【2周年詫びSS第4弾!】【小妖精と結婚式】

2周年詫びSS、ラストを飾るのは……!?

ロリこんばんは~~!!

四回に分けてお送りしてきました、2周年詫びSS(大型セールより前に、全作ご購入して頂いていた方のリクエストに応えるという企画)も今回でラストとなります!

一人目……ミカドちゃん
二人目……アルナ様
三人目……オナホルちゃん

さて、続く四人目ですが……!
なんと、既にSSが公開された三人のうちの誰かだとか……!?

いやぁ、人気者ですね全く……!
まあ既に記事サムネでバレてると思いますけども!

SS二つ目が公開される幸せ者は……森の妖精!
オナホル・メルヘデュアスちゃんです!!!




オナホルちゃんSS2『妖精式結婚式』

 想像してみてほしい。
 リスやハムスターなど、多くの人間が愛でる小動物が、人間と同じくらいのサイズになったらどう思うのか。

 恐らく、『あ、終わった』というのが率直な感想だろう。
 実際、その状況を体験している人を見てみよう。

『チチチチ……(怒号)』
『ピヨピヨ……(圧)』

 歯武星(はむすたー)や非喜虚(ひよこ)に包囲され、彼らの気まぐれによりいつでも落命しかねない状況にあるのは、一人の男性。
 小動物たちが未知の病原菌で大きくなったバイオハザード……ではない。男性が、『小さくなって』いるのだ。
 怯え惑い、今にもションベン漏らしかねない男性の前に、救世主が降り立った。

「はいはい、皆ちょっと離れてね。皆が優しいのは知ってるけど、やっぱ初めての人には怖いみたいだからさ……うんうん、いい子いい子。じゃ、またあとで遊ぼうね」

 少女の言葉を理解しているのか、小動物たちが『あ、おどかしてごめんよ!』とばかりにペコペコしてから、後退していく。

「やれやれ……ほら、大丈夫か?」
 
 薄緑の短髪に、誰もが心奪われるであろう愛くるしい面差し。そして背中から生えているのは、蝶のような翼。
 男性にとっての最愛の女性、オナホル・メルヘデュアスである。身長なんと約三十センチという、ちょっとしたぬいぐるみぐらいの大きさしかない彼女が……今は、普通の人間と同じくらいのサイズ感で男性の前に立っていた。
 オナホルの小さな、だが普段より遥かに大きな手を取り、立ち上がる。

「な、なんだよ……何見下ろしてんだよ、おいっ」
 
 今のオナホルは、男性よりも頭一つ分以上は小さいが……逆に言えば、頭一つ分くらいしか小さくない。
 そう、今男性はオナホルと同じような、妖精サイズまで縮んでいた。肝心の理由はというと。

「ほら……道草食ってないで、さっさと行こうぜ。パパとママ……こほんっ。親父もお袋も、羽をパタつかせて待ってるだろうからよ」

 男性は力強く頷き、オナホルと手を繋ぎながら歩き始めた。胸の鼓動がうるさい。どうやら柄にもなく、緊張しているらしい。
 そうなるのも無理はないだろう。何せ今日は、人生において最も勇気が必要な日。
 大切な大切な恋人の両親に、挨拶をする日なのだから。


 今二人は、オナホルたち妖精が暮らす、『精霊の森』へ訪れていた。
 かつては帰り方が分からず人間界で悲劇に見舞われたオナホルが、今こうしてここに戻ってこられたのは、以前、温泉旅行へ繰り出す際にお世話になった狐耳のじゃロリ、ちまなんとかさんによる手助けあってこそ。

 彼女の『なんでもできそうな凄み』を感じ取ったオナホルが『森の家族に連絡がしたい』と伝えたところ、あれよあれよという間に魔法(本人曰く神術)で森に通信を入れ、無事を知らせてくれた。
 更におまけで、精霊の森と男性の家を繋ぐゲートのようなものを開設してくれたというわけだ。これは男性とオナホルだけでは実現しなかった挨拶。至れり尽くせり、神の導きにより実現したご挨拶なのである。

