しになっていた。そうなれば大怪我を負うのは確実、下手をすれば命を落とした可能性もある。
「さすがは私の傭兵さん。身のこなしもばっちりだね~」
一方のリアは僕の数歩後ろで楽しそうに見ているだけだった。もし僕が罠にかかっても、被害を受けないよう距離をとっているのだ。僕を心配するような素振りすら見せなかった。
ひどい頭痛がする。これでは傭兵というよりは生贄だ。危険を引き受けるのはすべて僕のほう。なのにもらえる報酬は宝の半分。残り半分は安全地帯で見ているだけのリアに持っていかれるのだ。得られるものに対して、危険が大きすぎる。そして何よりも扱いが悪すぎる。
苦々しい気持ちで背後を盗み見る。歩き始めてから数分、まだ入り口は近くに見えていた。今すぐに依頼を断ち切れば安全に帰れる距離だ。
「あはは、今ので気が引けちゃった? そりゃあそうだよね、あんなの当たったら超痛そうだし」
リアは軽い口調でケラケラと笑いながら、僕に近づいてきた。目の前で人が死にかけたとは思えないような態度だ。
「でも、傭兵さんに辞められたら困るんだよね。だから頑張れるように応援するね」
リアはニタリと目を歪めると、薄く口紅の引かれた唇をツンと尖らせた。そのまま桃色の唇が迫り、僕の頬にぷにっと触れる。柔らかい感触と一緒に、砂糖菓子のような甘い匂いが鼻をかすめる。
一瞬の後、頬に濡れた感触を残してリアの顔が離れた。そこに浮かんでいたのは、こちらをからかうような意地悪な笑みだった。
「お兄さんが私の傭兵さんでいる間、こうして応援したげる。だから私を守り続けてね?」
リアが口元を吊り上げながらニッと笑う。ぷるぷると潤った唇が目にはいり、さっき唇が触れたところが熱くなる。心臓がバクバクと鼓動を打っている。
「さあ、このまま進んでいこうか。私にいっぱい応援されたいなら命がけで生き残ってね。私の傭兵さん♡」