2周年詫びSS第2弾!【魔界式ブライダルフェア】

2周年詫びSS第二弾!

ロリこんばんは~~!
ロリっくorロリっ娘!2周年企画、割引前に全作購入してくださっていた方からリクエストを頂き、一本短編小説を書く……そんな、己自身の首を絞めるような企画第二弾でございます!

今回のヒロインは、ロリっく随一のポンコツのじゃロリ、アルナ様!
 
どうやら、彼女とあなたは、魔界のブライダルフェアに参加することになったらしく――――

続きはあなた自身の目でお確かめください!!
アルナ様、超かわいいです!!!! マジで!!!




SS2『魔界式ブライダルフェア』

 魔界。そこは太陽が存在せず、常に混沌とした夜が支配する世界。コウモリが羽ばたき、カラスが鳴く、そんなホラー映画のようなBGMに似合わない満開の笑顔で、白髪の少女……いや、不老不死の吸血鬼は言い放つ。

「眷属よ! 今日は……結婚式場に行くぞ!」
 
 唐突なプロポーズとも思える言葉を吐いたのは、幼い体躯に膨大な魔力を秘めし魔界の貴族、『吸血姫』ことアルナクルーゼ・ブルーエンド、愛称『アルナ』だ。
 前振りなしで結婚式場に行くぞ、と言われた眷属――アルナとは恋仲であり、結婚を誓っている――に、動揺は見られない。アルナが突飛な行動を取るのは、今に始まったことではないからだ。
 そもそも眷属は、今日アルナがそう言いだすことをあらかじめ知っていたのだ。なぜかというと――

「くひひ……まさか眷属は夢にも思うまい♪ これが……式場を見学することで結婚式のイメージを鮮明にさせて、はやく結婚したくなるように仕向ける罠だとは……くひひ、名付けてサブリミナル結婚大作戦♪ 妾は自分の思慮深さが恐ろしいのじゃ♪ 可愛いだけではなく、策士とは……さっすが妾なのじゃ♪」
 
 アルナの悪癖……心の声を全て口に出してしまう(無自覚)という性質のせいである。
 アルナ自身が、結婚式場の見学予約をしたことをベラベラと自白していたので、日程から場所まで眷属には筒抜けだったのだ。

「ああ、結婚式場に行く、といっても別に? 妾がお主と結婚したいわけではないぞ? ただ、たまたま! ヴァンパイアクイーンである妾に、是非とも式場を視察してほしいと要望があってだな? 電話越しにもわかるくらい深々と頭を下げていたものだから、哀れに思って引き受けてやっただけなのじゃ! で、お主はただの付き添い! くれぐれも思いあがるでないぞ? 分かったな?」
 
 よくこうもバレバレの嘘を吐けるものだ。とはいえ慣れっこな眷属は、アルナに今更指摘したりしない。
 ただ苦笑して、『分かった』と頷くのであった。
 
 

 そうして二人は。

「というわけで……来たのじゃ! 魔界一と名高い結婚式場……『ヘルグロリアス教会』に!」
 
 お目当ての式場である、ヘルグロリアス教会へと訪れていた。教会というだけあって、人間界同様、荘厳な雰囲気の建物だが、なんか……全体的に黒く禍々しい。
壁の至る所を血が汚しており、結婚式よりもホラーゲームの舞台におあつらえ向きのロケーションだ。
 引きつった笑顔で固まった眷属を、ゴシックロリータのワンピースを着こなしたアルナが『何をしておる? ほれ、行くぞ♪』と強引に手を引いて連行していく。
 
 建物の中に足を踏み入れると、待ち受けていたのは執事然としたスーツ姿の男性……と言っても、性別不詳の骸骨なのだが。
 魔界の住人には、こういったおどろおどろしい外見の者も多いのである。

「ブライダルフェアを予約していたブルーエンドなのじゃ! 本日はよろしく頼むのじゃ!」
 
 アルナがそう言うと、骸骨の男性は恭しくお辞儀をして、『お待ちしておりましたブルーエンド様』と歓迎の言葉を口にした。
 それから彼は、控えめながらハッキリと眷属に向かって目配せ――眼球ないけど――をした。眷属もそれに、深く頷いた。
 アルナは『そういえば言ってなかったかのう?』などと白白しく口にして、眷属の反応をドヤ顔で伺いながら。

