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吉備津彦伝の記事 (11)

しゅれでぃんがー 2020/09/24 00:00

吉備津彦伝 全体図まとめ1

・アーケードゲーム『wonderlandwars』の二次創作
・最初期の設定資料を採用
・この設定資料に書かれたことは、書いている途中で変化していく可能性あり

時系列図

闇の軍勢出現

クイーン誕生(オリキャラ)

図書館発足

マグス・クラウン、美猴、アイアン・フック、シャドウ・アリスが入館
入った順番はマグスから最後がアリス
シャドウ・アリス=クイーン

柴刈りの翁入館

吉備津彦が引き取られる

柴刈りの翁引退

闇の軍勢活性化

吉備津彦旅立ち

犬養健がお供になる

留玉臣がお供になる

楽々森彦がお供になる

鬼ヶ島に到着 温羅と戦う

黒桃花を吉備津彦と温羅で半分ずつ封印

クイーンが柴刈りの翁と洗濯の媼を殺害
柴刈りの翁は鬼化して麓の村を襲う
洗濯の媼も鬼化しかけるが、柴刈りの翁がトドメを刺す

吉備津彦、「門」を開いて鬼ヶ島から自宅へワープ
洗濯の媼の死体を発見

麓の村は火の海
黒鬼(柴刈りの翁)VS吉備津彦

吉備津彦が勝つ
逃げ遅れた子どもを吉備津彦がかばって深手を負う
その姿を見て、黒鬼は自身の首を自分で落とす
頸が落ちた状態で鬼化が解けて柴刈りの翁の姿に戻る

逃げ遅れた子どもは子どもの頃に友だちだった夫婦の子ども
吉備津彦、柴刈りの翁の遺体を持って帰る
山の山頂に二人の墓を作る

数日後、帝から文が来る
内容は吉備津彦に出頭すること
来なければ山に攻め入ること
麓の村の住人が密告した

留玉臣、泣きながら止める
犬養健、怒る
楽々森彦、逃げることを提案

吉備津彦、お供たちに自身の故郷に帰ることを命令
お供に命令したのはこれが最初で最後

お城の門前、吉備津彦後ろ手に縄で縛られて正座
罪人服を着ている
吉備津彦は山を下りた罪で斬首刑を言い渡された
柴刈りの翁が黒鬼になったことで危険と判断され処分することになった
罪については難癖のレベルであった
見物人がいっぱい
口々に勝手なことを言って吉備津彦を罵り石を投げる

見物人の中にお供たちがいる
変装している
留玉臣、泣いている
犬養健、今にも飛び出しそう
楽々森彦、体中に爆弾を隠し持っていよいよとなれば事を起こす準備をしている

吉備津彦は抵抗せず、ただただ受け入れている
心の中で、柴刈りの翁は何故洗濯の媼を殺したのか
理由もなく殺したりしないはずだ
何故自殺したのか
あれはきっと為りたくて為ったわけじゃない
それなら自分も、桃太郎として教えに背くわけにはいかない
弱い者いじめはしない
むしろ、今後も出現し続けるだろう闇たちから人々を守れないことを悔いる

クイーン出現
介錯人が闇に呑まれ化け物化
見物人がどんどん闇に浸食され化け物になっていく

騒ぎに乗じてお供たちが吉備津彦を解放

門が二つ出現
美猴、マグス・クラウン介入

化け物は元、町の住人なので殺せない
美猴、吉備津彦に門を開くよう指示
吉備津彦の門で吉備津彦の自宅に逃げる

藤の山の外は全て闇に呑まれる
藤の山はこの物語における神聖のようなものが集まってるので闇を寄せ付けない

吉備津彦、本を出て闇を祓う方法を探しに行く

↓(本当は構想自体はあるけどこの部分は全カット)

マグス・クラウン、着流しを着て橋の上で笛を吹きながら御伽噺をする
闇を祓った桃太郎の話

桃太郎の本の人間たちは、全員が鬼断ちや金剛の位とかが使えるようになってる
桃太郎養成学校みたいなのがあって、子どもたちはみんなそこに通ってる
卒業試験を基準を満たした者は、みんな桃太郎を名乗ることができるようになった

その学校には犬養健、留玉臣、楽々森彦が指導員として在籍している
それぞれ目をかけた生徒がいて、後継者として育てている
三人が顔を合わせて笑い合う

藤の山、半人半鬼半闇となった吉備津彦が一人で住んでいる
山、幼い頃に自分が飛び降りた崖から麓の村を見下ろす
その村は大きな学校が建っていて、規模もとても大きくなっていた
村の中には藤の木が植えられ、桃太郎を奉る石像が建っていた
(終わり)


後継者

・犬養健の後継者
猫のお面 長く艶やかな髪の女
物干しざおみたいな長い刀 居合抜きの達人
なんでも器用に人並み以上こなす
周りの凡庸さに飽いていて、普段はあらゆることを手抜きしている
いつもけだるげ
退屈な日常から抜け出す刺激を求めている
犬養健はいつも彼女に「真面目にしろ」と叱っている


