神原だいず / 豆腐屋 2024/07/06 19:00

【再掲 / 玲と悠馬⑪】Dessert

 あたしは、お願いだから早くと泣きながらせがむ悠馬の姿に、心臓が締め付けられそうな思いになった。

 キスをしてあげなきゃ。早く安心させてあげたい。
 顔を近づけると、悠馬が目を閉じる。二人の唇が近付いていく。
 あともう少しでくっつく、と思われた瞬間だった。
 
「へっくしゅ!」
「くしゅんっ」

 二人して、こらえきれずにくしゃみをしてしまった。
 悠馬とあたしはくしゃみが出る直前で顔を逸らし、なんとか互いのくしゃみを顔面に浴びるという事態を回避した。

 あたしたちは互いの顔を見合わせて、ぱちくりと瞬きをした。
 さっきまでのムードはどこへやら。
 二人して鼻をすすって震えているこの状況では、何だか力が抜けてしまいそうだ。

 よくよく考えたら、ろくに体も拭かずにベッドまで来てしまったうえに、二人ともほとんどきちんと服を着ていないのだから、冷えるに決まっている。
 ラブホに行って二人とも風邪を引いて帰ってきましたなんて、そんな馬鹿な事になってはいけない。
 あたしたちは、シャワールームへバスタオルを取りに行った。

「正直、もう媚薬切れてきてない?」

 悠馬の頭を拭いてあげながらそう聞くと、悠馬はこちらをふり返って頷いた。
「風呂上がった後ぐらいから、かなり身体の疼きがましになってきてる。そんなに長くはもたないみたいだな」

「まあ、ああいう薬は、しょっぱなが大事だもんね。興奮して盛り上がってきたら、勝手に気持ちよくなるし…」
 あたしが言うと、悠馬は腕を組んで考え込み始めた。頭を拭き終わっても難しい顔をしている。

 あたしがバスタオルをシャワールームに戻そうと、ベッドを降りかけた時だった。

「……だから、二本くれたのかな」
 今、聞き捨てならない言葉が聞こえた気がするのですが。

「二本?」
 あたしは悠馬の方を振り返った。
「どういう事、二本って」
「玲の同期の人から、薬の瓶を二本もらったんだ。予備とかなんとかって…」

 ベッドへ上り直したあたしは悠馬に詰め寄った。
「それ、どこにあるの」
 急に距離を詰めてきたあたしに、悠馬はぎょっとして身を引く。

「ど、どういうこと」
 あたしは、身を引いた悠馬の元へさらに詰め寄る。
「二本目の瓶。どこにあるの」

「たぶん、カバンの中に入れっぱなしだと…」
「出してきて」
「え?」 

 一体、何のために?と言わんばかりの顔で悠馬がこちらを見て来る。
 しかし、この期に及んで「悠馬に飲ませる」以外の目的があるだろうか。

「出してきて」
 有無も言わせず、あたしは媚薬の瓶を要求した。

 カバンから、小さくてピンク色でいかにもその手の薬が入った瓶を取り出した悠馬は、おずおずとそれをあたしに手渡した。

 あたしはその瓶を悠馬の手からひったくり、中身を一気に口に含んだ。

 口の中に、どろりとした甘い粘液が拡がる。甘ったるさで気持ち悪くなりそうだ。
 急に媚薬の瓶を空けたあたしを見て、悠馬は大いに慌てている。

「何してるんだ、馬鹿、吐き出せ!」
 ええ、もちろん。言われなくとも、今すぐ「あなたの口の中」に全部吐き出しますとも。

 あたしは悠馬の後頭部に腕を絡ませて、無理やりに唇を奪った。
 やっとあたしの意図を察した悠馬は、意地でも薬を飲まないように、必死で唇を堅く閉じている。

 こうなっては仕方がない。最終手段だ。無理やりにでも口を開かせるしかない。
 あたしは悠馬の鼻をつまんだ。口を塞がれ、鼻をつままれ、全く息ができない事に目を白黒させた悠馬は、ついに観念して唇を薄く開いた。