「今日はのう、この式場の……ブライダルフェアに参加するのじゃ♪ お主は魔界育ちではないからのう……こちらの文化に疎いじゃろ? よい機会じゃ……妾が、魔界の結婚式というものを教えてやる! くひひ♪」
 
 ブライダルフェアとは、結婚式を挙げたいと考えているカップルが主に行う、簡単に言うならば『結婚式の体験会』である。
 式場の内部を見て回るだけの『式場見学』とは違い、実際に披露宴で提供される料理の試食をしたり、ウエディングドレスの試着をしたり……実際の結婚式を再現、体験する『模擬挙式』なんてものもある、イベント色の強いものなのだ。
 骸骨執事に案内され、二人はまず式場を見学し始めた。

「ほぉ……かなり広いのう。これなら、知人・友人を片っ端から案内してもよさそうじゃのう♪ お主も、好きなだけ客を連れてくるがよい♪ その方が、ご祝儀たんまりで妾たちの負担金額が減るからな♪」
 
 さらりとド畜生発言を零すアルナを無視して、眷属は視線を巡らせた。
 確かに広い。ライブ会場のキャパシティに例えるなら、武道館レベル。優に五万人は収容できる規模。つまり、過剰な広さである。こんなに広い必要は絶対ない。
 天井から吊り下がる無数のシャンデリアにより、仄淡く照らされた室内は、まさに俗世から隔絶した非日常空間。
 
 特別な、生涯一度になるかもしれない記念日に相応しい豪華仕様である。
 と、ここまでは人間界と然程変わらないように見える。
 だが、魔界のもてなしは、ここから始まる。

「うむうむ、実のところ、妾はこれが一番楽しみだったのじゃ♪ 一流シェフが手ずから仕込み提供する、魔界のフルコース♪ ほれほれどうした? 食わんのなら妾が頂くぞ?」

 披露宴場に案内された二人は『試食会』の洗礼を受けていた。式本番、ゲストに振舞う料理を味わい、問題がないか確かめるというものである。食い意地が張っているアルナは試食というかタダ飯にありつける、ぐらいにしか思っていないだろうが……それはさておき。
 もてなしと称して提供された魔界のフルコースなるものが、眷属を苦しめていた。
 挨拶代わりに提供された『前菜』から、ぶっ飛び尽くしなのである。

「うむうむ♪ 亡者の指風オードブル……相変わらず美味なのじゃ♪」
 
 青白い死者の指――正確にはそう見えるよう盛り付けられているだけらしい――がこんもりと盛り付けられた至高の一皿である。魔界ではご馳走らしいが、普通の人間にとっては○問でしかない。
 
 しかし、これでもまだ『序曲』に過ぎない。破滅的フルコースは、ここからが本番である――

「『ドラゴンゾンビの涙』……ぷはぁ~♪ のどごし最高! 絶品なのじゃ~!」
 
 アルナがごくごくと飲み干しているのは、緑色と紫色のグラデーションが悍ましい汁物だ。ドラゴンゾンビがゾンビになる前の体液と、死後ゾンビに転じてからの体液を混合したものを、特殊な調理方法で安全に飲めるよう加工したものであり、フルコースのスープにあたる。安全と言われても、匂いとビジュアルが強烈すぎて飲む気力が湧かない。

「ん~……どうじゃ、眷属! お主もやはり、日本の食が恋しかろう? 故に……魚料理は『寿司』にしてもらったのじゃ! 妾ったら、気配り名人じゃろ~♪」

 そういって運ばれてきたものは、寿司と呼べば日本で袋叩きに合うような冒涜的メニューだった。
 その名も『屍肉寿司』。
 死した魔物や魔界生物の肉を部位ごとに剥ぎ取り、寿司に見立てて盛り付けたものである。シャリが普通の米なのは救いだが、ネタ部分から黒い瘴気のようなものが出ている。『シャリの白とネタの黒がコントラストを成していて美しいじゃろ?』とはアルナの言だが、正気とは思えない。
 ここからも地獄の饗宴が続いたため、メニュー名のみを紹介させて頂くことにする。


