ひゅー!!! 2022/11/21 08:15

戦慄!ザンギャックの凶悪戦隊【後編】

 太陽も低くなってきた街の空を、二つの光の線が飛び交っていた。
 人の目には捉えられない程の速さでビルの屋上から屋上へと飛び移っていく桃色と黄色の光は、街の隅々までを虱潰しのように移動していく。
 やがて二つの光は、残像を産みながら加速を緩めていき、この街で最も高いビルの屋上で動きを止めた。

「奴ら、まだ通信はしていないようだね」

「私たちが通信パターンを吸い取った事に気が付いたんでしょう」

 ネジピンクとネジイエローはマスクのこめかみに指を当て、目当ての信号を探していた。いまや街中に張り巡らされた電波の網から、たった一つの正解を探し出すのは至難の業だ。
 しかしモバイレーツでの通信と、ゴーカイジャーへの変身を行う際に発せられる信号のみに標的を絞れば、その糸を辿ることはネジレンジャーにとって容易いことだった。

「まあ、所詮は勝ちの決まった隠れんぼ。久しぶりの狩りをゆっくり楽しみましょう」

 ネジイエローが肩を揺らして笑う。
 もしもルカとアイムが全ての機器を捨ててガレオンへ逃げ帰るという選択をしていても、生身で歩く二人など空からすぐに探し当てられる。
 獲物にとってこの逃走劇は、最初から詰んでいるも同然だった。
 そう、獲物がただ逃げているだけならば。

「ッ!? かかったぞ!!」

 ネジピンクが反射的に大きな声を上げた。釣られてそちらを向いたネジイエローに向けて、矢継ぎ早に説明する。

「これは通信じゃない! ゴーカイジャーに変身した時の信号だ!」

「へぇ、まさか私たちと戦うつもりかしら? 面白くなってきたわね」

 ネジレンジャーはその場から飛び立つと、一秒もかからずに再び光の線となり、青と灰が混ざり合ったかのような不気味な模様の空へと消えていった。

 ――その数キロ先にある緑の覆い茂るのどかな公園の中央で、ゴーカイイエローへと変身したルカは一人、サーベルを両手に握り佇んでいた。
 辺りに人の気配はなく、強くなってきた風と、それによりざわめく草木の音だけが染み渡る。
 そんな静寂を打ち砕くかのように、二つの光の筋が、大きな音を立てて空から落ちてきた。
 立ち上った煙が晴れていくと同時に、ネジピンクとネジイエローの邪悪な姿が顕になっていく。

「どういうつもりだ? 何故一人しかいない?」

 その場にルカの姿しかないことに気付き、ネジピンクが低い声で問い質す。同時に辺りの信号を探るが、自身の標的であるゴーカイピンクの気配はどこにもなかった。

「ふん。あんた達の相手なんか、私一人で充分ってこと」

 右のサーベルを肩に担ぎ、左のサーベルの切っ先を敵へと向けながら、ルカが不敵に笑ってみせる。
 その意図を悟ったネジイエローが哀れむような声で笑った。

「ふふ。なるほど……あなたが囮になって、せめて仲間だけでも逃がそうって訳ね。健気で泣かせるじゃない」

「チッ、ゴーカイピンクは基地へ向かったということかッ」

 遅れて悟ったネジピンクが、標的を逃すまいとその場から駆け出す体勢をとる。
 それをネジイエローが宥めるように制した。

「まあ待ちなさい。まずはこの仔猫ちゃんをボロボロに痛めつけて人質にし、ゴーカイピンクを誘き出して狩る……その方が効率が良いはずよ」

 ネジイエローの口車に乗せられて良いものか、数秒黙り込むネジピンクに向けて、ルカが焚き付けるように声を上げる。

「ほら、出来るもんならやってみなさいよ。あんたらみたいな雑魚、二人まとめて返り討ちにしてあげるんだから」

 その挑発によって、ネジピンクがゆっくりとルカの方を向いた。
 敵意……それを通り越した殺意が、肌を刺すように自身へ向けられているのを感じながら、ルカは二対のサーベルを構える。
 そこからは会話も音もなく、ネジピンクとネジイエローが無駄のない動きでルカへと襲いかかった。
 ルカは構えを取ったまま、微動だにせず敵の急襲を見つめる。囮は囮らしく、ただ役割を果たすだけだ。
 そう。敵の意識がこちらにだけ向くように――。

「はああぁあァ!!」

 空気を裂くような勢いで響いた声は、ルカの物でも、ネジレンジャーの物でもなかった。
 何処からともなく放たれた二つの光弾が、ルカだけを見て走っていたネジイエローとネジピンクのマスクへと正確に命中する。

『ぐああァ!?』

 突然の攻撃に、ネジレンジャーは初めてダメージを浴びて後ろへ吹き飛んだ。すぐさま弾が飛んできた方向へ目を向けたネジピンクは、驚愕する。
 そこには自分の標的がいた。
 そう、かつての戦いで仕留め損なった、憎き憎き存在――。