 そこからは、あっという間だった。
 あたしの口から悠馬の口の中へ、どんどん粘液が移動していく。

「んっ、ふ、んんんぅうーっ、ん、ぐっ、ふぁあっ」
 舌を激しく絡ませると、ぐぢゃぐぢゃといやらしい音がして、口の中で薬が泡立っていく。
 悠馬は必死で舌で薬を押し返そうとしてくるが、唾液と混ざり合ってしまった薬は、どんどん彼の喉奥へと流れ込んでいった。
「んっ、んうっ、あぁ、ん、は、んぐぅう」

 顎裏を舌で舐め上げると、悠馬の身体が跳ねた。
 その瞬間、悠馬の喉奥でごぎゅり、と嫌な音がした。
 どうやら今の勢いで、相当な量の媚薬を飲み込んでしまったらしい。

 それまで固く目をつぶっていた悠馬は、目を見開いた。
 やってしまった…! 
 そう顔に書いてあるようだ。

 口の中にあった媚薬をひとしきり悠馬の口の中に移し終えて、あたしは唇を離した。

「わあ…」
 目の前の男は、思わずため息が出るほどに色気を垂れ流していた。

 潤んだ瞳、赤く上気した頬、唾液と混じって口端からピンク色の液体を垂らし、荒い呼吸を整えようと胸を大きく上下させて酸素を取り入れている。

 あたしは自分の口元を手の甲で拭ったあと、悠馬の口元から零れ落ちている媚薬を舐めた。少しの量でも思わず顔をしかめてしまいそうなほどの甘さだ。

「さて、ご機嫌はいかが?」
「さいあく…」
 そんなハートマーク飛び散ってそうなほど蕩けた目で見られたって、何にも怖くないんだけどな…。

 あたしは悠馬の頬を何度かつついた。
「や、んっ」
 つつかれる度に悠馬が切なげに眉を寄せて、可愛い声で鳴くので、あたしは面食らってしまった。
「即効性なんだね。これだけで、もう感じちゃうんだ」
「ふぐ、ぅう」

 どうやら、あたしも悠馬ほどではないが薬を少し飲み込んでしまったらしい。
 さっきから、やたらと体が熱くて、いつもよりもかなり興奮している気がする。

「ごめん。絶対に怖い思いはさせないって誓うけれど」
 まずい。息まで上がってきた。大きく息を吸って、吐いて、無理やりにでも熱を押さえつけようとしたけれど、うまくいかない。
 大体据え膳にも程がある。悠馬の柔くて白い肌に、今すぐにでもかぶりつきたい。

「あたしの餌食になるって言ったのは、君の方だからね」
 食べちゃいたいほどに可愛いってのは、わりと誇張した表現じゃないのかもしれない。
 そう思いながら、悠馬の首筋に吸い付いた。
「あ、ああ、あぁあ…っ」

 きつく吸い上げた部分が充血して、首筋に一つキスマークが付く。
 まるで杏仁豆腐の上に浮かべるクコの実みたいだ。
 あたしは悠馬の肌にしみこませるように、キスマークを舐めた。
「ひ、あ」
 悠馬は、首筋を舐められただけで上ずった喘ぎ声をあげた。

 いつもなら、ぐっとこらえて唸るようにしているだけなのに。
 あの媚薬は長時間効き目が続かないものの、かなりの即効性で感度が上がるらしい。

 キスをしながら、悠馬の身体中をまさぐる。
 胸板、脇腹、腕、腋、首筋、鼠径部、太もも、うなじ、背筋。手のひらで撫で上げたり、指先でなぞってみたり。
 悠馬は体をびくつかせながら、必死であたしの舌を追いかけて来た。
 まだ彼の口の中は甘ったるかった。

 口を一旦離した時、あたしはふと思い出した。
「そうだ、さっき乳首舐めてあげるって言ってたのに、まだしてなかったね」
 悠馬の乳首を口に含んだ。舌の上で転がすと、悠馬が一層甘い声で喘ぐ。

「あっ、ひあ♡ んんぅう、んっ、あ、あぁああん」
 舌先を尖らせて乳首を下から上へ舐め上げているうちに、乳首がだんだん固くなっていくのが感じ取れた。

「ひんっ、き、もちい、きもちいい…っ! だめ、いっぱいなめられ、あう、もう、あぁ…っ♡」
 あたしは一度乳首から口を離した。
「だめって言ったって、舐めてって言ったのは君だからね。イくまで止めないよ」