・留玉臣
鬼のお面 鬼族の男
温羅の支配する領域から留学してきている
藤の山に住む「藤の鬼神様」に憧れている
小心者で卑屈 怖がり 体は鬼族の中でも特に大きい
留玉臣は彼の精神性を気に入っている


・楽々森彦
ねずみのお面 小柄な女
忍者にあこがれている
ねずみ小僧
楽々森彦と波長が合っている
楽々森彦を師匠と呼ぶ

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しゅれでぃんがー 2020/05/27 21:18

吉備津彦伝 闇退治の章 旅立ち

【郵便受け】
 【桃太郎】は勅命を果たし続ける限り、月に一度、麓の村から物資を受け取ることができる。米や味噌に干した魚など。山菜や動物の肉などは自給自足(経費削減のためらしい)。柴刈りの翁の要求により、酒も少し入っている。しかし、物資の分だけでは全然足りないので、柴や肉を狩って、麓の村と交換したりもしているようだ。

 麓の村の村人は【鬼憑き】と顔を合わせることを嫌うので、品物を石の上に置いておけば勝手に酒を置いていくようになっている。【桃太郎】相手に品物を持ち逃げする命知らずは、今のところ現れていないらしい。

【吉備津彦の家】
 宮大工たちが建てた豪華で頑丈な家。二階は無いが離れがある。藤の山にはこういう建物が大小点在しているが、今はもう吉備津彦の家以外は廃墟同然になっている。






【 藤の山 吉備津彦の家 】

 山奥にぽつんと建っている家屋へ、一羽のカラスが舞い降りる。カラスは銜えた巻物を、家屋の玄関から少し離れたところに置かれた大きくて平たい石の上に置くと、カァと一声鳴いて飛び去った。

 少しして玄関が開き、洗濯の嫗が出てくる。金印で封された巻物を手に取ると、封を切ることなく持ち帰った。


 朝食の刻。囲炉裏を挟んで座る吉備津彦と叔父、叔母。叔父、叔母は並んで座り、吉備津彦は対面するように座っている。一人一つの座卓、質素ながらも一汁三菜。吉備津彦がこの山に来てから、一度もこの形が崩れたことは無い。この家にはちゃぶ台は無く、家具も最低限の物しか無かった。

 囲炉裏には火がくべられており、吊られた鍋が煮えている。今日は熊鍋らしい。

「吉備津よ」

 柴刈りの翁がおもむろに口を開いた。吉備津彦は口の中の熊肉を咀嚼し、十回以上噛んだ後に呑み込んでから答える。

「はい」

 柴刈りの翁は、そんな吉備津彦を眺めてクク、と喉を鳴らした。知らずに顔もほころぶ。返事ははい。口にものを入れたまま喋らない。洗濯の嫗の教えを忠実に守る、絵に描いたような良い子。それが、吉備津彦という男であった。

「おまえ、いくつになったっけ」
「………………」

 指折り数えて、吉備津彦は考え込む。代わり映えのしない山での生活は、時間の流れを忘れがちになる。

「今年で、三十になります」
「……そうか。もう、そんなに経つか」

 この世界では誕生日という文化は無く、人はみな年の初めに年を取る。雪解けが始まって、もうすぐ春の時期。数え年で、吉備津彦は三十歳になっていた。

「今日まで、よく励んだな」

 柴刈りの翁は、そう言って立ち上がり、奥の部屋へ姿を消す。この家で一番、飯を食うのが早い。吉備津彦は叔父の消えた部屋を見ながら、また箸を進める。

「娑婆に下りる時が来たぞ」

 柴刈りの翁は、赤備えの甲冑と巨大な太刀を持って戻ってきた。吉備津彦は箸と茶碗を握ったまま、ぽかん、と目を丸くした。


 柴刈りの翁が身に着けていた甲冑を身に着け、自身の身長ほどもある大剣を背負う。剣の名は『斬鬼丸』。柴刈りの翁が特注で作らせた剣だった。最後に、桃の刻印が刻まれた鉢金を巻いた。子どもの頃、その大きさを眺めるだけだった鎧と大剣。それを今、まるで元々自分の物だったかのように着こなすことができている。吉備津彦は、自分の姿を物珍しそうに見下ろし、背中を振り返りながら見下ろし。両の手を見下ろしてきょろきょろしている。

