F1:シーフに懇願しながら、パンツを10秒同時に見てもらいましょう!
────あぁ、どうしてこうなってんだ...
俺は、頭の中で自問することしか出来なかった。
ゴツゴツとした岩肌の中に、一段と目立つ荘厳な扉。
地下へと続く階段と、それを封じる謎の透明な障壁。
その全ては、炎に燃やされ、斬撃に刻まれ、ボロボロの様相を呈していた。
「ったく、おい勇者御一行様よォ...こんなに暴れ散らかしてどうしちまったんだ」
俺はこれでも気を遣ったつもりで声をかける。
底辺を這う嫌われ者と大評判のシーフである俺は、ビクビクと怯えながら声を掛けるしか無いのだ。
しかし、返事は大変麗しい女剣士様の射殺すような視線だけだった。
一体何があったのか、俺には見当も付かない。
1つ、分かる事があるとすれば、勇者様方が暴れ出したのは階段を防ぐ様に浮いている障壁、そこに浮かぶ文字を見た時からだ。
後ろを着いていく事しか許されない俺にその文字を読む事は出来なかったが、よっぽど我慢ならないのだろうか。
その文字を見た瞬間、御一行は固まり、震え、360度に攻撃を加えたわけだ。(主に女剣士と女魔法使いが)
「え、えっと...ドリーグさn「おい、シーフ!少しの間遠くに離れていろ!チームでの相談だ」
チッ...このクソッタレた冒険の唯一の癒し、聖女様の声を女剣士が遮りやがった。
イライラは募るが、力で隔絶した差を付けられている俺は従うしか無い。
障壁付近に固まっている御一行から離れ、反対の扉付近で腰を下ろす。
「しっかし、すげえ扉だぜこりゃあ...」
流石はSランクダンジョン、扉まで規模が違う。
意匠や大きさは然ることながら、1番の特徴は"何があっても壊れない"事だ。あれだけボコボコにされようが壊れてない事が証拠。
驚くべき事に、俺達はダンジョンに閉じ込められたらしい。入って来たばかりの扉が閉じたっきりどんな攻撃を与えても開きも壊れもしない。
これでも何百何千とダンジョンを踏破してきたんだが、こりゃ一体──────「おいシーフ!戻って来い!」
その大声が聞こえた瞬間、思考は途切れる。
ったく、もうこの扱いにも慣れたつもりでいたが、イラつくものはイラつくらしい。
舌打ちを1つ、渋々御一行の元へ戻る。
ここで、俺は漸くもう1つの異変に気付いた。
────勇者パーティの全員の顔が、異様に赤いのだ。羞恥、困惑、屈辱に塗れていた。
「あはは、これは流石にちょっと、恥ずかしいな...」
そう呟いたのは我らがリーダー、女勇者。今この状況に恥ずかしい要素は何一つない。
俺はシーフだ。空気を読み取る力は人一倍ある。しかし、例え冒険者でなかろうと、今の異常な空気は分かるだろう。
何が起きている....
「おいシーフ、お前はこのダンジョンを出たら絶対に殺してやる!くそ、なんでこんな...」
普段なら、殺すなんて言われればカチンと来るものだが、今はなんとも思わなかった。なぜなら女剣士が顔を真っ赤にして声を震わせていたからだ。
「ダメだよアリシア。これは彼のせいじゃないんだ。理由もなく命を奪っちゃいけないよ。それに...」
割り込んで話してきたのは、勇者。
顔は赤いままだが、瞳には強い意志と決意が現れていた。
「ボクが最初にやるからさ、ね?」
瞬間、目に映ったのは、スカートの中のスパッツを膝下まで下ろした女勇者の姿。
鎧とスカートが一体化したような装備を着ている勇者がスパッツをおろせば、その下に残るのはもう、下着しかない
「うわぁ、いつもと違ってスースーするなぁ...」
そう、照れを誤魔化しながら笑う勇者の姿から、目を話せなかった。
「じゃあ、いくよ...見られなくちゃいけないんだけど、あんまり見ないでね...?」
そう言って勇者はスカートをたくしあげていく。
1度した決意はどこに行ったのか、手を震わせながらゆっくり、ゆっくりと。
そうして少しずつ見えた下着の色は、白。純白だ。
ゆっくりと見える部分が増え、ウエスト部分に辿り着いた時、小さな水色のリボンがちょこんと付いてるのが見えた。
「あはは...そこまでじっと見られると、いくらボクでも恥ずかしいなぁ」
その言葉を聞いてハッとする。
自分でも気づかないほど集中していたようだ。
自分より一回りも二回りも若い女の子の下着、それも絶世の美女のだ。罪悪感など沸く暇もなかった。
「くそ!ネルビアにだけ任せていられるか!」
「死ね、ヘンタイ...」
「わたくしも、仕方ない、ですよね...」
三者三葉の言葉を吐きながら、彼女たちは下着を見せるために邪魔な服を脱ぎ始める。
そうして女騎士は健康的なショートパンツをズラし初め、魔法使いは可愛いフリルの着いたスカートをたくしあげ、僧侶は白い修道服のロングスカートをゆっくりと持ち上げ始めた。
全員の下着が見えそうになる...