 閑話休題。

 とにかく男性は今、心臓を嘔吐しそうなくらい緊張していた。
 そんな彼の荒い呼吸、青ざめた顔を見て察したのか、オナホルが呆れたように微苦笑しながら言う。

「んな緊張すんなって。うちの親はそんな厳しくねーから、ちょびっと挨拶したらそれで終わる。それよりも、お前には……俺の育った場所を見てほしい。俺たち妖精の文化を、食を、暮らしを見てほしいんだ。んで、できれば……気に入ってほしいな、とか思ってる。うわ、口にしなきゃよかった……今のなしで頼むな」

 頬を紅潮させながら、なんといじらしいことを言うのだろう、この最愛の女性は。
 気に入るに決まっている。好きになるに決まっている。
 こんなに優しくて、強がりで、魅力的なオナホルの育った場所なんだから。素敵な場所に、決まっているじゃないか。

 妖精たちの住居は、いわばツリーハウスのような形で存在している。樹木の一部を間借りしているような邸宅だ。
 オナホルの実家は、その中でも一番高い大木に建っていた。オナホルはあまり過去を語りたがらないため知らなかったが、どうやらかなりのお嬢様らしい。
 きっとオナホルの両親は、妖精の重鎮。さぞ厳格なご両親に違いない……と男性は息を呑んで覚悟を決めていたのだが。
 そんな意気込みは、入室後三秒で徒労と化した。

「オナホルちゅわ~~ん! うぉおおお~!」

 目にも止まらぬ速さでルパンダイブしてきた何者かを、オナホルは予見していたかのように横にずれて回避。

「べぶっ‼」

 羽を生やした何かは、勢いよく床に激突して断末魔(?)の叫びを上げた。

「いたた……成長したのう、オナホルや。もう儂から教えることは何もないぞ。免許皆伝じゃ!」

 めげずにサムズアップをして、チャーミングにもウインクしているのは、彫りが深い目鼻立ちをしたイケオジだ。妖精全体の特徴なのか、体型はオナホル同様幼い。
 この、サンタのようなヒゲが特徴的な彼は誰なのかというと。

「……もぉ。久しぶりなのに、相変わらずふざけ倒して……ふふ。ただいま、パパ」
「おかえり、オナホルや……よく無事で、帰ってきてくれた」

 オナホルの父親、その人である。人間界に迷い込んだオナホルを、長らく心配していたのであろう。優しく娘を抱擁している彼の目には、うっすらと涙が膜を張っていた。
 オナホルも、ぎゅっと父の背中に手を添え、感慨深さに頬を緩めている。
 しかしいつまでもそうしているわけにはいかないので、身を離して父に用件を切り出した。

「あ、そうだパパ。今日ここに来たのはね、その……」
「娘はやらーーーーーん‼」
「まだ何も言ってないよ⁉」

 話を聞くより前に察し、拒絶。オナホルの父は、肩を怒らせながらふんすふんすと鼻を鳴らして。

「……貴殿、魔法で縮んでこそいるが……人間じゃな? 森を荒し、自然を、命を貪る簒奪者めが……!」 

 一触即発の空気に、顔をひきつらせた男性。その反応を鋭い目つきで見ていたオナホルの父は、一転。
 いないいないばぁをした後のような、両手を顔の横に広げたポーズでおどけて見せた。

「……なーんて、の。これは妖精ジョークじゃ♪ 一部の利権者が犯した罪を人間全体の責任にするほど、儂は頭が固くはない。じゃが、のう……」

 良かった。冗談好きの面白い人だ。これなら話が通じそ――

「娘はやらぁぁぁん! 貴殿の人柄も想いもなーんも知ったこっちゃないわい! オナホルはうちのカワイ子ちゃんなの! ずぇえ~~ったい、どこにも嫁になどやらんわい!」

 話が通じそうにない‼
 舌を出し、お尻ぺんぺんしながら煽る森の妖精。腹パン衝動を、ぐっと堪えるのが大変だった。

「ちょ、ちょっとパパ、ちゃんと話聞いてよっ! 彼は私に凄く優しくしてくれて、危険だらけの人間界で守ってくれたんだよ⁉ そ、そんな恥ずかしい態度やめ……うわっ⁉ お尻出さないでよっ‼」

