【短編小説あり】ロリっくの母性、千毬ちゃんの誕生日!

本日7月17日は…♡

ロリこんばんは~!

本日、7月17日は~!
ロリっく一の母性…甘やかしお狐様、千毬ちゃんの誕生日!!

誰よりも優しく、誰よりも愛情に満ちた千毬ちゃん…そんな彼女の誕生日を祝して~…
短編SSを掲載いたします♪
是非お楽しみください~!!

→千毬ちゃんとロリっく!←


千毬 日常SS『わらしべお狐様』

 暖かな陽気に包まれ、微風に頬を撫でられる心地よさを噛みしめる、初夏。
 散歩日和と呼ぶに相応しいそんな日の朝九時、今日も元気な鼻歌が木霊する。

「ふんふんふふ~ん……美味しい肉じゃが、コンコココンッ♪ 余った料理は~、お裾分け、なのじゃ~♪」

 幾何学模様があしらわれた風呂敷を持っているのは母のおつかいを懸命にこなすような年頃の、可憐な少女。
 しかし、可憐ではあるが、普通ではない。
 
 まずその髪色は、咲き誇る桜を思わせる薄桃色。そして服装は、巫女のような白衣に緋色の袴。それだけでも目立つことこの上ないのだが、極め付きには。

「おや、千毬ちゃんじゃないか。今日も……いい毛並みだねぇ」
「ふふ、そうじゃろそうじゃろ♪」
 
 玄関を開けて出迎えてくれた老女が言う通り、薄桃色の髪をした少女、千(ち)毬(まり)は素晴らしい毛並みをしていた。毛皮のポンチョを羽織っていたり、ファーコートを着ているわけでは断じてない。
 
 彼女の頭部からぴょこんと伸びる、もふもふした獣耳。そして袴からぴょこんと飛び出ている、黄金色の尻尾。
 そう、千毬は人間の少女ではない。生まれつき獣耳と尻尾を持つれっきとした狐の神様……お狐様なのだ!
 ちなみに尻尾や尾は神力で隠しているため、一部の老人や幼い子供以外には見ることができない。
 
 閑話休題。
 彼女は今、人間界で暮らしている。とある人間の男性と恋に落ち、めでたく結ばれて。人間と神という異類でありながら、ひとつ屋根の下、仲睦まじい夫婦として過ごしている。
 
 千毬は夫の事が大好きで大好きで仕方ない。彼女の行動原理は、夫を幸せにすること。その一点に尽きるのである。
 そんな千毬に、目の前の老女が問いかける。

「それで、どうしたんだいこんな朝早く」
「うむ、朝早くにすまんのう。儂は婆さんじゃから、早起きでな。それで、用件じゃが……ご近所さんへのお裾分けじゃ! 肉じゃがを作り過ぎてしまってのう。もしよければ、食してもらえると嬉しいのじゃ」
「おやおや、ありがとねぇ」
 
 朗らかな笑みで、千毬の差し出した風呂敷を受け取る老婆。快く受け取ってくれたことに、千毬も思わず相好を崩した。気分が良くなったところで踵を返そうとすると、

「ちょいとお待ちよ」

 おもむろに呼び止められた。別段急ぎの用があるわけでもないため、言われた通りに待っていると。
 やがて奥から出てきた老女が、透明なタッパーを持ってきた。

「大した物じゃなくてすまないけど、お返しだよ」
「これはどうもご丁寧に……のじゃっ⁉」

 中身を見るなり、千毬の尻尾がぴょこぴょこと左右に揺れ動く。

「お団子なのじゃ! 嬉しいのじゃ、儂は甘い物には目がなくてのう」
「ふふ、知ってるよ」

 みたらし・こしあん・ずんだ。三種類の団子が詰められたタッパーは、千毬にとっての宝石箱。
 タケ〇プターの要領で飛んでいくんじゃないか、などと要らぬ心配をしてしまう程に、千毬の尻尾は歓喜の高速スピン中だ。