「メガピンク!!」

 名を呼ばれたメガピンクは、サイバースライサーと呼ばれるジェットボードに乗ったまま、メガスナイパーの銃口を敵へと向けていた。
 すぐに立ち上がろうとするネジレンジャーへ向けて威嚇のように銃弾を放ったあと、ルカの元へと華麗に降り立つ。

「やっぱりアイムの射撃は百発百中ね」

「ふふ、作戦成功です」

 もちろんメガピンクの正体は、レンジャーキーを用いて変身したアイムだった。
 体から煙を拭き上げながらようやく立ち上がったネジイエローが、苛立ちが噴出したように二人へ尋ねる。

「何故だ!? この付近にゴーカイピンクの、信号は……」

 言いながらルカとアイムの作戦に気が付いたネジピンクの台詞が、少しずつ勢いを失っていく。
 その言葉尻を引き取って、アイムとルカが今回の作戦のタネを明かす。

「信号を察知されずに変身する方法が、わたくし達には一つだけありました」

「そ。これさえあれば、ゴーカイジャーの姿を介さずとも直接レジェンド戦隊の姿に変身できるってわけ」

 ルカが取り出したのはメガイエローのレンジャーキーだった。
 それをバックルへと装着すると、ゴーカイスーツは一瞬にして淡い黄色の光に包まれ、メガイエローの姿へと変貌する。

「ゴーカイジャーに変身した時の信号にだけ気を取られてたあんた達は……」

「離れた場所から隙を伺う“メガレンジャー”には、意識が行かなったということです!」

 並び立つ『メガピンク』と『メガイエロー』が、ネジレンジャーに向かってビシっと指をさした。
 最も憎むべき姿をした相手に手玉に取られたことが、ネジピンクとネジイエローのドス黒い怒りに火を点ける。

「貴様らああああああァ!!」

「良い気になるんじゃないわよ!!」

 再びこちらへ走り出してきたネジレンジャーだったが、先程の隙をついた射撃によって、そのマスクに大きな傷が付いていることをルカとアイムは見逃していなかった。

 ルカは全身に漲るエナジーを腕へ、アイムは脚へと集中させると、ネジレンジャーに向かって大きく跳躍した。

「ブレードアーム!!」

「フルジャンプキック!!」

 腕そのものを刃物のように硬質化させて敵を斬りつけるメガイエローの必殺技と、脚に全てのエネルギーを乗せて重い蹴りを炸裂させるメガピンクの必殺技。
 二人の渾身の美技が、ネジレンジャーのひび割れたマスクへと叩き込まれた。

『ぐあああああぁあああぁぁ!?』

 おぞましい叫び声と共に、ネジレンジャーの体が凄まじい爆発を巻き起こす。
 熱を帯びた風を全身に感じながら、華麗に着地したルカとアイムはくるりと背を向けて勝利のポーズを決めた。
 こうして、二人の女海賊はかつてない難敵に見事なリベンジを果たしたのだった。



 5

「さ、あいつらのレンジャーキーを回収しときましょ。アレに変身することは無さそうだけどね」

 メガイエローの姿のまま、ルカは悪戯っぽく笑いながら、まだ煙が立ち込める爆心地へ歩いていく。
 同じくメガピンクの姿のまま、アイムも半歩ほど遅れて歩きながら、勝利に昂る心を填めるように胸へ右手をあてた。

「ええ。あんな恐ろしい力、これ以上ザンギャックに利用させる訳にはいきませんもの」

 それにクスッと微笑んで答えたあと、ルカはふと足を止めた。
 脳裏を、一つの疑問が掠めたのだ。

 ――確か、邪電戦隊ネジレンジャーの戦闘スーツは、ネジレジア帝国の王・ジャビウスⅠ世の力を利用することにより凄まじい戦闘力を発揮するという構造だった。
 しかし『ジャビウスⅠ世』も、それどころか『ネジレジア帝国』さえ、メガレンジャーとの戦いにより壊滅し、今はもう存在しないはずだ。
 ならば、今しがたまで戦っていたネジレンジャーの二人は一体、何の力を利用して戦っていたのか……?

 ――ルカの思考を光が止めた。
 煙の中から飛び出してきた眩い光弾は、構える一瞬の間も与えずに、油断しきっていたルカとアイムの胸を正確に撃ち抜いた。

「きゃあああああああぁぁ!?」

 無防備な胸へといきなり叩き込まれた大きなダメージに、ルカとアイムは飛び上がって悲鳴を上げる。
 先ほどネジレンジャーに浴びせた不意打ちが、そのまま自らの身体に返ってきたのだ。メガレンジャーへの変身は解除され、ゴーカイジャーの姿へと戻った二人は背中から地面に打ち付けられた。

「なっ……そんな、まさか……」

 胸を抱きしめるような仕草で痛みに耐えながら、アイムは光弾が飛んできた方向へと視線を投げる。
 先程の必殺技により巻き起こった砂煙が、ゆっくりと薄くなっていく、その向こうから、二つの黒い影が悠然と現れた。