 娘の言葉も耳に入らないのか、男性の周りをぐるぐる回りながらありとあらゆるムカつく動きや罵詈雑言をぶつけてくるオナホル父。
 とどめと言わんばかりに背伸びをして、男性を睨みつけてくる。 

「ほら、かーえーれっ♪ かーえーれっ♪ かえれったら、かーえ……へぶごぉっ‼」

 手拍子しながら『帰れ』コールを始めたクソカス妖精が、突如視界から消えた。

「ぐぉおおおおおおおおおおぉお……」
 と尾を引く悲鳴の方向・距離感から察するに、木の下に落下していったらしい。
 腹に据えかねた男性が、暴力により恋人の父を始末した……わけでは断じてない。

「もぉ、あの人ってば子供なんだから……ごめんなさいねぇ、二人とも。まあこれで、邪魔者は消えたわよぉ」

 頬に手を当て、朗らかな笑みを浮かべている、おっとりとした雰囲気の女性。笑みの形に細めた糸目と、服を下から押し上げる圧倒的な胸の膨らみ、ウェーブを描く長髪が魅力的な彼女は――

「ママ!」
「はぁい、ママですよぉ、オナホルちゃん」

 オナホルの母親である。家の奥から出てきた母の姿を認めるなり、オナホルはその胸に飛び込んで……泣きじゃくった。

「うわぁぁ……ママ、会いたかったよぉ……私、私……うわぁぁ……」
「よしよし、オナホルちゃんは甘えん坊さんねぇ。気が済むまで泣いていいからね。ふふ……おかえりなさい。あなたのことを思わない日はなかった……ずっとずーっと、探してたのよ……オナホルちゃん」
「うん、うん……っ……ママ、ママ~~……っ」

 傍目で見ているだけでも涙が零れるような光景だった。普段は強がり、男性のように乱暴な言葉遣いをするオナホルだが、その内面は脆く、繊細で……か弱い少女なのだ。
 一人称が普段使っている『俺』ではなく、元々この森で暮らしていた時に使っていたであろう『私』に戻っている所からも、オナホルの感情の揺らぎは察するに余りある。
 彼女の心痛を慮り、胸を痛めていた男性に気づいてか、オナホル母はこちらをチラリと見やり、娘の肩に手を置いて。

「……二人とも、お腹は空いてない? 折角来てくれたんだし、ご馳走をたくさん用意したから……よかったら食べていって♪」 

 
 義母となる(予定の)女性の勧めを断れるはずもなく、丸テーブルを四人で囲んだ。オナホルと男性が横に並び、反対側にオナホル母と、オナホル父――暴れださないように、縄できつく縛られている――が座っている形だ。
 誰もが出方に迷っている中で、オナホルの母が『じゃあ、ひとまず自己紹介しましょうか』と進行役を買って出てくれた。
 そのまま、トップバッタ―を兼任してくれる。

「私はぁ、オナホルちゃんのママ……ママホル・メルヘデュアスよぉ。いつもうちの娘がお世話になってます~」

 あ、いえいえ……と男性が謙遜しようとしたところ、ママホルの横から『フンッ』と不貞腐れたような声が上がった。

「儂はパパホル……その子の父親じゃ。単刀直入に言うぞ……お前に娘はやらがぼぼぼぼぼぼぼ」
「あらあなた、声がガラガラじゃないのぉ~。お茶飲んでお茶~……」

 大量の茶を口に流し込まれ、強○的に黙らされるパパホル。
 さっきの一幕と言い、夫婦の力関係が透けて見える。
 というか、ママホルとパパホルって……滅茶苦茶覚えやすい名前で助かる。偶然だとは思うが。

