美少女のいる生活/6
契約書を調べてみたところ、特に同居人を増やすことに関して条件はなかったが、同居人の基本プロフィールが分かる必要書類の提出を管理会社に出すことは求められていた。それを友人に伝えて用意してもらったのち、ほぼ物置と化している6畳の部屋を入居時と同じまっさらな状態にしてからできるだけ磨き上げ、さらには、自室にあるここ数年の間に溜まった色々とヤバめなブツを全部処分して、パソコン内にあるそっち系のデータも(特にロリコンものは念入りに)全て消去して、彼女の到着を待った。
「お世話になります、貴久おじさん!」
4月1日、そよ吹く春風とともに現われた少女は、花なら少し咲きかけた頃といった趣である。空色のワンピースを身につけた彼女は、涼しげな目元に微笑を浮かべていた。荷物はあとから送ることになっているので、ほとんど身一つで来ており、小さめのハンドバッグを肩から提げているだけだった。
「ここまで迷わなかった?」
貴久が彼女を迎えたのは、自室の玄関先である。最寄り駅まで迎えに行くことを申し出たのだが、
「スマホのナビを頼りにして歩いていってみますから、大丈夫です」
と言われたので、部屋で待っていたということだった。
「はい、大丈夫でした!」
元気よく言う彼女には、父親との確執の影など全く見えないが、あるいは一緒に暮らしているうちにおいおいそういうところも見えてくるのかもしれない。
「ようこそ。今日からここが君の暮らす部屋だ」
貴久は、大仰に礼をすると、彼女を部屋の中に上げた。そうして、リビング、ダイニング、キッチン、トイレ、バス、自分の寝室などを簡単に案内したあとに、彼女の部屋へと行った。
「ここが美咲ちゃんの部屋だよ。夜、広すぎて寂しくなったら、いつでも、おれの部屋においで」
言ってしまってから、貴久は、いきなりセクハラ的な発言をしてしまったと後悔したが、彼女は気にした様子も無く、
「そうさせてもらいます」
と笑いながら応えた。そこで、彼女は、貴久に真向かうと、
「本当にありがとうございます、貴久おじさん」
と綺麗に頭を下げた。貴久は、しばらく彼女の肩を過ぎる黒髪を上から見下ろす格好になった。その頭が上がって、
「わたしの我がままを受け入れてくださって、感謝します」
と続けた。
「いや、ちょうど一人の生活にも飽き飽きしていたところだったんだ。美咲ちゃんが来てくれて、おれも助かるよ」
「わたし、きっとご迷惑かけますよ」
「おれだってかけるから、二人で暮していくってことはそういうことだろ」
「そうだとしたら、父に対して、わたしは一方的だったかもしれません」
美咲は顔を曇らせた。「おいおい」どころか、いきなり父親との確執が見えた格好になったけれど、
「いいんだよ、あいつは。ていうか、おれが美咲ちゃんの立場だったら、もっとぶち切れてるよ。きみがお父さんに対して負い目に感じることは何も無い。きみが新生活を楽しむことができれば、それであいつは満足さ、きっと。おれの親友はそういうやつだ、多分」
貴久がそう言ってやると、彼女は、もう一度頭を下げた。