ダラナ 2022/10/18 15:53

BL短編集「俺にはもう おまえしかいない」試し読み


電子書籍のサンプル↑



【俺にはもうおまえしかいない】



「彼女ほしー」

学食の貧乏学生の味方、安くボリューム満点のきつねうどんを前にしながらも、食がすすまず、箸で厚揚げをつまみ、ため息をついた。

顔をあげても、狐の耳をつけた美女はいなく、いや、でも、顔立ちの端正さは劣らないイケメンが、コロッケを頬張っている。

咀嚼するイケメンは応じず、隣の奴が「また、フられたのか」と呆れたのに「『また』じゃない!大体、いつも告白すらできない!」と我ながら虚しくなるような、反論をする。

中学で思春期に差しかかってから、大学三年に至るまで、恋人ができたことがない、我は童貞。

ふつーに女子に関心があるし、ふつーに欲情をするし、その上で、節度を持って接するから「話しやすい」「おもしろい」と親しまれているはずが、先もぼやいたように、告白の段階まで辿りつけたことがない。

相手と距離を縮め、親密になって「これはいける」と踏みだそうとすると、たいてい「気になる人がいて」と相談されたり「いい人ゲットできそう!」と自慢される。
まあ、そうして出鼻を挫かれ、すぐに諦める俺も俺なのだけど。

「にしたって、こう、立てつづけだとなあ」とまた、ため息をつき、厚揚げを噛もうとしたら「合コンで知り合った子か?」と聞かれた。

コロッケを飲みこんだイケメン、幼馴染のオサムに、だ。

「そーそー。
シャイな子だったから、ひそかに連絡交換して、じっくりゆっくり仲良くなっていこうとしたのにさあ。

昨日、急に『彼氏ができそうなんです。ごめんなさい』って連絡きて、それから、一切、応じてくれなくなったんだよー」

耳たこな失敗談を茶化さないで「そりゃ、ひどいな」と宥めてくれるオサムは、見た目がとびぬけてのイケメンなら、高校から彼女一筋という心もイケメン。

周りに彼女を紹介せず、幼馴染の俺にさえ、名も顔も教えてくれないあたり、かなりの秘密主義とはいえ、それはそれで「よほど彼女を大切にしているんだ」と女子の株を上げているとか。

モテるのを鼻にかけなければ、彼女の自慢をせず、惚気もしないし、他の女子になびいたり、浮気もしない。

と、女子だけでなく、ひねくれやすい童貞にも、ありがたい存在とあって「なんか、俺、呪われてんのかなあ」とつい愚痴ってしまう。

味噌汁をすすったオサムが口を開こうとして「おっはよー二人ともー」と挨拶が降ってきた。
ふり向いて見上げれば、これまた、目が覚めるようなイケメン。

「おはよお、じゃないよ。また寝坊か?」

「朝、弱いんだから、しかたないじゃない!
ていうか、あんたこそ、寝起きみたいに、顔色悪いわよ!」

口調からして、お分かりの通り、もう一人のイケメンにして幼馴染のヨイチは、オネエ。

小学校中学年から、この調子だけど、いや、あらためて聞いたことがないから、本当のところは分からない。
キャラなのか、女になりたいのか、恋愛対象はどっちなのか、どっちもなのか。
少なくとも、幼馴染トリオの間に恋愛沙汰を持ちこんだことはない。

ジェンダーが曖昧で、オサムと同じように秘密主義だけど、長いこと問題なく親しいまま。
個人的には、オネエキャラに助けられているところもある。




「いやいや、ファーストキスだから!しかも、いきなりエロいやつって!」とツッコみたいところ、舌がもみくちゃにされて、もごもごと言葉にならず。

息つかせないよう、口づけしつつ、指で耳の縁をなぞったり、顔の輪郭を撫でたりと、上級テクニックを施されては、二十二年彼女なしの童貞が抗えるわけがない。

早々、白旗をふって、されるがまま「ふあ、あ、んあ・・・」と、すっかり乙女気分にうっとりとする。

酒と傷心で、やけにもなっているのだろう。
「初めてで失敗するより、上級者に実践で習うほうがいいかも」といっそ割りきって、粘着質に舌が絡んでくるのを受けいれつつ「にしても、がっつくなあ」と薄目に見やった。