 乳首でイかされるとわかった瞬間、悠馬はあたしの舌から逃れようと身を捩り始めた。
 しかし、いまやあたしは悠馬に馬乗りになっているし、媚薬でとろけきっている悠馬は、大して強い力を出せない。
 逃げようとしたって、彼が快感から逃れる術はほぼなかった。

「ふう、う、あ、あぁっ、あああん、ひっ、だ、め、も、だめ…っ! きちゃう、きちゃ、うう♡」
 もう「来ちゃう」のか? いつもより絶頂に近づくのが早い気がする。
 やっぱり、かなり敏感になっているようだ。あたしは、悠馬の乳首を強く吸い上げた。

「あぁ、はあぁああっ♡」
 悠馬の背中が大きく反った。吸われるのがお好みらしい。
 あたしとしても、乳首を舐めたり吸ったりした事は今までなかったので、とっても楽しい。これからは積極的に吸っていこうとあたしは心に決めた。

「ふうぅうう、イく、イくぅうっ、も、だめっ」
 悠馬の太ももがガクガクと痙攣し始めた。絶頂寸前のところまで来ているらしい。
 あたしは、舐めていないほうの乳首に手を伸ばした。

 片方の乳首を指の腹でくりくりと虐めながら、もう片方の乳首を舐めるとたまらず悠馬は喘いだ。
「ああ、あぁあっ! ら、めぇ、ほんとに、らめ、イく、イ…っ、や、ぁああ~~~っ♡」

 甘イきして、幸せそうに目をとろんとさせている悠馬にあたしはキスをした。

「ん、ん、んっ」
 彼の柔らかな唇を食むと、悠馬もあたしの下唇を自分の唇で挟んでふにふにと食んでくれる。
 これには参った。とんでもなく可愛い。
 また無意識で新しい甘え方を繰り出してくるものだから、あたしはメロメロになってしまいそうだ。

 傍目から見れば、どう見たってメロメロのトロトロになっているのは悠馬の方なのだが。

 しかし、1回イかせたくらいで終わりたくない。
 ラブホに来た目的は、そもそも悠馬の欲求不満解消だったはず。
「もっとしてほしい?」
 そう聞くと、悠馬は何度もうなずいた。うん、まだまだ満足していないらしい。

 こうなったら、意識がとろけそうになるくらいデロデロに甘やかしてあげなければ。
 そうなると、やはり彼のベッド下にあったいかがわしいビデオの内容にもあったように、ローションプレイをしてあげるべきだろう。

 ベッド横にあったダッシュボードをひっかきまわすと、さすがラブホテル。ローションがきちんと入っていた。しかも、2種類。

 あたしはそのうちの一つを手に取った。
 横に置きっぱなしにしていたバスタオルを悠馬の身体の下に敷いて準備は完了だ。
 チューブをぎゅっと握り、悠馬の身体にローションを垂らしていく。

「あ、あぁ、っ」
 ローションが体に垂れ堕ちて来る感覚すら、気持ちいいらしい。彼の腰が艶めかしく蠢いている。
 悠馬の身体にたっぷりとかけられたローションは、部屋のライトに照らされてつやつやとしていた。

 何となくこの光景に既視感を覚えたが、彼の身体の上でローションを拡げていくうちに忘れてしまった。

 さっきシャワールームで泡を伸ばしたように、彼の身体にくまなくローションを塗り広げていく。
 鎖骨から肩へ、二の腕から手首、指先まで、ぐるりと折り返して脇腹からお腹、胸板とお腹を何往復かした後、鼠径部から太ももの内側のきわどいところをさするように。

 指先で少し圧を加えながらゆっくりと手を動かしていく。
「なんだかマッサージしてるみたいだねえ」
「んぅ、うっ、ふう…」
「お客様ー、気持ちいいですかー?」
「はいぃ…」
 律儀にあたしの真似事に乗っかってくれるあたりが、この男の可愛いところである。
 声が洩れてはいるが、善がってるというよりは本当に心地よいらしい。悠馬の表情は心なしか柔らかい。

「下にバスタオル敷いてるから、うつぶせになっていいよ。ついでに、肩とかマッサージしたげる」
 悠馬は素直にごろりと体勢を変えた。
 あたしは背中にもローションを流しかけて、伸ばし広げていく。

