快鳥童子シーガルマン八戸夜話 第一回


作:伊角茂敏

それは吐く息が白くなり始めた、ある秋の日の真夜中であった。
満月の光に照らされ、いつもよりやや明るげな八戸港から、
1隻の鈍色をしたキャビンクルーザーが太平洋に向けて音もなく出港した。


クルーザーの船上には成人男性と見受けられる影が3人。
1名は金属製の装甲服、残り2名は上下黒尽くめの衣服を着用し、さらにその上からは、無骨ではあるものの灰色のライフジャケットらしい装備を身に着けている。


装甲服の1名は船頭に仁王立ちをして、呑気にラジオ体操をしている。


黒尽くめの2人のうち、1人はクルーザーの船室においてその目を爛々と輝かせ、
異様な笑みを浮かべながら銃火器やガスマスクのようなものの手入れをしている。本人の表情に反して粛々と銃を組み立てるその上腕部には「S」というアルファベットの刻印された金属製のワッペンが鈍い光を放っている。


そして、上腕部に「X」のワッペンを付けているもう1人の黒ずくめの男はというと、
各々気ままに「漁」までの時間を潰す2人に対しため息をつきながら、黙々とクルーザーの舵を切り続けているのであった。


港を出てしばらくすると、船の先頭でラジオ体操をしていた装甲服の男、通称スチルシャークは、鋸のような武器を船の前方に向けて掲げると、船室に対して意気揚々と呼びかけた。
「それじゃあエクスレイ、船をアッチの方に向かってウンテンしてみてくれ!」
エクスレイと呼ばれた「X」ワッペンの男は、スチルシャークの非常にアバウトな指示を、自身の脳内で適切と思われる航路に変換してからクルーザーの舵を切った。



ことの発端は昨日の昼間に遡る。
エクスレイ、本名「小渕恵八」が所属している武装組織、通称「ヌルズ」の第5班総員6名は、途中ある存在による妨害を受けはしたものの任務をどうにか終了させ、八戸市の湊町に所在するヌルズのフロント企業、ITOビルサービスの第2営業所に帰投した。

余談ではあるが、「営業所」と銘打たれてはいるもののヌルズ専用に用意されたこの地上2階地下5階建ての鉄筋コンクリート造りの建造物は、ヌルズの実質的な前線基地として機能している。

今回も業務を無事生きながらえた小渕は装備の補修及び撤収作業を完了した後、
他の5名と共に上司への結果報告に向かった。しかし、生憎上司は執務室を留守にしていた。

「どうします?チャーリーさん」

小渕は第5班のリーダーを務めるチャーリーに指示を仰いだ。

「そういえば倉庫にいつもの骸骨装備がなかった。現場仕事じゃあしばらく帰ってこないな。」

チャーリーは一瞬考えた後班員に指示を出した。

「報告は俺からしとくから、ハウとエクスレイは上がっていいよ。ピーターとヨークは始末書だけ仕上げてからな。」

そうして、ヌルズ第5班はその日の任務を終え解散した。

解散後、緊張が解けたからであろうか、若干の空腹感を覚えた小渕は建物の1Fにある食堂へと向かった。

キッチンに備え付けられた冷蔵庫から、ストックしていた食パンとコンビーフ缶、チャック付きポリ袋に入ったレタスを取り出すと、慣れた手つきでパンを切り分け、トースターに放り込む。コンビーフは少しばかり過熱して、共用の調味料とスパイスを使って簡単に味付けを行い、レタスと共に焼きあがったパンにはさんで、サンドイッチに仕立て上げた。

調理を終え、食堂に持ち込んでサンドイッチを頬張る。
素直に単体で食べるには若干脂分の多いコンビーフではあるが、スパイスで引き締められたそれはレタスの清々しい触感も加わり、十分に温まったパンも合わせ、激務で消耗したエネルギーを補給するには充分であった。