「のじゃ~~♪ 憎い事をしてくれるのう、このこのっ♪」
「これ、千毬ちゃん……ノリが若いのう。羨ましいわい」

 嬉しさからか、老女の肩をツンツン小突く千毬は、どこからどう見ても○女である。まさか実年齢がこの老女を優に越す三桁以上だとは、誰も思わないだろう。

「ありがとうなのじゃ! 今日はお天道様がご機嫌じゃから、ふふっ、公園で木漏れ日を浴びながら頂くとするかのう♪ 本当にありがとうなのじゃー!」
「こちらこそ。また来てね、千毬ちゃん」
「勿論なのじゃ!」
 手と尻尾をぶんぶん振って、気持ちよく老女と別れた千毬は。


 宣言通り、近所にある公園へ訪れた。朝からウォーキングを嗜む老人が多数いる、散歩にはもってこいの広々とした公園だ。
 近くを流れる小川のせせらぎをBGMに、柔らかく差し込む木漏れ日を浴びながら千毬はベンチに腰掛ける。
 夏を題材にしたゲームのパッケージイラストに抜擢されそうな絵面だが、当の本人はそんなことなど思いつきもせず、先ほど頂いたお土産に夢中である。

「ふふ、まさか団子を貰えるとはのう。いやぁ、悪いことをしたのじゃ。お礼の品など求めておらんかったのに……じゃが、これは嬉しい誤算じゃのう♪」

 好物の甘味を、最高のロケーションで楽しむ。今日ばかりは夫にも内緒で独り占め、という背徳感もあって、千毬のテンションは最高潮だ。
 まずはずんだか、それともみたらしか。どれにしようか贅沢な悩みに頭を悩ませていると。

「むむ……?」

 酔っ払いのように覚束ない足取りの男性が目に入った。右にふらふら、左にふらふら。今にも倒れてしまいそうなその様子が気になって。

「お主、どうしたのじゃ?」

 気さくに声を掛けた。不審者や悪人だったら、という懸念など欠片もない。千毬は性善説を信じているし、そもそも悪漢如き神力を駆使して吹き飛ばせるからだ。

「ああ……」

 男性はいつから剃っていないのか、だらしなく伸びたヒゲを生やしており、目の下にはどす黒いクマがあった。
 餓死寸前の犬に似ているだろうか。現に男性は、

「もう三日も飲まず食わずで……」

 消え入りそうな声でそう呟いた。ボロボロに擦り切れ、色あせたシャツを着ている所から察するに、勤め人ではあるまい。
 浮浪者やホームレスと呼ばれる身の上なのだろう。

「頼む、何か食べ物を……」

 遊具で遊んでいた子連れの家族や、ベンチに腰かけていた老人が眉を下げて遠ざかっていく。
 この公園に訪れた者に食料を乞うのが、彼の常套手段なのかもしれない。世知辛い世の中故、煙たがれるのが普通だろう。
 だが千毬は、男性の濁った眼を真っすぐ見つめて。

「うむ、丁度団子が余っておったのじゃ。お主にやる!」

 何の躊躇いもなく、楽しみにしていた団子を手渡した。

「え……いい、のか?」

 懇願した男性までも、目を丸く見開いてキョトンとしている。食料を分け与えてくれる者が、ましてや薄汚い身なりの自分に嫌な顔一つせず接してくれる者がいるとは思わなかったのかもしれない。

「うむ。団子は身も心も豊かにしてくれるからのう。腹がすいておるのじゃろう? 遠慮せず、全部食べて……英気を養うのじゃっ♪」
「あ……ああ……」
「これこれ、泣くことはないじゃろうに」

 彼がこれまでどのような人生を送ってここに辿り着いたのか、それは彼にしか分からない。だが確かに今この瞬間、小さく大らかな少女の真心で、彼の心に一滴の水が注がれた。そこから芽を育てるのか、花を枯らすのかは彼次第だ。
 だから千毬は、それ以上踏み込んだりはしなかった。金銭を分け与えたり、事情をしつこく聞きだしたりはしなかった。

