【再掲 / 玲と悠馬⑫】紅
洗面所のコップの隣に見慣れない黒の直方体を見つけたのは、日曜日の夕方だった。
泊まりに来た玲を最寄の駅まで送り届け、ついでにドラッグストアで洗剤の詰め替えボトルを買い、自宅に帰ってきた直後。
手を洗おうと洗面所に向かった時に、「それ」はあった。
「……忘れたのか」
普段なら、きっとすぐにでも写真を撮って、玲に「忘れ物」と簡単なメッセージを送っていたはずだ。
だけど、俺はスマホにではなく、一旦その忘れ物へと手を伸ばした。
要は、彼女への連絡を躊躇ったのだ。
忘れ物とは、玲のルージュである。
玲が、いつも使っているルージュ。
俺と話す時に大きく楽し気に動く唇に、俺にキスする時に薄く開かれた唇に塗られている、あの赤い色。
震える手でルージュのケースを開けた。
きゅか、と間抜けな音がして、中から金色の筒に包まれた真っ赤な本体が顔を出す。
ゆっくりと繰り出しながら、脳裏で玲の唇の色を必死で思い出そうとしていた。
こんなにも濃い赤だっただろうか。
鏡の前に立ち、口を半開きにしている自分の顔を見つめた。
これ以上は、ダメな気がするのに。背中を冷や汗が伝うのと同時に、心臓がどくどくと脈打っているのを感じる。
いけない。いけない。これ以上はいけない。どんな反応をされるかわからない。嫌われるかもしれない。気持ち悪がられるかもしれない。だけど、もしかしたら。
もしかしたら……?
次の瞬間、俺は訳も分からぬまま、ルージュを唇に押し当てていた。
かさついて、薄くて、玲のよりも幾分か色の暗い唇。
その上にルージュを少し滑らせた瞬間、一気に下唇に鮮烈な赤の線が浮かび上がった。
北風に晒されて乾燥し、少しめくれた薄皮に赤色が引っかかって出血しているようにも見える。
右手は所在なく、宙ぶらりんのままだ。
茫然と鏡の中の自分を眺める。
唇に色をつけるまでの心臓の高鳴りは、今や消えつつあった。むしろ身体の芯が凍りついたかのようだった。
すぐにでも、ぬぐい取ってしまわなければ。玲が来る前に。
突然、錠が回る間抜けな金属音がして、扉が開いた。
「ごめんねー、忘れ物しちゃっ」
「ゔ」
身体をリビングに向けたまま、不自然に首だけこちらに向けた玲と目が合った。
息が、吸えなくなった。
玲はしばらく俺の唇をじっと見つめて固まっていた。俺も俺で、玲の丸く見開いた目を見たまま動けないでいた。
どうしよう、どうしよう、もしかして、結構高いルージュだったのではなかろうか。
玲はそこまで潔癖ではないけれど、冷静になって考えたら、勝手に自分のルージュを使われるのはそんなに気分が良いことじゃない。
謝らなきゃ、そう思って口を開いたときだった。
「塗ったげようか?」
「え」
「……それ。塗ったげようか?」
玲の顔をよく見た。どうも怒っているわけではなさそうだ。だが、さして明るい顔をしているわけでもない。
ただ「ネクタイを締めてあげようか?」と同じくらいのテンションで聞いてきた。
玲の申し出に完全に不意をつかれたので、
「あ、え、じゃあ……」
と答えた。
思ったより優しく手を引かれてリビングへ向かう。
「座って座って」
俺はどうしていいかわからず、ぺたりとその場に座り込んだ。玲も俺の前で膝立ちになった。
顎をすくわれて、顔を玲の方に向けさせられる。
「口、閉じるんじゃなくて、ちょっと半開きくらいで……。そうそう」
彼女の言葉に従って唇を半開きにすると、その上をじっとりとルージュが滑っていく。