泣きそうなのを、耐えるように目を瞑り、遮二無二、口に吸いつくさまを見て、また胸をきゅんとする。





【ショタの叔父にキスされたんだが】



俺が二十歳のときに、十歳の叔父がいるのを知った。
祖父の葬式のときにだ。

ちょうど十年前あたりから、さらに偏屈になった祖父が、親戚を寄せつけずにいたとはいえ、まさか隠し子を設けていたとは。

最期まで祖父が隠し通したものだから、親戚一同、実家にもどったところで、隠し子と初体面する羽目に。

隠し子、梢(こずえ)がいうには、物心がつく前に、亡くなった母親の記憶はなく、その名も素性も、祖父は教えてくれなかったらしい。

込みいった事情があるにしろ、自分のほうが先立つとなれば、後先のことを考え、情報開示の準備をしておくべきところ、あの偏屈爺、遺言書どころか、梢や母親について知れる手がかりを一切、残さず。

そりゃあ、降って湧いたような謎だらけの隠し子の扱いに、親戚は頭を悩ませたけど、天下一品に能天気な親が「私たち、男の子、もう一人、欲しかったのよね!」「夢は諦めるもんじゃないな!母さん!」とはしゃいだことで、場を白けさせつつも、万事解決。

で、俺にとって、十歳下の叔父ながら、弟のような存在ができたわけだ。

ここ十年くらい、親戚一同とは没交渉で、世捨て人のように暮らしていた祖父だけど、梢には抜かりなく、教育や躾をしたらしい。

幼稚園や学校に通っていなかったというも、年並みに体の成長を遂げつつ、社会的知識、勉学の知識、コミュニケーション能力、運動能力を備えていた。

とはいえ、祖父と引きこもりがちだったようなので、礼儀正しい、いい子ちゃんながらも、人に接する態度は堅苦しかった。

会ったばかりの親戚の家に住むとなれば、肩身の狭い思いもしてだろう、中々、打ちとけられず、敬語を使うのもやめられずに。

ただ、他人行儀にされるのを寂しがった親を尻目に、はじめから、俺は懐かれていた。
というか、ずけずけとタメ口を叩かれたもので。

「鉄治」と呼び捨て上等に「おっさんくさい」を口癖に、ダメだしをされてばかり。

小ざかしく、いちいち的を射た指摘をするのに「なんだよー、んなこと、いうなよー」と悔しがって、ふてくされたものを「年上の口の利きかたがなっていない」と注意したり、叱ったりはしなかった。

ふだんから、いじられやすく、後輩に子馬鹿されるのも日常茶飯事で、慣れっこだったし、えげつない先輩に比べれば、十歳児の生意気さなんて、愛らしいものだったし。

それに、二人きりのときだけ「鉄治」「鉄治」と憎たらしい口調ながら、しきりに呼ぶのが、甘えているようで、満更でもなかったし。



了承をしないうちに、胸倉をつかんで起され、抱きしめられた。
上から顔を寄せて、上唇を舐め、開いた隙間から舌をねじこむ。

まだアルコールが抜けない体は無気力だし、思春期を含めた七年を、取りもどすような勢いで求められては、逃げようがなかった。

俺だって、かなりのご無沙汰だったから、口内の粘着質な生温かさに快くなって、もっともっとと、舌を差しだしてしまう。

思えば、キスをしたのは、そう、ちょうど十年ぶり。
大学に入ると同時に彼女ができたものの、梢を引き取った直後に別れた。
それからは、梢にかまけていたこともあり、縁がなく、大学卒業後は仕事に追われて、暇がなく。