「まあそれよりも……どうぞどうぞ、遠慮せずに食べてね~」

 緊張でガチガチになっていたところに、ママホルが食事を薦めてくれる。
 するとオナホルが肩をこちらに寄せて、耳打ちしてきた。

「ママの料理は、すーっごく美味しいんだぜ? 人間の舌に合うかはわっかんねーけど……ほら食えよ。親の前だから、あーんはしてやれねーけど、ひひ……♪」

 両親の前で、なんと大胆なことを言うのだろう。小声だから聞こえてはいないだろうけど……ママホルは『あらあら』って顔をしているし、お義父さん(そんな呼び方したら殺されそうだけど)なんて。

「……!」
 
 イライラを隠そうともせず、青筋を浮かべながら貧乏ゆすりしていた。縄で縛っていなければ、殴りかかってきていたのではないだろうか。目が『お前を殺す』と言っている。
 憤怒するパパホルから視線を外し、男性はテーブル上の料理を見た。

 色とりどりの果実や木の実が、所狭しと並べられている豪華な食卓。
 意外なことに、パスタやリゾットに似た料理も置いてある。色合い的には緑や紫が多めだ。動物性の食材は使用していないように見える。

 当然と言えば当然だが、肉や魚などはない。菜食主義に近い食生活を営んでいるようだ。
 早速口に入れると、優しくもまろやかな滋味が口内を満たし、まるで母の腕に抱かれるような安らぎを感じた。
 一言でいえば、素朴で優しい味。なのに恐ろしく美味い。

「ひひ……♪ ママ、彼も気に入ったみたいだよ。急に来ちゃったのにこんなご馳走まで、ありがとね」
「いいのよぉ、大事な娘と、その将来の旦那様のためだもの♪」
「み、認めてないぞ! 儂はまだ、こいつを婿になど……もごご!」
「ほらあなた、今日はリンゴ丸かじりがオススメよ~~」

 素直な感謝を述べる娘に、常にニコニコ優しい母。そして不憫な父。三人はとても素敵な家族に見える。
 幸せそうに見える。

「……? に、人間……? どうしたの……?」

 オナホルが心配したように目を覗き込んでくる。
 一瞬だが、男性は思ってしまったのだ。もしかしたら、ここに自分がいない方が、このままオナホルを家族の元に返した方が、いいんじゃないか? と。
 最愛の女性の幸せのために、自分は不要なのではないか? と。
 だけど、それでも。

「……ちょっ……! ママたちの前だよっ……⁉」
 
 オナホルの肩に腕を回し、ぎゅっと抱き寄せた。

「あら……?」
「む……」

 オナホルの両親が、怪訝そうに眉を寄せる。
 その表情を見ても、男性はオナホルから手を離そうとはしなかった。彼女の体温も、香りも、全部、全部。
 ワガママだとしても、手放したくない。

「ね、ねえ……は、恥ずかしいよ……ど、どうしたのさ、急に……ほぇっ⁉」

 もじもじと忙しない仕草のオナホルには悪いけれど、止まれなかった。男性は深々と頭を下げ、数多の男が紡いできたであろうセリフを口にした。

 ――娘さんを愛しています。どうか、結婚を許可してください。
 
 月並みなセリフだが、どこまでも真摯に。
 これまで共に過ごした時間を、深めてきた絆を乗せて口にした。
 脈絡のない破れかぶれの特攻。もう少しやり取りして、場を温めてから切り出すべきそれを、男性は一秒たりとも心に留めておくことができなかった。不安だったのだ。オナホルの両親にすら、嫉妬してしまう程に。
 そんな男性の想いが伝わったのかどうかは分からない。

 しかしオナホルも、
「わ、私からも……お願い、パパ、ママ! この人のことが、好きなの……! ずっと一緒に、いたいの……結婚、させて……!」
 一緒に頭を下げてくれた。共にいる未来を、迷いなく選び取ってくれた。どんな弁護士よりも、隣に立つこの女性の方が頼もしい。

 男性の胸を満たしていた、暗い感情の全ては霧散して。
 後に残ったのは、オナホルとの未来を願う気持ちだけ。
 どれだけの時間、そうしていたのだろうか。一日にも、一週間にも錯覚するような長い沈黙の果てに。

「……オナホルや。オナホルは……その男の、どこに惚れたんじゃ?」

 パパホルが、深く低い声音で問いかけてきた。

「……」

 オナホルは息を深く吸い込むと、一切迷いを感じさせない毅然とした声で答えた。

「ありきたりだけど……一番は優しいところ。人間にとって、私たちってどこまでも……『異物』でしかないんだよ? なのに彼は、傷ついた私を手当てして……見返りも求めず、傍に置いてくれた」

 そんなの当たり前じゃないか。なんの罪もないのに傷だらけにされた彼女を、放り出すなんて誰ができる?