俺は、手汗をそっと掌でこねて、ジーンズにこすりつけた。
唇が震えているのが玲に伝わってしまったらどうしよう、とそればかり考えてしまう。
「んまんまって、できる? こう……んま、んまって」
玲の見よう見まねで、唇を合わせる。
思った以上にべたつく唇に一瞬どきりとしながらも、玲と目線を合わせたまま、ルージュを馴染ませていく。
「そう、上手」
カバンの中から小さな手鏡を取り出して、玲は俺に見せた。
「見て、すっごく可愛い」
「あ……」
俺は鏡に映った自分の顔を見て赤面した。
さっき自分で雑に唇を掠めたのとは訳が違った。
唇全体がほってりと赤く、そこだけ熱を持ったみたいだった。潤む下唇が蛍光灯の光を反射して、ぬらぬら光っている。
「悠馬、赤色似合うね。可愛いなあ」
「はう、あ、も、もういい……」
「ん?」
鏡を無理やり押しのけて玲に返した。
「もういい、も、落とす……」
頬が熱くて熱くて、首を振りながら、繰り返し「もういい」と「落とす」しか言えなくなってしまった。
玲は一つため息をついて、口元を擦ろうとした俺の手首を掴んだ。
そして、ぐっと自らの方へ俺の身体を引き寄せた。
俺は慌てて逃げようとしたが、すかさず腰に腕が回って、彼女の腕の中に捕らわれてしまった。
玲は俺の目をまっすぐ見て言った。
「じゃあ落とす前に、一つだけ聞かせて」
「なんだよ……」
「どうして、あたしのルージュ、塗ろうとしたの?」
それは正直、自分が知りたいところである。
どうして玲のルージュを塗ろうとしたのか、うまく言葉にできる自信は無かった。いけないことだと思いながらも、誘惑に駆られて塗ったことは間違いなかった。
だけど、その誘惑の正体は見当もつかなかった。
「……わ、かんない」
「…………でも、塗りたかったから、塗ったんでしょ?」
「う……ん」
正直それも自信が無い。俺は首を傾げながら、同意とも否定とも取れない返事の仕方をした。
「いつもなら、あたしが忘れ物したら、すぐ連絡してくれるじゃない。でも、それよりも、ルージュへの興味が勝った……そういう感じ?」
玲は、辛抱強く俺の言葉を引き出そうとした。
怒っているわけではない。彼女は困っているだけだ。
だけど、どうしたってうまく説明できそうになかった。
それに、今この瞬間も、ルージュを塗られた顔を玲に見られ続けていることが、たまらなく恥ずかしかった。
なんとか気を逸らそうと、口から思ったままの言葉が飛び出していく。
「わかんない……。俺、そもそもお前に連絡しようとしたのかも、わかんない。忘れ物、見つけて、それで、ケース開けて……。そっから先は、ダメだって思ったんだ。塗っちゃだめだって。玲に、嫌われるかもしれないし、なんなら気持ち悪いって思われるかもしれないから。だけど。だけど、もしかしたら……」
「もしかしたら?」
玲が顔を覗き込んできた。彼女の目の中に、俺の顔が映りこんでいるのを見た。
その瞬間、答えがわかってしまった。悲しいくらい明らかだった。
「……玲なら、可愛いって言って、許してくれるんじゃないかって……」
玲は、俺の答えを聞いて、目元を手のひらで覆った。そして、大きく、それはそれは大きく溜息をついた。
「れ、玲……?」
怒らせただろうかと不安になり、彼女の顔を覗き込んだ瞬間。
するりと服の隙間から玲が手を差し込んできた。
「えっ。ま、待って、ごめんなさ」
「許さない」
「ごめんなさ、いっ、あっ♡」
