官能物語 2020/06/28 14:00

義弟と交わって/30

 それから一ヶ月の間は、何もありませんでした。この間、わたしと浩二くんの接触は、朝夕の挨拶を交わすくらいのものになりましたが、これは、わたしがことさら彼を避けるようになったというよりは、彼の方の仕事が忙しくなったからというものだったようです。

 この間、彼との間にも何も無かったのですが、わたしと夫との間にも「何も」無くて、わたしは、しばしば、自分で自分を慰めるようになっていました。ともすると、浩二くんとの交わりを思い出して、それで自分を慰めてしまいます。……いえ、正直に言うと、ともするとどころか、あれからいつも浩二くんのことを思って、自慰をしていました。夫がしてくれれば……というのは、言い訳にはなりません。多分、夫にされても、浩二くんのことを思い出してしまうでしょうから。

 わたしは、自分の頭が彼のことでいっぱいになっていることに気がつきました。それでも、それはいけないことだと思って、何とか彼への思いを振り払おうとして、一ヶ月が経ったのでした。

 一ヶ月が経って、ようやく何となく、体が落ち着いてきた頃のことでした。体が落ち着くというのも何だか変な表現ですが、何というか、それほど欲求が溜まらなくなったというか、体がレス状態に慣れたわけです。

 その晩、わたしは、残業で遅くなる夫を待っていました。義父母と息子は、既に寝ています。わたしがダイニングテーブルにかけて雑誌を読んでいたところに、浩二くんが帰宅しました。どうやら飲んできたようで、少し酔っている様子が見えます。二人きりでいるからには、何かしゃべらざるを得ず、わたしは、何か食べるか飲むかするか、彼に訊きました。すると、水が飲みたいというので、冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを出そうとしたところで、後ろから、抱き締められました。

「こ、浩二くんっ!」

 わたしは、焦った声を上げました。ここダイニングと、義父母の寝室は、そう離れているわけではありませんし、夫がいつ帰ってくるか分かりません。

「真由さん……おれのこと嫌いになったの?」

 浩二くんは、そう言って、わたしの髪に顔を埋めるようにしてきます。嫌いになったのか。そうだとしたら、どれほどよかったことでしょう。実際はその逆で、嫌いどころか、彼との交わりを忘れるのに一ヶ月もかかったくらいです。その忘却したはずのものが、彼に後ろから抱き締められている中で、蘇ってくるのをわたしは感じました。

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