その瞬間、障壁が大きく輝き始めた─────
♢
──────眩い光が収まり、ようやく目が見えるようになった時。
階段を防いでいた障壁が消え去る。
そう思いきや....
ビーッ!と耳障りな電子音が響き渡った。
これは嫌になるほど聞き覚えのある、ダンジョン階層突破条件未達成の通知音だ。
「なっ!」
そう、誰かの驚愕の声が聞こえる。
『条件未達成
未達成理由
・アリシアの下着の下半分が見えていない。
・下着を同時に見せていた時間が存在しない。
よって、階層突破条件の難易度を上昇させます。』
電子音で、そんな声が聞こえた。
階層突破に失敗した時、難易度が上がるのは常識で違和感はない。
しかし、明らかに違和感のある文言があった。
「下着...?」
俺はそう呟いてしまった。すると、キッとアリシアが睨んでくる。
『階層突破条件:シーフに懇願しながら、パンツを同時に10秒見てもらう』
間髪入れず、そんな電子音が聞こえてきた。
アリシアの方から、冗談だろ...?と声が聞こえてくる。
ソフィの方を見ると、顔を赤くして俯いていて、エリカは怒りなのか屈辱なのか、いつもと違い鋭い目をしていた。
「あはは...まぁ、そういう事らしいんだ、ドリーグさん。」
ネルビアは、スパッツを下ろしたままでスースーするのか恥ずかしいのか、スカートを手で抑えながらそう言う。
「いやぁなんと言ったらいいか...。
だから扉を破壊しようとしていた訳か。」
俺は納得と共に、少しだけ話を逸らした。
いや、怖いよ。なんか役得っぽくなってるけど普通に俺より何万倍も強い奴らに、意に反する事やらせるの怖いよ。
「バカを言うな!唯でさえさっきのでも恥ずかしかったのに、10秒だと!?」
顔を赤くしてアリシアが言う。
「そのさっきのも、全部見せてた訳じゃないらしいけどね」
障壁を見つめながらエリカが言った。
「当たり前だ!男に見せるなど...」
「みなさん、1度落ち着きましょう...?」
動揺を隠せない一同を前にソフィが言う。
「うん、そうだね...。モンスターも出ないようだし、一旦落ち着こう。」
ネルビアは、ソワソワしながらもそう言った。
「一旦、整理してみようか。入口の扉はおそらく何があっても開かない。障壁も壊せない。唯一進める方法は、下着を見せるだけ...うん、何も変わらなかったね。」
「時間が経てば条件が変わる、とか無いんでしょうか...流石に恥ずかしいですし...。」
ソフィはモジモジしながらそう言った。
「いやまぁ、袋の中に数年生きれるくらいの食料はあるが...」
腰に付けている袋をトントンと指さす。
「ありがとうドリーグ。でも私達には無駄にする時間なんて無いんだ。これでも勇者パーティだからね。」
「よし分かったぞネルビア!あのシーフの目を潰そう!目が無くてもこっちを向いていれば条件達成もできるだろう!」
「はいダメー!」
突然、聞き覚えの無い声が聞こえてくる。
声のする方向を見ると、黒髪おかっぱで手のひらサイズの、羽の生えた妖精のような者がいた。
「なんだ?お前は...」
アリシアはそう言った。
「うーん、ダンジョンのお助け役?手伝っちゃうぞー!みたいな?」
自称お助け役は、首を傾けながらそう言った。
「とにかく、いつまで経っても攻略進めないから来ちゃったよー!」
元気いっぱいに彼女は叫んでいた。
「そうか。なに、今この男の目を潰して進もうとしていた所なんだがな。」
「それそれ!それがダメなんだよ。このダンジョンでは仲間同士の攻撃禁止!と言うか初めに扉を壊そうとした時、そこのシーフ君も切ろうとしてたでしょ?ここのダンジョンじゃ攻撃が効かなくなってるから意味ないよ!」
はぁ!?マジかよ、んな事してたのか。全然気づかなかった。
一応数回の攻撃を無効化する装備を持っていたが、殺そうと思えばいつでも俺を殺せるのか。
「まぁ、本当に殺そうとはして無かったっぽいからいいけどさ~」そう、髪の毛をいじりながら妖精は言う。
「あ、そうだ!自己紹介がまだだったね。私の名前は...うん、ナビとでも呼んでもらおうかな。」
決めポーズをしながら、ナビは言う。
「そして、兎にも角にもみんなに言いたいのは...