謝っている最中に、玲の手が脇腹を撫ぜ、そしてひそやかに乳首を掠めた。それだけでどうしようもなく体が跳ねてしまう。
「やっ、ごめ、あんっ……」
「だから、許さない」
「いや、あっ、あっ、耳は……っ!?」
耳元に息を吹きかけられ、俺は目をつぶった。
身体を固くして刺激を受け取らないように身構えるが、抵抗虚しく、ぬとりと玲の舌が耳を這いずり回っていく。
「あ、あ、はあっ……んっ、ひんっ、や、や、あぁ……っ」
乳首を指の腹で転がされ、脇腹をやわこく引っかかれ、耳をしつこいほど丁寧に舐められる。
一つ一つの刺激は小さいのに、合わさるとそこかしこがじれったく熱を帯びていくのを感じた。
「ごっ、ごめんなさい、ごめんなさ、っ、ひ、あ、あぁ♡ おこ、らないでっ。あんっ♡ ひ、ぅ、うう゛~~……っ♡ ごめん、なさ、ルージュ、勝手に塗って、ごめんなさいっ……」
首を振りながら必死に謝り続けていると、不意に玲の手が止まった。
耳を舐めていた舌もゆっくりと離れていく。
恐る恐る、ぎゅっとつむっていた目を開いた。
玲は首を振る。
「違う」
「へ」
「あたしが怒ってるのは、悠馬がルージュを勝手に塗ったからじゃない」
「じゃ、じゃあ何……」
「あたしが許すしかないのをわかって、悠馬が媚びたことに怒ってる」
「こ、媚び……っそう、かもしれないけど、でも、媚びようとして塗ったわけじゃ……。ちょっ、あ、ち、ちくび、やぁっ♡」
乳首を片手間に弄ばれて、俺は背を反らした。
玲は、へらりと笑いながら、容赦なく乳首を爪で引っかいてくる。
「はいはい、言うと思った。やっぱり、無自覚だったのね。知ってるよ、悠馬との付き合いももう長いから。とんでもない爆弾発言をしてる自覚が全く無いんだよね。いつもね。ねえ、あたし悔しいんだよ。だって、本当に可愛いと思ったんだもん。あたしのルージュ塗って、発情しきった悠馬の顔、本当に可愛いと思ったの。ねえ、せめて確信犯でいてよ。心臓がもたないよ、もうこんなの……」
「まっ……で、だめ、だめ、ちょっ……と……っ!♡♡」
乳首を引っかかれるスピードがどんどん速くなっていく。
それに伴って腹の奥がどんどん熱くなって、その熱い固まりが徐々に骨盤に染み渡る。そして尾てい骨を通って股の間へじゅくりと流れ込んできた。
「あっあ、きゅ、う……っ、ひうっ♡ や、だめ、このままじゃ、あ、あ、きもちいの、おりてきちゃ……っ♡ んやあ、ほ、ほんとに、そこぉ……っ!♡」
強○的に身体が開かれていく感覚に、思わず涙が溢れていく。
「れいぃ……っ、もう、ゆるして、ゆるしてぇ……っ♡」
「あー……」
玲は、虚ろな目でこちらを見ながら、意味の無い母音を吐き出した。
そして、俺の胸に顔を埋めて、呻くように言った。
「今日限りは絶対許さない、この可愛い男……」
「あぁあ、だめだめだめだめ♡♡ ぜんりつせ、ん、ぐりぐりしちゃだめっ♡♡ あたまんなかバチバチすゆ……っ! イく、イくぅ、ゆるじて、ごめんなしゃ、あ、あっ、あああっ、イぎゅっ♡」
ベッドがぎしりと音を立て、自分の身体が大きく反ったのがわかった。
腹の奥から全身へ一気に侵食していく甘い痺れに喘ぎながら、「多分、明日声が涸れるんだろうな」と、なぜか冷静に思った。
手首を手近にあったタオルで縛られ、足は大きく開かされた格好で、しつこくしつこく前立腺をいじめられ続けて、どれくらいの時間が経っただろうか。
開いた足の間に玲が陣取っているせいで、逃げることもできない。