「ふん。どうやら宇宙海賊とやらの底は、この程度のようだな」

「あんな攻撃で私たちを倒したつもりだったなんて、笑わせてくれるわ」

 ネジピンクとネジイエロー。
 その邪悪な装甲には一つの傷も見られない。
 よろよろと立ち上がりながら、ルカは背中から血の気が引いていくのを感じていた。

「どうして……今の作戦は、完璧だったはず……」

 狼狽するルカの姿に、ネジイエローは愉快そうに肩を揺らす。

「残念だったわね。私たちの力の源は今、宇宙帝国ザンギャックから供給されているのよ」

「奴らが侵略したとある惑星から吸い上げられたパワーが、そのままこの戦闘スーツへと流れ込んでくるって仕組みなのさ」

 ルカが抱いた疑念に、最悪の答えが示された。
 ネジレジアからザンギャックの戦士となったネジレンジャーは、宇宙帝国の支配する膨大なまでのエネルギーをその身に宿すことを可能としたのだ。
 その恐ろしい可能性を裏打ちするかのように、ネジレンジャーの二人が得意気に述べていく。

「つまり私たちをどれだけ傷付けようと、立処に再生し、何度でも蘇るという訳よ」

「惑星一つ分のエネルギーを削ることが出来るならば、話は変わってくるがな」

 絶望的とも言える事実に、ルカはしばし絶句する。
 その途方も無いスケールを、アイムが上擦った声で反復した。

「惑星……一つ分の、力……?」

 横たわる重たい沈黙を、ネジレンジャーの悪辣な笑い声が侵食していく。
 ルカは奥歯を噛み締めながら、それでもこの戦況をどう切り抜けるか思考を回転させていた。
 まるで底の見えない体力を持つ相手に対し、持久戦を仕掛けるのはあまりに分が悪い。何度倒しても再生するのならば、敵が二度と身動きできないよう何処かに封印してしまうのが現実的な対処と言えるかも知れない。
 その方法は。手立ては。
 考えをまとめるだけの猶予を、敵が与えてくれるはずもなかった。

「さて。それじゃあ少しだけ、私たちの本気を見せてあげようかしら」

「ククク……精々楽しませてみな、ゴーカイジャー!」

 蘇ったネジレンジャーからは、先程までとは比べ物にならない邪悪なオーラが漏れ出ている。敵がこれまで本気を出していなかったということは疑いようもなかった。
 それでも臆する訳にはいかない。
 これまでもゴーカイジャーは、宇宙帝国という巨大な相手に、不屈の闘志によって立ち向かってきたのだ。
 どんな逆境をも跳ね除ける意思の強さこそが、彼女たちの最大の武器だった。

「アイム、行くよ!」

「はい、ルカさん!」

 マスクの奥の瞳に覚悟の色を浮かべて、ルカとアイムは、果敢にもネジレンジャーに立ち向かっていった。



 6

 ルカは柔軟な身体をしならせて、リーチと威力を限界まで伸ばした蹴りを応酬する。ゴーミンならば一撃だけで即倒させられるような、自慢の足技。

「ふッ! はぁ! やっ!!」

 しかし、ネジイエローはその全てを必要最小限の動きだけで躱していた。まるでルカの攻撃を全て予知しているかのように。

(そんな……どうして当たらないの!?)

 いや、読まれているのは攻撃だけでない。ネジイエローの心眼は回避、防御に至るまで、あらゆる動作を見通していた。
 右足の膝蹴りを警戒すれば左からボディーブローが打ち込まれ、こちらが足払いを仕掛ければ軸足を踏みつけられ逆に転倒させられる。

「あッ!?」

 そして芝生の上に仰向けとなったルカの無防備な鳩尾に、体重と重力を利用したネジイエローの無慈悲な肘打ちが、思いきり打ち込まれた。

「んぐうううぅぅ……ッ!?」

 内臓を押し潰されるかのような痛苦。金属繊維に浴びせられた打撃が、パッと火花を飛び散らせる。
 本気を出したネジレンジャーの悪夢のような猛攻に、女海賊たちはなす術もなく蹂躪されていた。

「はあああぁ! きゃあっ!?」

 前蹴りと共に放たれたアイムの勇ましい掛け声は、一瞬にして悲鳴へと変わる。
 蹴りをスルリと躱したネジピンクが流れるようにアイムの後ろへ周り込み、ガラ空きの背中へ裏拳を叩き込んだのだ。
 前のめりに倒れようとする身体の勢いを迎え撃つように、ネジピンクの鋭い拳がアイムの柔らかな腹部を貫いた。

「ぐふうう゛ぅっ!?」

 本当に肉体を貫通したのかと錯覚させられる程の鋭い痛みに、普段のアイムからは想像できないような濁った悲鳴が飛び出す。
 しかし攻撃は一度では終わらない。
 まるで楽器を演奏するかのように、ネジピンクの拳がリズミカルに振るわれ、アイムの柔らかな鳩尾へとめり込んでいく。

「んう゛ぅ! くッ! ぐぅッ! んふううぅ!」

 抵抗の二文字はあっさりと打ち砕かれた。
 生物としての形は自分と変わらずとも、その中身は全く別次元の存在であることを思わせる、無慈悲なまでの暴力。
 メットの内側に唾液を飛び散らせながら、嵐のような痛みに身を晒すことしかできない。
 ひとしきり“演奏”を楽しんだネジピンクは、ゴーカイスーツの特徴である大きく立った襟を掴むと、そのままアイムを力任せに投げ飛ばした。