「ありがとう、ありがとう……!」
「どういたしましてなのじゃ」

 彼の涙を、これから先の明るい未来を信じて。
 ただ、時折この公園に訪れることにしようと、胸に誓った。

「あの、俺、何も持ってないけど……せめて、これ……受け取ってくれ。アンタに恩返しがしたい」

 男性がおずおずと手渡してきたのは、くしゃくしゃの紙切れだった。落ちていたチラシでも、丸めた新聞紙でもない。

「福引券……?」
「ああ。ゴミになるかもしれねぇけど……せめてもの気持ちだ」

 持ち合わせはそれしかない。千毬がそれで不足だと言えば、彼には土下座くらいしかできることがないだろう。
 だが当然、千毬は。

「ふふ、ありがとうなのじゃ! 儂は運がとっても良いからのう。福引券一枚を、金銀財宝に変えるやもしれぬぞ? こんな貴重な物をくれるなんて、お主は優しい子じゃのう」
「……ッ」

 雲一つない快晴のような笑顔で、受け取った。それが本心からの笑顔だと伝わったからか、男性の瞳からまたしても大粒の涙が零れる。
その後、彼が一流企業に就職して無事ホームレス生活から抜け出したのは別のお話。


 福引券を金銀財宝に変える、などと大言壮語をのたまった千毬だが。現実的に考えて可能性は高くない。
 それでもそんな確率論など知ったことかとばかりに、千毬は商店街で行われている福引に挑戦して。

「おめでとうございます‼ 一等、物ノ怪温泉ペア宿泊券が出ました!」
「のじゃっ⁉」
 
 なんと、宣言通りに一等を引き当ててしまった。千毬の名誉のために言っておくが、神力を用いてのイカサマなどは断じてしていない。
 純然たる強運。打算なき人助けを、神が見ていたのだろう。まあ千毬もその神の一柱なのだが。
 温泉のペア宿泊券。ゲーム機やぬいぐるみなどよりも実用的で、千毬にとっては一番の大当たりと言って差し支えないだろう。

「ふふふ、これでまた、夫婦水入らずの温泉旅行……♪ それにしても何の因果か、あの時の温泉じゃとはのう。びっくり仰天油揚げ(?)なのじゃ」

 今回当たった『物ノ怪温泉』は、千毬と夫の思い出の場所。
 傷つき疲れ果てた夫を見かねて、辛い事を全て忘れようという名目で企画した温泉旅行で訪れた場所だ。
 ちなみにこの温泉旅館の女将と千毬は旧知の間柄……それも数百年前からの知り合いである。そう、この旅館で働く者は、女将も含め皆『妖怪』なのである。
 
 夜な夜な客を捕食……などというオチはなく、ごく普通の……どころかサービスが良い部類の旅館であるため、心配は無用だ。

「あそこのしゃんぷーは、気持ちがよかったのう。備え付けの饅頭も極上で……ああ、思い出しただけでほっぺが落ちてしまいそうなのじゃ。というか落ちてしまったのじゃぁ……」

 トロンとした目つきで、危うく涎まで垂らしそうになっていると。

「ごめんよ、たった今一等は出ちゃってねぇ。もうないんだよ」
「そんなぁ」

 今しがたの福引所から、物悲しいやり取りが聞こえてきた。我関せずと素通りするような千毬ではない。

「一等がどうかしたのか?」
 
 肩を落として項垂れている小学生低学年くらいの男児と、商店街の法被を着た中年男性の傍に行き、訊ねた。

「ああ、さっきの。いや、この子がどうしても一等が欲しいって言ってきかなくてさ」
「一等を欲しておるのか。ふむ」
 
 千毬は半泣きの男児と目線を合わせ――と言ってもしゃがむまでもなく同じ背丈なのだが――目尻を濡らす涙を指先で拭き取った。

「どれ、涙の理由を婆さんに聞かせてみい」
「婆さん……?」

 至極当然の疑問を持ったようだが、堂々とした千毬に気圧されたのか、少年は訥々と語りだした。

「うちのお母さん、ずっと仕事で忙しくて……もうずっと、休んでないから……このままじゃ、身体壊しちゃうから……。昔一緒に行った温泉で、元気になってほしいんだ」
「ふむ。働き者の良い母なのじゃな」
「うん。お母さん、優しくて強いんだ」
「そうかそうか」