無防備なまま、身体の中にある最も弱いしこりを集中的に捏ね繰り回されて、頭の中が焼き切れそうな快感でいっぱいになる。
「やめで、やめてもう、おねがいだからあっ♡」
「わがままだなあ、ずっといやいや言うじゃんか」
「はう、せめ、て、せめて、うでのこれ、とっでぇ……っ♡♡ れい、の……っ」
「あたしのこと、ぎゅーしたいって言うんならダメだよ。本当はどっか掴んでないとおかしくなるくらい感じてるんでしょ? 今日はだめだめ、そういう無自覚な媚びは許しません」
玲の表情はいつもと変わらないのに、飛んでくる言葉はいつもの何倍も容赦ない。
いつもなら絶対に許してくれるラインにまで来ても、許してくれない。
だめだ。
抱きつぶされる。
だって、玲、本気の顔してる。
完膚なきまでに、ぐちゃぐちゃにされる。
身体中ががたがたと震え始めた。脳内が熱くなったり急激に冷えたりを繰り返す。
後ろに入れられた玲の細い指を、ぎゅうぎゅうと自分の中が締め付けているのがわかる。でも、もうそれも自分では制御が利かない。
「あれ、中、きゅって締まったね。興奮してるの? それとも怖い?」
「……あ、う、わかんない……」
「ふーん……」
玲はそう言うなり、黙りこくってしまった。
中をさんざんかき回していた指の動きも止まって、部屋の中はしんと静まり返った。
玲は、俺の身体を舐めまわすようにじっくりと眺めた。
どういう顔をすればいいかわからなくて、枕に顔を埋めた。
玲の中指の感触が、徐々に鋭敏に感じられるようになっていく。身体中にびしびしと玲の視線が突き刺さっているのがわかった。
縛られた手首、汗でじっとりと湿った脇、酸素を求めて大きく上下する胸元、勃起しきった赤い乳首、先走りで濡れた腹、脈打ち熱を持ったペニス、玲の指を締め付けるアナル。全部、見られている。俺の一番みっともない姿を、大好きな人に見られている。見られている。全部、全部、全部。
「腰、揺れてるよ。悠馬」
玲が冷たくそう言い放った。突然、頭の中で何かが弾けて、身体が跳ねた。
「あ゛っ……!?♡♡」
「悠馬?」
舌を突き出している気がする。身体が、がくがく揺れている気がする。身体の奥が熱くてたまらない気がする。中の肉が蠢いて、玲の指にむしゃぶりついている気がする。
全部「気がする」程度にしかわからない。
それくらい強い衝撃が、一気に身体を駆け巡っていく。
「う゛~~……っ?♡♡ あ、え……?♡♡ はひっ、んぅ……っ♡」
額の裏側に靄がかかって、玲の顔がもうよく見えない。
縛られた腕を必死で伸ばして、玲に助けを求めた。
「れ、れい、たすけ、たすけて、こぇ、なにっ……?♡♡ からだ、も、だめ♡♡ だめ、おれ、も、おかしいっ、ぜんぶ、おかしくなっちゃ、たすけ、んんんん゛~~っ♡♡」
玲が覆いかぶさり、唇にかぶりついてきた。口の中に玲の舌が侵入してくる。
彼女の舌が頬の内側をこそぎ、上顎の裏をくすぐってきた。
息が上手く吸えない。苦しいのがどうしようもなく気持ちよくて、また身体がどんどんと昂っていくのを感じた。
慌てて玲から逃れようとするが、拘束されている状態では俺は無力だった。
涙と汗と一緒に、快感が一気にせり上がってくる。
だめだ、また来る。だめなやつが来る。もう無理。無理。
無理だって喚きたいのに、口を塞がれて致死量の快感を注ぎ込まれる。
「んぅ、ん゛~~っ♡♡ んっ、んんんんっ!?♡♡ あんっ、んぅう゛っ♡♡ う゛~~~……♡」
もう何も考えられなかった。
