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おっさん受けの記事 (38)

鶯命丹 2024/09/21 18:00

エロトラップに遭うタンク受けの話2

【お試し読み】
 壁尻トラップに引っかかってしまうガズーさん【全文15000文字】

 見習い魔法使い君×タンク系用心棒おじさん

 ダンジョン探索中、ガチムチおっさんが壁尻になって触手に凌○される話
 男リョナとまではいかないけど、エナジードレインとか搾精的な展開です

【あるもの】
 ガチムチ受け・おっさん受け・凌○・壁尻・触手・エナジードレイン・搾精・連続絶頂・ハート、濁点喘ぎ


 設定を説明するようなセリフが多くて読みづらいかも
 
 ――――――――――――――――――

「すみません。そろそろ路銀が心許ないので、ギルドに寄っても良いですか?」
 王都へ向かう道中。
 立ち寄った街で、エイルが眉を下げて呟いた。
 ガズーは頷き、ともにギルドへと向かう。

 護衛の依頼料とは別に、道中の諸費用は依頼人であるエイルがまかなう契約となっている。
 安くない契約料金を一度に用意することは、稀有な才能を持つといえども若く見習いの地位にいるエイルでは難しい。
 そこで、足りなくなれば道中ギルドへ寄って路銀を稼ぎつつ進むと言うことを、引き合わせたギルド職員の立ち会いの元、エイルとガズーは契約を交わしていた。

 
 立ち寄った街は、この一帯では一番大きく人の流れも仕事の種類も多い。そういう場所は、用心棒や護衛、狩りなどの危険な仕事から、薬草採取、鉱石採掘、魔導書制作などの安全にこなせる仕事まで幅広くあるのが常だ。
 エイルは見習いではあるが魔法・魔術に長けている。魔法使いにしか出来ない仕事は往々にして一件の依頼料が高い。
「良い仕事があると良いんですけど」と微笑むエイルに頷いて、ふたりは連れ立って街のギルドへ赴いた。
 
「こんにちは、お仕事をお探しですか?」
 受付に座る糸目の職員が笑顔で対応する。
「単発の仕事を探してます。見習いですが、魔法使いです」
 ギルドの登録証を差し出しつつエイルが問う。
「街の近くにある山の中に自然発生したダンジョンの探索はどうでしょう?」
 そう言うと、職員は途中まで描いてある地図を差し出して説明する。
「行けるとこまででいいので、ダンジョン内の探索と……魔法使いの方でしたらアイテム回収も頼もうかなぁ。魔力のこもった物があれば持って来て欲しいです。もちろんきちんと採取の追加料金と、買取りもいたします」
「……危険度は、どれくらいですか?」
「うーん、なにしろ最近出来たので……今のところ死者は出てませんね。確認されている魔物もこの地域でよく見られるような危険性の少ない奴ばかりです……今のところは」
「……そうですか」
 エイルはガズーの方を見上げる。
 エイルの丸い眼鏡の奥は、迷っているようだった。
 エイルの魔法は強力な武器であるが、何しろ発動までに時間がかかる。おいそれと危険な任務を引き受けるのは得策ではないだろう。
 そう考えてガズーは受付職員を見た。
「報酬はいくらだ?」
「はい、こちら……」
 報酬額を聞いてエイルは眼鏡の奥の目を見開く。
「……うわ……結構良いんですね」
「そうなんですよ〜。まぁ未開のダンジョンなので、お高めになってます。やりたがる人が少ないんで」
 受付職員は細い目の目尻を下げて苦笑する。
「……どうする? 受けるなら手伝おう」
「良いんですか?! でも、これ、ガズーさんへのお金を払うための出稼ぎなのに……」
「依頼人が死んだら意味ないからな」
 ガズーの表情は変わらないが、深く頷くその顔には、不機嫌さも不愉快さもない。まっすぐエイルを見つめる目は冷静であり、エイルは暗に「お前なら大丈夫だ」と背中を押されているような気がした。
「……やります」
「ありがとうございます〜助かります〜」
 エイルの言葉に、受付職員は愛想良く頷いて手続きを進めていった。