小渕がそのようにして、仕事終わりのささやかな楽しみを堪能していると、Tシャツにジーパン姿の男が1人食堂に入って来た。

「あれ、大平。今日4班オフじゃなかったか?」
「ん?ああ、ちょっと用事だ。」

大平と呼ばれたその男は、辺りをキョロキョロと見回しながら食堂内を歩く。

小渕は大平の様子を一瞥した後、手製のサンドイッチを完食した。

次いで飲み物が欲しくなった小渕は、食堂内に設置された自販機に向かった。
「…また値上がりしたのか。」
小渕は自販機に用意された飲料の値段を見てそのようにこぼすと、ポケットから財布を取り出し、中を確認した。だが、生憎小渕の財布には値上がり前の飲料の値段に相当する金額のコインが入っているばかりであった。
「日本の経済はどーなっとるのか。」
小渕がそうぼやいていると、大平が小渕の方に近づいてきた。
「足りないわけだ。」
「ああ。」

すると、大平は自販機に100円玉2枚と50円玉1枚を投入し、果実系の清涼飲料水を一本購入した。お釣りはない。

「ほら。」
大平はそう言うと購入した清涼飲料水を小渕に手渡した。

「おお、ごちそうさん。」
小渕がそうお礼をいうと大平は訂正するようなそぶりで、
「奢りじゃない。貸しな。」
といって手近な座席に座った。


小渕は貰った缶を手に取り、プルトップを引いて開封する。
一杯だけ口にしてから小渕も手近な座席に座った。

先に席に着いた大平は変わらず周辺をキョロキョロし続けている。
よく見ると貧乏ゆすりも始まっているようだ。さらに、こめかみから額にかけてはおびただしい発汗が見られる。

小渕は大平にふと訪ねた。

「なあ、大平。」
「うん?…あ、ああ、なんだ。」

大平の挙動は明らかにおかしい。

「まだやってんのか?」

何を、とは言わなかったが大平は答えた。

「…いいや、入社以来きっぱりやめた。」
「…だよな。でもさ、やめたにしては様子が変だよ?お前。」
「…気のせいだろ。」

不機嫌そうに答える大平に対し、小渕はそれ以上のことは聞こえなかった。

「おうシュガー、おまたせ‼」

突然、食堂の入り口のほうから陽気な声がした。
シュガーとは大平のコードネームである。

小渕が入り口の方を見ると、そこにはタッパーを持った10代の若い青年がいた。

「あ、エクスレイもいたのか!お疲れさん‼」
「ああ、シャークさん。お疲れさんです。」
「シュガー、いつものやつだ。」

シャークと呼ばれた男は手に持ったタッパーを大平に差し出した。

「ありがとうございます!!!」

大平は打って変わって元気な声で礼を言うと、差し出されたタッパーを開封し、
中に詰まっていたものをがつがつと食べ始めた。

小渕は一瞬タッパーの中身を見た。
そこには、緑がかった橙色とでも形容するしかない、異様な色をした魚肉のようなものが確認できた。

「シャークさん、魚っすか?」
小渕は青年にタッパーの中身について尋ねた。
「これか?ジツはオレもよくわかんないんだよ。」
青年は暢気に答えた。
「えぇ...。」

そんなやり取りをしているうちに、大平はタッパーの中身のほとんどを食べ終えた。
「ごちそうさまでした!!」
「おう、オソマツさん!」
青年は、嬉しそうに大平に返事をする。

「ありがとうございました!!またお願いしますね!!」
大平はそれまでと一変して非常に元気はつらつと青年に追加の魚肉を頼んだ。
しかし、青年の反応はバツが悪い。

「あー、わるい。これでサイゴだ。」

青年は若干申し訳なさそうに大平に答えた。

「…そんな…。」

少しの沈黙の後、大平は酷く落胆した様子を見せた。

「ごめんな…。」
「…なんとか…手に入らないんですか?」
「うーん。とってきてやりたいんだけどさ…。」
「おい大平…あんまり無理言うなよ。」
「お前には関係ないだろ小渕。俺はこれを定期的に食わないとダメなんだよ。」
「それじゃ食ったらどーなるってんだよ。」