「あれ?どうして彼女と別れたんだっけ?」とほんの余所見に考えたら、背骨をなぞるように、指で撫でられた。

「は、あ・・・!」と肩を跳ね、甲高く鳴くも、すぐに唇で覆われ、息つかせず、ぐちゃぐちゃと口内を荒らされる。






【愛を知らない彼は俺を貪る】



「あらあ、もう、相原くんがくるころなのねえ」

「献血カード」を差しだしたのに、受け付けのおばさんが、にこやかに受けとる。

おばさんの言葉から、お分かりの通り、僕は、この献血センターの常連だ。
決められた期間を空けて、水曜日にセンターに通うのを、ここ一年、つづけている。

「高校生なのに、ほんと偉いわあ。
今、ちょうど、桜川くんの手が空いているから、すぐに、できるわよ」

誉めてくれたのを笑って流してから、指定された番号の診療チェアーへと向かう。

「やあ、相場くん、久しぶり」と迎えてくれた若い男は「って感じがしないな」と軽口を叩くあたり、受け付けのおばさん以上に、常連の僕とは気心が知れていた。

というのも、桜川さんは、僕専属に血を抜いてくれる人だからだ。
本来は「この人に血を抜いてもらいたい」なんて指定はできないけど、僕の場合は訳があって。

血管に針を刺しにくい腕をしているので「どんな腕だろうと刺せない針はない」と定評の桜川さんしか、対応ができなという。

「どうしても桜川さんじゃなきゃ、やだ!」と駄々をこねたわけではないものを、物腰柔らかく、人当たりがいい桜川さんが専属になったのは、棚から牡丹餅だった。

なにせ、血が抜かれるとき、体が芯まで冷えて、目が回るものだから。
堪らず「一人でいると耐えられない」と訴えたのを、聞き入れてくれたのは、お人好しな桜川さんだからこそ、だろう。

もう一年以上、献血しているとはいえ、いまだ肩を震わせ眩暈を起こす僕に、つきっきりで手を握りながら語りかけ、気を紛らわしてくれている。
語るのは主には仕事こと。

献血センターのあれこれをはじめ、本業の看護師として勤める(週一で献血センターに派遣されるという)病院での珍事件、珍患者などを、面白おかしく聞かせるものだから、眩暈より、噴きだすのを堪えるほうが、困ったり。

看護師の仕事内容自体、興味深かったし、今や、献血だけでなく、桜川さんとのおしゃべりを目的に、センターに通っている節があるほどだ。

今日の語りは、献血センターにまつわる怪談のようなもので、夜遅く、忘れ物をとりに戻ったところ、輩っぽい人を見かけたのだとか。




頬から手を滑らせ、うなじを掴んで、引き寄せた。
僕の肩に顔を埋めさせたなら、耳元に頬ずりするようにして囁いて。

「新鮮なまま飲まないと」

耳たぶを唇で食むと、顔をぶるりとしたものを、突き放したり、上体を退けることなく、僕の首に噛みついてきた。

勢いよく歯が食いこんだのに「ぐうっ!」と呻きつつ、むしろ、うなじを掴む手の力をこめる。

吸血鬼であるまいし、ましてや、桜川さんに犬歯や八重歯はないのだろう。
いくら齧っても、肌は裂けることなく、苛ただしそうに、歯で挟んで引っぱったりしている。

案外、痛くはない。
いや、桜川さんが僕の血を欲してやまずに、もたらす痛みなら快くて「ふ、あ・・・」と熱く吐息し、うなじに爪を立てる。





【血濡れた少年は嘲笑う】



俺の通うスイミングスクールには、人魚姫がいる。

もちろん、仇名だけど、相手は中学生男子だ。

そう称されるだけ、スクールで一番の成績を誇りつつ、容姿端麗。
しかも、白人と日本人のハーフで、某世界的アニメの彼女のように、赤毛で青みがかった、ぱっちり、お目目をしている。

白人特有の、透きとおった肌色をしながら、日本人らしい、きめ細かい肌質も兼ね備え、おまけに乳首はピンク。
まだ本格的な成長期に突入していないようで、同年の女子より背が低く、そう筋肉質でないとあり、スイミングスクールで上半身裸なのは当たり前でも、どこか目のやり場が困ってしまう。

長い睫毛を伏せて、流し目をしようものなら、お年ごろな男子は、くらっときそうなところ。
が、スクールの、むしろ男子のほうが、警戒をしていた。魔性の人魚姫の疑いがあるからだ。

一年前のこと。時代錯誤に精神論を至上とするコーチがいた。

「努力すれば報われる!」「諦めないことが第一だ!」と猪○節に励ますばかりで、経験や専門的知識を生かしての指導をせず、まあ、暴力や暴言をしないから、そう害でもなく。
生徒が白けようと、かまわず「元気があれば、なんでもできる!」と高笑いをするのが、どこか憎めなかったし、大会などで、お通夜な空気になっても、おかまいなしなあたり、助けられることもあって、なんだかんだ生徒は慕っていた。

が、ある日、突如、スクールをクビになってしまい。
なんでも、人魚姫にいかがわしい行為をしたのが発覚したとかで。

「人は見かけによらないな」と一言で、とても片付けられないほど、生徒らはぴんとこなかった。

頭を撫でたり、肩に手を置いたり、背中を叩いたり、生徒に触ることはあっても、ほぼ一瞬で、逆にべたべたするほうでなかったし。
なにより、人魚姫のことが眼中になさそうだったし。
スポ根漫画のキャラのようなコーチと、リアル少女漫画の人魚姫との相性は、見た目通りによくなかった。