 千毬は微笑ましい物を見た時の、柔和な笑みを浮かべて。

「そういえば、神様から贈り物を預かっておった。仲のいい親子に、頑張りものの親子にご褒美じゃと」
「え……?」

 入手したばかりの温泉旅行券を、少年の手に握らせた。唐突に押し付けられた少年は、喜びよりも戸惑いが勝るようで。

「も、もらえないよ! これおば……おね……コンちゃんのでしょ⁉」
「コ……?」

 どうやら彼には千毬の狐耳が見えているらしく、自称婆さんでありながら外見が○女で大人びた言動の存在を、コンちゃんと呼称することにしたらしい。

「よそはよそ、うちはうちってお母さん言ってたもん! 他の人から奪っちゃダメ、なんだもん」

 受け取ってしまいたいに違いない。旅行券を握りしめる少年の手は、わなわなと震えている。

「ふむ、お主は立派じゃのう。他人を気遣える、優しい男の子じゃ」

 そう言って千毬は、少年の手を両手で包み込んだ。

「儂がお主に、お主と母君にあげたいと思ったのじゃ。自分で行くよりも、お主らに行ってもらう方が何倍も心地よいと思っているのじゃ。じゃから……気兼ねなく受け取ってくれると、嬉しいのう」
「でも」
「それにほれ」

 まだ何か言いたげな少年の声を遮り、千毬は自らの尻尾に手を添えた。

「温泉になぞ入れば、儂の尻尾がふやけてしまう。毛が浮いてしまっては、折角の温泉も台無しじゃろうて。のう?」
 
 その言葉が少年を丸め込むための優しい嘘なのは、明らかだ。だが少年は、それに気づいていたのかいなかったのか。とにかく少年は、

「ありがとう、コンちゃん……」
「どういたしましてなのじゃ!」

 千毬の善意を受けとめることに決めた。
 千毬にも悔いはない。少年と母が安らげる場所を提供できたことを、誇りに思うくらいだ。
 そのまま颯爽と去ろうとしたのだが。

「待って、コンちゃん! お礼したいから、うち来てよ!」
「お礼などいら……」
「うち、ケーキ屋さんなんだ!」
「――!」

 再三言っているが、千毬は甘い物に目がない。
 無償の施しをよしとしていたはずなのだが、食欲には勝てず。

「では、ちょいとお邪魔しようかのう」
 少年の善意に甘えることにした。


 日もすっかり暮れて、夕焼け空が物悲しい帰り道。

「ふんふんふふ~ん♪ おいしいケーキ、コンコココン♪」

 一人ハイテンションで歩いている千毬の右手には、ケーキ屋の箱が提げられている。ただのケーキではない。
 ショートケーキでもチョコレートケーキでもなく。
 千毬が世界で一番愛してやまない、そう!

「シフォンケーキ、極上のシフォンケーキなのじゃ~♪」

 薄い布の意を持つシフォンを名に関した、シンプルなスポンジケーキ。シフォンケーキだ!

「なんだかんだ随分と回り道をしてしもうたが……ふふ、全てはこのシフォンケーキに出会うためだったんじゃな♪ 待っておれ~、家で美味しい茶と一緒に喰らってやるからのう♪」

 全ての道は、シフォンに通ず。そんな意味不明な格言を編み出しかねない勢いの千毬。そのまま何事もなく帰路につける……はずもなく。

「なんで落としちゃったの!」
「みーちゃんのバカー!」
「最低! もう遊ばない!」

 複数の少女が、一人の少女を囲んで詰る風景。

「ぅぅぅ……」

 泣いている少女の姿を認めるなり、千毬は駆け寄った。

「これ、何をしておるか! 弱い者虐めなぞ、最低じゃぞ⁉」

 珍しく鋭い語気の千毬にも怯まず、一人の少女が毅然とした態度で言い返してきた。

「みーちゃんが悪いんだもん!」
「何じゃと?」
「みーちゃんが、皆で買ったケーキ落としちゃったんだもん!」

 少女が指さした先には、無残にも泥だまりに半身浴しているホールサイズのショートケーキがあった。

「ごめ……ひっく、ごめんなさ……」
「謝ってすむなら警察いらないよ!」

 大人からすれば滑稽極まりないセリフだが、少女からすれば強力無比なカード。単体でも鋭利な言葉だというのに、『そうだそうだ!』『みーちゃんが悪い!』と追従する言葉により、一層切れ味を増してしまった。
 言葉にならない嗚咽を漏らすみーちゃんとやらの心に、深刻な傷を残しかねない。そう判断した千毬は。