・肉料理……魔神ガルグレイズの右腕ロースト
・主菜(メイン)……冥府の呼び声~冥府神グロドギルガの頭蓋骨を皿に見立てて、そこにあらゆる生物の血液カクテル注ぎました~
・サラダ……千切りマンドラゴラ
・デザート……輪廻の終焉(クレームブリュレ)
・ドリンク……炎帝ノ呪歌

 
 もてなしというよりは、八大地獄に無理やり突き落とすかの如き○問フルコースだった。
 だが、口にしてみるとどれも絶品で、食べる手が止まらないのだから恐れ入る。
 結局二人とも自分の分をペロリと完食してしまった。
 ふぅ、と一息入れていると、アルナがこちらの顔を見て、『あっ』と声を発したかと思うと、途端に悪童めいた表情になり――

「これこれ、お主もまだまだ子供じゃな……ほれほれ……ぺろっ♪ くひひ、口もとに……ついておったぞ♪」
 
 わざわざ席を立ち、近くに寄ってから頬を一舐め。人目などお構いなしのアプローチは、アルナにしては大胆過ぎるくらいだろう。
 流石の眷属も、これには心臓が飛び跳ね……るはずだったのだが、頬に付いていたものが『輪廻の終焉』なのを思い出し、萎んだように肩を落とした。
 ああ。
 この調子では、先が思いやられる……そう思わずにはいられない。

 食後の腹ごなしも兼ねて、二人は式場の庭を見学することになった。
 生き血を吸い育ったかのような赤いバラや、氷のような青いバラ、どこか死を連想させる黒いバラなど、色とりどりのバラが植えられている。血の池の周りを囲むように配置されていたり、潜り抜けられるバラのアーチがあったりと、テーマパークのような高揚感がある庭だ。
 眷属がらしくもなく園内をきょろきょろ見回していると、アルナが嬉しそうな声を上げた。

「子供のように目を輝かせおって……♪ まあ、基本妾たちは出不精じゃし、城から出る用もないからな。お主にはすべてが新鮮に映るじゃろうて。くひひ……はしゃぐ姿も可愛いのう、お主は……♪」
 
 基本的に素直ではない(口には出ているけれど)アルナにしては、珍しいほど直接的な褒め言葉だ。
 言った後で赤くなっているのを見るに、無意識というわけでもないらしい。どうしたのか、と眷属が口を開きかけた瞬間。

「のう、折角……け、結婚式場まで来たんじゃし……記念撮影でも、してもらわんか?」
 
 可愛らしいことを言い出し、案内役の骸骨執事を呼ぶアルナ。
 バラの花弁がハラハラと散る中、血の噴水を背後に撮影することになったのだが。 

「い、一応妾と、お主は……こ、恋人じゃから、な? ……ほれ……腕、組んでやらんことも、ない……あっ……躊躇ゼロか、愚か者め」

 そうも素直に甘えられては、男として応えないわけにはいかないだろう。眷属はアルナをぎゅっと抱きかかえ、俗にいうお姫様抱っこにて撮影――吸血鬼は写真には映らない特徴を持つため、瞬間的に写真のように精巧な絵を出力する特殊な魔道具によって――してもらった。
 
 撮影後、『は、はやく降ろさんか無礼者……っ』とジタバタしながらも、いつものデカすぎる独り言で、
「……ぅ……ドキドキが、止まらないのじゃ……っ! ぅぅ、ダメダメ、ダメじゃ……これでは、結婚なぞしたら……顔がふにゃふにゃになって、妾の威厳がなくなってしまう……っ」
 そんなことをのたまうアルナを見つめながら、眷属は小さな笑みを漏らした。

「な、なに笑っとるんじゃ、感じ悪いのう。さてと……次はなんじゃったかのう? 確か、えーと……」
 
 うんうん唸っているアルナに、『試着会だよ』と眷属が答える。

「ああ、そうじゃったそうじゃった! ウエディングドレスを試着するんじゃったな! ……って、ん? おかしいのう……妾、今日の段取り、お主に伝えたんじゃったか? んん……?」
 