「男子が、そわそわするんじゃないよ」

 洗濯の嫗がやんわりとたしなめる。吉備津彦はきょろきょろしなくなった。

「まあ、適当にやってこい」
「気を付けて行っておいで」

 二者二様に言葉をかける。まるで散歩に出る子どもを送り出すかのように気安い。吉備津彦は、いまだ当惑したように無言で瞬きをしていたが。

「叔父上、叔母上」

 吉備津彦は頭を下げた。

「行って参ります」

 踵を返し、歩き出す。振り返ることも無く真っ直ぐに、山頂の方角へ。麓の村へは『下りない』と約束したから。山を越え、逆側から出発することにしたのだった。

 山頂へ近づくにつれ濃くなる藤の色と香り。咲き誇る藤と、舞い落ちる花びら。その香りに包まれながら、吉備津彦は。自身の心がまた、少しだけ高ぶっているのを感じた。


 吉備津彦の遠ざかる背中を見送る。姿が山に消えた後も、二人とも家には戻らずにたたずんでいた。

「別にいいんだ。【桃太郎】になんざ、ならなくても」

 柴刈りの翁はぽつりと呟く。洗濯の嫗は何も答えない。

「漫遊がてら御勤めを果たして。今後のことはてめえで決めればいい。その身を賭して、人を、世界を。守るに値するのか。この世は、本当に守るべきものなのか」

 柴刈りの翁にとって、この世のことなどどうでもよかった。自分に関わらず、自分へ干渉しないのであれば。物のついでで、守ってやる。その程度のものでしかない。だから力と技を教えはしたが。【桃太郎】の心得については、何一つ伝えることはなかった。

「……アタシは」

 洗濯の嫗は言った。

「【桃太郎】を育てたつもりはないよ。人として生きる上で、大切なことは教えたけれど」

 そう呟いて、洗濯の嫗は家へと戻った。彼女も、もしかしたら自分と同じ気持ちなのかもしれない、と柴刈りの翁は思った。嫁を貰って、子どもを作って。普通に生きて、普通に死ぬ。吉備津彦に、そんな風に生きて欲しい、と。

 まあ。とにもかくにも、まずこの御勤め。無事に済ませねば先も何も無い。柴刈りの翁はくあぁ、と大きく欠伸を一つして。頭を掻きながら、寝直しに戻った。そして寝転がった瞬間怒鳴りつけられ、渋々柴刈りへ行った。





【 藤の山 山頂 】

 山で一番藤の香が強い場所。山で一番の巨木が生えている。吉備津彦自身、滅多に来ない。しかし、この山の中で一番好きな場所。そこで、不意が降ってきた。

「おにいさん」

 声のする方角を見る。山一番の御神木の枝に、不思議な少女が座っていた。吉備津彦は知らないが、彼女はシャドウ・アリス。彼女は、吉備津彦を知っている。

 異国風の服装。それ以外に皆目見当もつかない。なので、何も考えないことにした。吉備津彦は柴刈りの翁の、分からないことは考えない、という教えを忠実に守っていた。とりあえず、普通の人間ではないのだろう。とだけは分かった。

「誰だ」
「………………♪」

 くすくすと鈴のように笑う少女。吉備津彦は何も言わず、じっ……と返答を待つ。

「おにいさん、何処に行くの?」

 吉備津彦はただ真っ直ぐにシャドウ・アリスを見つめている。名乗る気は無さそうなので、吉備津彦は待つのをやめた。

「北へ。鬼ヶ島に、闇の気配があるらしい」

 シャドウ・アリスは目を細めた。

「何で行くの?」

 吉備津彦は表情を変えない。

「勅命ゆえ」

 シャドウ・アリスはくすくすと笑った。

「何十年も閉じ込められて、助けた人たちは武器を向けてきたのに。何で助けてあげるの? 命令だから? それとも、おじいさんとおばあさんのため?」

 吉備津彦はふむ、と顎に手を当てて考え込む。シャドウ・アリスは目を細めて笑みを浮かべながら、待った。

「麓の村に、友がいる。闇を捨て置けば、また危険にさらされるかもしれない。山には、叔父上と叔母上がいる。命を果たさねば、迷惑をかけるかもしれぬ」
「それだけ? それが理由?」
「いや」

 吉備津彦は答えた。

「俺には、それが出来るからだ」

 この身に宿りし鬼の力。叔父から学び受けた武の力と鬼の技。これは他の者には無く、おそらく今は自分しか持っていない。ならば、自分がやらねばならぬ。

「闇が現れたというのであれば、闇を祓わねばならない。そうしなければ、この世は闇に覆われる」
「何故覆われてはいけないの? この世界の人は、あなたに何かしてくれたの?」

 吉備津彦は首をかしげる。

「何故、何かしてもらわなければならない?」

 シャドウ・アリスはわずかに目を見開いた。

「叔父上と叔母上、そして友が達者であればそれでいい。闇に覆われれば、皆に危険が及ぶ。ゆえに祓う。その過程でこの世全てが護られるのであれば、それはそれでよかろう。……これは、理由にはならぬのか?」

 世界を救うのは、物のついで。それ以外に理由は無い。吉備津彦は、言外にそう語っていた。

「――ふ。ふふふ。ふふふふふふふふふふふふ」

 シャドウ・アリスは喉を鳴らす。とめどなく溢れ出る笑いを垂れ流す。

「そう」

 ひとしきり笑った後、シャドウ・アリスは立ち上がった。

「またね、おにいさん」

 極彩色でごてごてした装飾が施された扉が出現し。シャドウ・アリスはその中へ消える。そして扉も瞬きの間に、何もなかったかのように消え去った。


 吉備津彦はしばし扉があった空間を眺めていたが。考えてもよく分からないので、また歩き出した。

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しゅれでぃんがー 2020/05/23 21:08

吉備津彦伝 柴刈りの翁の章 二頁目

【超絶奥義】
 通り名は【ワンダースキル】だが、和風物語ではこの呼称が使われているらしい。潜在能力を開放する強化スキルで、一度使用すればしばらく使えない。自身を強化するだけでなく、周囲の仲間に影響を及ぼすスキルもある。