青年は2人の言い合いをよそに難しい顔で腕を組むと事の経緯を話し始めた。
「これ、前にけっこーオキのほうまでおよいでいってとったんだけどさ。この前スケルトンから1人でオキに行くなって言われちまってな。」

青年は口元に手を当てながらつぶやくように続ける。
「ほら、イイツケやぶるとバイクでおっかけられるかもしれねーし。」

小渕の脳内に大型バイクにまたがった骸骨装備の上司の姿が浮かんだ。

「それなら俺がついていきます‼」
大平が元気よく答えた。
「マジで?」
青年は機嫌よく答えた。

「1人じゃなきゃいいんでしょ?俺もついていきます!!」
「…待て大平。お前じゃそこまで泳いでいけないって。」
「クルーザーを一隻借りていけばいい。」

小渕は大平を静止しようと試みる。
「そんなのリーダーにバレたらたたじゃすまないって!!」
「1班の宇野に貸しがある。申請書類なら偽造できるぞ。」
「だからそういう問題じゃない‼」
「大丈夫。お前を巻き込む気はないから。それじゃあシャークさん、会議室で打ち合わせしましょ!」
「お、おう。」
大平は強引に話を断ち切ると、青年を連れて食堂から立ち去った。

食堂には大平の残したタッパーと小渕が取り残された。

しばらく後、小渕がキッチンの流し台で自分の料理と大平のタッパーの後始末をしていると、チャーリーが食堂へ入って来た。
「なんだ小渕。まだ上がってなかったのか。」
小渕は洗い物の手をいったん止めてチャーリーに話しかけた。
「寺内さん…。ちょっと相談なんすけど。」
「どうした?」
「もしシャークさんと大平が二人で海に出たとしたら、無事に帰ってこれると思いますか?」
「なんだそりゃ?」
「どうですかね。」
「シャークの坊やに4班のシュガーだろ?…まあ帰っては来るだろう。」
「…そうっすよね。」

小渕はチャーリーの話を聞きながら洗い物を続けている。
一先ず自分の洗い物が終わったので、大平の残したタッパーを手に取った。
するとその瞬間、小渕は自分の腕に妙な感触を覚えた。

ふと下腕部に目を落としてみると、小渕はタッパーの中に入っていたあの奇妙な肉片が、
自分の腕を蛞蝓の如く這っている様子を目撃した。

「うわっ」

小渕が驚いて腕を振ると、肉片は床に落下した。

「どうした?」
「い、いえ…。」

肉片は床に落ちても尚蠢いている。

「それにしてもシュガーか。3か月前にスミスに三日三晩説教されてから随分真っ当になったなぁ。」

チャーリーは肉片に気づくことなくとりとめもない話を続けている。
小渕は肉片から目をそらすことができない。

「前は凡ミスが多いし、いきなり喚き散らしたり急にだんまり決め込んだり忙しい奴だったのに。」

肉片はしばらくの間床を這いつづけている。

「4班の内田の話じゃまるで別人みたいに仕事もテキパキらしいしな。」

肉片は遂にまるで二足歩行でもするような格好で走り出した。

「なにせあのスミスが褒めるぐらいなんだから相当だよ。」

とうとう、肉片はそのまま食堂から外に走り去っていった。

「…しかし、シャークの坊やにシュガーか…。」

チャーリーは肉片の存在に気づくことなく、腕を組んで考え込んだ。

「なあ、小渕。」
「なんですか?」

小渕は一度両手で両目をこすってから寺内の顔を見た。

「さっきの話だがな。なんとなくなんだが、帰っては来るけど無事じゃない気がする。シャークの坊やはともかくシュガーが。」

小渕の脳裏には、真っ青な顔でなぜか笑いながら肉片に飲み込まれていく大平の様子が浮かんだ。

「…やっぱそうですよね。」
「心配か?」
「一応同期なんで。」
「…ついていくつもりか?」
「…迷ってます。」
「そうか…。まあ俺、詳しいことは何一つ知らないわけなんだけどさ。」
「…はい。」
「ただでさえ使える人手が限られてるんだ。たとえ一人でも人員の欠損は避けなきゃな。小渕は勿論、シャークの坊やと、シュガーでも。」