「あああぁああぁ……!!」

 その軽い身体はいとも簡単に浮き上がり、アイムは叫びながら空中で手足をバタつかせる。
 その無様な姿めがけて、ネジピンクが強烈な光をまとう破壊エネルギーを放った。
 稲妻のように空中を走る破壊エネルギーは、すぐさまアイムへと追いつき……。

「いやああああぁあああぁぁ!!」

 悲痛な絶叫と共に、ゴーカイスーツが大爆発を巻き起こす。
 残酷な花火を咲かせたあと、煙をまといながらアイムは地面へ叩きつけられた。

「くぁ……! ん、あぁ……は、ぁう……っ」

 痛みから逃れようとするかのように、激しく身体をよじって苦しむアイム。
 ネジピンクはそんなアイムの傍らまで悠々と歩み寄ると、地面をのたうつ羽虫を踏み躙るように、ブーツの踵を振り下ろした。

「んあぁああぁぁ!!」

 胸を思い切り踏みつけられ、その反動でアイムの腰が浮き上がる。痛みが和らぐまでの僅かな時間も与えず、ネジピンクは何度も、何度もブーツを打ち付けた。

「ああぁ!! くッ!! んあッ!! うああぁああああ……!!」

 その苦悶に、ルカの声が重なる。

「あぐっ! く、ううぅうぅ……!」

 ネジイエローの右手が、ルカの首を絞め上げていた。
 漆黒のグローブに包まれた指先が、純白の繊維に包まれたか細い喉頸に、深く深く食い込んでいく。
 変身していなければ、すでに首の骨をへし折られていただろう。その圧倒的な握力と腕力は、ルカの身体を易々と持ち上げる。

「うあッ! ぐ、ぅ……! んんんぅうぅ……!」

 足が地面から離れたことで、首が更に絞め上げられていく。
 ネジイエローの右手を何とか引き剥がそうと抵抗するが、まるで首に根を張ったかのようにびくとも動かない。

「ゃ……あぁ……! 離、し……」

 酸素の供給が絶たれ、苦しみを通り過ぎ、快楽物質が脳を満たしていく。全身の筋肉が弛緩していき、両手がぶらんと垂れ……。

「あっ……あ、ぁあぁあぁ……」

 ぴっちりと肌に密着したタイツの中を、股の割れ目から漏れ出した温かい液体が這っていく。
 内ももを舐め回されているかのような感覚に、ルカの口から思わず矯声が漏れる。

「あっ…… ふ、ぁ、んっ…… あぁあっ……」

 敵の目の前で失禁している羞恥、屈辱すらも塗り潰すような激しい快感が、ルカの頭を白く染めていく。やがて視界までもが、白く、ぼやけて……。

「ふふ。まだおねんねの時間には早すぎるわよ」

 意識が飛ぶ寸前になって、ネジイエローは前触れもなくルカの首から手を離した。
 突如として解放されたルカの足が地面についた時、すでにネジイエローの回し蹴りがその眼前に迫っていた。

「うああぁああァ!!」

 胸にその直撃を受け、火花を派手に飛び散らせながら、ルカは錐揉み回転で吹き飛ばされる。
 草の覆い茂る地面を転がり続け、視界がぐるぐると回る。一気に与えられた苦痛と快楽が、壊れかけの器の中で混ざり合っていくかのように。
 次第に勢いを失い、ルカの身体がようやく止まった時、その傍にはアイムがうつ伏せに倒れていた。

「ルカ、さん……」

 震える声でアイムが名を呼びかける。ルカは何とか顔を上げて、次いで地面に腕を立て、少しずつ上体を起こした。
 肩を大きく震わせて呼吸をしながら、全身の痛みに堪えるように歯を食いしばる。
 
「立って……奴らを、倒さなきゃ……っ」

「ええ……まだ、戦えます……!」

 泥に汚れたグローブに包まれた掌を、土を抉るように握り込む。
 これ程までに嬲られようとも、その闘志は未だに燃え尽きていない。痛み、軋む身体を無理やりに持ち上げて、二人はゆっくりと立ち上がった。
 その様子をネジイエローとネジピンクは並び立って静観していた。
 言葉はなくとも、目前の相手に微かな脅威すら感じていないことを、その余裕の態度が示している。

「負けないっ! 絶対に……!」

「私たちは、何度だって……!」

 握りしめた拳を顔の横で振りかぶって、ルカとアイムは一直線に駆け出した。
 絶望や焦燥、胸のうちに広がる、黒い予感を振り払うように。

「ふふっ、そろそろ終わりにしましょうか」

「死なずに耐えてみな」

 ネジイエローとネジピンクは両腕を胸の前でクロスさせながらそう言い放った。音もなくその腕を脇に引くと、今度は上体をひねって、両手にエナジーを集中し始める。
 敵に向かって駆け出していたルカとアイムの背中を、ゾクリ、と悪寒が襲った。
 これまで重ねてきたザンギャックとの戦いの中でも、味わったことのないような、おぞましい危機感。
 そこからはまるでスローモーションだった。
 構えを取るネジレンジャーの手中に、とてつもない濃度のエネルギーが渦巻いているのが見えた。
 空間を歪ませ、バチバチと弾けるような音を響かせる、邪悪な光が。