【どこかの物語の森深く】





「引退する、だぁ?」

 美猴はあんぐりと口を開け、塞がらないままに目を丸くした。美猴と桃太郎は闇の出現を聞き、コンビで討伐の任務に出ていた。今はその帰り道。焚き火を焚いて、丸太を座布団に火を囲んでいる。

 彼らが出会った日から、二十年以上もの月日が流れていた。

「……理由は?」
「寄る年波には勝てねぇ、ってことさ」

 美猴は桃太郎をじっ、と眺める。桃太郎の顔には、出会った頃よりもずいぶんとしわが増えた。髪も白髪混じりが目立つ。老いている、というのは本当なのだろう。

「お前とは長い事組んできたが、俺にもう昔ほどの力は無い。いずれは脚を引っ張ることになるだろう。だからその前に、な」

 桃太郎はすっきりと笑っている。が、美猴は今にも殴りかからんほど、剣呑に彼を睨みつけた。

「馬鹿にするんじゃぁねぇぞ。てめぇが他人様のことなんぞ考えるタマかよ。もし解散はしたとしても、引退まではしねぇだろ。一人で勝手に戦って、勝手に死ぬまで戦うだろが」

 桃太郎は苛烈な男だった。ひとたび闇と聞けば、誰よりも早く一番に飛び込んでいく。そのせいで誰もついてこられないので、目付として美猴が同行するようになった。そして美猴も一緒に盛り上がってしまうので、いつの間にかこの二人が先駆け部隊となった。

 戦うことが、三度の飯よりも好き。それを絵に描いたような男。それが桃太郎。だから、美猴は彼の言葉の空虚さに憤った。桃太郎はそんな美猴が眩しいのか、目尻を緩めて目を細める。美猴はそれがまた気に食わない。

「なんだてめぇ、まさか腑抜けやがったか!? 俺様がトドメを刺してやってもいいんだぞ!?」
「くくく……すまんすまん。やはり、お前には分かるか」

 桃太郎からは後ろ暗さを感じない。どうやら臆したわけではないようだ。ならばこそ理由が気になって、美猴は問いたげな視線を刺す。

「うちのガキがな。この前、初めて御勤めを果たしたのよ」
「おつとめ、ってーと……前に言ってた、あれか」

 桃太郎の世界では、闇との戦いを【闇退治】と呼ぶらしい。それは桃太郎の義務であり、逃れえぬ宿命である。そう語っていた。しかし。ガキ、と聞いて、美猴は血相を変える。

「って、てめぇ! てめぇのガキたしかまだ二桁ですらなかっただろ!! なんてことさせてやがる!?」
「無論、近くで見てはいたがな。たった一人でやりおおせやがったよ」

 桃太郎は嬉しそうだった。美猴はなおもなにか言いたげに顔をくしゃくしゃさせるが、話が進まないので呑み込んだ。

「だがな……」

 桃太郎はその顛末を語る。美猴は聞き入った。そして、何も言えなかった。

「俺の国では、【鬼憑き】が幸せに生きる道は無い。一生日陰で隠れて生きるか、【桃太郎】として闇と戦い続けるしかない。多くの者は、その中で命を落とす。生き延びた者も、自由には生きられん。ひととせ絶えず咲き誇る、藤の山に幽閉される。許可なく下山すれば即討伐だ」

 吉備津彦は、本当なら討伐されるところであった。しかし討伐命令は下らず、吉備津彦も『下山しない』という約束をたがわなかった。

「あいつは運が良かった。外の世界を垣間見て、命を落とさずに済んだのだから」

 村でなにがあったのかは分からない。しかし、吉備津彦の下山をお上に報告しなかった、ということだけは分かる。それだけで充分だ。

「【桃太郎】というあざなは呪縛だ。命果てるまで闇と戦い、果てぬなら藤の牢獄で朽ちる。行き着く先は、死あるのみ」

 まあ俺が山に下ったのは、討伐隊がしつこすぎて面倒くさくなったからだがな、と桃太郎はぶははと笑う。しかし、美猴は笑わなかった。

「あいつは俺ほど強くない。このままでは飼い殺しにされるだろう」

 焚き火の炎がいつの間にか弱まっていた。桃太郎は慣れた手つきで柴を割り、くべる。そんな姿が似合っているようにすら見えて、美猴は時の流れを改めて自覚した。桃太郎は、こんなことが得意そうな男ではなかったのに。

「俺は、名前というものが無い。普通は親にもらえるそうだが、物心ついた時には親などもういなかった」

 捨てられたのか、それとも別の理由か。桃太郎はその理由を知らない。

「もしかしたら。俺が桃太郎になったのは。何でもいいから、【名前】が欲しかったからなのかもしれんな」

 自身が【桃太郎】となってからの歳月は、彼にとっては比較的平和な時間だった。昼夜襲撃に備える必要もなく、誰からも敵意を向けられることは無い。屋根のある場所で定住し、日がな一日のんびりできる。平和を知らなかった彼にとって、藤の牢獄は居心地のいい場所ですらあった。

