美少女のいる生活/5
それからしばらく二人で飲みながら、入居日なり、生活費のことなり、細かなことをざっくりと決めた後に、
「じゃあ、そろそろおれは帰るよ、新幹線の時間がある。もっと細かいことはおいおい、電話かメールかチャットでもするよ」
と言って、友人は席を立った。願いを受け入れてもらって嬉しいはずなのに、どこか恨めしそうな顔をした友人を送ると、貴久も帰路を取った。3月上旬の夜はもう十分に春めいている。ふんわりとした夜気が心地良く、見上げれば月が出ていた。
歩いてバス停に向かいながら、奇妙な成り行きになったものだと思った。親友の娘を預かるなどという事態は、予想だにしたことがない。しかも、たとえば、新婚夫婦で旅行がしたいから、その間だけ預かってほしいというならまだしも、そんなことでは全く無いのである。そもそもがどうしてこんなしょぼくれたおっさんと暮らしたいと言っているのかも分からなければ、いつまでそれが続くのかも分からないのだから、人生というのは時に驚くべき相貌を見せるものである。
しかし、貴久はそれをどこかで面白がっている自分を見出していた。そもそも、友人の娘のことは嫌いではない。どころか、好きなタイプである。もちろん、それは自分と対しているときだけに見せている偽りの姿なのかもしれないけれど、好悪の評価というのは結局は外面的なものでしかないのだから、それでいいのだとも言える。
――あ、そう言えば、同居人ができるときっていうのは、何か特別な手続きが必要だったんだっけな。
貴久の借りているマンションは、入居者の人数が決められているわけではないが、もしかしたら人数が増えるときには何かしらの手続きが必要かもしれない。契約時と契約の更新時に説明を受けた気がするけれど、覚えていなかった。契約書を確認してみなければならない。
――まあ、無理なら、どこか別の所を探してみてもいいか。
貴久はお気楽なことを考えた。しかし、お気楽な考えにしては気に入った。それもいいかもしれなかった。今住んでいるところは便利だけれど、もう随分な年数を暮らしているので、新居を考えてみるのも面白い。今の家にある物を全部捨てて、新しい部屋で新しい生活というのも楽しいかもしれない。
――なんかわくわくしているな、おれ。
一人娘を嫁に出す気分になって暗くなっている友人には悪いけれど、貴久は軽く興奮するのを覚えながらバスに乗った。そうして、今の部屋で同居できるのであれ、新居を探すのであれ、とりあえず、
――ヤバいDVDは処分しないとな。
ということだけは確実に思うのだった。