『邪電エネルギーアタック!』

 その掌から放出された稲妻のような攻撃が、凄まじい速さで空を裂き眼前に迫ってくるのを、二人は絶望的な気持ちで見ていることしかできなかった。

『きゃああああああああぁあああああぁあァァ!?』

 轟音。明滅。
 火球のような爆発が巻き起こり、二人の女海賊がまるで紙細工のおもちゃのように吹き飛ばされる。
 激しい爆発音の中でも、その悲鳴はハッキリと轟いた。
 これまで最も大きく、悲痛な叫び。それは受けたダメージの重さをそのまま表している。

「うああぁ……!!」

 地面に叩きつけられた痛みは、もはや感じられなかった。 
 全身が焼け爛れたような熱さ。剥がされた皮膚の下を針で刺されるかのような激痛が、絶え間なく二人を襲う。
 地面の上で激しく身悶えしながら、恐る恐る自らの体を視認したルカとアイムを、絶望が見まう。
 強靭なゴーカイスーツはズタズタに破壊され、見るも無惨に焼け焦げた表面部からは内部回路が曝されていた。

「うぅ、ぐううぅ……! あッ、くぁ!」

 ルカは肩や太ももの強化スーツを破壊され、痛みのあまり芝生の上をビクン、ビクンと跳ね回る。

「きゃ、ァ! あうぅ……! ん、くうぅ!」

 アイムは左胸の強化スーツを大きく破壊され、自らの胸を庇うかのように苦しんでいた。
 灰色の煙が立ち込める中に響きわたる、悶え、苦しむ女海賊たちの声。
 これまでも様々な強敵による攻撃を味わってきた二人だったが、ゴーカイスーツが破壊される程のダメージを受けたのは初めての経験だった。
 どんな敵だろうと、諦めさえしなければ必ず勝機はある――。そう信じていた二人の心を、ドス黒い絶念が染め上げていく。

「ほらほら、寝てる場合じゃないでしょう?」

「もっともっと苦しむがいい!」

 敵の声に、それでも反射的に立ち上がろうとしたルカとアイムを、更なる苦しみが襲おうとしていた。
 もはや反撃の手立ても残っていない獲物に対して、微かな望みすら打ち砕くように、破壊エネルギーを放ったのだ。
 ネジレンジャーは獲物を追い詰めることに徹底していた。普段相手にしているワルス=ギル率いるザンギャックとは、一線を画する冷酷さ。

「うあぁああぁああぁぁ……!!」

「きゃああぁぁあああぁ……!!」

 立ち上がろうとしていたルカとアイムは、身体に纏わりつくような電撃を受け、体から搾り取られるような悲鳴を上げた。
 強化スーツの破壊された箇所から、ネジレエネルギーがスーツ内部へ侵入し、回路を破壊しながら全身を駆け巡っていく。
 とめどなく流し込まれる破壊の波が、強化スーツを食い破って無理やり体の外へ出ようとするかのように、何度も、何度も火花が噴き上がった。

「んあッ! ぁう! ぁああぁ!」

「ゃ、あ! きゃあッ! ぃやああぁ!!」

 太ももの筋肉へと繋がる神経回路が犯され、二人の全身は硬直し、倒れることすらできずに悲鳴を上げ続ける。
 ルカとアイムに許されたのは、身体を引きちぎられるような激痛に、ただ蹂躙され、絶望することだけだった。

「くあああぁぁ! かはっ…… あ、ああぁあァ!」
(な、なん……なのよ……こいつら……強、すぎる……)

「きゃあぁあぁ!! あぁ! んはあぁああァァ!!」
(ここまで……歯が、立たないなんて……)

 数の差でも、罠にかけられた訳でもない。あまりにも単純で、だからこそ覆し難い、実力の差。それを全身に刻み込まれながら、ルカの視界が霞んでいく。
 ボロボロの全身から絶え間なく吹き出す火花と白煙の向こうで、全く無傷の敵二人が悠々と追撃を浴びせている。
 敵の口から溢れるのは愉悦に満ちた笑い声。こちらの口から零れるのは苦悶と絶望の入り交じる喘ぎ声だ。

 あまりにも明確な、“勝者”と“敗者”の構図。
 これまで数多の逆境を乗り越えてきた海賊戦隊の二人だったが、もうこの状況を覆す秘策も、体力もありはしない。
 そして最後に残された闘志……戦士としてのプライドも、いま尽き果てようとしていた。

「ぐぁ! あ、あぁ! んああぁ!!」
(もう、ダメ……みんな……助、けて……)

「きゃあぁ! あっ! くううぅ……!!」
(ぃや、ぁ……やめてください……これ、以上は……)

 敵へ向かって、まるで許しを乞うように手を伸ばすルカとアイム。泥にまみれた白いグローブに包まれた指先は、力なく震えている。
 その姿は、二人が戦士から無様な敗者になったことを意味していた。
 獲物の心が折れたことを悟ったネジレンジャーは、不敵な笑みと共に、ようやく攻撃を止めた。