「だから。【鬼憑き】を育てろなんて勅命が下った時は、正直言ってめんどくさいだけだったよ。世話役としてついてきた女も、口うるさくて鬱陶しい」

 桃太郎の世界では、増える闇の襲撃により、【桃太郎】が桃太郎ただ一人になっていた。ゆえにその事態を重く見た帝が、【桃太郎】を増やすために桃太郎に【桃太郎】の育成を命じたのであった。
 それを聞いて、美猴はなんとも勝手な話だな、とあきれかえった。しかし。悪態をつく桃太郎の顔は、思い出を懐かしむようにほころんでいる。

「そのわりには、懐かしそうじゃぁねぇか」
「まあ、な。この俺に向かって、真正面から怒鳴りつけてくる女なんて初めて見たからな。新鮮で珍しかった。あいつが俺をどう思っていたかは知らんが。少なくとも、俺の前で【鬼憑き】を嫌悪するような姿は、ただの一度も見せなかった」

 女は吉備津彦のことも、我が子のように可愛がっていた。親子ではないが、親子のような毎日。いつの間にかそれが日常となった。

「アレもお上のところで色々あったそうでな。左遷されたらしい。でも、こっちのほうが楽しい、と、一度だけ言っていたよ」
「そりゃぁよかったじゃねぇか」

 ぶは、と桃太郎は笑った。美猴も表情が緩んだ。

「……俺が【キャスト】を辞める理由は、もう一つある。【超絶奥義】が、使えなくなったからさ」
「――――――!? なんだとっ!!!? 」

【超絶奥義】とは、キャストとなった者だけが使える秘奥義、最後の必殺技のようなものである。自身の内に秘めた力を解き放ち、様々な能力を発動させる。それが使えなくなったということは。

「なんでそんなことが……」

 美猴は考え込み、そしてすぐに理解した。

「まさか」
「そのまさかだ。代替わりの時が来たのさ」

 【超絶奥義】は、一種類のキャストにつき一人しか使えない。そして、吉備津彦はそれを使うことができた。ならば、そういうことなのだ。

「元々俺は捨て石だった。そもそもが英雄なんてガラじゃねえ。本物の【桃太郎】が現れるまでの代役、繋ぎでしかなかった」

 襷(たすき)を繋ぐ役目を果たした、と考えれば、これで自分は御役御免ということだ。と、桃太郎はまた笑った。その顔に寂しさも憂いもない。だから、美猴もそれに対して何か言うことはやめた。

「だが。最近ふと思うんだ。俺から【桃太郎】というあざなを取れば、いったい何が残るのだろう、とな」

 親にもらった名前も無い。人の世に伝わる名前も無くなった。ならば、自分はいったいなんなのだろう。桃太郎は素朴に自分へ問うた。

「それに。吉備津のことも気になった。ガラじゃねえんだが。まあ、なんだ。……心配なんだよ」

 美猴は彼の口から心配という単語がこぼれて、目を丸くした。まったく、本当にガラではない言葉である。桃太郎もそれを自覚しているのか、自分で口にしてぶははと笑った。

「アレはこれから、きっとつらい人生を送る。挫けることもあるかもしれない。あいつの為に、なんでもいい。何か、残してやりてえ」

 桃太郎は表情を曇らせた。

「だが。俺は、人からもらった物が無い。だから、あいつに残せる物が無い。なにもねえんだ」

 桃太郎にとって、物とは奪う物だった。与えてくれる人なんていない。欲しい物は自力で手に入れるしかない。しかし、そんな人生は、彼の手元に何も残さなかった。【桃太郎】というあざななど、本当は残したくないというのに。要らない物ばかりが残ってしまう。

「俺にあるのは、この力だけ。力は全てを解決する万能の手段だ。力が無くては、何も選べない。せめて、この力の欠片ぐらいは。あいつに残してやりてえ。俺はあいつに、『未来を選ぶ自由』を。残してやりてえんだ」

 桃太郎が【桃太郎】を辞める本当の理由。それは、ただこれだけのことだった。美猴はなんとも、複雑な気持ちになった。桃太郎は笑う。

「そんな顔をするな。これでも俺は、今日までそれなりに楽しかった。正義の味方の真似事をするのも、お前と馬鹿みたいに暴れまわるのも。俺はもう、充分楽しんだ」

 桃太郎が【キャスト】になれた理由は、単純にその力の強さだけだった。もし選考基準に品位や精神性という項目があれば、もしかしたら落とされていたかもしれない。吉備津彦を引き取り、洗濯の嫗と出会わなければ。途中で不適格と除名されていた可能性もある。

 彼が今日この日まで、【桃太郎】として生きてこられたのは。奇跡のような運命だったのだ。

「……ふん。まあ、いいだろう。後の報告は俺様がやっとくから、おめぇさん、もう帰っていいぞ」
「なに? いや、そういうわけには」
「いくんだよ。引退の件も上手い事言っといてやる。さっさと家族の元に帰りやがれ」