「…分かりました。なるべく人手が減らないようにはしてみます。」


「ただ…くれぐれも引きどきだけは考えてな。それじゃあ。」

そう言い残して寺内は食堂から去った。

「…了解です。」

小渕は洗い物を終えると、食堂の椅子に腰かけて少しばかり考えた。

いっそ、上司にこのことを報告して2人の出漁を阻止することも考えはした。
しかし、その場合大平がそのことを根に持って暴れ出しかねず、なんやかんやの内乱の後に人員が欠損するとことが考えられた。

他にもいくつか手を考えはしたが一向に良い手は見つからない。

「結局ついていくのが一番マシか。」

斯くして、小渕は不本意ながら2人の漁への動向を決めたのであった。



ヌルズの専用キャビンクルーザーが夜の太平洋に繰り出してから数時間が経過した。
現在位置は日本の領海をごく早い段階で離れ、陸地と排他的経済水域の丁度中央付近。
八戸から東の方向に直線距離にして約130マイルと言ったところであろうか。


クルーザーは丁度1時間ほど前にスチルシャークの想定しているらしい水域に到達し、停泊している。秋の夜長の太平洋上であるが、不気味なほど風はなく、波も穏やかなものであり、奇妙な暖かさすら感じられる。


スチルシャークは停泊と同時に「よし、みつけたらムセンにレンラクするよ‼」とだけ言い残して海に飛び込み、以来音信不通である。


今回の漁の張本人であるシュガーこと大平はというと、常識的に考えれば漁に使うはずのない銃器の整備を終えて、先刻から何やらわけのわからぬことをブツブツとつぶやきながら船内を歩き回っている。


折角なので小渕はスチルシャークの連絡を待ちつつ持参した釣竿を構え、釣り糸を海に垂らしている。


小渕が聞いたところによれば、かの西宮事変以来、太平洋の生態系は滅茶苦茶になっているとのことであった。しかし、少なくともこの1時間で立派なヒラメがひっきりなしに釣れ上がっている。その”漁獲量”たるや、もし現時点で釣れたヒラメを全て市場で売りさばいたならば、小渕の給料の3か月分は軽く賄えるだけの量であった。


『この調子で釣っていけば、仲間たちに美味いヒラメ料理を存分にふるまった上で、自分の小遣いすら稼げる。』

小渕は脳内でそのように勘定し、思わず笑いを漏らしてしまうのだった。

「なんだ、ヒラメか。」

先ほどまで独り言をつぶやいていた大平は、ヒラメを満載した大型のクーラーボックスを一瞥してそう言った。

「ああ、立派なもんだろ!」

小渕は釣り上げたばかりの80cmほどのヒラメを大平に見せた。

しかし、

「それは外道だよ。小渕。」外道 主に釣りにおいては目的以外の魚のこと。しかし、目的外だからといってヒラメを外道と呼ぶ人は早々いない。

大平はそうつぶやくと力なく笑って、またわけの分からぬ独り言を呟きながら船内へと消えていった。

「ちぇっ。なんだよ...。」

小渕は流石に大平への不満を口にしながら、新たなヒラメをクーラーボックスに納めた。その直後、


-ズドンッ-


突然、船の周辺に爆音が響いた。

「なんだ...!?」

驚く小渕に、海水が小雨のように数滴降ってきた。

『…シュガー、エクスレイ、オウトウたのむ‼』

続いて小渕の耳に、無線を介したスチルシャークの声が届いた。

「どうしたんすか!?」
『いつもよりかなりデカい!!ちょっとオウエンたのむ‼』
「応援って―」
『こちらシュガー!すぐ向かいますッ‼』

小渕がスチルシャークとの交信を終えるのを待たずして、大平は突如クルーザーを発進させた。小渕はとっさにデッキの手すりにしがみついた。しかし、小渕の自前の釣り道具は夜の太平洋に振り落とされた。また、釣り上げたヒラメを入れたクーラーボックスは船の後方に転がっていく。こちらは幸い蓋はしまっている。