「あ、あぁ、ぁ……」

 地獄の苦しみから開放された二人は息の抜けるような声を漏らす。懇願するように前へ伸ばしていた腕が、支えを失ったかのように、ぶらんと脇に垂れた。

「は、ぁ……んっ……ぁ……ああぁ……」

「うぅ……きゃっ、あぁ……ん……」

 攻撃が終わっても、破壊され尽くした強化スーツの各所でショートが起こり、胸や太ももから火花が飛び散る。
 倒れまいと必死に両足に力を込める二人だが、もはや重力に抗う僅かな余力すら、残されていなかった。

 断続的に起きる小爆発にか細い肉体を揺らしながら、女海賊たちはスローモーションのように、ゆっくり、ゆっくりと崩れ落ちていく。
 まるで敗北のダンスだ。
 弱々しい自分の喘ぎ声がメットの内側で反響するのを聞きながら、二人は地面に倒れ伏した。

 アイムは完全に意識を失っており、めちゃくちゃに破壊された強化スーツが火花を飛び散らせる度に、身体を激しく痙攣させている。
 気品に満ちた美しい声は、いまや切なげな喘ぎ声を震わせることしか出来なくなっていた。

 ルカはまだ微かに意識を保っていたが、指の一本すら動かすことができない。重力によって地面に磔にされているかのようだ。
 バイザーの向こうで、ネジレンジャーの二人がこちらへと歩み寄ってくるのが見えた。その絶望の景色が、少しずつぼやけていく。意識が、闇の中へ、溶けていく。

「ぁ……」

 消え入るような吐息を最後に、ルカもまた意識を失った。
 幾度もの逆境を切り抜けてきた不屈の闘志は、圧倒的な悪の力に蹂躙され、とうとう潰えてしまったのだ。
 こうして二人の女海賊の身と心に、完全なる敗北が刻まれたのだった。




 7

「んっ……ぁ」

 吐息のような声を漏らしたあと、ルカはゆっくりと目を開いた。
 瞳孔を突き刺すような強い光に、思わず眉を顰める。
 メタリックな質感に覆われた銀色の部屋が照明を何度も反射させ、部屋は異様な明るさを帯びていた。

「くッ……ぅああ……ッ!!」

 その直後、ルカの全身を激しい痛みが襲った。
 呻き声を上げながら自らの身体を確認したルカの瞳が、驚愕に見開く。
 部屋の内壁と同じく、シルバーの光沢を放つ謎の機械が、その四肢を完全に拘束していたのだ。

(そうだ……私たち、ネジレンジャーに、やられて……)

 置かれた状況を察知すると同時に、意識を失うまでの映像がフラッシュバックする。
 ネジイエローに徹底的に痛めつけられる自らの姿が脳裡を駆け巡り、それに呼応するかのように、全身の痛みがさらに激しく波打った。

「んぁ、ぁあぁ……!」

 隣から聞こえた悲鳴に、ルカはハッと反応し、唯一自由の効く首を左側へと向けた。

「アイム、大丈夫……!?」

「ルカ、さん……」

 ルカと同じく四肢の自由を奪われた状態で目を覚ましたアイムは、弱々しい声で呼びかけに答える。
 二人の女海賊は、まるで戦利品を飾るかのように並んで拘束されていた。

「んっ…… わたくし達、負けて…… ここは、一体……?」

「多分、奴らのアジトでしょうね。とにかく、この拘束を解かなきゃ……!」

 息も絶え絶えに言葉を紡ぐアイムに対し、ルカは辛うじて動く体を必死によじらせる。
 それを見て自身が拘束されていることに気が付いたアイムも、機械から手足を引き抜こうと痛む身体でもがき始めた。
 気を抜けばすぐに飛びそうになる意識を必死に繋ぎ止め、二人は何とか拘束具からの脱出を試みる。
 ガチャガチャと拘束具の揺れる音だけが、不気味なほど静かな部屋へとこだまする。

 これでもかと言う程に叩きのめされ、敵の眼前で意識を失った。そんな自分たちを、わざわざ生け捕りにしたのだ。
 その理由を考えれば、これから待ち受けている未来にも想像がつく。
 他の仲間を誘き出すための人質として使われるか、情報を聞き出すため○問にかけられるか……。

「ふん、ようやくお目覚めか」

「ご機嫌よう。気分はどうかしら?」

 最悪の想像を断ち切るように、忌まわしい声が金属質の壁に反射した。
 スライドした扉の向こうから現れたネジピンクとネジイエローの姿を認めた瞬間、ルカとアイムの肩が拘束されたままピクリと跳ねる。
 気を失う寸前まで続いた絶望の景色。破壊された強化スーツにネジレエネルギーを流し込まれる、あの苦しみが二人の身体に熱として蘇る。