 しっしっ、と追い払うように美猴は手を払った。焚き火はもう、ほとんど消し炭になっている。森の切れ間からは、朝日が差し込んできていた。

「てめぇのガキがこっちに来たら。一人前になるぐらいまでは、俺様がめんどう見てやるよ。だからてめぇは安心して、老いて安らかにくたばるんだな」

 自身は老いぬ、修行中なれど仙人であるが故に。これが友との今生の別れになるかもしれない。美猴はそれでもなお、顔を背けて表情を見せないようにしながら、言った。

「それよりも。こっちにこられるぐらいには仕込んでおけよ。【桃太郎】の後釜とはいえ、無条件でこられるわけじゃぁねぇんだからな。そこまでは、俺様にもどうしようもねぇんだからな」
「ぶははははは! 心得た」

 桃太郎は立ち上がった。

「美猴」

 桃太郎は美猴の名を呼んだ。彼が美猴を名前で呼ぶのは、初めて出会った時から数えて、初めてのことだった。*美猴は背けていた顔を戻して、桃太郎の顔を見た。

「我が生涯の友よ。次の【桃太郎】を、よろしく頼むぞ」

 桃太郎は会心の笑みを浮かべると、目の前に障子を出現させ、静かに開いて中へ消えて行った。そして、障子も虚空に消える。そこには、美猴と燻った焚き火だけが残った。


「……ふん」


 美猴は桃太郎が座っていた丸太をしばらくじっ……と眺めていたが。立ち上がり、自身も門を開き消えて行った。

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しゅれでぃんがー 2020/05/16 01:49

吉備津彦伝 幕間「お残し」

 大量のティーカップを前に、げんなりして座っている美猴。

【マグス・クラウン】
「おやおや、一人でティーパーティーとはつれないね。僕も混ぜておくれよ」

【美猴】
「混ぜろじゃねーんだよ! もう混ざってんだよミルクがよ!! てめぇも飲めよ!!!!」

【マグス・クラウン】
「それは遠慮させてもらおう。もう冷めてしまってるじゃないか。僕は、珈琲は熱々のホットでないと飲めないのさ」

【美猴】
「てめぇこの前アイスコーヒー飲んでたじゃねーかよ! 嘘つくんじゃねーよ!!」

【マグス・クラウン】
「あれは冷やしてあったからね。冷めた珈琲、とは違う飲み物なのさ」

【美猴】
「てめぇ……ッ!!!!!」

 すさまじい形相の美猴。

【マグス・クラウン】
「ははは、そんなにカリカリしないでくれたまえ! お茶菓子はいかがかい? 特別に、僕が持ってきてあげよう。それとも耳が寂しいかい? たしかに、パーティーには音楽がかかせない」

 そう言いながら、愛笛を構えるマグス・クラウン。

【美猴】
「ぬぁあああああああああやめろぉっ! 何が悲しくて笛なんぞ吹かれながら、冷めたコーヒー飲まにゃならねぇんだよっ!! いい加減にしろ!!!!」


 ただひたすらにキレ散らかす美猴。彼は結局、残された7杯の手つかずのカフェオレを、全て飲み干して帰っていったとさ。

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しゅれでぃんがー 2020/05/14 20:35

吉備津彦伝 柴刈りの翁の章 一頁目

【図書館】

 あらゆる世界のあらゆる物語が蔵書された、異空間にある図書館のこと。その中には数えきれないほどの本棚があり、その本棚のどれもが本で埋め尽くされている。蔵書された物語の中で、特に有名なものや、偉業を成し遂げたものは、図書館が召喚を行いキャストとして契約することがある。

 マメールという司書が図書館を管理している。

【キャスト】

 図書館と契約した、物語の主人公やメインキャラのこと。キャストになった者は様々な物語を行き来することを許可され、図書館を通じて移動することができる。キャストは物語を闇に呑みこもうとする【闇の軍勢】という勢力と戦うことを義務付けられる。闇の軍勢を放っておくと、自分たちの物語にも侵攻される恐れがあるので相互互助の意味合いもある。正義感で応じてくれるキャストも多いが、別にそんなキャストばかりでもない。色んなキャストがいる。







 物語と物語の狭間の世界には、全ての物語を収める図書館が存在する。普段は司書しかいないその世界に、キャストたちが集まっていた。木製のテーブルと椅子、大きなポット。並べられた人数分のティーカップ。座っている人数は四人。

『ピ―タ―パン』のキャスト、アイアン・フック。
『ハーメルンの笛吹き』のキャスト、マグス・クラウン。
『西遊記』のキャスト、美猴。
『鏡の国のアリス』のキャスト、シャドウ・アリス。