 悠馬は同じ身長の男子たちに比べるとそこまでガタイが良い方ではない。
 身体の線が細くて、中性的だ。背中も白くて、肌はすべすべ。
 ずっと触っていたくなる。

「こら、そんな身体に力入れちゃダメ。余計痛くなっちゃうでしょ」
「んっ、だって、え…っ!」
「これが良いの?」
「んっ、んっうう!」
「ほらほら、ここでしょ。ここグリグリってされるのが、良いんだ」
「いっ、ああ、そんな、はげしっ…!」

 勘違いしないでいただきたいのだが、あたしは今普通に、悠馬の肩こりをほぐしているだけだ。
 決して悠馬の性感帯をあれこれしているわけではない。

「ねえー、バッキバキになってるじゃん。根詰めて夜中にまた本読んでるんでしょ…」

 悠馬が顔だけこちらに向けて、痛みに耐えながら抗議してくる。
「だっ、てえ、いまよんでるの、お、もしろいからぁ、っ…! や、いや、ああ」
「夜にちゃんと寝ない子はお仕置きです! ほらほら、どうだどうだ!」

 悠馬が痛がる所を思いっきり両手の親指でぐりぐりと刺激すると、悠馬はぶんぶん首を振って悶えた。
「んんんん! いった、い、いた、いたぁ、ああ、んぐっ」

 これからも定期的に悠馬の肩こりをほぐしてあげないといけなさそうだ。
 いや、彼女としての義務であって、決してあたしがやたら色っぽく痛がる悠馬を見て楽しみたいわけではない。決して違う。
 神には誓えそうにないけど、違う。

 さて、お遊びのマッサージはここまでだ。

「悠馬、仰向けになれる?」
「ん…」
 仰向けになった悠馬の身体に、あたしはさらにローションをぶっかけた。

 自分の身体を見降ろしながら悠馬はぎょっとした顔をしている。
「ま、まだかけるのか…」
「何言ってんの、こっからが本番ですよ」

 またさっきと同じようにローションを塗り広げていく。
 さっきかけたローションと相まって悠馬の身体はぬるぬるだ。
 しつこく何度も何度も太ももの内側やお腹を指圧しているうちに、悠馬の息がどんどん荒くなり始めた。

「な、にこれ…?」
 あたしは、にんまり笑って悠馬の方を見た。
 当の悠馬は目をきょろきょろさせて、自分の身体に起きた変化に困惑しているようだ。

「今、どんな感じ?」
「なんか、あったかくて、う…っ」
「あったかくて?」
「ぴりぴり、す、るっ。あ、まっ、て、ぬらないで、これ、へん…っ、なに…っ?」

 悠馬の顔の前に、ローションのチューブを差し出した。
「快感倍増!温感ローション、だって」
「へう…っ、ひ、なに、どういうこと、あああっ」
「簡単に言うと、媚薬入りのラブローションだよ」
 あたしの言葉を聞いた瞬間、悠馬の目がみるみるうちに見開かれていく。

 しかし、もうこれだけ塗り込まれているのだから、抵抗したって逃げたって無駄だ。効果はすでに出てきている。

「媚薬2本飲まされて敏感になってる悠馬の身体に、媚薬入りのローションをたっぷり塗ったら、どうなるだろうね?」
「そ、そんなの、おかしくなっちゃう…」
「その通り。おかしくなるまでイかせてあげる。怖い事なんか、全部あたしが忘れさせてあげるからね」

 そうだ。腕をこちらに広げて、「抱きしめて」と目だけで強請る。
 そんな可愛いあなたを絶対に守るって、想いを伝えた日に誓ったんだ。
 怖い事から逃げられないのなら、怖い事が消えないのなら、あたしにできるのは、あなたの怖い事を忘れさせてあげる事。

「おいで、悠馬」


 チューブの中身を悠馬の胸元にたっぷりとかけていく。
 乳首の周りをぬらぬらと指先で刺激しながら、悠馬の反応を見た。

「あっ、は、あん、ひうう、らめ、ちくび、ぴりぴりす、う…っ!」
 まだ乳輪を指でなぞっているだけなのに、まるで乳首を引っ掻かれまくってる時みたいな反応をしている。
 これでは、本当に乳首を触ったら善がり狂うのではなかろうか。