 
「それじゃあ行ってみましょう」
 エイルはリュックの肩紐をきつく握り、緊張した面持ちで呟く。
「最初の方は一本道だな」
 ガズーは受付職員から渡されたダンジョン内の地図を見た。
 渡された地図の羊皮紙は、特殊な魔法がかかっており、持ち主が進むだけそこに道順が自動で記入されていくアイテムである。
「そうですね。とりあえず単純に地図の切れ目を目指します。危険がなければ明日の朝まで少しずつ進んでみようかなって………あ、帰還の魔法陣を宿の部屋に描いてきたので、帰りはすぐに帰れますよ」
 頷くガズーを見て、エイルは地図を畳んで懐へ仕舞う。
 苔むした洞穴の前にいるギルドの警備兵に通行手形を見せてふたりは未開のダンジョンへと繰り出した。


―――――― 中略 ――――――

  ビリビリッ、ビリッ!
 生地の裂ける音が背後から聞こえ、下半身がひやりと外気に触れる。
「おいっ! お前! 何して、る゛ッ! ぐッ♡ゔゔっ、な゛、にを!?」
 剥き出しになった陰茎に絡みつく、ねっとりと濡れた感触。
 細く弾力のある物が複数、ガズーのだらりと垂れ下がる陰茎を扱いていた。
「ぐっうう♡やめ゛……お゛っ♡お゛まえ゛っ、だれ、だっあ゛っ♡」
 ぬるぬるの粘液をたっぷりと含んだ細い何かは、手指のようだが、しかし、陰茎を掴むその表面には、ポツポツとした突起が複数生えているようだった。
 エイルの、人間の手にはありえない構造。
 それに強く絡みつかれ、扱かれるたびにぞわぞわと強い快感に腰が震える。
「ゔっ♡ゔゔっ♡あ、待て! ン゛ッぐ♡ゔ、ん゛♡あ゛ぁ゛ッ♡」
 じゅぽっ♡ちゅくっ♡ぢゅこっ♡
 人の指のように繊細に絡まるそれは、容赦なくガズーの陰茎を扱き、ガズーの意思とは無関係に勃起させていく。
「うぉ゛ッ♡お゛っ♡……やめろ゛ッ! 触る、な゛ッ♡あ゛ッ♡あ゛♡あ゛ッ♡……ッひッ♡やめ゛ッ……お゛ぉ゛ッ♡」
 身動きも取れず、無防備に弱点を晒している状態にも関わらず、ヌルヌルの粘液をまとったモノの手によってあっけなく射精してしまったガズー。
 しっかりと搾り切るためなのか、ゆるゆると動き続ける手に腰が、びく♡びくっ♡、と跳ねてしまい、ガズーは悔しさに唇を噛み締める。
「お゛ぁっ♡あ゛っ……はっ、はぁっ……あぁっくそ! ふざけるなっお前は何だっ! エイルをどうしたっ」
 ガズーは壁を睨み付ける。
 悔し紛れに気配を頼りに、太く逞しい足で蹴りを繰り出すが、地面や、ガズーを捕らえる土壁に、ゴツッゴヅッ、とブーツが当たるだけで、いまだ執拗に陰茎を撫で、下肢に細い触手を絡める不快な生き物に当たった手ごたえはなかった。
「くそっ! エイルッ! エイル無事か?!」
「おっと! 危ないですよガズーさん。暴れると怪我しちゃう」
「うるさいッ! エイルの声で喋るな!」
 ガズーは脚を激しく動かして、壁の向こうにいる得体の知れない何かを蹴り続ける。
「はぁ〜……そんなに暴れるなら拘束するしかないんですけど……」
 壁の向こうのエイルの声は、呆れたような声音で呟く。
 すると、ガズーの両足首に細い、触手のような何かが絡み、きつく締め付けた。
「ぐっ! ゔっ……くそっ離せ!」
 絡みついた何かは、ガズーの両足を大きく広げていく。
「協力するって言ってくれたじゃないですか。ガズーさん。暴れないで」
 いつも通りのエイルの言葉が、恐怖を助長する。
「うるさいっ! 黙れ偽物ッ!」
 声を上げ、身体をひねり、必死に抵抗を試みるが、壁の穴にハマった腹部だけでなく下半身すら動かなくなった状況に、ガズーの顔は青ざめている。
「大丈夫ですよガズーさん。痛いことも怖いこともないですから♡」
 ガズーの怯えを察知したのか、エイルの声が甘く告げた。
 その途端、得体の知れない何かがガズーの陰茎をぐっぽりと丸呑みにした。
 じゅぷっ♡ぢゅる♡じゅぽぽぽ♡
 丸呑みにされた快感がガズーの肌をぞわぞわと粟立たせ、屈強な背を仰け反らせる。
「ひぃッ♡い゛っ♡……やめろぉ゛♡……お゛♡ぐぅ゛ぅ゛♡」
 何か、ねっとりとした粘液を、たっぷりと湛えた柔肉の感触が、ぢゅっ♡ぢゅずずッ♡とガズーの巨根を吸っている。
「ゔぉ゛ッ♡お゛ッ♡お゛ぉ゛♡や゛め゛ッお゛ぉ゛ッ♡吸うな゛ぁ゛ッ♡」
「つれないなぁ。ガズーさんのおちんちんは先走り汁をだらだら垂らして気持ちいい♡って喜んでくれてますよ♡」
 エイルの軽やかな嘲笑が聞こえる。
 無数の触手が、破かれた服の隙間から侵入し、ガズーの筋肉と脂肪で張り詰めた太い脚を舐め回していた。
「ンぉぉ♡お゛ッ♡お゛ッ♡吸ゔの゛やめお゛♡ほぉ゛ッ♡お゛ッ♡イ゛ッ♡イぐッ♡イ゛ぉ゛お゛ン゛ッ♡」
 強く吸い付く肉筒が、ぐちゅっ♡ごちゅっ♡ぶぢゅッ♡、と激しくガズーの勃起肉を扱く。