「おい、大平!ちょっと待て‼」
「緊急事態だ!しっかり捕まってろ‼」
大平は小渕の無線を意に介さず、夜の太平洋にクルーザーを走らせる。

小渕は仕方なく、振り落とされないように匍匐をするような格好でクルーザーの後部を目指した。

小渕が釣りをしていた地点からクルーザーの後部までざっと8m、途中大平が何度か舵を切ったらしく、その度にどうにかデッキにしがみつく。

そうして小渕が船の後部で横転したクーラーボックスを確保したのは数分後のことであった。

小渕がヒラメを保護すると同時にクルーザーは停止した。

小渕はクーラーボックスを担ぐと、急いで船の収納庫へ非難させ、ありあわせのロープで固定した。次に小渕は、大平に文句を告げるべくコックピットに向かう。すると、コックピットからグレネードランチャーを構えた大平が現れた。

「いや待て、なんで釣りにグレネードランチャーなんだよ‼」
「小渕、操舵は任せる‼」

大平は小渕のツッコミに一切答えることはなく、操舵を押し付けて船のデッキへと飛び出していった。

「なんだよもう‼」

小渕はそういいつつも、船のコックピットに滑り込み、舵を握った。
コックピットの窓から船外を眺めると、前方のデッキでは大平がグレネードランチャーを海に向けて構えている。

「うおぉぉぉぉっ‼」

大平は雄叫びを上げながら海に榴弾を撃ちまくった。

-ズドドドドッ-

海上には数本の水柱が立ち上り、巻き上げられた海水が豪雨の如くクルーザーに降りかかった。

小渕は備え付けられたワイパーを作動してコックピットからの視界を確保する。
コックピットからは変わらずグレネードランチャーを構える大平を視認できる。

次に小渕は、クルーザーの付近にいるはずのスチルシャークを無線で呼び出そうとした。

「シャークさん、シャークさんッ、そっち大丈夫っすか!?」
『…エクスレイか!助かったよ‼』
数度の呼びかけのあと、スチルシャークは元気な声で応答した。

「―いや、あれで助かったって…何があったんすか、一体⁉」
『いまそっちにいったから気をつけてな‼』
「そっちに行ったって...ん?」

ふと、小渕の鼻が何とも言えない臭気を拾った。

余談ではあるが、小渕は普段、一般にはそこそこ好みの分かれるところであるナマコやホヤなどの磯料理を問題なく楽しむことができている。

しかし、この時小渕が感じ取った匂いは、ナマコやホヤの特有の香りの悪い部分だけを、
数十倍に凝縮したかの如き異様な臭気であった。

そして同時に、クルーザーの周辺は異様な静寂に包まれた。

小渕は何ともつかない、嫌な感覚を覚えた。
とりあえず元気そうなスチルシャークはさておいて、船外に出たままの大平に無線で話しかけた。

「おい大平、なんかヤバくないか?」
「いよいよだな小渕‼船の操舵は任せた‼」

相変わらず今日の大平とは会話のキャッチボールが成立していない。

-グォオオオオ...-

地鳴りのような重低音が周辺に響いた。

「何の音!?」

小渕がそう呟いた瞬間である。

-グシャッ-

船内に重い金属音が響き、小渕の身体には鈍い痛みが走った。


自分の身体がコクピットの壁に叩きつけられたことに気づいたのは、十数秒後のことである。

時折、手荒い真似をする敵対者によってコンクリートの地面に叩きつけられているとはいえ、全身に加えられた衝撃は小渕の身体に堪えた。

次いで、小渕は強い揺れを感じたが、これは船全体の揺れによるものらしい。
計器類を確認すると、クルーザーは突如180度旋回していたようだ。

コックピットから前方のデッキを確認すると、デッキの一部がひどく変形している。

そして小渕は、先ほどまでデッキにいた大平の姿が見えないことに気づいた。

「おい、大平!大丈夫か‼」

小渕は無線に強く呼びかけた。
しかし、無線から応答はない。

「大平‼応答しろ‼」

小渕は必死になって、無線に呼びかけ続ける。
だが、いくら叫んだところで、無線からの応答はない。

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