「ひんんっ、さわって、ちくび、ぬるぬるして…っ♡」
「もうちょっと我慢できないの」
「がまん、いっぱいした、もん…」
 「もん」? 「もん」だと? 成人男性がこんなに可愛い「もん」使う事ある? 
 しかも何だ、そのちょっと拗ねたみたいに尖った口。

「さわって、もう、おねがい」
 ええい、腕に縋り付いてうるうるお目目で上目遣いなんて、愛嬌フルコースかお前は! 
 抱きつぶされたいのか! 

「普段も、こんな風になってくんないかなあ…」
「え?」
「イヤ、コッチノ話デス…」
 でも普段もこんな風になったら、悠馬の事が心配で心配で死にそうになるな。
 今だって、大学で空き部屋に連れ込まれたり、通学路で痴○されてないか、気が気じゃないのに。

「そんなに触ってほしい?」
「んっ、んう」
 何度もうなずいている悠馬がどうにも可愛いので、ほっぺたにキスをした。
 本当は頭を撫でてあげたかったんだけど、ローションで手がベトベトだったので無理だった。
 その代わり、あたしの手は悠馬の胸元へと向かう。

 微かに膨れて尖った乳首を、指の腹でとんっと押した。
「ひんぅっ」
 すると悠馬の身体がひくりと跳ねた。もう一度指の腹で乳首を押すと、また跳ねる。
 「押す、跳ねる」という一連の流れを繰り返しているうちにだんだん楽しくなってきた。まるでロボットの起動スイッチみたいだ。

 楽しくなって、タイミング良く何度も何度も悠馬の乳首を押しこんでいると、悠馬があたしの手首を掴んだ。
 彼は、全速力でダッシュしてきた後みたいに、はあはあと息を荒げて目を見開いていた。

 悠馬はぶんぶん首を振った。
「むっ、むり、そのスピードは、しぬ」
「あ、ごめん…」
 鬼気迫る勢いで訴えられたので、さすがに触り方を変える事にした。

 爪を立てて、ぷくりと膨れ上がった可愛い突起をかりりとひっかく。
 ローションで思った以上に滑りが良くなっているようだ。
「これ、どう? カリカリってされるの」
「ひぐっ、すご、い、きもちい、だめっ、いああ♡」
 この調子だと、またすぐにでも甘イキしてしまいそうだ。

 快感に悶える悠馬を見降ろしているうちに、あたしは一つ、とっておきの良い事を思い付いてしまった。

 絶頂寸前のところであたしは手を止めた。
「えぅう、なんで」
 恨みがましそうな目でこちらを見て来る悠馬にあたしは言った。

「悠馬、一回自分で乳首弄れる?」

「え」
「ほら、手ここに置いて」
 あたしは悠馬の手首を掴んで、彼の胸元に持って行った。
 彼はかなり混乱していて、自分の胸元とあたしの顔を何度も交互に見ている。

「指で触ってごらん。最初は優しくね」
「あの…」
「ん? 触り方がわからない? こうだよ」
 あたしは手を滑らせて悠馬の細く節くれだった指をつまんだ。

 そして、彼の乳首に指を添わせて、くいと奥へ押し込む。
 すると彼の指の腹が、ぐいっと乳首を押し込んだ。たまらず悠馬は吐息を洩らす。

「さて、今度は自分でやってみようか」
 悠馬の顔は羞恥心によってぐしゃぐしゃになっていた。
 高熱にうなされているかのように頬を赤く染めて、唇を噛み締めている。
 彼の震える指がおずおずと乳首へ伸びた。

 悠馬は触れる直前まで自分の胸元を凝視していたが、こらえきれなくなって顔を逸らした。

 彼はぎゅっと目をつぶり、意を決して自分の乳首に触れた。
「あっぐ、ぅうんっ」
 想像している以上に刺激が強かったのか、悠馬は軽くのけぞって喘いだ。

「上手上手。もうちょっと触ってみ」
「うぅうう…」
 恥ずかしすぎて半泣きになりながらも、悠馬は頑張って自分自身で乳首を虐め続ける。
 ちょっと可哀想になってきたけれども、それがまた可愛いので、あたしはもう少し彼を虐めてみる事にした。