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鶯命丹 2024/09/19 19:00

ドムサブユニバースシリーズ3作目 元気っ子ドム×気弱おっさんサブ【前編】

【試し読み】ドムサブユニバースシリーズ3作目 元気っ子ドム×気弱おっさんサブ【全文13000文字】


この話はフィクションです
 ドムサブユニバースなのでフィクションです
 実在の事件事故事象宗教……この現実のあらゆるものと関係はありません。
 フィクションをフィクションとして楽しめる方のみ閲覧をお願いいたします。
 
 ドムサブユニバース頑張ったシリーズ③
 途中まで書いてたけど書けなくて放り投げてたやつが一応出来たので上げます。
 現代日本風の舞台でガチ年下なので、お察しいただけたお好きな方だけお読みください

 あと「書けないな。他のやつを進めるか…」みたいに書き進めていったからか、前にアップした他のドムサブものとなんとなく似てると思います。
 すみません

 物怖じしない元気っ子年下攻め×図体デカいくせにノミの心臓ガチムチおっさん受け【前編】

 【あるもの】攻めドム×受けサブ・受け側のオナニー/アナニー描写・受け、攻めを想ってのオナニー描写・モブドムからサブおじさんがバカにされる描写あり
 ドムサブユニバース設定なので、それっぽい設定が常識の世界です。ドムサブユニバースが苦手な方、作り込まれたドムサブユニバースでない物が苦手な方も、閲覧をお控えください。

 【登場人物】
 矢熊 慎也(やぐま しんや)
   一般的なサラリーマンサブおじさん。実は30歳。筋トレ趣味のガチムチ高身長おぢだけど、気が小さくて、内向的。具合が悪くて困ってたところを蒼楽君に助けてもらう。

 木地谷 蒼楽(きじたに そら)
   ヤンチャ、元気っ子のドム。塾通いに忙しい生意気盛り。具合悪そうにしてる慎也を見つけて声をかける。物怖じしない外向的な性格で、勉強も運動もそつなくこなす目立つ子

