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テキストの記事 (1)

ヒロイン工学研究所 2022/09/11 21:19

140字キャプションの可能性

140字の文学

文章の練習も兼ねて140字以内で自作絵にキャプションを付けてみることにしたのですが、実際にやってみるとなかなか難しく、試行錯誤しながらちょっと研究していました。

まず最初に「なぜ上限を140字にしたのか?」についてですが、これはTwitterでのコンテンツ化を企画していたからというのが一番の理由なのですが、それとは別に、短文の表現力の可能性について以前から関心があったからでもあります。
https://twitter.com/heroinekougaku/status/1568221853315141633

実際にやってみると、140字以内でワンシーンの味わいを表現するのはとても難しく、即興的にサラサラと書くというようにはいかず、基本となるコンセプトを決め、そのために描くべきポイントを絞り、効果的な構成を模索し…という非常に構築的なアプローチとなりました。
もともとこの試みは文章力を養うつもりで始めたことで、そのときは文章力=描写力のように考えていましたが、むしろ情景全体の中から核となる一部をトリミングしてそこから構成するという編集力こそがまず重要なのだと痛感しました。


俳句添削とグルメ記事

140字以内のキャプションを書くために参考にしたものが二つあって、一つは「俳句添削」、もう一つは「グルメ記事のキャプション」です。

俳句というといかにも即興的な印象がありますが、実際には最初の印象をラフに詠んだ原句から完成した成句になるまでは非常に綿密な推敲作業が加わっていることが多く、その過程をまとめた本がとても参考になりました。
17字で情景世界を伝えるためには、ポイントを絞り、効果的に構成し、一語一語を精選する緻密な工程が不可欠であり、このテクニックの多くはそのまま短文作成にも活用できると思いました。

一方、雑誌のグルメ記事に掲載されているキャプションも非常に参考になりました。
通常こうした記事では料理の写真の近くに70~120字程度のキャプションが付いているのですが、こうした文章は料理のある点にピンポイントで焦点を当てることで読者がその魅力をイメージするよう促す機能を担っており、「画像とセットで欲望を刺激する短文」という意味で私が作ろうとしているものと共通しています。
当初はファッションや観光など色々なジャンルの記事のキャプションを参照していましたが、やはりエロと親和性があるグルメ記事がもっとも役に立ちました。ちなみにいくつかの雑誌のグルメ記事を読みましたが、今回の目的に一番合致していると感じたのは「東京カレンダー」のグルメ記事のキャプションでした。プロの料理人などをターゲットにした専門雑誌などではイメージ喚起よりも正確な情報提供が優先される傾向があり、あまり参考になりませんでした。ただ、このことで、具体的記述が読者にとって「イメージ」になるケースと「情報」になるケースがあることを知り、新しい興味関心が湧きました。


漢詩が参考になるかも

140字で何かを表現するための構成術、ということを考えていたときに、頭に浮かんだのが漢詩です。試しにネット上にある絶句と律詩の形式の有名な詩の現代語訳をコピペして字数を調べたところ、(同じ詩でも訳し方によってかなり字数に幅が出ますが)大体絶句は70~110ぐらい、律詩は180~230ぐらい(五言と七言の違いは翻訳を経由すると字数上あまり顕著な差を生まないようです)といった感じでした。
そこで「140字でどれぐらいのものが表現できるか?」「それを効果的に構成するにはどうしたらいいか?」という問題は漢詩の絶句を研究すると参考になるんじゃないかと期待しています。


キャプションという形式

今回の試みは単なる短文作成ではなく、自作絵にキャプションを付けるというものなので、その点についても考えてみました。

キャプションのテキストは必ず画像とセットにして、テキストと画像が相互に影響し合う関係において鑑賞されるものなので、作成するときにも画像との関係を考える必要があります。ここが言葉の力だけで効果を生もうとする小説などの執筆と違うところです。

キャプションにおける記述には大きく分けて二つのタイプがあります。それは画像に「描かれていることを書く」記述と「描かれていないことを書く」記述です。

描かれていることを書く記述

例えば、磔になったヒロインの周囲を敵兵が囲んでいるシーンの絵の場合、「磔」や「囲まれている」という事実は絵を見ればわかることなので、これを記述することは、その事実を強調したり、鑑賞者の視線を記述したポイントに誘導する効果を持ちます。こうした記述は絵を鑑賞するポイントや順番を教えるガイド役みたいなものです。
この鑑賞の順番の指示という性格は映画のカットに類似した効果をもちます。磔にされたヒロインのカットの次にそれを取り囲む敵兵たちのカットを繋ぐのか、それとも逆にするのかによって、同じ映像素材を使っていても別の味わいをもった映像が生まれますが、これと同じことをキャプションは記述の順番によって行っていると言えます。

描かれていないことを書く記述

画像に示されていることを書くことが強調と誘導という鑑賞のガイド的な機能をもつのに対して、画像に示されていないことを書くことは、画像の世界を補充して豊かにしつつ、画像を起点にして読者が想像力を働かせるように促します。
例えば先ほどの磔シーンの絵で、ヒロインの視線の先に何があるかが描かれていない場合、キャプションでそれを記述することによってシーンに対する解釈が変わり、画像から受ける印象も変わります。
磔のヒロインの視線の先にあるものが、「見渡す限りの敵の大軍勢」なのか、それとも「百人ほどの敵兵の向こうで悲しみ嘆きながら処刑を見守る市民たち」なのかによってシーンのニュアンスはかなり変わりますが、こうしたニュアンスはキャプションの記述によって生まれ、画像に投影されることになります。

画像に描かれていないものを言葉で添えることによって画像のニュアンスを変えてしまうという手法は、「この写真でボケて」といったお笑いの大喜利でも使われます。こうした遊びを知っている方にはわかると思いますが、言葉を後付けすることによる画像の印象操作は非常に強力であると同時に、かなり突飛な発想の言葉でも印象操作に成功するほど自由度が高いです。キャプションがもつ可能性の大部分はこのタイプの記述で何を書くかにかかっていると言えます。


「描かれていること」は画像内容によって限定されていますが、「描かれていないこと」はほぼ無限定です。そのため網羅的に列挙することは出来ないのですが、いくつかの典型例を紹介しておきます。

・そのシーンの前に何があったか(例:どのようにして捕まったのかなど)
・そのシーンの後に何があるのか(例:これから公開処刑されるなど)
・アングルなどの関係で描かれていないもの(例:後姿のキャラの表情など)
・画角の外にあるもの(例:遠くから心配そうに見つめる人々など)
・触覚や臭覚などに関する情報
・登場キャラの台詞や心理



習作

以上のような研究と並行して、「マイナーキャラ限定お題募集」企画で描いた永瀬綾の絵に140字以内のキャプションを付けた習作を作成しました。

4枚の差分により構成された絵なので、キャプションも4つ作りました。差分展開とキャプション構成の関係についてはこれからもっと研究していくつもりです。やはり前述の漢詩などが参考になるんじゃないかと思っています。
また絵の中に埋め込むとなるとレイアウトの問題も重要になりますが、これについてはまだちゃんと研究していません。
今回は「姐御肌蹂躙」のように差分が展開しても変化しないタイトルのようなものを表示して、その言葉とデザインによって展開する差分劇の中に一貫したコンセプトを提示する手法を試しました。

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