玲が唇を離した瞬間、せき止められていた喘ぎ声と、ぐちゃぐちゃの思考が一気に口から飛び出した。
「イぎゅっ、ずーっと、イってう♡ んぎ、イ、く、あ゛~~、また、イぎゅっ♡♡ と、まんな、いぃ♡ すきっ、すきぃ、れい、すきぃ♡♡」
「えっちなところ、いじめられるの嬉しい?」
「うれし、うれし、い……あんっ♡ もっとしてぇ♡ ああ、んはぁっ、は、んんぅ……っ」
「ああ、もう可愛いなぁ、本当に!」
玲の怒ったような、笑ったような声のあと、一気に指の動きが早くなった。
部屋中にぐじゅぐじゅと水音が響き渡る。
「あっ、まっ、てそれ、はやいぃっ!♡ や、ぢゅこぢゅこだめっ、ゆび、お、く……っ♡♡ あ、あっ、んんあっ!?♡ まっ、せいえきじゃないの、くる、きちゃ、あ゛っ♡」
ぷしゅりと音がして、ペニスから勢いよく透明な液体が飛び出した。
玲はもろに顔面に食らってしまったのか、顔を少ししかめながら、袖で拭っていた。
「いや~、まさか潮まで吹くとは思ってなかった……」
「はひ、ごめ、なさ、あ……あ……♡」
「大丈夫、大丈夫。怒ってないよ、でも、お仕置きの口実くらいにはさせてもらっていいよね?」
「え」
玲はにこにこ笑いながら、俺の身体から指を引き抜いた。
そして、ほったらかしにされていたルージュを手に取り、俺の右乳首の周りに押し当てた。
「な、に……?」
玲は目線を上げて、さも良い提案をしているかのように明るい声色で言った。
「乳首、ハートマークで囲ってあげたら可愛いかなって」
「あう……っ、うそ……♡」
抵抗する間も与えられず、肌の上にルージュを滑らされていく。
胸元を襲うぬるりとした感触に、思わず声が漏れそうになるのを必死に堪えた。
「……あと、お腹と太ももかな。悠馬、ちょっとM字開脚のままでいてよ。動かないでね」
「う、うう~……」
下腹部と、太ももの裏にもルージュでハートマークを書き込まれていく。
誰の目から見ても、一発で弱い場所がわかるようにされてしまった。
玲は満足気に頷いたあと、ポケットからスマホを取り出し、何枚か写真を撮った。
いまや、羞恥さえ快感の呼び水にしかならなかった。
「は、はひ、あう……っ♡♡」
「ふふ。もう、これはだめだね。お仕置きになりそうにないや。あたしの負け負け。せめて、発情しきってるついでに、えっちなおねだりでもしてもらおうかな」
「お、おねだり?」
「そう。悠馬が思いつく限りで、とびきりえっちなおねだりしてみてほしいなあ。ほら、腕のタオル、解いてあげるからどうぞ」
俺は玲にタオルを解いてもらいながら、朦朧とする意識の中で必死に考えた。
そして、足をゆっくりと大きく開き、右手の人差し指と中指でアナルを中が見えるくらいに広げた。
左手は親指と中指で乳輪を広げて、膨れ切った乳首を玲の目の前に差し出した。
普段ならこんな格好をしたら恥ずかしくて死んでしまいたい気分になるだろうが、残念ながらこの時にはもう羞恥心が死んでいた。
「お、おれの……っ♡ ちくび、と、なか、いっぱい、いじめてぇ♡ もう、はつじょうして、きゅんきゅん、してぅ、のっ♡ イきっぱなし、になるくらい、めちゃくちゃ、してぇ……♡♡」
瞬間、一気に玲の指が中へ入ってきた。
広げ切った乳首に吸い付かれて、舌の上で転がされながら、的確に前立腺を刺激され続ける。
「あっ、あっ、あっ、ああんっ♡♡」
たまらなくなって媚びた喘ぎ声をあげていると、玲の掌が下腹部に描かれたハートマークの上に添えられた。そのまま、かなり強めの力でぐぐっと押される。