 
 ――――――――――――――

  矢熊 慎也(やぐま しんや)は、暗い公園でぐったりと座り込んでいた。
 梅雨時期のじめっとした湿気が、肌にまとわりつくようで不快だった。
 気圧のせいか頭が痛み、慎也はずっと眉間に拳を当てて俯いている。
 じっとしていても、じわじわと汗が噴き出て怠さを助長し、もわっとした空気に喉が詰まり、呼吸すら満足にできないような気がする。
 痛みだした眉間を揉み込みながら、大きく息を吐いた瞬間「おじさん、大丈夫?」と小さくひそめた高い声が問いかけてきた。
 目を開けると心配そうに覗き込むひとりの少年の姿があった。
「あ……ああ、大丈夫だよ。わざわざありがとう」
 いきなり顔を覗き込まれた慎也は驚き、なんとか笑顔を作って返答する。
 少年は屈めてた腰を伸ばして腕を組むとうーんと唸っている。
 心配してくれる気持ちはありがたいが、子どもにどうにかできるとも思えず、慎也は体調の悪さから来る苛立ちを、心優しい少年に向けていた。
 ――大丈夫だから、早くどっかへ行ってほしい……そっとしておいてくれ。
 流石に口には出さないが心の中で文句を言い、瞼を閉じてズキズキと痛むこめかみを押さえる。
 少年の立ち去った気配はない。
「おじさんさ、もしかしてサブ? ちゃんとプレイしてる?」
 突拍子もない言葉に、慎也はつい顔を上げて眉をひそめて返事をしてしまった。
「え? っと……サブってあの、第三の性とか言われるやつ、だよね? いや、僕は違うよ……それに、ああ言うのは今の若い子から発見されてるって話だよね?」
「えぇ〜! 違うって! 最近は大人になってから発見される事もあるって授業で習ったよ。それにさ〜、おじさんからめちゃくちゃサブの匂いするし」
 少年特有の、はっきりきっぱりとした主張。
 否定するのも面倒で慎也は曖昧に相槌を打つ。
「最近の授業ではそう教えるんだねぇ。サブの匂い? ってのはよくわかんないけど……それも、学校で習ったの?」
 水を向けると、少年は力強く頷いて語る。
「なんか、たまに居るんだって。ドムのことが分かるサブとかサブの匂いが分かるドムとか。俺もそうで、サブの匂いがわかんの! 今まで百発百中! すごいっしょ」
「そうなんだ、そりゃ凄いね。でも僕は違うんだよー、わざわざ声かけてくれてありがとね……」
「え〜、そうかぁ? でもさ〜、おじさんは最近具合悪くて、でも風邪じゃないっぽかったりしない?」
 話を早々に切り上げ、何処かへ行って欲しいと匂わせる大人な文法は、いたいけな少年には通用しない。
 それどころか、ますます食い下がってくる。
「え、ああ……うん、そうだよ」
 実際、慎也の体調不良は症状が曖昧だった。
 頭痛と、倦怠感があるが、熱はなく、咳や鼻水などといった症状もない。吐き気や腹痛もなく、周囲で同じような症状の人も居ないので、流行り病でもない。
 慎也が頷いたのを見て、少年は不敵に笑った。
「じゃあさ、試しにやってみようぜ」


 ―――――― 中略 ――――――

  慎也が最近体調が良いのは、ドムのパートナーを得て定期的にプレイを行っているからだろう。
 週5で塾に通う蒼楽に合わせて帰宅時間を調節し、ほんの少しの合間でプレイをしている。
 お互い塾帰りと仕事帰りに待ち合わせして公園に寄り、蒼楽の指示を聞き、褒められると、身も心もうっとりとするような充足感に満たされる。
 しかし……
「“よしよし、クマはいい子だなぁ~”」
「ふ……っ、んぅ……あっ、ありがとう蒼楽君! えっと……そ、そろそろ帰ろうか! 送るよ!」
 いまだ柔らかい少年の腕が、慎也の首に腕を回して、よしよしと頭を撫でる。
 慎也はぶる、と身震いをして、蒼楽の腕から離れると、そそくさと立ち上がりベンチから一歩離れた。
「えぇ~もう? もうちょっといいじゃん」
 むくれる蒼楽が、慎也の分厚い手を握り、引っぱった。
「ううん……でも、もう遅いから……」
 蒼楽の手を握り返してベンチから立たせると、慎也はそのまま手を引いて公園から出て行く。
「えぇ~! まだそんな遅くないよ」
 ぶつぶつとぐずる蒼楽をなだめすかし、なんとか家に送り届けた。


 慎也は速足で自宅へ帰宅すると、すぐさま風呂場へ向かった。
 裸になってため息を吐き、顔を覆う。
「うぅ……なんでこんな事になっちゃうんだよぉ……」
 慎也の下半身は、ガチガチに勃起していた。
 情けないことに、脱ぎ捨てた下着には白く乾いた痕さえある。
 慎也は自己嫌悪に眉をひそめながらも、びく♡、びく♡、と痙攣している自身の肉棒を放っておくことが出来ず、風呂場の床にぺったりと座り込み、硬い肉を握りしめる。



