「おい!何やってるんだ!」
洞窟内に漂う精の匂いに手で鼻を押さえながら、カラス天狗の一人が臭いの集団へと声をかける。
「やべっ・・・」
警察の存在にいち早く気づいた一人が、集団の中から逃れようとしたが、すぐにカラス天狗たちに取り囲まれて捕縛された。
それぞれに逃げを打とうとしていた者たちも次々と逮捕され、残された中心の人物の体に、布を駆けようとカラス天狗の一人が足元の黒い着流しを発見したが、その背中の模様を見て驚愕の表情をとった。
暴行されていた中心人物の正体に気づいた他の警察も驚きながら、戸惑っている。
腰に朱い一本の紐を巻き付け、辛うじて挟まっている朱い長襦袢が、不穏な液体を吸って地面と接触し、ペタペタと音を立てている。
「ううっ・・・け、警察ですか・・・」
体中を汚れた体液に濡らされた鬼灯が、力ない腕で体勢を整え、安心しきったように地面へ横たわる。
その肌の白さと汚された無残さを見せつけられ、カラス天狗たちは全員見てはならない物かのように目を逸らせた。
「もう安心です、我らは技術科の通報で駆けつけてきましたが、まさかこんなことになっているとは・・・全く、不逞の輩です。大胆にも、」
鬼灯様に、と言葉を続けようとしたカラス天狗の口に指を付き立て、黙れ、と目で意思を伝える。
「このことは、くれぐれも内密に・・・」
「は、はい、わかりました・・・」
地獄のNO2が平獄卒たちに輪○されたなどとあっては、上のものとして立つ瀬がない。そんなことを、聡いカラス天狗たちには一瞬で理解した。
カラス天狗の一人が黒い着流しを拾い、鬼灯に被せようとしたが、まず身体に付着した精液の始末をしたい、と鬼灯が言い始め、ボロきれと化した朱い着流しを使って体を淡々と拭いてゆく。
『ああ、あんなところにまで精液が・・・あいつら、どれだけ無体を働いたんだよ、あとがおっかねえなあ、それにしても、なんというか、レ○プされた後だってのに、鬼灯様淡々としてるなあ・・・まさか慣れてんのかなあ?』
『うおっ・・・肌がマジで白い・・・って、これ見てちゃダメだよな、見ないでおこう』
『犯された被害者にこんなこと思ったらイカンのだけど、やっぱ、エロい・・・』
カラス天狗たちの悶々とした思考も鬼灯の中に流れ込んできたが、危険性はないとみて鬼灯は聞き流した。
内密に、とは言ったが、義経には報告するだろう。できればこの場でもみ消したいところだ。
「助けていただいて、ありがとうございます」
「は、はい。しかし鬼灯様、どうされたんですか?あんなヤツら、いつもならブッとばして終わりのはずなのに・・・」
「・・・体の調子が悪い時もあるんです・・・」
そう言うしか鬼灯にはできなかった。いちいち鬼神の力がなくなったことを触れ回っていては、またよからぬ輩が排出されるかもしれない。警察と言えど、もう油断はできなかった。
「でも、これどうやって報告しましょうかねえ。あいつらもしょっぴかないといけないし、通報した人物にも報告しなければ・・・」
通報した人物の検討はつく。ありがたかったが、人を介したことで余計な手続きが増えたことには憂慮の気持ちを押し殺せない鬼灯だった。
「あいつらの一人を被害者にして、その他の者は暴行罪でしょっぴいてください。ああ、一番彫りの深い、緑の着物を着た三本角の獄卒を被害者にしてください。あとは、私がやります」
鬼灯の最後の言葉に、カラス天狗たちは戦慄を禁じえなかった。
私がやる、ということは、その人物は一番鬼灯の恨みを買い、一番鬼灯を怒らせている人物だ。ここは地獄で、現世の法律とは違うので、放免されたあとは警察の出る幕はない。
解放されたその獄卒が、鬼灯にどんな私刑を受けるのかと思うと、カラス天狗たちは恐ろしさで思わず生唾を飲んだ。
「彼の取り調べが終了しましたら、こちらまでご連絡おねがいいたします。すみませんが、手ぬぐいをあと二枚持ってきてくれませんか」
鬼灯に命令され、カラス天狗の一人が被害者用に用意していた大きめの手ぬぐいを渡す。
鬼灯はそれで体中に付着した精液をぬぐい始めたが、ほぼ全裸の状態で始めたので、カラス天狗たちは慌てて後ろを向き、わざとらしく咳ばらいをした。
『鬼灯様、大胆だな・・・なんか、被害にあい慣れてるカンジがする・・・』
『色が白いなあ・・・肌のキメも細やかで、ちょっと触ってみたくなる』
『あの鬼灯様が集団レ○プって・・・嘘だろ?』
『鬼灯様、エロすぎる・・・日頃はあんなにおっかないのに・・・』
カラス天狗たちの心の声が、再び鬼灯の身体の芯に官能の炎をともし始める。しかし、さきほど散々快楽を貪った体は、今度はそう簡単に流されなかった。
身体を一通りぬぐい終えた鬼灯は、長襦袢を脱ぎ去り、直接黒い着流しを着て佇まいを正した。
いつもの朱い長襦袢が着物の隙間から見えないのはある種新鮮な色香だったが、その場にいる全員は黙っている。
しかしその思考も鬼灯にはバレバレで、少々鬼灯を不機嫌にさせた。
「手ぬぐいありがとうございました。洗って返したいところですが、臭いがひどいのでこのまま破棄でよろしいですか?」
「あ、はい。良ければ、こちらで処分しましょうか?」
「いいえ、結構です。長襦袢も一緒に処理しますのでおかまいなく」
それでは、と鬼灯は、さきほどまで輪○されていたことなど露ほども見せず、しっかりとした足取りと、凛とした雰囲気を取り戻して洞窟を後にした。
「鬼灯様、大丈夫かなあ・・・」
元の雰囲気に戻ったとはいえ、カラス天狗たちが心配するほど、鬼灯は手ひどく凌○されていた。当然、捕まえた犯人たちには厳格な尋問と刑罰を与えるつもりで、彼らに縄をかけた。