美少女のいる生活/4
貴久は友人の顔を見た。どこからどう見ても、ただのおっさんの顔である。それは、そのまま自分にも当てはまることだった。
「その、お前が結婚する相手なんだけど、お前のどこを気に入ったんだろうな。冴えない中年おやじの。近頃、遺産でも相続したか?」
「してない。おれの妻になる女性を、結婚詐欺師扱いするな」
「で、美咲ちゃんを預かるっていう話だけど、いつまで預かればいいんだよ?」
「いいのか!?」
友人はテーブル越しに身を乗り出すようにした
「あの子、色々我慢してきたんじゃないのか、これまで」
「そんなことはないだろ。何不自由なくさせてきたと思うけどな」
「親がそういうことを考えるということが、子どもに我慢をさせているっていうそのことなんだよ」
「なんで子どものいないお前に分かるんだよ」
「この前、雑誌に書いてあった」
「……それで?」
「だとしたら、たまの我がままを叶えてやるのは、周囲の大人の務めだろう。お前ができないなら、おれがやるさ」
友人は、軽く頭を振るようにした。
「おれはいい友人を持ったよ」
「で、いつまで預かればいいんだ?」
「娘は、ずっといたいって言ってるけど」
「『ずっと』ね。まあ、やってみればいいさ。おっさんと暮らしたって、そうそう楽しくないってことに、そのうち気がつくだろ。……て言うか、お前も相当だよな」
「なにが?」
「だって、そうだろ。年頃の娘を、自分と同じ年のおっさんに預けるんだぞ。そんな親いるか?」
「いないだろうな。それにおれだって、お前みたいなスケベおやじに娘を預けたくないんだ」
「今さらっと何の脈絡も無い悪口言ったよね」
「でも、この状況じゃ、そうせざるを得ないだろ。それに、娘は昔から、一度言い出したら絶対に自分の気持ちを変えないんだ」
貴久は、友人と話している間に、すっかりとぬるくなってしまった冷酒を一口飲んだ。友人の娘を預かるということについては、大した抵抗を感じなかった。金のトラブルではないかと心配していたところ、それよりは随分と軽い話だったということも、その「感じ」を助長している。
「でも、預かるのはいいけど、おれの部屋、広くないぞ。一部屋は使ってないから、美咲ちゃんの部屋にできるけど」
「そういうところは何も文句は言わないだろ。自分から望んで来たいって言ってるんだから」
「分かった。じゃあ、1年でも10年でも預かるよ」
「そうか……」
友人は、ホッとしたように息をついた。そのあとに、声を暗くして、
「娘が結婚して家を出て行くときっていうのは、こういう気分になるのかな」
としみじみと言った。気が早すぎだろと貴久は思ったが何も言わず、しばらく友人をひたらせてやっているうちに、もう一口冷酒を飲んだ。