「私を使って、金儲けをしたり……とか、簡単にできたはずなのにね。どっかの研究機関に売ったりすれば、あっという間に大金持ちだよ」

 そんなこと考えたこともない。彼女と引き換えに、はした金を手に入れる? 馬鹿らしい。なら全財産を投げうってでも彼女と一緒にいることを選ぶ。

「それに……本当に、私のことを愛してくれてるの。今は魔法で同じくらいのサイズだけど……本当の彼は、私よりもずーーーっと大きい。私なんて、彼から見たら……どこまでも小さい、虫みたいなものなのに。なのにね……?」

 そんな悲しいことは言わないでほしい。小さいとか大きいとか、そんなのは関係ないじゃないか。

「彼は……私のことを好きだ、って言ってくれたの。妖精だから、とかは、理由にならないみたいに……常識も理屈も飛び越えて、大好きだよって言ってくれたの……」

 妖精だろうとそうじゃなかろうと、オナホルはオナホルだ。
 大事で大切な……最愛の人だ。

「そんな彼に……私も惹かれたの。森中……ううん、世界中探したって、彼より好きな人なんて見つからない……存在するはずない。だから、お願いだよパパ、ママ……! 彼と、結婚させてください……!」

 オナホルがここまで言ってくれているのだ、自分だって。少しでも理想の未来に近づくのなら、土下座だろうとなんだろうとしてみせる。
 誠意を伝えるためなら、どんな代償を支払っても――
 そんな覚悟は、予想外の言葉で打ち砕かれた。

「うん、いいわよぉ」
「軽っ⁉」

 ママホル、まさかの即快諾。
 そして更に、驚きは続く。

「というかもう、儀式の準備しちゃってるわよぉ?」
「え、儀式ってなんの……」
「そりゃぁ、結婚の儀に決まってるでしょ、ふふふ」
「え、えぇぇええええ⁉」

 まさかの、結婚式まで準備してもらっている⁉ しかも今日⁉
 用意周到というレベルじゃない。どこまで先を読んで、というかどこまでフリーダムな段取り!?

「……妖精式で申し訳ないけれど、彼氏さん。オナホルちゃんと……夫婦になってくれる?」

 戸惑いつつも、その質問にだけは即答できた。
 勿論です、と。

「に、人間……よ、よかったぁ……私たち、結婚……夫婦、だよ? え、えへへ……安心したら、力抜けちゃった……」

 自分よりもよほど緊張していたのか、オナホルが脱力してしなだれかかってくる。
 その髪の毛を優しく撫でながら、男性は急遽迫ってきた結婚というを事態を受け止め、緊張と喜びを胸に抱いていた。

「……」

 ママホル、オナホル、そして男性が浮かれている間、パパホルただ一人だけが、むすっとした顔で黙り込んでいた。

 +++++

 その後、妖精式の結婚式を恙なく終わらせた二人は、ママホルの計らいで精霊の森一の高級宿に泊まっていた。
 ツリーハウスの概念壊れちゃうぅ! と叫びたくなるレベルの高級調度品で満たされ、しかもオートロックで防音も完璧という和室。いやどういう技術? 魔法? 魔法ならまあいいか(思考停止)。

 ラフな館内着に着替えた二人は……妖精式とはいえ、夫婦となった二人は、互いに顔を見合わせてはにかんだ。

「どうだったよ? 俺の故郷、結構いいとこだろ? 結婚式とか凄かったろ?」

 確かにすごかった、と男性は興奮気味に答える。
 キャンプファイヤーを取り囲み、阿波踊りのような素っ頓狂な舞を踊ったりしながら、村人全員で飲めや歌えや、ひたすらどんちゃん騒ぎする陽気な祭り。
 厳かな雰囲気で行われる、日本の結婚式とは百八十度違った。
 中でも、ひときわ心と眼に焼き付いたのは――

