ホワイトデーSS🍫 「チョコと印」
【塩対応な彼氏にえっちなイタズラを仕掛けたら100倍返しで犯されました】より
ホワイトデーSS🍫
「チョコと印」
遡ること2月14日。
バレンタインデー。
『はー、疲れた』
「おかえりっ」
『ん、ただいま』
今日は恋人同士にとって特別な1日。
という事で、杏が仕事から帰ってくるのをご飯を作って待っていた。もちろん、チョコも用意してる。
いつも土日にばかり来ている杏の部屋だから、お仕事帰りの杏を見れるのがちょっと嬉しい。
スーツ姿が何だか色っぽく見えて、少しドキドキしたのは内緒。
『めっちゃ、いい匂いしてんな』
「杏の好きなシチューいっぱい作ったよ。そんなに時間無かったから、他に大したものは作れなかったんだけどね」
『いや、十分だろ』
「お腹すいてる?」
『すごく』
「準備するね!」
『大盛りで頼むわ』
「分かってる!」
昨日の夜はチョコ作り、今日は仕事帰りにお買い物してお料理してって何だかんだ1日バタバタしてたけど、でも。
自分が作ったご飯を美味しいって一緒に食べてくれて、今日あった事を話して、その後のお片付けも2人でやるのはやっぱり楽しくて、頑張って良かったって思った。
これからプレゼントするチョコもきっと喜んで食べてくれて、その顔を想像するだけで、すごく幸せだなぁって頬が緩んでいた、その時。
「あ、これって…」
『え?』
杏のお仕事用のカバンからはみ出ている可愛らしい包装紙に包まれた何か、を見つけてしまった。中身は恐らく……というか、多分〝あれ〟しかない。
だって、今日は……
「バレンタイン、もらったの?」
『あー。別に、特別な気持ちが篭ってるやつじゃない。女性社員が気を利かして男性社員の全員に配ってた義理チョコだよ』
「ふーん……」
『なに?拗ねてんの?ホントに全部義理チョコだって』
と言ってカバンからチョコらしきものが何個か出てきた。
あ、1個じゃないんだ……。
と、少ししょんぼりしてうつ向く。
「……。」
『貰わないのも失礼かなって思って、とりあえず受け取ったけど……お前が嫌なら次から断る』
優しいんだよね。杏って。私は杏の、そんなところを好きになったんだ。
「……ううん、大丈夫。
私はお仕事してる杏の姿を知らないから、知ってる女の人がちょっと羨ましくなっちゃった」
『……。お前が心配してるようなことはマジで無いから』
「うん、分かってる」
ちゅっと軽くキスをしたら、単純な私はすぐ仲直り。杏は本当、上手く丸め込むのが得意だよね。
『そんなことより』
「?」
『お前からのチョコは無いの?それを楽しみに仕事してきたんだけど』
「もちろん、あるに決まってるよ。持ってくるの大変だったんだから」
そう。杏は割と、結構、いや、とってもよく食べる。さっきのシチューだって大きなお皿に3杯はおかわりしてた。
冷蔵庫から取り出して来たのは、生チョコ、ガトーショコラ。そしておまけにチョコクッキー、一般的にはプレゼントするものはどれかひとつだと思うが、それらはテーブルいっぱいに並べられた。
『わ、すげぇ』
「ちょっと作りすぎちゃったから、残ったのは明日食べて」
『ん、うま』
いくら杏がいっぱい食べるって言っても、これは作りすぎたかもなぁ、なんて思いながらチョコを頬張る杏の横顔を見ていたら、突然何やら考えてる様子の杏。
『……。』
「どうしたの?」
『このチョコ、いっぱいあるから、何個かお前と一緒に食べたいんだけど、いい?』
ご飯食べてそこそこお腹いっぱいになっちゃったから、私はチョコは食べなくても良いかなって思っていたところに、杏から可愛いお誘いが来て、嬉しくなる。
「うん、いいよ。一緒に食べよ」
生チョコを口の中に入れた瞬間、手を掴まれた。我ながら上手に出来たと思う生チョコ。ちゃんとこの日のために何回か試作もしたし、味見もしたので自信作である。
『ん?何で食べてんの?』
「……?一緒に食べたいって言ったよね?」
もうひとつだけ食べてごちそうさまにしようかな、とチョコに手を伸ばした。
『あー。違う違う、そういう意味じゃない』
「……?」
『俺が言ってるのは、お前の〝カラダ〟と一緒に食べたいってこと』
カラダ…?言葉の意味がすぐに理解出来なくて、思考が停止したその瞬間。
ドサッという音と共に視界が反転した。
ソファに押し倒された。と、状況を把握した頃にはもう、上から熱を帯びた目で射抜かれていて、心臓が跳ねる。
杏が首から胸にかけて、指でなぞる。
「とりあえず、お前の口の中のそのチョコもらうわ」
と言い、私の口の中に残っていたチョコへ舌を這わせて奪い取っていく。
そんなこんなで、あんなところやこんなところにまでチョコレートを塗ったくられて、色んな意味で美味しく食べられてしまった。
〜回想終了〜
月日は流れ、今日は3月14日、ホワイトデー。
「杏の手作りご飯、私が作るのより美味しくて悔しいなぁ。
あ、そういえば今日ね」
バレンタインのお返しは手作りご飯をリクエストした。杏が作ってくれたのはハンバーグ。
いつも通り今日あった事を話す。返事は素っ気なくてもちゃんと聞いてくれてるって知ってる。
「また、会ったよ。大学の時のーーー」
『は?また?』
最後まで言う前に遮られる。
「あ、うん、そう」
私の返事を待つ前に杏は低く、小さい声で呟いた。
『……それ、絶対狙ってんだろ』
「え?なに?」
『……何でもない。で?』
「今日はホワイトデーだからってお菓子もらっちゃったの、私バレンタインに何もあげてないのに良いのかなって」
『あー、そうだな』
「……?聞いてる?」
『ちょっと待って』
「んん?」
話の途中だったが、足早に部屋の奥へ向かいガサゴソと何やら机の引き出しから小さなケースを持ってくる杏。
『ホワイトデーのお返し』
「えっ」
『はぁ……。お前は気付いてないんだろうけど、いつも嫉妬してるのは俺の方。
だから、お前は俺のものだって、ちゃんと印つけとかないといけないなと思って』
「こ、これ…!」
杏が取り出したのは、女性らしい細めなシルバーの指輪。それを左手の薬指にはめてくれる。
「私、バレンタインにチョコしかあげられてないのに」
『別に気にしなくていい。俺があげたいだけだから。その代わり毎日つけて。とくに男がいる場所に行く時は絶対』
「うん、ありがとう……」
『本当は全身に俺のだって書いておきたいくらいだけどな』
「っふふ、油性ペンとかで?」
『笑うなよ』
嬉しくて嬉しくて、くすくすっと零れた笑みを唇で、舌で、全部絡み取られた。きっとこれから、全部が俺のものだということを嫌ってくらい教えられてしまうんだ。
2人揃ってヤキモチ焼きで大変だけど、その度にこうやってお互いがお互いのものだってこと、証明して、ずっと過ごしていくんだろうな。
今は〝ただの印〟でも、いつか本物のリングをはめる日まで。
Fin
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