 彼らは今日、新しいキャストが図書館に加わるということで集められたのだった。図書館の司書、マメールが口を開いた。

「皆様。本日は御足労いただき、ありがとうございます」

 対して、キャストたちの反応は様々だが、大まかには二種類。返事があるか、返事はないか、だった。

「ははは、なんのなんの。仲間が増えるなんて、賑やかになっていいじゃないか。先達として、導いてやらないとねぇ」

 そう答えたのはマグス・クラウン。服装と見た目通りのおどけた調子で、恭しく、大げさに語った。帽子とマスクは脱いでいても、道化の態度は崩さない。
 
「ケッ。俺様はどうでもよかったんだがな。サボると、お師匠がうるせぇからな。仕方なく来ただけだ」

 美猴が悪態をつく。残る二人は応えない。アイアン・フックは脚を組んで椅子に座りこみ、静かにティーカップを傾けている。シャドウ・アリスはマメールを視界にすら映すことなく、両手で頬杖をつきながら、心ここにあらずで虚空を見つめている。

 各々の様子にマメールは一瞬顔をしかめたが、すぐに気を取り直して続けた。

「【闇の軍勢】の勢いが増しています。発足して間もないこのシステムですが、敵は待ってはくれません。一刻も早く戦力を整え、迎撃態勢を整えなければならないのです」
「はいはい、その話は何度も聞いたぜおい。一致団結しろ~、だろ? 聞き飽きたぜ」

 美猴はうんざりした様子で口を挟んだ。

「仲良しこよしのお遊戯会じゃあねえんだ。普段からべたべたしなくたっていいだろうがよ」

 美猴は明らかにめんどくさそうだった。アイアン・フックは我関せずといった様子で、静観を崩さない。シャドウ・アリスはティーカップに入ったコーヒーにミルクを垂らし、マドラーで絵を描いて遊んでいる。マグス・クラウンは美猴をたしなめるでもなく、にこにこと笑みを絶やさず、しかし止めるでもなく。何もしない。

 マメールは抑えきれなくなったのか、小さくため息をついた。ここにいるキャストたちは個々の力が強いせいで、協調することを好まない者が揃っている。いや。好まない、というよりは、単純に興味が無い者もいるようだ。

「できたにゃ~☆」

 シャドウ・アリスが歓声をあげた。場の空気を全く意に介した様子はない。彼女の持つティーカップには、ミルクで猫の顔が描かれていた。

「ほう。これは見事だね。飲むのがもったいないくらいだ」
「おめぇさん、それ全部飲むんだよな? 残すんじゃねぇぞ」

 マグス・クラウンは感嘆の声をあげたが、美猴は冷ややかだった。シャドウ・アリスは手に持っているカップの他に、いくつものカップが前に並んでいる。そのどれもが雑に混ぜられたのか、白と珈琲色が混ざり切らずに濁っていた。

「諦めないのはけっこうだけどよ。飲み物は粗末にするんじゃねぇぞ」
「お近づきのしるしに~、プレゼントだにゃ~☆」

 美猴の目の前にカップを並べるシャドウ・アリス。白く湯気を立てるティーカップが、美猴の前にずらりと並んだ。

「いやいらねぇよ。酒ならまだしも、こんなに飲みたかねぇや」

 シャドウ・アリスは途端に目をうるませる。

「美猴さん、アリスのこと、嫌い?」
「い、いや。そういうわけじゃあねぇけどよ……」
「だって、いらないって」
「紅茶はいらねぇがお前が嫌いってわけでも」
「やっぱり、嫌いなんだ。だからいらないって」
「~~~んぬぁーもうっ! 飲む!! 飲むから泣くな!!!!」

 途端に、シャドウ・アリスは雲間からのぞいた太陽のような笑顔を浮かべた。

「やったにゃー☆」
「てめぇ……」

 渋い顔をしてシャドウ・アリスを睨む美猴。そこにアイアン・フックから声がかかる。

「飲まんのか?」
「ぐっ」

 アイアン・フックはじっと美猴を見ている。

「飲み物を粗末にしてはいかんのだろう?」

 そう言いながら、ブラックのコーヒーを音もなくすする。美猴はふん、と不機嫌そうに鼻を鳴らすと、カフェラテの一つに口をつけた。

 不意に。テーブルの前に、突然障子が出現した。間髪入れず、すぱぁん、と勢いよく開かれる。中から出てきたのは赤備えの鎧武者。日に焼けた褐色の肌に、桃をかたどった印が刻まれた鉢金。和風な顔立ちの、背の高い男だった。

男はテーブルに座る面々を見渡すと、考え込むように顎に手をやり、首をかしげた。

「ふむ。祭りの仮装のようにも見えるが」

 美猴に視線を固定した男は、背中の大太刀をすらりと抜く。

「もしや、百鬼夜行かな? 仇なすものならば、切り捨てねばなるまい」

 男は美猴に切っ先を突き付けながら、にやりと口角を上げた。

「ここは、そういう集まりなんだろう?」

マメールは慌てて割って入ろうとした。が。

「面白れぇ……この斉天大聖様にガンくれて、ましてや因縁つけるたぁ。おめぇさん。覚悟はできてんだろうなぁ?」

 それを制して、美猴が立ち上がった。どこから出したのか、巨大な如意棒が腕の中に出現する。彼の武器は大きさが変幻自在なので、いきなり現れたように見える。男と美猴は一定の距離を保ちながら、テーブルから離れていく。