ここを出るには、"おパンツ見てください!"ってお願いしながら下着を見せるしか無いんだよ?」
ナビは、俺達にそう言い放った。
♢
「みんな、やるしか無いんだよ。」
そうネルビアは言った。
「恥ずかしいかもしれないけど、減るもんじゃないしね?緊急時の医療行為でも下着を見せることだってあるでしょ?」
「それとこれとは話が別だろう!それに今までそんな怪我にあったことも見せた事もない。それを、自分からお願いしてなど...」
「アリシアは変なところでビビる。そもそもアリシアがヘタって全部見せなかったから今こうなってる。」
「エリカさん!そんなに突っかからなくても...。」
勇者パーティ御一行はさっきからずっと似たような話ばかりしている。男にゃわからんが、女にはそんなに屈辱的な話なのかね。まぁ俺でも人前でズボン脱げって言われたらムカつくか。
「あー!もう度胸が無いなぁ。わかったよ。今から制限時間5分にするよ!それまでに出来なかったら進めも帰る事も出来ない。これでどう!?」
ヤケクソ見たいにナビは叫んだ。
「そんな!心の準備が...」
そんなアリシアの声が聞こえる中、横から嫌味なくらい音を立てながら透明なディスプレイが出てくる。そこには"4:59"と書かれていた。
「あーもう、分かったよ!やればいいんでしょやれば!」
覚悟も出来ない内に下着を晒すことになったネルビアは赤面していた。
「やっとやる気になってくれたかい!因みに懇願のセリフは『ドリーグさん、私のパンツを見てください』だからね?みんな同時にしないと開かないよー!」
ナビは心底楽しそうに言い放つ。
「くそ、下劣な...!」
「はしたないですが、やるしか無いのですね...。」
「屈辱。」
そんなことを各々言いながら、下着だけを見せられるよつ準備していく。
いや、俺としては何も負担はないからいいんだけど、後の恐怖がすごいよ。
俺が怯えている間に、いつの間にか準備が整っていた。
「時間が無い。みんな行くよ、せーの!」
「「「「ドリーグさん、私のパンツを見てください!」」」」
誰もが心の準備をしていない中見せられたその光景は、まさに絶景だった。
俺はこの数十年間鍛え上げられた動体視力を無意識下でフル回転させる。
勇者ネルビアは、先程見た通り純白のパンツに水色のリボンが着いているシンプルな下着だった。
たくし上げられたスカートを持つ手は震えていて、目線をどこに置けばいいか迷うように目を泳がせていた。
その横で立っているアリシアは、ちゃんとショートパンツを全て下げ、黒い下着を見せていた。
この勇者パーティでは最年長のアリシアは、黒い生地に赤い薔薇の刺繍が縫われたオシャレな下着を着ていた。
剣一筋で生きているように見えたアリシアが、人には見せない部分でこんなお洒落をしているとは思わなかった俺は、その秘すべき部分を覗き見る背徳感で胸が満たされた。
下げられたショートパンツと黒い下着の間にある健康的な白い太腿は、コントラストによって輝きを増している。
食い入るように太腿と下着を見つめる俺の視線にアリシアは耐えきれず、何度も手で視線を遮ろうとしていたが、先程の失敗を思い出すのか、手を後ろに組み直していた。
この世界でおそらく最高峰の魔法の天才エリカは、青色のフリルが付いたスカートをたくしあげていた。
その中に見える下着は、薄いピンクだった。オーダーメイドでもしない限り見たことの無い、リボンやフリル、少女の理想を詰め込んだ可愛い下着が俺の前に晒されていた。
そんな、夢に溢れたお洒落な下着をオッサンの下劣な視線で穢していく。
肉弾戦を行わないエリカの太ももはとても細く、心配になりそうだったが、そこには少女特有の完成された美があった。
最後に見たのは、世界を救うべく選ばれた聖女、ソフィだった。
聖女にのみ着用を義務付けられたロングスカートの修道服を、両手いっぱいに持ってたくしあげた中には、ただ少女の持つ聖域を守る純白の下着だけがあった。
ウェスト部分にだけ、フリルが付いている控えめなお洒落心が、ソフィの性格を現していて何故かとても良かった。
この国に居れば何度も演説で見た事のある、救世の象徴であるソフィの誰も見た事の無いあられもない姿は、ただ下着を見ているだけなのに込み上げるものがあった。
顔を赤くしながら、俺の目を見つめ曖昧に微笑んでいるソフィは、スカートをたくし上げているにも関わらずどこか神秘的に見えた。
俺は今までの恐怖など忘れて、この絶景の全てを記憶に刻み付けるべく、神経の全てを使って目に焼き付けた。
この間約3秒。
残りの時間は少女達が自分のあられのない姿を、見ず知らずの男に晒している羞恥と屈辱を受け止めている反応を堪能していたら、いつの間にか試練の時間は終わっていた。
『・シーフに懇願しながら、パンツを同時に10秒見てもらう
達成!B1に進む権利を付与します』