「んっ……ぁ……」
「は、ぅ……っ」

 吐息のような声を漏らしながら、それでもルカは持ち前の負けん気で、メットの奥から敵を睨みつける。

「……少なくとも、何されたって口を割ったりする気分じゃないことは確かね」

「そうです…… わたくし達は、痛みに負けて仲間を売ったりなど致しません!」

 続いてアイムも凛と張った声で言い放った。
 しかしネジレンジャーはそれを聞き、肩を揺らして大袈裟に嘲笑してみせる。

「何か勘違いをしているようだな。お前たちの仲間の情報など、私には何の興味もないことだ」

「レンジャーキーから蘇った私たちは、ザンギャックの要求通りゴーカイジャーの討伐に協力したわ。ただし……」

 言いながらネジイエローが腕を顔の前まで持ち上げる。ルカに見せつけるように掲げられたその手には、メガイエローのレンジャーキーが握られていた。
 同じくネジピンクも、メガピンクのレンジャーキーを取り出してアイムの眼前に翳す。

「手にした『戦利品』は、好きに扱っていいという条件でね」

 ネジレンジャーはそのレンジャーキーを、ルカとアイムのベルトに取り付けられたバックルへと充てがった。

「な、何を……!?」

 アイムの制止も待たず、カシャン、という音と共に、メガイエローとメガピンクのレンジャーキーがバックルへと収納される。
 ゴーカイチェンジのシステムが起動し、ルカとアイムの体が光りに包まれた。

『あああああぁぁああああぁ……!!』

 ボロボロに破壊されたゴーカイスーツの機能を無理やりに動かされ、電撃に引き裂かれるような痛みが二人を襲う。
 何よりも、敵の手によって無理やり変身させられるというのは、まるで辱めを受けているような悔しさを二人に与えた。
 パァ……と淡い光が収まると、女海賊たちはそれぞれ、メガイエローとメガピンクの強化スーツに身を包んでいた。
 しかし元のゴーカイスーツと同じように、至る所が破壊された無惨な姿だ。

「ああ、ようやく私たちの目的が果たされるのね」

 目の前で全身を拘束されている『メガイエロー』の姿を、ネジイエローは積年の思いが満たされていくかのようにうっとりと眺める。

「ククク…… さあ、もっと苦しみの声を聞かせな!」

 ネジピンクは愉悦に声を震わせながら、『メガピンク』の無防備な体へと手を伸ばす。
 邪電エネルギーアタックの直撃を受け、大きく破壊された強化スーツ。内部回路が露出した右の乳房を、乱暴に鷲掴みにした。

「うあぁああああぁぁッ!!」

 比較的自由な頭を大きく仰け反らせてアイムは叫んだ。ネジピンクの凄まじい筋力で乳房を握られるだけでも耐え難い痛みだろう。そこへ更に、剥き出しの神経回路を苛まれる責め苦が加えられたのだ。

「あぁっ! いやあぁああぁ!!」

「アイム……! ッ、やめなさいよ!」

 その悲痛な叫びに、メガイエローの姿をしたルカが拘束具をガチャガチャと鳴らして訴え出る。
 しかしネジピンクはそんなルカに見せつけるように、アイムの胸をゆっくりと揉みし抱いた。

「くあぁ……! ぁ、はッ……!! んあぁあぁあ!!」

 痛みから逃れようとアイムは必死に身をよじるが、意味をなさない抵抗だ。
 スーツの上からでもハッキリと分かる形の良い膨らみを、ネジピンクは楽しげに掌で蹂躙する。その度にアイムの体は激しく痙攣した。

「許さない……! 絶対に……!!」

 その光景を見せつけられながら、ルカは頭が思いきり熱くなっていくのを感じていた。
 単なる仲間というより、歳の近い妹のように想っていたアイムを目の前で嬲られるのは、姉御肌のルカにとってこれ以上なく度し難いことだった。

「あァら、心配しなくても、あなたの相手は私がしてあげるわよ」

「ッ…… あんたの思い通りになんか、絶対にならないんだから……!」

 そんなルカの怒りを文字通り逆撫でするように、ネジイエローはルカの体へと手を伸ばす。
 ゆっくりと脇腹を撫で上げられ、ルカは唇の両端をキュッと結ぶ。悲鳴を上げることで目の前の敵を悦ばせるなど、プライドが許さない。
 ネジイエローの指先が、内部基盤を覗かせるルカの太ももに沈んだ。

「んあぁあああぁああああぁ……!!」

 その瞬間、ルカは背中を激しく仰け反らせて絶叫した。
 破壊された強化スーツに指を突き込まれるのは、傷口を抉られるかのような鮮烈な痛みをルカに与えた。

「んんっ! んっ! ああぁああああぁぁ!!」

 その反応を楽しみながら、ネジイエローはメガスーツに覆われたルカの身体を好き放題に弄ぶ。
 黒いグローブに包まれた指先が破壊箇所に触れる度、ルカの悲鳴は一段と高く響いた。まるで楽器を奏でているかのように。

「く、ぅ……ッ! んっ……! くああぁああああぁ!!」

 自らの悲鳴が敵を悦ばせている屈辱に、ルカは必死に奥歯を噛んで声を圧し殺そうとするが、露出した内部回路を責められる度にその口は大きく開かれた。
 歪んだ憎悪をぶつけるかのような○問。いつ終わるとも知れない責め苦に、女海賊たちの精神が激しく摩耗していく。
 やがて二人の体は再び淡い光に包まれ、メガレンジャーへのゴーカイチェンジが解除された。