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鶯命丹 2024/09/11 18:00

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鶯命丹 2024/08/30 10:00

DK×用務員さん最後の話 後編

 DK×用務員さん


この話はフィクションです。
 登場する団体・組織・宗教・法律などすべての事柄は、実際の事件・事故・出来事などに一切関係ありません。
 
 
 
 最後のエピソード後編・冬休みにお別れして、その後元鞘に戻る話
 エロはあまりないが、濁点喘ぎやハート喘ぎがある。一部、無理矢理的な描写があります。

 
2024,9/23(月)J.GARDENで書き下ろしという名のまだ書けてない部分を入れて紙の本にします
スペースは ま05a です!

 
 今回紙の本にするにあたって、通販は縦書き、ハート濁点などの記号無しのEPUBバージョンと支援サイトに載せた状態と同じハート濁点記号ありの横書きpdf(いつも通りのデータ販売)バージョンをご用意する予定です。
 縦書きが好きな方、記号が苦手な方はBoothでEPUBバージョンを(縦書きビューワーなどのアプリが必要。iPhoneは「Apple Books」Androidは「Google Playブックス」で閲覧可能なようです)
 記号が好きな方はDLsiteととらのあなで、pdfバージョンを購入いただければうれしいです。

 支援サイトでも一応全文読めますが、3ヵ月~1年程度でバックナンバーに移行しますので、通販サイトにてご購入を検討いただければ幸いです


 
 


――――――――――――――――――――――――――――――
 
  和津沙の意識が浮上したのは、部屋の中が暗い橙色に染まっている時刻だった。
 部屋の中には誰も居ない。
「マサさん?」
 呼んでも返事がない。
 トイレも、風呂場にも博雅の姿はなかった。
「買い物かな……」
 そう呟いたが、なぜだか違う気がして、和津沙は咄嗟にアパートを飛び出した。
 橙色がかげり始めた町を走る。
 日暮れの町は寒く、冷たい風が吹き抜けていく。
 しかし、コートも着ずに走り回っている和津沙には玉の汗が浮かんでいた。
 心当たりのある場所はひと通り探してみたが、博雅の姿は見当たらない。
 必死になって走っているうちに、秋にふたりで訪れた小さな公園へ続く緑道に通りかかる。
 もしかしたら……と、その道を抜けて公園へ行くと、すっかり薄暗くなった公園に、赤い小さな光が灯っている。
 それは、ベンチに座ってる博雅の手に持った煙草の火だった。
「……マサさん……煙草吸うんだ……」
 荒い息の下、呟いた言葉は不自然な世間話だった。
「……ああ、たまに」
 博雅はじっと虚空を見たまま、和津沙の方を見ない。
「帰ろうよ。もう、暗いよ」
「……そうだな」
 ポケットから出した携帯灰皿に、煙草を潰して捨てる仕草を、和津沙はじっ、と見つめていた。
 立ち上がった博雅が、ふと小さく笑って和津沙の額を撫でる。
「汗、凄いな」
「う、うん……マサさん居ないから探してた」
「ああ、ごめん。ちょっと外の空気吸いたくてさ」
 額を拭ってくれる博雅の手は、とても冷たい。冷えたその手を、反射的に掴んで握る。
 掴まれた博雅はびく、と小さく指先を揺らしていた。
「帰ろ。マサさん」
 博雅の手を引いて、帰路に着く。ふたりとも何も言わず、ただ暗い道を歩き続けていた。