「へ……花嫁衣装が、宇宙一可愛かった? う、あ、ありがと」

 妖精式の花嫁衣裳だ。ドレスというよりは、フリルがあしらわれた踊子衣装とでもいうような、動きやすさ重視のものだった。
 ヘソや腋などの露出が多いため、周囲の男性の視線を心配していたが、そもそも妖精は普段着からして露出過多のため、杞憂に終わった。
 スマホを持ってきていないため、写真には残せなかったが、記憶には未来永劫残るであろう、そんな美しき花嫁姿だった。

「お、お前も凄い、かっこよかったよ……みんなが見てなかったら、ちゅーしちゃってたかも、しれねぇ……ずっと、我慢してた……ぅ……」

 照れながらもそう言ってくれるオナホルが愛おしくてたまらなかった。たまらず、ぎゅっと抱きしめる。

「……えへへ……好きだよ……ずっと、ずーっと、大好き……これまでも、これからはもっと……お前のこと、愛し続けるからな」

 こちらこそ、これからもよろしくね。
 見つめ合い、愛を確かめ合う二人だったが……ほぼ同時に、ボッ、と顔に火を灯した。
 同じくらいのサイズである今、触れ合う部分はけた違いに多い。なら、今だけのこの機会に――

「な、なあ……ちゅー、しよ? 折角だし、さ……目を見ながら、したい……んっ……ちゅ、んっ……」

 唇を重ねた。いつもはほんの一部分しか当たらない、オナホルの小さな唇。
 それが今、男性の上唇と下唇に、ぴったりと合わさっていた。半月が二つ合わさって満月になるように、ピッタリと。途方もない幸福感が、二人を包む。

 いつものキスが不満なのではない。
 普段とは違う状況で、普段以上に触れ合うキス、という破壊力が強烈すぎるだけだ。

「はぁ、はぁ……はぁ……」

 こちらを見るオナホルの目が、トロンと潤む。見ているだけで、こちらの脳をじゅくじゅくと溶かすような、魔性の表情。
 男性の血液は、今にも沸騰しそうだった。
 今すぐ、彼女と繋がりたい。新婚初夜、なんて魅惑的でスペシャルな響きなのだろうか。しかし――

「……どした? ……ああ……パパのこと? 結婚に納得してもらえなかったのに、不義理なんじゃないか……とか心配してるわけ?」

 オナホルの言う通りだった。結局、パパホルから結婚に対して良い顔をしてもらうことはできなかったのだ。
 自分をオナホルの伴侶として認めてもらうことは、叶わなかった。
 勿論、だからといってオナホルを諦めるつもりはない。しかし、せめてこの精霊の森から帰るまでは、オナホルに……パパホルの娘に手を出さないことが、義父への誠意なのではないか。
 そう考えたのだ。
 しかし、男性の不器用な考えを、オナホルはカラカラと笑い飛ばした。

「ばーーか……気にしすぎだよ。それにな? パパもあれで、不器用なだけなんだよ……ほら、これ。式の後、こーっそり渡されたんだ」

 そう言ってオナホルが手渡してきたのは、一枚の紙。
 中には文字がしたためてあり……それを目にした瞬間、男性はすぐにオナホルを押し倒していた。

「ひひ……♪ 嬉しいよな、俺たちの関係を……みんなが祝福してくれてる、ってのが……ほら……もっと、もっと……悦び、分かち合おうぜ……♪ 両手でも……身体二つでも受け止めきれないくらいの、幸せをよ……♪」

 新婚初夜。種族の差、もとい体格差が限りなくゼロになっての行為は……二人の愛を、より強く燃え上がらせた。


 +++++


「……」

 夜風を浴びながら、大木の枝に腰かけて一人晩酌をしている男性がいた。渋い表情で黄昏ている彼に、
「風邪ひきますよ、あなた」
 ママホルが声と毛布を掛けた。
 そのまま「隣、失礼します」と前置きしてから、パパホルの横に腰かけた。