 訝しむアルナを適当に誤魔化して、骸骨執事案内の元、二人は『試着会』をするべく、場内へ戻るのであった。
 その刹那、眷属と骸骨執事が、意味ありげにアイコンタクトしたのを、鈍いアルナは気づいていない――

 +++++

 サキュバスと思しきメイドにドレスを着せてもらいながら、アルナは落ち着きなく足をバタつかせていた。

「くひひ……♪ 妾のウエディングドレス姿なんぞ見たら、あやつ……卒倒してしまうのではないか? ああ、リアクションが楽しみじゃのう……でも……可愛いと、言ってもらえる、かのう」
 
 語尾へ向かうにつれ、徐々に自信が萎えていく。アルナ自身は、自分は素直ではなく、いつも眷属に酷い態度を取ってしまっていると思っているため、仕方がないだろう。

「今日も妾、振り回してしまったし……いい加減愛想を尽かされても、おかしくないのじゃ……」
 
 暴走している最中ではなく、し終わった後にいつも後悔する。自分だけが楽しいのではないか。眷属に迷惑をかけてしまったのではないか。好きと言ってくれる眷属に、好きだと伝えられていないのではないか……と。
 不安がるアルナに、ヘアメイクを施してくれている女性――黒髪赤目、吸血鬼のメイドだ――が言う。

「大丈夫だと思いますよ。吸血姫様はとても素敵な方ですし、外見も麗しゅうございます」
「そうか? 本当にそう思うか? 妾、全然素直じゃないのじゃ。長生きしてるくせに、眷属以外の男を知らんし……たまに幼子みたいな失敗をしてしまうぞっ? 今日だって冷静に考えたら、ブライダルフェアに来たから結婚したくなる……とか意味わからんことしとるし、ぅぅ~……! 失敗じゃったか、あからさま過ぎて逆に結婚する気が失せるのではないか⁉」
 
 ネガティブモードのアルナに、メイドは微笑ましいものを見るような笑顔を向けた。そして、どこか確信に満ちた声で告げる。

「絶対、大丈夫です」
「……分かった。そこまで言うのなら、信じてやらんこともない」
 
 むすっとしながらも、メイドの言葉を一応受け入れたアルナ。
 タイミングよくヘアメイクが終わったらしく、姿見――吸血鬼は鏡に映らない性質だが(以下略)――の前に移動するように言われた。
 そうして、鏡に映った己を見て、アルナは『ほぁ……』と間の抜けた声を漏らした。
 
 そこに映っているのは、祝福の日を迎えた花嫁の姿そのものだった。魔界で一番人気の、夜色のウエディングドレスを身に纏ったアルナは、誰もが振り返らずにいられないほどの絶世の美少女と言って差し支えない。ヘアスタイルも、自分の手では再現できないような複雑な編み込みなどが多数織り交ぜられており……とにかく、美麗であった。

「し、試着会とは、随分本格的なのじゃな……ちょっと着てはい終わり、ではないのか……?」
「いつもはそうですけど、今日は特別なので」
「……?」
 
 意味ありげなメイドの言葉に、ピンとこなかったアルナは首を傾げた。

「さあ、行きましょう。花婿様がお待ちですよ」
「……う、うむ……」
 
 試着如きで随分大仰なことを言うな、と疑問を抱きつつも、アルナはメイドの言に従い、部屋を出た。


「あれ? 眷属は?」
 
 試着部屋から出ても、眷属の姿が見当たらない。いきなり出て行って驚かせてやろうと思っていたのに、拍子抜けだ。
 首を左右に傾げているアルナに、メイドが『あちらでお待ちです』と声を掛け、歩き始めた。
 アルナはメイドの背後に付いて、ドレスの裾を持ち上げながら歩いていき……ふと考えた。
 
 ――ん? こっちは、確か……。
 
 そう、メイドが向かう先は、エントランスホールでも披露宴会場でもない。
 教会と……そして結婚式に付き物である、とある場所である。
 メイドが金色の扉を開き、『さあどうぞ』と手で示す。
 その場所とは――

「……チャペル……? こんな場所に、何の用が……」
 
 そう、チャペル。教会に備え付けられた礼拝堂であり、結婚式においては神に誓いの言葉を告げる場でもある。
 あくまでブライダルフェアであり、今日はここで何かやるとは聞いていない。一体何が起こっている?
 