「気持ちいい?」
「んっ、んんう」
「恥ずかしいね、自分で触って気持ちよくなってるところ見られて。ほら、左だけじゃなくて、右もちゃんと弄ってあげなきゃ」

 悠馬が自分で両方の乳首を苛めながら、可愛い声で喘ぎ続けているのを見ながら、あたしは軽い感動を覚え始めていた。

 ラブホってすげえな…と。

 あの照れ屋の悠馬が、自分で乳首を弄って善がっているところを見られるとは思ってもみなかった。
 映画研究会の同期には、最大級の感謝を込めてヘッドロックをかます事に決めた。

「あたしがさっきしてたみたいに、爪でカリカリってできる?」
「んっ、んっうう、ひあううっ、も、だめえ…」
「言うの忘れてたけど、イっちゃダメだからね?」

 忘れてたも何も言うつもりすらなかったのだが、ここまで来たら虐め倒したくなってきたので、オプションを追加する事にした。
 悠馬は眉間にしわを寄せて、ああそんな切なそうな顔されても、駄目なものは駄目です…。

「そう、カリカリって。良い子。もうちょっと早くできる?」
「はうっ、ああ、あっ、あ、あ」
 多分もう限界なのだろう。彼の指の動きが、何となく切羽詰まって見えた。
 
 だけども、そんなに簡単には許してあげない。
「はい、ストップ」
「ぁぁぁあう…」
 名残惜しそうな声を出して、悠馬は指の動きを止める。

「じゃあ親指と人差し指で優しくつまんでみよっか、それで……っ」

 自分で指示しておいて、こんな言い方はどうかと思うが、あまりにもいかがわしすぎる光景が眼前に広がっている。

 悠馬はできるだけあたしと目を合わせないように俯き、乳首をきゅうっとつまんだ。
 彼の指の間に挟まれて、ピンクの小さな乳首はグロテスクにその形を歪ませた。

 あたしはしばらくその光景に何も言えず、硬直した。色気の暴力にも程がある。
 もしくは、あたしにも相当に媚薬が回ったか。
 少なくとも、後頭部を殴られたかのような衝撃で、動けなくなってしまった。


「つぎ、はやくぅう…っ」

 あまりの恥ずかしさにこらえきれず、悠馬があたしを急かしてきた。
 あたしはようやく正気を取り戻した。
 危ない。一瞬、この世ではないどこかへと意識がトリップしていたらしい。

「ごめんごめん。それで、つまんだまま、ぐりぐりってしてみて」
「ああん、っあ、らめ、これ、ほんとに、ひっ」
「じゃあ、指のやらかいところで、ぎゅって押し込んで」
「んっぐうう」
「はい、じゃあもう一回つまんで、ぐりぐりして」
「ひああ、んんっ、んっ、んっ、あ」

 あたしは、悠馬のベッド下に隠されていたいかがわしいビデオのパッケージを思い浮かべていた。
 パッケージに映っていた女の人より、よっぽど彼の方がいかがわしい身体つきで、いかがわしい恰好をしていて、いかがわしい声で喘いでいる。

 あたしの彼氏にいかがわしさで勝る人間など、おそらくいないのだろうな。
 これって、親バカならぬ、彼女バカなのだろうか。

「指先で乳首をひっかけて、ぴんって弾ける?」
「…っ、はううっ」
 彼は快感に思わずのけぞった。

「もっとスピード上げて」
「あっ、あっ、あぁっ、はっ、はぁっ、んあっ、あああっ」
「やらしすぎる…。ごめん、我慢できなくなってきた。下、触るよ。乳首は自分で弄り続けてね」
「ひぅううっ!?」

 あたしは、悠馬の下半身へと手を伸ばした。
 先走りで濡れそぼったそこを触ると、悠馬の体温が酷く近くに感じられた。

 上下へしごきながら、悠馬を視姦する。
 彼はのけぞって身体を痙攣させ、口端から唾液をこぼして「あぁ」とか「ひああ」とかひっきりなしに喘いでいた。
 両手は律儀に乳首を弄り続け、彼自身を追い詰め続けていた。

