有坂総一郎 2022/10/01 16:30

側近からの視点と回想

東條閣下の側近中の側近である赤松貞雄氏の回想「東條秘書官機密日誌」を読んでいる。

購入してから少し時間がたっているのだが、Kindleと違ってハードカバーの書籍は片手間に読むというのがなかなか出来ない。結果、時間を作って読むということになり、読破速度が落ちる。

だが、この回想は本当に役に立つ。

Wikipediaにある東條評を補強すると言うことだけでなく、総理大臣として、陸軍大臣としての職務や日々の出来事に触れ、陛下との関わり、閣僚との関係、官僚との接し方、著名人とのやりとり、こういったものがよく理解出来る。

歴代内閣でも際立って多かった上奏におけるそれらについても記されており、同時に陛下が東條閣下をどれだけ信頼し信用していても陛下自身が納得するまでは頷かなかったし、東條に考え直しを求めたりしていることも裏付けが取れた。

それどころか、東條閣下なら自分の考えを理解し最善を尽くしてくれる陛下が思っていたと感じることが随所で見つけられた。無論、東條閣下もそれに全力で応えていたことは言わずもがなである。

そらぁ、赤松氏が本書で「俺の言うことを信じろ、それこそ東條閣下の本質で真実だ」(意訳)と前書きに記しているほどだから、そうでなければ赤松氏が途方もない法螺吹きと言うことになる。

尤も、東條閣下についてのそういったエピソードは星野直樹氏や他の閣僚など関係者達が口を揃えているだけあって信頼度の高い話だと思うが。

あと、東條幕府の内情というそれについても、現状尤も納得の出来るそれであった。要はそうしなければ総力戦というそれに大日本帝国という国家が追従出来ないという論理的、行政的、統帥的な理由が回送中にいくらでも出てくる。

大東亜省設置や省庁再編の話もその一環であり、東條閣下の独断でもなければ独裁的にしたというわけでもなかった。それに反対した東郷外相の更迭についても、出来るだけ穏便に収まるように、そして外務省に与えるダメージを少なくするための配慮などもそこにはあった。

よく言われる、誰に何をすればどう困るか、そこをよく理解していたというエピソードの最たる例だろう。

余談だが、件の赤松氏は陸軍籍で大佐であるが、総理秘書官になった際に慣例上は予備役に入らないといけなかったが、同様に海軍からの秘書官も同じように企画院だったか商工省だったかに出向し、その上で秘書官を兼務するという裏技で予備役にならずにすむように配慮したということだ。

これは将来、総理退任時に、大佐・少将級となる人材を無駄に予備役にしてしまわないようにする意図であり、同時に秘書官達が軍歴を失うことで路頭に迷うことにならないようにするためであった。

ただ、それは法をねじ曲げたというものではなく、出向している場合予備役にならないことを利用したに過ぎないのだ。

しかし、赤松氏ら軍事出身秘書官には軍服着用が禁じられ、モーニング、背広、国民服着用が命じられたそうだ。そこには職務を全うせよという強い意志が存在している。

思うに平時の宰相であったならば、存外、史上最高の宰相と言われた可能性があるんじゃないかと思う。話はちゃんと聞くし、守るべき規律はちゃんと守るし、陛下の信任も厚い。敵も多いかも知れないが、同時に味方や好意的に接する者も多い。部下の軍人のそれは兎も角、人脈は広いし、閣僚は逸材が揃っている。

もう少し読み進めてみようと思う。

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