「何をしているのです、美猴! やめなさい、やめて!」

 戦闘能力は無いマメールには、キャストたちを止めることができない。こういう時に頼りとなるはずの他のキャストたちはというと。

「ははは、面白くなってきた! アジタートな予感がするね!」
「埃が舞う。離れてやれ」
「ふんふんふ~ん♪」

 マグス・クラウンは俄然面白くなってきた、と満面の笑みで今にも笛を吹きだしそう。アイアン・フックは我関せず。シャドウ・アリスは、今度はマカロンを積み上げて遊んでいる。マメールは真っ青になりながらも、周囲にある本棚へ何事か念じる。すると、視界を埋め尽くすほどに存在した本棚が、一瞬ですべて床に埋まるように消えてしまった。

 先手を取ったのは美猴。

「かァ――――――ッ!!!!」

 気合いと共に飛び上がり。自身の体を球のように丸めながら、高速で回転しつつ相手を急襲。美猴の技の一つ、【乾坤一擲】である。うなりを上げる如意棒が、喰らえば脳天を叩き割る。地響きが起こるほどの着地。しかし、鎧武者は飛び込むような前転で間一髪回避した。

「唸れ――如意棒!!」

 美猴はそれを見越していたのか、着地と同時に次の技を構えていた。手にした如意棒をさらに巨大化させ、振り回し、全てを薙ぎ払う【如意暴風】。初手から間髪入れずの大技。並大抵の者なら身がこわばり、必ず様子を見てしまう。ゆえに、美猴は心中で勝利を確信していた。

 しかし。

「聞くか――我が渾身の叫びを!」

 鼓膜を突き破るような一喝。周囲にいるあらゆる存在を、一瞬だけ本能的に硬直させる。【鬼殺しの一喝】と呼ばれる技であった。回転の態勢に入っていた美猴は、強○的にその動きが一瞬だけ断ち切られる。驚愕する美猴に、鎧武者はがらがらと笑った。

「剣撃の露となれ」

【鬼断ち】。暴力の権化のような衝撃刃が、動けぬ美猴を呑み込んだ。床は割れ、岩がせり出し、もうもうと土煙が立ち込める。常人なら跡形もなく消し飛ぶだろう一撃。しかし、鎧武者は構えを解くことはない。

 晴れた土煙の中から、美猴の形をした石像が現れた。

「――へ。今のはちぃっとばかし肝が冷えたぜぇ」

 岩が剥がれ、石像の中から無傷の美猴が姿を現す。あらゆる攻撃を防ぐ防御の術、【仙岩変化】であった。

「同感よ。異界の化生とは、どうやら俺の国のやつばらとは出来が違うようだな」

 鎧武者はぶはははは、とつばが飛ぶように大きく笑った。そのまま、どちらからともなく構えに戻る。が。

「そこまでだ」

 二人は声の方角へ振り返る。するといつの間にか、アイアン・フックが義手に仕込んだガトリング銃を構えていた。

「貴様の腕前は充分に分かった。その力、振るう場は今ここでは無い」

 その銃口は一瞬にして敵をハチの巣に貫くだろう。美猴は興が削がれたようにふん、と鼻をならし如意棒をまたも一瞬で仕舞った。対して、鎧武者は向けられた銃口を興味深げに眺めている。

「そいつは察するに、鉄砲の類か? それにしては珍妙な形だ。異界の絡繰か?」
「こいつは『銃』だ。貴様の言う鉄砲とやらの弾を、一秒間で百倍は多く撃てる。あまりやんちゃが過ぎるようなら、実際に味わうことになるぞ」
「なんとまあ……おっかない絡繰だな」

 鎧武者も銃弾は怖いのか。手にした大太刀を背中へ納した。

「やあやあ、新たな僕らの仲間よ。歓迎しよう」

 マグス・クラウンが気さくに立ち上がると、仰々しくお辞儀をした。道化の帽子をかぶっているのもあって、ともすればからかっているかのようにも見えた。

「僕はマグス・クラウン。こう見えて、ここでは一番の古株さ。そちらの海賊船長殿はアイアン・フック。ああ、仔細は本人から直接聞いてくれよ? なにせ、僕もまだ聞いたことがないからね。あちらのレディはシャドウ・アリスで……おや?」

 テーブルにいたはずのシャドウ・アリスは、いつの間にかいなくなっていた。座っていた席に残されているのは。ばらばらと散らばった色とりどりのマカロンと、すっかり冷めきった猫のラテアート。そのカップには、一口も口をつけられた形跡がなかった。

「やれやれ。相変わらず気まぐれな子猫ちゃんだね。まあいい。それで、そこの猿のような彼は、美猴。ああ見えて、神様に近い存在なんだよ?」
「今猿っつったか? てめぇ」

 美猴は剣呑にマグス・クラウンを睨みつけた。しかし、マグス・クラウンは全く意に介した様子はない。このやり取り自体、いつものことなのかもしれない。

「では、新たな僕らの仲間よ。自己紹介を、お願いできるかな?」

 名を尋ねられ、鎧武者は思い出したようにあ、と声を漏らした。しばし何事か考えこみ、そして口を開く。


「俺は『桃太郎』、と呼ばれているらしい。よろしく頼むぞ」

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