黄昏の梅干し 2022/08/31 09:20

#私が死んだら大地に帰して:あとがき兼元ネタ【再掲】

※『私が死んだら大地に帰して』読了後を想定して記事を書いております。

今回、本のなかにあとがきを入れるスペースがなかったため、こちらにあとがき兼元ネタの紹介を書いてみようと思います。
元ネタの話って、そんなの言われなくても分かるよ! って思われそうでなんだか恥ずかしいのですが、元ネタへの敬意も含めて書いていこうと思います。

まず今回、どうして匈奴ベースにしたんだっけなあって思い返してみれば、おそらく逆縁婚・レビラト婚が書きたかったんだと思い出しました。


レビラト婚
https://ja.wikipedia.org/wiki/レビラト婚

それでおそらくそこから肉付けしていったんだと思います。
ではそれ以外の要素をまとめていきたいと思います。


・祥蕾と茘揺
今回の右キャラとヒロイン(?)の二人ですがモデルはもうあまりにもあからさますぎますね。王昭君、そして蔡エン(蔡文姫)です。
それぞれちりばめたエピソードがあります。

王昭君 https://ja.wikipedia.org/wiki/王昭君
→絵に描かれる際、いつも楽器を抱えている(祥蕾)
→後宮にいたが、皇帝の縁者として嫁ぐ(茘揺)
→一人目の夫を失い、その息子に引き継がれている(祥蕾)

蔡エン(蔡文姫) https://ja.wikipedia.org/wiki/蔡琰
→匈奴に攫われて左賢王のもとに(祥蕾)
→子どもを置いて草原を去る(茘揺)
→見ていなくても切れた絃の音階が分かる(祥蕾)


はじめはわりと茘揺が昭君、祥蕾が蔡エンみたいなイメージでしたが、最終的にミックスされました。
ちなみに劉細君というまたべつの遊牧民へ嫁いだ女性もおり、歌が残っているのですが、こちらが草原へ行った彼らの気持ちを考えるうえでとても参考になりました。
https://chinese.hix05.com/Han/han09.uson.html


・豊雨将軍
祥蕾の祖父である将軍ですが、李陵をイメージしています。とはいえ李陵は和解派ではありませんが……。
ちなみに、当時降伏した李陵を無実と訴えた司馬遷は宮刑に処されています。これには後から気付いたのですが、豊雨と祥蕾の関係性に近いですね。

李陵/中島敦
https://www.aozora.gr.jp/cards/000119/files/1737_14534.html


・キャラクターの名前
これは元ネタとかではないんですが……はじめにこの話をぼんやり考えた時に仮名で適当にカイランとつけたんです。なんとなく響き的にいけるかなと思って。
それで調べてみたら、カイランって中国の野菜なんですね。はじめこそ、いや野菜はないか……って思ってたんですけどだんだんサ●ヤ人みたいでいっそいいよね!? となったので、草原の皆さんは全員そうしました。

カイラン、サイシン、チシャ、タサイ(ターサイ)、ワワ(ワワ菜)はみんな葉物です。
ウージンは蕪。
茘揺は茘枝(ライチ)ご存じ楊貴妃が愛した果物。字面が美しすぎる。
祥蕾は蕾、祖父・豊雨は雨。ここは植物というか、最終的に豊雨の想いが祥蕾に引き継がれたので、豊かな恵みの雨によって蕾が咲いた。そんなイメージです。
そしてタリタルス……彼は生い立ちが複雑なこともあり、タルタルソースから取りました。気に入っています。そもそもタルタルがモンゴルのことをさすので(いい意味ではないですが)


・マヌルネコのチシャ
これは元ネタではなく弁解なのですが、匈奴がいたとされるゴビ砂漠にはマヌルネコはいないそうです。
https://pz-garden.stardust31.com/syokuniku-moku/neko-ka/manuru-neko.html

>しかし、ゴビ砂漠やキジルクーム砂漠、カラクーム砂漠などでは見られず、比較的標高のある山地に生息している。
なので、カイランはずっと「なんだこれは」となっているんです。
祥蕾が攫われてひとりぼっち、チシャもたまたま迷い込んでひとりぼっち。みたいな出会いでした。
一度だけ上野に見に行ったことがありますが、その時は話に使うなんて思わなかったな。マヌルネコの番組もいろいろ観たりしましたが、それでもイメージがうまくまとまらなくて……ほぼほぼ猫になってます。ナァーーーオン。
ちなみに猫はやはりネズミ捕りとして存在していたそうです。