 
 玄関ドアを開けて室内に入った途端、博雅が呟いた言葉は和津沙の心臓を握り潰した。
「和津沙、年も明けたし……明日の朝には帰った方がいいんじゃないか?」
「え……」
「……あー……あのさ、俺ら、少し……距離を置かないか? 和津沙はもっと、いろんな人と遊んだりした方がいいよ」
「な……なんで? なんでそんなこと言うの……俺のこと嫌いになった?」
 和津沙の声は弱弱しく震えている。うるうるとした目で見つめられて、博雅は大きく深いため息を吐く。
「違う……けど、やっぱ俺たちは、一緒に居ない方がいいんだよ……歳の差はデカいし、お前もまだまだ若い。もっといろんな人と関わって、いろんな世界を見た方がいいよ。ここに居て……俺に付き合って、つまんない人生を送ることないだろ」
 和津沙は上手く言葉が紡げずただ呆然と、動く博雅の唇を見つめていた。
「……お前の気持ちを、否定するわけじゃないが……少し距離を置いて冷静になって、考えてみて欲しい。距離があけば、お前の目も覚めると思う……」
「……やだ」
 開口一番和津沙が言ったのは、あまりにも子どもっぽい、駄々を捏ねるような言葉だった。震える唇はやだ、やだ……とうわ言を紡ぎ続け、目からはぼたぼたと大粒の涙が落ちた。
 歳の差を理由に別れを告げられているのなら、もっと、理路整然と話さなきゃダメだ。と、和津沙がそう思えば思うほど、脳が悲しみで冷えて動かなくなってしまう。
 そんな和津沙に、博雅は低く落ち着いた声で告げた。
「……とにかく……明日にでも一旦帰れ」
「やだ。やだやだ……帰らない……絶対帰らない」
 和津沙は必死に涙を拭って顔を上げる。
 しかし視線は交わらない。
 わずかに俯き口角を下げる博雅の顔を見ると、拭ったはずの涙が溢れて止まらなかった。
「……嫌だ。やだ……マサさんが良い……捨てないで……」
 和津沙は立ち尽くしている博雅に縋り付き、泣き顔を博雅の首すじに擦り付けている。
 拒絶はなかったが、いつもなら抱き締め返してくれる腕が無かった。
「……やっぱりおまえには、同じ年くらいのかわいい子が良いよ」
「やだ、マサさんがいい。マサさんじゃなきゃ嫌だ。お願い、なんでもするから」
 泣きながら、酷いことを言う博雅の唇に吸い付き、服の下に手を這わせる。
「……お願い、やだ……なんでそんなこと言うの……」
 ぐずぐず泣きながら抱きしめて、服の中――下腹部に触れるけれど、博雅の身体には何の兆しもなかった。




  
 「……うぅっ、ぐ……っお゛」
「ほら……マサさんのナカ、俺のちんぽぎゅーッ♡てしてるよ」
 うつ伏せの博雅を上から刺突する和津沙が言った。嘲笑まじりの言葉を吐いて、赤く染まったうなじを噛む。
「ぐっ、お゛ッ♡お゛、ふぅっ、うぅっ♡」
「今、ぐにゅっ♡て締まったね♡噛まれるの好きだった? 痛いのが良いの?」
 からかうように言葉を紡ぐ和津沙の顔は涙に濡れている。憤りをぶつけるように首すじに歯を立てて肉を噛み締めた。
「ぐあ゛っ、あ゛っ、ぃ゛ぃ゛ッ♡」
 博雅が、噛まれる痛みに歯を食いしばると、力んで締まった尻穴を抽送で執拗にえぐられる。前立腺を肉棒で叩かれて、強○的に絶頂を与えられていた。
「はっ……ふぅ♡、んぅ♡すご……♡マサさんの雄尻、ナカうねうねして……ッ♡あっ♡あぅ♡俺も出そ♡」
「ひっ♡ぎっ……い゛っ、でッ! ぇ゛あ゛ぁ゛ッ♡」
 前立腺を刺激され深い絶頂に蠢く腸内を、和津沙は容赦無く射精のために使い、筋肉と脂肪の乗った肉体に思う存分噛み付いた。
「あっ♡はッ♡あっ♡出るッ♡あ♡あ♡奥に、出すね♡あっ♡あぐッ♡うぅぅッ♡」
 びゅ、びゅっ、と短い痙攣を繰り返し射精する肉棒の動きが、博雅の尻穴の淵を収縮させる。
「い゛ッ♡ぎ、ィ゛ッ♡」
 腹の奥に叩きつけられる熱さと衝撃に、深い法悦を得てしまうほど、博雅の肉体は雄を受け入れる快楽に、慣れ親しんでいた。
「ぐ♡ぅゔゔ……ふ、ぅぅっ、ん゛ッ♡」
 腸壁がうねるたびに、博雅の喉から甘い吠え声が漏れ、太い腰が跳ねている。最奥を突くと、まるで吸い付くように亀頭に絡まる粘膜に、和津沙はうっとりと熱のこもった息を吐いた。
「はぁ♡……こんな奥まできもちいいのに、俺と別れて大丈夫なの? きっと疼いて寂しくなっちゃうよ?」
「お゛ッ! お゛ンッ……ん゛ッ♡ん゛ッ♡ゔゔぅぅッ♡」
 広い背中に身体を寄せて、敷布を強く握る拳を包む。しかし、博雅の手は、和津沙の手を握り返してはくれなかった。
「……う、うぅっ……うぅ……いっぱい気持ちよくするから……いっぱいイかせてあげられるようにがんばるから……」
 想いの返って来ない虚しさに、汗ばんだ博雅の背に泣き顔を擦り付けて和津沙はひたすら、快楽を追う。
「……ひどい、ひどい……別れたくない……ひとりにしないで……」
 肌を打ち合わせ、粘膜を擦る淫音に、小さくすすり泣く声が混じっていた。