 混乱する頭で、周囲を見回すアルナの目に、
「って、け、眷属⁉ なな、なんじゃ、その恰好は!」
 探していた、しかしいつもと違う服装の眷属がいた。
 
 それは、アルナが纏う漆黒と対を成すかのような、目が覚めるほどの純白。
 初雪もかくやと言うような、白のスーツであった。
 当然、彼は私服にスーツを着るような気取った人間ではない。ならなぜ? なぜこの場で、スーツを纏っているのか。
 アルナに疑問の解へたどり着く間を与えまいとするかのように、厳かな声が語り掛けてくる。

「新婦、前へ」
「は、はひぇっ⁉」
 
 先ほどの骸骨執事が、首元に十字架……ではなく、よく見ると卍になっているネックレスをぶら下げていた。恐らく吸血鬼であるアルナが、十字架に弱いと考えて配慮したのだろう……実際は、隔絶した魔力を持つアルナに十字架など効かないのだが……それはさておき。
 
 骸骨執事は、執事ではなく神父の恰好をしていた。
 神父、スーツ姿の男性、そしてウエディングドレスの女性。
 これだけのピースが揃った今、導き出されるのは――

「こ、これは……に、人間界の、結婚式……⁉」
 
 魔界ではなく、人間界流の結婚式だ。魔界では神に祈る風習はないため、結婚式においても神父は必要ない。血液をグラスに入れて交換し、同時に飲み交わす……それが魔界流、婚姻の儀式なのだ。
 
 ならどうして今、この魔界で人間界の結婚式が再現されている?
 分からない、全く分からない……それでもアルナは、自分を待っているかのように見つめている眷属に惹かれるようにして……ふらふらと歩いていった。

「の、のう眷属……これは、一体……?」
 
 隣にたどり着くなり、眷属へと問いかけるアルナ。だが返事は返ってこない。
 眷属は、拳を握り、こめかみに大粒の汗を浮かべて震えていた。

「お、怒ってるのか……? いや、違う……緊張、しておるのか?」
 
 図星だったのだろう。眷属の発汗量が、目に見えて増大した。
 これ以上は心臓が持たないと言わんばかりに、彼は神父に向かいアイコンタクトをした。

「……では、始めましょうか」
 
 骸骨神父は、低く芯のある声で、語り始めた。何が始まるのか……アルナは、薄々気づき始めていた。だが、なんで?

 これは、これではまるで――
 
 聴き洩らしたが、神父が何事かを眷属に言ったらしい。
 眷属は深く頷くと、アルナの前に跪いて。

「う、受け取ってほしい……って、こ、これ……」
 
 小箱を懐から取り出し、アルナの前に差し出した。
 そうして彼が開いた箱の中には――

「ッ……! こ、これ、ま、まさか……結婚、指輪……?」
 
 二つの黒い指輪……内側にアルナと、眷属の名前が刻印された指輪が入っていた。
 
 そして彼は、泣きそうな目でアルナを見つめながら、
 
 ――僕と結婚してください。
 
 そう言った。

 +++++

 ――僕と結婚してください。
 
 言った。言ってしまった。
 以前、アルナと恋仲になる前に行ったプロポーズとは違う。あれが口約束の婚約だとすれば、今回は正式な結婚の申し込みだ。
 
 眷属も、このままではいけない、口だけではない結婚をしたい、そう考えていた。
 しかし、恋人として甘い時間を過ごしていくうちに、そこから更に関係を深めるきっかけを見失ってしまったのだ。
 主人と眷属として、一生共にいることは確定しているのだ。現状の恋仲と結婚して名実ともに夫婦になること、何が違うのだろう、と。
 