「うむ。事情は分かった。じゃがここは……しばし儂の話を、聞いてくれるか? すぐに終わるのじゃ」
「ふざけ……」

 当然拒もうとした少女を手で制し、千毬はにこやかに告げる。
 ただし、僅かに『圧』を滲ませて。

「……退屈はさせんぞ?」
「ッ……⁉ す、好きにすれば」
「ふふ、好きにさせてもらうのじゃ」

 鋭敏な年頃の少女には、千毬の放つ威圧感は効果的なようで。みーちゃんを弾劾するのに夢中だった者も含め、皆黙り込んだ。

「では、静粛に」

 立てた人差し指を唇に当て、じっと間を置いてから千毬は語り始めた。

「ある所に、仲良しの少女が二人いたのじゃ。二人は生まれた時から仲良しで、姉妹同然に育ってきたのじゃ。互いを愛し、互いを慈しみ……喧嘩なぞは、したことがなかった」

 喧嘩、というワードを今の自分たちに照らし合わせたのか、少女たちの肩がビクリと跳ねた。

「そんな仲良しの二人じゃが……ある時、些細なことで喧嘩をしたのじゃ。きっかけは本当に取るに足らない事じゃ。片方が待ち合わせに遅刻したとか、大事に取っておいたプリンを食べたとか……共に食べる予定だったケーキを、落としてしまったりとか」

 またしても現状にリンクする言葉を投げかけられ、少女たちは一様にバツの悪い顔をした。それでも千毬は言葉を止めない。
 声のトーンを一段と低くして、内容を先へ先へと進めていく。

「二人は互いに罵り合って、それまで仲が良かったのが嘘のように互いを嫌悪して。どちらからともなく」

 そこで一度言葉を区切り。

「絶交……そう言ったのじゃ」

 少女たちが、にわかにざわめきだす。齢二桁にも満たない彼女たちは、ハッピーエンドで終わる物語しかしらない。
 試練や苦難が降りかかろうと、一話でめでたしめでたし、と丸く収まる物語しか、見てこなかった。

 だからこそ、絶交という強い響きを聞いてもまだ取り乱したりはしなかった。
 その場の流れで口にしただけで、どうせ後日撤回したのだろう。仲直りしたのだろう。そう高を括っていた。
 そんな幻想をいとも容易く打ち砕く、残酷な言葉が紡がれた。

「結局そのまま、二人は仲直りすることができず……絶交したまま、永遠の別れをすることになったのじゃ」
『ッ……』

 そんな結末、あんまりではないか。仲のいい友達が、そんな簡単に絶交して、そのまま訣別するだなんて。

「あれでしょ、どっちかが転校したとか、それで」
「いいや、違うのじゃ」

 少女の震える声に、よく通る声で千毬が被せた。

「絶交して、そして……きっと少女たちは、家で後悔したことじゃろう。かけがえない友達を傷つけてしまった。明日こそ仲直りしよう、そう思ったに違いないのじゃ。じゃが……二人が顔を見合わせる事は、二度とない。偶然による再会も、決してありえない」
「な、なんでよ」
「それはのう」

 千毬は形のいい眉を下げて、憂いを帯びた表情で答えた。

「少女の内片方が……車に轢かれて、亡くなってしまったからじゃ」
『――――‼』

 虐められていた少女も、彼女を責めていた少女たちも皆、同じように絶句した。いつも一緒にいる友達が、たまたま今日喧嘩しただけで、明日仲直りするはずの友達が……二度と会えなくなってしまう。
 想像したことすらない、想像したくもない展開だ。

「少女は死の間際、後悔した。あの時謝っておけば良かった。喧嘩をするにしても、言い方を考えるべきだった。大好きな友達に、大嫌いと言ったことを謝りたかった。でも全てはもう、遅すぎたのじゃ。人は死ねば終わりじゃ。そしていつ死ぬかは……神にも分からぬ。遥か未来かもしれぬし、明日かもしれない。今日かもしれない」