 
 
 
  年明けの、めでたい世間の空気と隔絶されたように、狭いアパートの中では重苦しい空気が流れていた。
 最初に距離を置こうと言われた日以降、博雅はよそよそしい態度を崩さず、歳の差というどうしようもない事柄を理由に、和津沙が何を言っても聞き入れてはくれなかった。
 初めて会った時から、博雅に拒絶された事のない和津沙はその態度に大いに動揺した。
 動揺し、泣き喚いたり、脅したりもしたが、博雅はあくまで冷静に和津沙を説得する。
 その冷静さが、興味を失った。と言われているようで和津沙はますます傷つき、美々しい顔をぐしゃぐしゃにして泣いた。
 
 
 結局話し合いは平行線のまま、冬休み最終日を迎えていた。
 和津沙は玄関から動こうとしない。
 荷物を握りしめ、じっと部屋とたたきのあいだを見ていた。
 無言の抵抗に、博雅はため息を吐くと「……駅まで送る」と静かに言った。
 アパートを出て少し歩いたところで、和津沙はぴたりと足を止めてしまう。
「……どうした?」
 ここ数日で、何度も聞いたため息混じりの低い声に、和津沙は唇を噛んで涙を堪え「……手、繋いでくれなきゃ歩かない」と子どものようなわがままを言った。
 もう、どうしていいか分からない。
 どうすればこれを回避できるのか分からず、くだらないわがままで博雅を困らせる事しか、和津沙には出来なかった。
「まったく……ほら、行くぞ」
 予想に反して、博雅はここ数日にしては珍しく、困ったように笑うと和津沙の手を取って歩き出した。
 ふたりで手を繋いで駅へ向かう道すがら、和津沙が呟く。
「俺……絶対マサさんのこと幸せにするから……」
 夢みがちな言葉だと、自分でも思った。
 しかし、何か言わなければ、と焦燥感に駆られて出た言葉だった。
 博雅は、何も応えずただひたすら、和津沙の手を引いて道を進んでいくだけだった。


 駅前のロータリーは、騒がしくたくさんの人々が行き交っている。
「着いたぞ」と告げる博雅は、やはり視線が交わらない。気難しく下がった口角と、力のこもった四角い顎を見て、和津沙が言った。
「……また、会いに来ても良い?」
 縋る情けない声音で問う和津沙に、博雅は眉根を寄せたまま、唇をわずかに開閉させた後きつく引き結び、小さく首を横に振る。渋面に、瞼をぎゅっと閉じていて、結局最後まで博雅は和津沙を見てはくれなかった。
 和津沙は震える唇を噛み締めて「……わかった……」と暗く呟くと、博雅に背を向けて歩き出す。
 博雅は、何も言わずただ、離れて行く和津沙の後ろ姿を見つめていた。
 
 
 和津沙が完全に見えなくなった後も、博雅はそこに立っていた。心に渦巻く悲しみ、寂しさ、後悔、憤り……さまざまな感情を抑え付けるためにきつく拳を握り締める。
 ゴツ、と硬い違和感に左手を見ると、銀色に光る指輪があった。
 細く、なだらかな曲線を描く表面に、滑稽な自身の顔が映り、博雅は渋面のまま吹き出す。
 くつくつと忍び笑いに身体を揺らし、笑った勢いで指輪を外す。ぎゅっと右手に握り込み、そのままダウンのポケットに手を突っ込んだ。
 指輪の無くなった左薬指は寒々しい違和感が纏わりついていた。
 