「あ゛っ!?♡♡ やめでっ、おなか、おしちゃ、いやあっ♡♡ いや、あっ、ああんっ♡♡ イぐ、すぐイっ、く、イくイくイくイく……♡♡」
玲は、乳首から口を離して笑いながら言った。
「ここ。癖ついたら、押されただけで気持ちよくなるらしいよ」
「そんなぁ、やめでっ……♡♡ あ、きもち、も、だめぇっ♡♡ ま、た、しお、ふくぅっ……♡ んああ、ああっ、ひぅ♡ はうう、イっ………ぐ!♡♡」
まただらしなく、ペニスから潮を垂れ流してしまった。
ベッドの上でびくつく身体に、いくつもキスが落とされていく。
そのうち、キスが首元から鎖骨を下って、胸元へと向かっていく。
「だめ、いま、ちくびだめ……まっ、で……♡」
「乳首じゃないよ、こっちだよ」
「んああ゛~~っ!?♡♡」
今日ずっとほったらかしにされていたペニスを急に扱かれて、視界がぐらりと揺れた。
前立腺をいじめられているときとはまた違う、直接的で激しい刺激に腰がとろけそうになる。
「やめ、ちょ、やすませ、はひっ!?♡ んんん゛っ♡ ぉあ、あうう♡♡」
「前立腺と一緒にいじめられるのって、どういう感じ?」
「しんじゃ、まっで、しぬっ♡♡ きもぢぃ、むり、こぇ、こわれるぅ♡♡」
玲の身体にしがみついてぶんぶん頭を振りながら、襲い掛かってくる快感に悶え続けた。
時折、玲が耳元で「大好き」と囁いてくるのも相まって、気が狂いそうだった。
一生続くかと思われた快楽地獄だったが、終わりは突然だった。
「イっ、く、また、きちゃ、きちゃう……っ♡♡ あ、これ、も、だめ、トんじゃう……っ♡♡」
「次イったら、もう意識飛びそう?」
「んっ、んぅ……♡」
「いいよ、よく頑張ったね」
玲は俺の頭を優しく撫でたあと、頬にキスをしてにっこり笑った。
「愛してる」
「あっ、おれ、も、あいしてる、あ、あ、ひぎゅ、イ、ぐぅ……っ!♡♡」
一気に視界が暗くなっていく。唇に何度も優しくキスを落とされている感覚がする。
でも、もう気持ちよくって、頭が蕩けおちてしまって、目を開けられなかった。
そのまま、ゆっくりと俺は意識を手放した。
「お前は、これについてどう思う?」
「どうもこうも……あの……」
玲は、目をきょろきょろ逸らして、口の中で何やらもにょもにょとつぶやいている。
俺は、手近にあったマットレスを思いっきり強く叩いた。そして、さっきした質問と全く同じ質問を、もう一度繰り返した。
「お前は、これについて、どう思う?」
昨夜、何度も潮吹きさせられたことによって、我が家のマットレスは完全に再起不能になってしまった。
ウォッシャブルであればよかったのだが、残念ながら我が家のマットレスはウォッシャブルではなかった。
つまり、買い替えである。
「お前、ほんと下着だけならまだしも、マットレスまでダメにするって、どういうことだ?」
「でも、媚びたのも煽ったのも潮吹いたのも、悠馬だと思うんですけど……」
「あ?」
後日、玲と俺は大型ホームセンターに出向き、割り勘でマットレスを買い替えた。
もちろん、ウォッシャブル対応の製品だ。折半とはいえ、バイトの給料日前にはかなり痛い出費だった。
明細を見ながら沈む俺をよそに、玲は新しいマットレスをばしばし叩いてご機嫌な様子だった。
「これで、いつでも潮吹いて安心だね!」
全く反省していないようだったので、三カ月ほど接触禁止令を出すこととなったが、それはまた別のお話。