 泣きそうな少女たちに、千毬は深く濃い声色で最後の問いを投げかけた。

「お主たちは……大切な友との別れが、そのように悲しいものになってもよいのか? 今日このまま別れれば……この物語の少女は、お主らになるかもしれぬぞ?」
『……』

 少女たちはもう、何も言わなかった。聞こえてくるのは、鼻を啜る音と涙声だけ。そして彼女たちは、互いにぐちゃぐちゃの顔を見合わせ。

「ごめん、ごめんね……」
「もう、ケーキいらない……」
「みーちゃん、ごめん……」

 口々に謝罪の言葉を告げた。対する被害者の少女も、

「私こそ、皆のケーキダメにして、ごめん……っ」

 泣きじゃくっていた。顔中を濡らして、赤子のように泣き叫んでいる。
 泣き顔のまま抱きしめ合う子供たちを見て、千毬はバツが悪そうに頬を掻いた。

「ちと脅かしすぎたかのう……」

 千毬が今しがた語ったのは、時代背景を現代にアレンジしているとはいえ、かつて目にした……実際に起こった悲劇だ。
 悠久の時を生きる彼女は、星の数ほどの命が誕生する瞬間、そして消える瞬間を見ている。泣き顔も笑顔も、両手から零れる程目にしてきた。

 それでもやはり、悲劇に心が慣れることはない。心優しい千毬は、いつまでも変わらず 胸を痛め続ける。
 だからこそ、目の前の人に手を差し伸べる。
 悲しみを晴らし、時に厳しくしてでも前を向いてもらう。

「うむ……飴と鞭、かのう。鞭の次には、飴がなければじゃな」

 時として自らが泥を被ろうとも。

「丁度ここに、絶品シフォンケーキがあるのじゃが……儂は年で、お医者さんに甘い物を禁じられているのじゃ~。じゃから、お主らが食べてくれぬか?」
『……ありがとう!』

 こうして少女たちの絆を結ぶことができたなら。
 尊い笑顔を取り戻すことができたのなら。
 千毬にとってこれ以上の幸福はない。
 後悔なんて、するはずもない――


 帰宅後。

「うわぁぁん! 聞いとくれお前さん、シフォンケーキが、儂のシフォンケーキがぁぁ……!」

 愛する夫の胸に飛び込み、ぐりぐりと頭を押し付ける千毬。
 今日一日、数多の人を笑顔にした女神とは思えぬほどに、未練たらたらの幼い姿がそこにはあった。
 夫は何も言わず、千毬の背中に手を添える。

「……もっと、甘やかすのじゃっ」

 いつもよりも甘えん坊な妻を、思いきり抱き締める。
 幾度となく繰り返してきた抱擁。夫婦であるのだから、それしきのスキンシップは日常茶飯事だ。
 だが、日頃から行われているとはいえ、飽きが来ることなどない。

「ふふ……まあ、よいかっ」

 夫の胸板に顔を埋め、千毬はポソリと呟く。
 夫からは千毬の表情が伺い知れないが、彼女の心情は明確に理解できた。
 何せ――
 
 可愛らしい黄金色の尻尾が、ぴょこぴょこと揺れているのだから。

 夫の元に帰ってくる、夫が自分の元に帰ってくる。
 それだけで千毬は、どうしようもなく幸せなのだ。無限大の力が湧いて、明日もまた誰かに手を差し伸べることができる。
 誰よりも優しくなれる。
 そして夫も。

「こ、これっ……強く抱きしめ過ぎじゃよ……♪」
 
 そんな千毬に、救われている――



読んでくれてありがとうなのじゃ♪

千毬ちゃんの日常小話、いかがだったでしょうか?
ロリっくorロリっ娘!ではヒロインの誕生日ごとに、こうした短編小説の掲載などを行っておりますので、よければCi-enのフォローをお願いします~~!

それでは~…レッツ、ロリっく!!


本日の主役♡

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いち早くお祝いしていた大親友♡

→アルナ様とロリっく←

ケモ耳同盟♪(?)

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