「気持ちい?」
 彼の顔を覗き込みながら聞くと、悠馬はこちらを見つめ返して頷いた。
 虚ろな目ではなくて、意思をきちんと持って。

「きもぢいい…っ、あっ、も、イ、く、イって、いい? イかせ、てえ」
「いいよ。いっぱい我慢させちゃってごめんね。あとの事はあたしに任せて、ぶっ飛んじゃうぐらい気持ちくなって」
「あっ、すき、れいい、すき、すき、らめ、ああう♡」

 あたしは悠馬にキスをした。息継ぎなんてさせる閑もなく舌を絡め合って。

 ガチリと歯がぶつかり合っても、どちらも一歩も引かずに貪り合うように。このまま一つになってしまうくらいに。
 その間にも、お互い手を動かすスピードはどんどん速くなっていく。


 そして、その瞬間は来た。


 悠馬の身体が一際大きく震えた。あたしは指の間に粘液が滑り込んでいくのを感じながら、唇を離した。


 悠馬は、荒い息を整えようともせずに胸元を大きく上下させながら、とろけた顔でこちらを見上げた。

「幸せ?」
「しあわせ、すぎて、しんじゃう」

 あなたがそう言って笑うから、あたしも幸せすぎて死にそうだ。

「それは良かった」
 あたしは悠馬の額にキスを落とした。


「え? あのビデオもオモチャも、悠馬の物じゃない?」

 翌日。
 ホテルの最寄り駅にあるカフェの一席にあたしと悠馬はいた。
 小腹が空いたからと、悠馬はホットケーキ、あたしはスコーンを頼んで待っている最中だった。
 とんでもない事実が発覚してしまった。

「待って待って待って。待って、ほんとに待って。じゃあ誰のなの」
「あれはサークルの同期に、彼女にバレたら殺されるからって土下座されて、一週間だけ預かってたものだな」

 あたしは頭を抱えた。
 じゃあ、悠馬が欲求不満だと思ってたのは、あたしの勘違いだったと? 
 だとしたら、悠馬は本件に関して、利害の一致どころか完全に被害者…。

 と、このタイミングで、頼んでいたホットケーキとスコーンがやって来た。

「お客様、すいません。メープルシロップをお持ちするのを忘れてました。今、お持ちいたしますね」
「ああ、ありがとうございます」
 店員さんが席から離れていったあと、悠馬はカトラリーを取り出しながら言った。

「何を勘違いしたのか知らないけど、俺のじゃないからな。俺はそこまで欲求不満じゃない。お前といて欲求不満にはならない」
「ええ、嬉しいなあ」
「めちゃくちゃやりやがって。二週間くらいは俺に指一本触れるな」
「ええ、急に辛辣」
「1本目の薬に関しては俺が飲んだから自己責任だけど、2本目に関してはお前が無理やり飲ませてきたんだからな」
「その通りでございます。ごめんなさい」
「あのう、お客様…」

 店員さんが、メープルシロップを持って若干おろおろしていたので、あたしたちは慌てて「何事も無いんですよ、これが我々の通常運転なんですよ」という態度をした。
 二人して早口でお礼を言ってメープルシロップを受け取る。

「まあ、反省してるなら、1週間くらいで勘弁してやらん事もない」
 悠馬はそう言いながら、ホットケーキに自分の分のメープルシロップをたっぷりとかけた。カフェの照明を受けてテラテラと輝くメープルシロップ。

 あたしは、何故か既視感を覚えて首をひねった。そして、ぽんと手を打った。

「昨日のローションまみれの悠馬だ! なるほどなるほど、昨日のデジャヴはこれだったの…か…」
 あたしは、ただならぬ気配を感じて顔を上げた。

 悠馬が恥ずかしさと怒りで顔を真っ赤にしていた。唇がわなわな震えている。
 やばい、今までに見た中で一番怒ってるかもしれない。
 カトラリーが凶器に見えるし、なんならナイフは本当に凶器だ。

「あは…。ごめん、ねえ…?」
 あたしは顔をひきつらせて笑った。しかし誤魔化しきれなかったようだ。


「もう、半年は俺に触るなああ!」
「うわーん、ごめんなさああい!」



 あとで二人して店員さんにお叱りを受けた。

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