大和の分かりずらいヤキモチ
【大和の分かりずらいヤキモチ】
なんと!しっかり者ヒロインちゃん、今回は帰宅時に痴○(?)にあってしまいます。
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残業を終えた帰りの電車。
いつもの帰宅風景である電車内の――、
空いた椅子でウトウト眠っていると、
気が付けば、一人の大人しそうな男性が異様にぴったりとくっついて座ってきます。
反対側を見れば席は空いているのに、なぜか体を寄せてくる男性に違和感を覚えつつも痴○だとまでは断定できずにその場は再び寝たフリでやり過ごしました。
(これ以上近づいたらちゃんと自衛しますがそれも無いので)
無事、何事もなく最寄りのホームに降り立ったアナタ。
振り返り――、先ほどまで乗っていた車内を覗くと例の男性はそのまま眠っていました。
自分の考えすぎだった、
と胸を撫で下ろし、アナタは鞄からスマホを取り出します。
――。
この日、アナタは大和真幸からお誘いを受けていたのでした。
スマホ画面を確認するアナタ。
この時すでに23時は過ぎています。
スマホ画面には以下のやり取りが残されていました。
大「20:00 ご飯いこうよ」
ヒ「20:05 ごめん。今日は無理かも。トラブル発生で残業中……」
大「20:05 また?仕事できなすぎだろ。何時に終わる?」
ヒ「20:08 多分終電になると思うから。今度また誘って(ごめんねスタンプ)」
大和の既読は即着いた。
ヒ「20:37 なんかごめんね。言い方良くなかったのかな。ご飯大丈夫?ちゃんと食べた?」
大和の既読は即着いた。
そして最後に――。
ヒ「23:03 今やっと最寄りついたよ。帰るね。今日はせっかく誘ってくれたのにごめんね。(おやすみスタンプ)」
それだけ打ち終えると、アナタは自宅に続く暗い夜道を歩き始めました。
都会から離れた人通りの少ない見慣れた夜道にはアナタの靴音だけがコツコツと鳴り響いています。
しかし、しばらく進んで行くうちにアナタは、何やら異変に気が付きました。
どうやら靴音がもう一つ増えている様なのです。
踵を少しだけ引きずるような、男性の重い革靴の音。
しかも、アナタの歩調に合わせるように、アナタの少し後ろを歩いているようです。
(いつの間に居たんだろう……)電車内で経験した不安要素も相まって、いつもなら気にならない様な事でも不安になってしまうアナタ。
確かにこの道は、”人通りは少ないが誰もいないとは限らない”。
そう思いつつも、アナタの歩く速度は、だんだんと早まります。
それに合わせるように歩調を強める男の足音。
怖くなったアナタは、軽く駆け出しました。
同じように駆け出す音に、アナタは強い恐怖を感じます。
無意識にアナタの歩調もさらに早まります。
目の前の角を左に曲がればスグにあなたの自宅なのですが、アナタはその勢いのまま右に向かって駆け出しました。
(このまま自宅まで行っても怖いから、後ろの人を巻いていこう!)
右に曲がってすぐ、全力で駆け出そうと、一歩を踏み込んだ、その瞬間。
アナタは男の靴音を真後ろに聴き、背筋に温度を感じます。
――後ろに誰かいる!!