というか、あの博愛主義なコーチにして、人魚姫を疎んじていた節がある。
曰く「お前は心から、水泳を愛していない」と。

百歩譲って「純粋な水泳馬鹿に見えたコーチにも裏の顔があったのだろう」と飲み込んだとして、それでも、どうしても拭えない疑問がある。

騒動発覚後も、一日も休まず、人魚姫がスクールに通いつづけたこと。

こういう場合、好奇の目を向けられ、変に気遣われるから、被害者であっても、なんとなく疚しく、居たたまれなくなるもの。
はずが、コーチがクビなったのを知らされた直後も、なにくわぬ顔をして、心なし、口角が上がっているように見えた人魚姫。

自分の美貌と華麗な泳ぎに魅了されない、とくに男が許せない。
そう思っているのではないか。

突然のコーチ解任騒動で、そんな印象を持ったスクールの男子らは肝っ玉を冷やし、コーチの二の舞になるまいと、人魚姫の機嫌を損ねないよう、日々、注意を払っている。

距離を置きすぎず近づきすぎず、顔色を窺って揉み手を欠かさない。

で、まさに「姫」のように彼は、中学生グループに君臨をした。
コーチも口ごたえできない、独裁的な空気だったのが、新たなコーチがきてから、風向きが変わって。

新たに就いたコーチは、人魚姫が恋する王子うってつけの、脳天からつま先まで清涼感溢れる若いイケメン。

精神論至上主義とは真逆に、大学院で研究をしていたとあって、インテリらしいアプローチをした。

やや理屈っぽいとはいえ、的確で分かりやすい指導をしてくれるし、親しみやすくもあり、人懐こい笑みで、男子らもきゅんとさせている。

見た目も性格も満点の新コーチは、気高い精神もしており、できるだけ、公平平等に生徒を扱った。
そう、人魚姫がぶりっ子をしても、鼻の下を伸ばすことはない。

ショタコンホイホイに引っかからず、独裁的な空気も読まないコーチは、さらに異例なことに、俺に目をつけた。

しかも、練習が終わって「先生、僕、分からないことがあってえ」と腕を組んできた人魚姫を「悪い、今度な」と退けて、だ。




水着にトレーナーを羽織った格好で、胸と腰、太もも、手を後ろに、足を前に縄でくくられている。

身動きがとれないながら「やめてくれ!」「なにを怒っているんだ!?」と滝のように汗を滴らせるコーチを、頭の先から足のつま先まで写してから、「コーチは俺に指導をしたでしょ?」と喚く口に手を当てた。

「もっと指先まで神経を使って、一つ一つの動作を丁寧にしろって。

なに?
人魚姫という、あだ名のくせに繊細じゃなくて、みっともなく泳ぐ、がさつな奴って、ディスっているわけ?」

「そんなこと・・・!」と声高に返そうとして、口から滑らせた手で、首を絞められ、息を飲む。

さほど力は込められてなさそうとはいえ、対面する人魚姫がどんな顔をしているものやら。

顔を青白くし、震えるばかりで、口を利かなくなったのを、笑ってか、画面が揺れる。
しばし首を撫で、つっと滑らせ、鎖骨、肩、脇へと、指を伝っていった。

なるほど、見惚れるほど、繊細でしなかや、躍るように肌を這う優美な指使い。
と、前にした指導を前言撤回したいところ、涙目で頬を上気させる新コーチは、胸を揉まれて、唇を噛んだ。

顔を振って、涙を散らし「う、ぐう」と呻く。

「ほら、身を持って、俺が人魚姫の名にふさわしいかどうか、判断してよ」

尖った爪で乳首を引っかかれて「は、あ、う、ん・・!」と口の隙間から、濡れた息と涎を漏らし、顔の赤みを首まで広めていく。

ちょうど縄に引っかかるものだから、身悶えるにつれ、いじっていないほうも、乳首を腫れさせ、そのうち腰を揺らしだした。
気づいて、画面が下を向き、閉じた足の間から、せり上がったのを写す。



DLsiteで電子書籍を販売中↓
https://www.dlsite.com/bl/work/=/product_id/RJ404625.html

ギフト券発行中!
先着一名様が無料で小説を。
「送信する」ボタンを押すと、すぐに読めます↓
http://dlsite.jp/c7abgav/DWT1-I2Q5-MBBJ-2CB0

この記事が良かったらチップを贈って支援しましょう!

チップを贈るにはユーザー登録が必要です。チップについてはこちら

記事のタグから探す

月別アーカイブ

限定特典から探す

記事を検索