・ある時に鉄が現れた
伝承的に入れたこの話ですが、参考文献を読んでいてなるほどと思いました。
それまでは鉄という力がないので、静かに遊牧をしていたそう。でもやはりそれでは生活は豊かにはならなかった。鉄を手に入れ武器を手にして、騎馬遊牧民は栄えていったということらしいです。


・金狼、銀狼
なにかメインになる称号の動物を考えて、はじめは鷹でした。金の鷹。
でもやっぱり草原といえば蒼き狼のイメージが強すぎて……そのまま使うと匈奴じゃなくてモンゴルになってしまうので、色を変えました。
https://ja.wikipedia.org/wiki/蒼き狼


・青燕草
これはモンゴル、シベリア原産の大飛燕草からとっています。
https://www.weblio.jp/content/大飛燕草
有毒らしいですが、おそらくあんなに恐ろしい毒ではないです。
蟲毒の解毒剤になってましたけど、当然オリジナルです。蟲毒の絃が赤い設定なので、なにか青いものをぶつけようと思ったメタネタみたいなものですね……。


・蟲毒の絃
もちろんオリジナルです。ただ、怨念が四方に飛び散るっていうのは資料で読みまして……よくゲームの楽器系武器って、謎に音波みたいなものが飛んでいますよね。なのでその辺をミックスした、このお話のなかでもファンタジー度の高い要素です。
祥蕾以外のひとが蟲毒の絃で苦しまなかったのは、祥蕾の箜篌の腕前ゆえかもしれませんね。本人が苦しかったのはもろに念を受けたため、と思います。


・アルトゥガナンの実
スーパーフードといわれるサジーです。しかし書く前に食べられず……味に確証がないためそのまま使うのは諦めました。
モンゴルではチャチャルガンというそうで、アルトゥ→金色と合体させてアルトゥガナン。「ナ」をどうして入れたのか忘れてしまいました……。


・赤い蝶
自らを燃やすという話は、いろいろありますよね。うさぎでもさそりでも。みな自己犠牲のお話です。
祥蕾の場合の「燃える」は比喩的ですが、愛ゆえの自己犠牲ですね。


そういえばカイランにモデルは特にいないです。サイシンは割と史記で語られている、強くてときに残酷なイメージがあります。
カイランはさっぱりとしたヒーローな感じでしょうか。兄コンプレックスを書いてみたかったので、あまり匈奴の雰囲気らしくないキャラになりました。

とにかく伝承が語られるもの、英雄の再来ものが好きなんだなと最近気付きました。いまさら?
金狼の再来、歌う赤い蝶の再来、とても楽しかったです。転生ものの意図で書いたわけではないですが、わたしとしてはどちらでもいいなと思ってます。転生でも、たまたまそれが二人に当てはまっただけでも。

あとの細かい風習とかいろいろあるのですが、鉄の話も含めて素晴らしい参考文献の皆さんに記されているので興味がありましたらぜひ!
ちなみにはじめは匈奴の本一択で調べていたんです。しかしどうーーしても時代が古くて、生活のことはどうにもならず、〆切半月前くらいになっていよいよモンゴル関連の本を集めはじめました。なので読み切れてはいません。佐竹さんの次回に活かしたいですね。


今回のお話は、ラストのところまでがかなりスロースタートになってしまって、それが心残りなのですが自分の書きたい場面は書ききった、という感じです。なので満足してます。


【参考文献】
東方選書『匈奴―古代遊牧国家の興亡【新訂版】』著:沢田勲
中公新書『騎馬民族国家 日本古代史へのアプローチ 改版』
著:江上波夫
角川選書『魂のありか 中国古代の霊魂観』著:大形徹
ちくま学芸文庫『史記7 列伝三』著:司馬遷
訳:小竹文夫,小竹武夫
白水社『鉄の古代史3 騎馬文化』著:奥野正男
朝陽選書『モンゴル草原の生活世界』著:小長谷有紀
原書房『モンゴルの馬と遊牧民 大草原の生活誌』著:野沢延行

【リスペクト】
中島敦『李陵』
井上靖『宦者中行説』

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