 だがそれでも、アルナは一歩踏み出そうとしてくれた。
 不器用で、恥ずかしがり屋のアルナが、眷属に結婚を申し込ませようとアクションを起こしてくれた。
 それが今回のブライダルフェアだが、それだけではない。
 彼女は、魔界流の結婚式を眷属に見せようとしてくれた。楽しませようとしてくれた。
 自分が育った世界の文化を共有し、共に楽しもうとしてくれたのだ。そんな彼女の意思を知った時……嬉しかった。
 舞い上がる程嬉しかったのだ。
 
 だからこそ、自分も……彼女を喜ばせたかった。
 彼女が知識でしか知らないだろう、人間界のやり方で……彼女に結婚を申し込もうと思ったのだ。
 ブライダルフェアのことを知ってすぐ、会場に連絡し、アルナの目を盗んでコッソリ赴き、今日の打ち合わせをした。
 
 人間界の結婚式を知らない骸骨執事やメイドに説明するのは骨が折れたが……それでも、今日まで準備を進めてきたのだ。
 アルナは、どう思っただろうか。喜んでくれただろうか。

「……」
 
 アルナの表情は、髪が落とす影でよく見えない。
 ただ、拳を、血が出るのではとヒヤヒヤするほどの強さで握りこんでいるのだけが分かる。
 そんな二人の緊迫した空気を見て、段取りが脳裏から飛んだのだろうか。
 
 骸骨執事が唐突に、
「あなたはここにいるアルナクルーゼ・ブルーエンドを、病める時も 健やかなる時も、富める時も貧しき時も。妻として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?」
 そう問いかけてきた。
 
 まさかのタイミングに面食らいはしたが、答えなぞ決まっている。
 一ミリも迷わず、『はい』と答えた。
 続いて、アルナに同様の問いかけがされる。

「……」
 
 相変わらず俯いたままのアルナ。
 緊張しているのだろうか、それともまさか、断るとでもいうのか?
 ハラハラと見守っていた眷属の耳に響いたアルナの言葉は、予想だにしないものだった。

「……誓わん。妾は……そんなもの誓わん」
 
 終わった。
 眷属は膝から崩れ落ち、およよ……と慟哭しようとしていた。
 だがそれより前に、アルナが言葉を続けた。

「……それは、人間界の……神に誓う言葉じゃろ? 神様、仏様……などと妾は祈らぬ。奴らは妾にとって、敵じゃからな」
 
 いつぞや聞いた、傍若無人な吸血姫らしい言葉。神になど誓わない。誓う必要がないと豪語し、アルナは顔を上げた。

「代わりに妾は……宣言する!」

 涙に濡れながらも、真っすぐな瞳で眷属を見つめ……彼女は笑顔を浮かべた。

「ここに……眷属と結ばれることを……こやつの夫となることを! 未来永劫、たとえ滅びの時が訪れようと! 引き裂かれようと! 何度でも見つけ出し巡り会い、愛し抜くことを……己自身に誓うのじゃ‼」
 
 そう強く言い切った彼女は、すっとこちらに指を差し出して。

「……お主の手で、嵌めて?」

 そう恥じらいながらおねだりしてきた。
 分かりましたご主人様(イエス・マイロード)。
 眷属は自らの薬指にリングを嵌めてから、同じブラックリングをアルナの左手の薬指に嵌めた。

「くひひ……」
 
 ふにゃりと笑い、左手の薬指を何度も眺めるアルナ。その様子があまりに可愛くて、愛しくて――

「ふぁっ……⁉ まて、いきなり……んっ……」
 
 肩を抱き寄せ、有無を言わせず唇を塞いだ。
 漆黒の花嫁は、目をトロンとさせながらおねだりしてくる。

「……いきなりで、分からなかったのじゃ。もう一回、今度はもっと長く……して?」

 仰せのままに、僕の花嫁(マイレディ)。
 二人の間に、幸福なキスが落ちた。

 それは魔界を包む終わらない夜のように、いつまでも果てなく続く二人の幸福な夫婦生活、その始まりを告げる鐘だったのかもしれない――


アルナ様の花嫁姿ファンアートください(直球)

↓アルナ様とロリっく!↓

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