「く、ぅ…… んっ……」
「ゃ…… あ、ぅ……」

 ゴーカイジャーの姿へと戻ったルカとアイムは、辛うじて意識を保っているようで譫言のような悲鳴を繰り返していた。
 再びカシャン、と音がして、バックルからメガイエローとメガピンクのレンジャーキーが排出され、鋼鉄の床へと転がる。

「あらあら、根性がないのねぇ」

 それを拾い上げてネジイエローが笑う。
 ルカはもう言い返す気力すら尽き、肩で息をしながら睨み返すことしか出来ない。
 アイムは痛みの余韻に苦しむように、微かな喘ぎ声を上げていた。俯いているそのメットを乱暴掴んで視線を持ち上げると、ネジピンクが悪意に満ちた声で囁く。

「くたばるなよ、ゴーカイピンク。手に入れた戦利品には、まだこんな物も残っているんだからな」

 その両手に、二丁のゴーカイガンが握られていた。
 偽ピンクに変身した際に使っていた物でなく、紛れもなくアイムが戦闘で愛用するゴーカイガンだった。

「あら、そうだったわね。じゃあ次はこれで楽しむとしましょうか」

 ネジイエローがそれに倣い、二振りのゴーカイサーベルを取り出す。こちらもルカがこれまでの戦いで、幾度もの危機を切り抜けてきた愛刀だった。

 銃口と切先、これまで敵に向けてきたものを逃げ場もなく突き付けられ、ルカとアイムは言葉を失う。
 ただ触れられただけで、悲鳴を堪えることすら出来ない痛みに見舞われたのだ。もし強化スーツの破壊箇所を、武器によって攻撃されたら――。
 その痛みを想像する間もなく、二つのゴーカイサーベルが振るわれる。
 先程の責めにより未だ白煙を上げるルカの肩と太ももを、狂いなく同時に斬りつけた。

「ぃやああぁああああああぁぁ!?」

 頭を思い切り仰け反らせてルカは絶叫した。これまでのザンギャックとの戦いですら味わったことのない、脳が灼き切れるような痛み。
 それは一度では終わらず、サーベルの刃が何度もルカを切り刻む。

「ああああぁあ!! うああぁあ!! くはああぁああぁ!!」

 全ての斬撃が、冷酷なまでに強化スーツの破壊箇所に叩き込まれる。
 精神力ではどうする事もできない苦しみが、ルカの不屈の心を、酸のように溶かした。

「ぐぁっ! あ゛! ぃや……! がはっ! ゃ、ゃめ……やめてえええええええぇ!!」

 仲間の口から飛び出した懇願の叫びを、アイムは絶望的な気持ちで見つめていた。
 どんなピンチでも強気で、悪に対しては不敵な態度を崩さなかったあのルカの口から、想像すら出来なかった台詞が発せられている。
 アイムの心を支えていた大きな柱に亀裂が走っていく。それを打ち砕くかのようなタイミングで、ネジピンクの構えるゴーカイガンが吼えた。

「はうああああぁああああぁ!?」

 至近距離からの銃撃。何発もの弾丸が同時に放たれ、アイムの急所から火花を吹き出させる。

「あ゛あぁあ! んあぁ! ァ! あぁああァァ!」

 メットの中で、アイムの大きな瞳からボロボロと涙が零れ落ちる。声や感情をコントロールできるような痛みのラインはもうとっくに超えていた。
 金属質の壁は、ルカとアイムの悲痛な叫びを吸わずに跳ね返し、室内を狂乱が満たしていく。
 痛み。熱。衝撃。焦げたような臭い。もはや自分が、何を叫んでいるのかも分からない。視界が歪む。意識が食い破られていく。

「うああああァあ!! あッ! あぁッ!! あ、ぁ…… ぁ……」

 けたたましい悲鳴を上げていたアイムの頭が、突然ガクンと項垂れた。脳が許容量を超え、痛みだけで気を失ったのだ。

「くああああぁあああぁ! ぁ、う……! ぐッ…… ん……」

 その後を追うかのようにルカも続けて気を失い、拘束具に体重を預けて沈み込む。
 見るも無惨なまでに破壊されたゴーカイスーツは、ネジレンジャーの責めが終わっても断続的に火花を散らし、着用者を苦しめる。

「んっ……ぁ……は、ぁんっ……」

「きゃ、ぁ……やッ……く、ぁ……」

 意識を失いながらも、二人の女海賊の口からは絶えず苦悶の声が漏れていた。
 その切なげな旋律にうっとりと聞き入りながら、ネジレンジャーの二人はルカとアイムの耳元で囁く。

「さあ、次はどんな風に嬲って欲しい?」

「まだまだ、たっぷりと楽しませて貰うわよ」

 その囁きは、悪夢に堕ちた二人の体を尚もビクリと反応させた。
 完膚なきまでに敗れ、宇宙海賊としての誇りすら打ち砕かれたルカとアイムは、夢の中でさえ苦しみから逃れることはできないのだ。
 その気高い精神が完全に壊れるまで、終わることのない絶望が、二人に絡みついているのだから……。

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