そう思ったのも束の間、あなたの腕はグイっと引っ張られてしまい、アナタの態勢が崩れます。グラつく足元を低い姿勢で必死に踏ん張るアナタ。
「放してください!」
中腰で叫ぶアナタに、男はあっさりと手を放し、
あなたはその場で盛大に尻もちを突きました。
「ここ左だろ!!」
痛みに耐えつつ、顔を上げると、
そこには、口元を押さえ笑いを堪えている大和真幸が立っていました。
「え……、真幸?」
「そうだよ!……プッ!お前、俺の事、変質者だと思ってやんの、……ククククク!」
「まっ……、間違えるよ!普通!!」
真っ赤な顔で訴えるアナタをよそに大和真幸は笑いを堪えるのに必死です。
(むかつくけど……、それでも……)
「よかった。さっきの人じゃなくて……」
その場でホッと胸を撫で下ろすアナタは、そう言って小さくため息をつきました。
しかし、アナタの言葉に、大和は強く反応してしまいます。
気づかないアナタは、大和が手も差し伸べてくれないので自力で立ち上がり話を続けます。
「何でこんなところにいるの……」
と、ポンポンとスカートに着いた汚れを落としながら聞くアナタ。
「本当に残業なのか確かめに来た」
「ちゃんと残業だよ」
「ってか、さっきの人ってなに?」
質問され、返答を考えているアナタを大和は真剣に見つめています。
大和の質問に対しアナタは、”痴○未満男”について説明をしました。
「な、感じで。痴○とは言えないんだけど、、少しだけ気になって、それで……」
言い終えるころには、大和は再び口元を抑えています。
「プププッ!!」
大和は堪えきれず、深夜にも関わらず盛大に笑い始めます。
「ははは!オマエっ!自意識過剰じゃん!アハハ!お前みたいなの!誰が痴○すんだよ!物好きだな!!ハハハハハハ!!!!」
その言葉に、温厚なアナタもさすがにムッと来て、アナタは大和を置いてスタスタと歩き始めました。
「あっ、おい!待てよ!」
急いで着いてくる大和。
それも無視して歩くアナタなのでした。
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自宅に入ったアナタと大和。
このころには大和の機嫌もすっかり斜めになっていました。
残業を終え、電車内での不安、さらには大和の奇行によってヘトヘトになったアナタ。(大和の奇行はわりとよくある事なんですが)
とりあえずリビングで一息つきたいところなのに……。
「すぐに風呂に入れ」
と、大和がせかしてくるではありませんか。
一息だけつかせて、と言うアナタですが、当の本人は”汚いからヤだ”の一点張り。
何が汚いのか、問いかけると
「他の男に触られたから」だそうです。
いや、だから……。とアナタが痴○未満男について、”ただ近かっただけ”と説明しても、
一向に納得しない大和真幸。
終いには、
「右半身が男と密着してたんだろ?え?何?もしかして嬉しかった?へぇ、若い男だったんだっけ?そりゃ嬉しいか~、お前なんて俺ぐらいしか相手しないもんな~????はぁぁぁぁぁぁ!!!(デカい溜息)……そんなアバズレもう無理だわ~、さすがの俺も汚すぎてゲロ吐きそう」
と、今までの自分を棚どころか丘の上に置いてきたような発言を繰り返します。
どうせお風呂には入るし……(この人言い出したら聞かないし……)。と渋々承知したアナタはシャワーへと向かいます。
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一方、大和の心は嵐の様に荒れていました。
アナタがシャワーに入っている間。
大和真幸は、アナタの部屋のすべての窓をチェックしました。
外に見える景色――、変わらないであろうアナタの日常。
そのどこかに、
”アナタを狙う誰かが潜んでいるのでは無いか”
と、彼は不安で堪りません。
誰かがコイツを見ていたら――。誰かが……。
俺からコイツを奪っていこうとしてるなら――――。
それだけで心臓がキュッと縮む様な気がしています。
それは酷く痛いようで、彼にとってはとても辛いようなのです。
ただ一人の、どこにでもいる女の子なのに――――。
大和真幸にとっては
その女の子が何よりも大切で堪らないのでした。
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シャワーを終え、出てきたアナタ。
なぜか雨戸まで全て締め切られ、
カーテンまでもを閉められた部屋で何事も無かったかのようにテレビを見ている大和真幸は、パジャマに着替えたあなたを笑顔で迎えます。
こっちにおいで、と嬉しそうに誘う大和に、今度はアナタが逆にシャワーをせかします。
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アナタにい言いつけられた通り、シャワーを終えた大和真幸。
出てくると、アナタは仕事の疲れも相まって、テレビをつけたまま、テーブルに突っ伏すように眠っていました。
大和君のほっとする時間の一つが始まりました。
自分のテリトリーを守るために、いつも気を張っている大和真幸。
初めて ”ありのままの自分” を許してくれたアナタの寝顔。
ヨダレが垂れていようが、乾かした髪がボサボサだろうが、大和真幸には関係がありません。
ありのままの、
”超好きなアナタの無防備な寝顔”
は、彼にとって
”一番に守りたい幸せ”
なのでした。
しばらくその寝顔を見つめる大和真幸はとても嬉しそうです。
面白い企画のテレビ番組に、時々目をやりつつも、その間に挟むアナタの寝顔に堪らない幸せを感じてしまう大和なのでした。
そして、かつて自分が言った言葉を胸の内で反芻する大和真幸。
”何があっても守ってあげる”
彼にとって、アナタのただの無防備な寝顔は
何があっても守ってあげたい自分にとっての唯一の希望であり
”幸せ”
なのでした。
(もちろん、アナタが起きた頃にはいつもの太々しい大和真幸に戻っています。なんなら翌朝にアナタが用意したトーストに対して、「俺、味噌汁とご飯用意できない女とか、無理だわ~」とか言ってきます)
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