「……なんじゃ、お前も飲むのか?」
「ええ、今日はとことん飲まなきゃ……と思いまして」
「……同感じゃ」

 二人は月を見上げながら、静かにグラスを打ち合わせた。

「それにしても……あなたってば、素直じゃないんですから」
「な、なんの話じゃ」
「またまた、とぼけちゃって……」

 夫のヒゲ面にジョリジョリと頬ずりしながら、ママホルが続ける。

「あなた……結婚に反対なんて、これっぽっちも思ってなかったくせに♪」
「……何を根拠にそんなことを……ッ」
「ムニホル、マニホル、フェラホルに、テンガ……まだまだたーくさん、随分と張り切って考えてましたよね♪」
「……ッ」

 ママホルが羅列したのは下ネタではなく、妖精語で縁起の良い人名の数々。
 つまり。

「……孫の名前候補……あなたの書斎にあったのを、偶然見てしまいまして……♪」
「ち、ちがっ……あれは別に……っ! 大体、それは、あの男が来る前じゃったから! まともな婿なら娘をやってもいいかな、とか思って……」

 パパホルの苦しい言い訳を、ママホルは『うふふ』と捉えどころのない笑いで受け流す。

「本当は彼のこと、認めてるくせに……」
「ぎ、ぎくぅ……!」

 図星を突かれたとばかりに、情けない声がパパホルの口から漏れた。もう自白したようなものなのだが、意地悪名探偵ママホルは追及をやめない。

「あなたもオナホルちゃんも、素直じゃないですからね……♪ 本当は彼の真っすぐな目を見て、オナホルちゃんへの愛を知って……こいつになら娘をやっても、安心じゃ……とか思ってたくせに……♪ 思春期なんですか? 照れ屋さんなんですか? どちらかというと更年期よりなのに、ぷぷぷ……」
「う、うるさいのう! お前はいつもいつも、儂をからかいよってからに……! これでも、儂は村長で、家長じゃぞ……!」

 哀れな家長の言うことなど、ママホルには通じない。

「本当に認めてないなら……あんな手紙、渡さなくてよかったんじゃないですか? 孫の名前リスト……最後に『娘を幸せにしてやってくれ』なんて泣かせる言葉を書いた手紙なんて……♪ オナホルちゃんにコッソリ渡したつもりみたいですけどぉ、私、ちゃーんと見てましたからね♪」
「ぐぐ、ぐぎぎ、ぎぃぃ……ッ」
「ふふ♪ あなたったら、隠し事が下手で可愛いですねぇ」

 ママホルがぎゅっとパパホルを抱きしめ、よしよしと宥める。
 家長の威厳形無し。真っ赤な顔で、羞恥に悶えている。
 余談だが、ママホルの趣味は『パパホルのムキになる顔や、悶える顔を見ること』なのだ。生粋のドS妖精、巨乳糸目妖精女王(ティターニア)なのである。
 ママホルは『うふふふふ』と妖艶な笑声を上げながら、パパホルを更に追い詰めていく!

「そもそも始まりは、嫉妬ですよね? 私たちと暮らしてた時よりも、オナホルちゃん幸せオーラムンムンに放ってたから……『儂よりオナホルに好かれるなぞ、断じて許せん!』って年甲斐もなくジェラっちゃったんですよね? ほんとあなたって、小物で可愛いですね♪ ケツの穴が小さいというかなんというか、器まで羽虫サイズでかわい――」
「も、もうやめてくれぇぇぇぇぇぇ‼」

 そこから小一時間、ママホルによるパパホル虐めは続いた。まあこれがこの夫婦の日常なので、気にする必要はない。

 何にせよ、オナホル夫婦の結婚は、両親にも祝福された幸福なものであることは疑いようもない。

 オナホル。
 そして……花婿殿。
 コングラッチュレーション!


どうか、オナホルちゃんを幸せにしてあげてください。

↓↓オナホルちゃんとロリっく!↓↓

実は一番底知れない存在

↓↓千毬ちゃんとロリっく!↓↓

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