 

 
  冬休みが明けて新学期が始まったが、和津沙はぱたりと用務員室に現れなくなった。
 今まで三日と開けずに博雅の周りをうろちょろとしていたのがまるで嘘のようだ。
 博雅もまた、なるべく学生に……和津沙に関わらないように仕事をこなしていく。
 そもそも美化委員の活動とて、常に学生に協力していた訳ではないので、特に支障はなかった。
 ――これで良いんだ。今までがおかしかったんだ。
 心の中で、呪文のように繰り返していないと、顔が険しくなるばかりだった。
 そうして必死に正常に戻ろうとする博雅を、脳みそは嘲笑うように和津沙との思い出を再生し続けた。
 視界の中にいつもいた和津沙の笑顔や、ゆっくりと話す楽しげな声。ちょっかいをかけてくるイタズラな顔と、ぬくもり。
 脳裏に染み付いて離れない幻覚を、博雅は頭を振ってやり過ごす日々を送っていた。


 
 
  ある日の放課後。
「校舎脇にある倉庫の、壁の一部がひび割れているので応急処置を」と要請を受けた博雅は、簡易的な補修を行うために校舎の隅にしゃがみこんで作業をしていた。
 外の道路に面した場所に置かれた倉庫であり、目隠しに植えられた垣根の向こうの歩道を、わいわいと騒がしい生徒たちの一団が通っている。
 何の気なしに顔を上げて道路の方を見ると、その騒がしい一団の中に、和津沙の姿を見た。
 心臓が痛いほど跳ね上がる。
 ところどころ隙間のある垣根とはいえ、和津沙は博雅には気づいていないようだった。
 ――元気そうで良かった。なんだよ、随分と垢抜けちまって、なぁ。
 心臓が痛むのと同時に、ホッとする気持ちもある。
 和津沙の姿は、流行り廃りに疎い博雅でもわかるほど整えられていた。
 今まで長めの前髪に隠れていた綺麗な顔は惜しげもなく晒され、制服は気怠げに着崩されている。その気怠さが和津沙の雰囲気によく似合っていた。
 騒がしい集団に紛れた和津沙の腕には、派手な容姿の女子生徒がぴったりと寄り添っていた。
 寄り添う若い二人を見て博雅の視線が泳ぐ。
 ひゅ、と短く喉が鳴った。
 ――良かった。和津沙は元気にやってる。
 その言葉を呪文のように心の中で何度も呟くと、動揺と胸の痛みを無視して、傷ついた倉庫の壁へと向き直る。
「こんぐらいの傷ならすぐ治るぞ」
 黙々と作業する博雅の小さな呟きを聞いていたのはひび割れた壁だけだった。
 


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鶯命丹 2024/08/27 01:14

DK×用務員さん最後の話 前編

 
 DK×用務員さん

 この話はフィクションです。
 登場する団体・組織・宗教・法律などすべての事柄は、実際の事件・事故・出来事などに一切関係ありません。
 


 最後のエピソード前編・冬休みに用務員さんの家にお泊りにいく話
 軽く決別する話になってるのですが、オチはハピエンです
 エロはあまりないが、濁点喘ぎやハート喘ぎがある。後編の一部に無理矢理的な描写があります。

 
2024,9/23(月)J.GARDENで書き下ろしという名のまだ書けてない部分を入れて紙の本にします
スペースは ま05a です!

 
 今回紙の本にするにあたって、通販は縦書き、ハート濁点などの記号無しのEPUBバージョンと支援サイトに載せた状態と同じハート濁点記号ありの横書きpdf(いつも通りのデータ販売)バージョンをご用意する予定です。
 縦書きが好きな方、記号が苦手な方はBoothでEPUBバージョンを(縦書きビューワーなどのアプリが必要。iPhoneは「Apple Books」Androidは「Google Playブックス」で閲覧可能なようです)
 記号が好きな方はDLsiteととらのあなで、pdfバージョンを購入いただければうれしいです。

 支援サイトでも一応全文読めますが、3ヵ月~1年程度でバックナンバーに移行しますので、通販サイトにてご購入を検討いただければ幸いです


 

 ――――――――――――――――――――――――

 師走に入り、世間が慌ただしくなってきた頃、ワクワクとした顔で和津沙が用務員室へやってきた。
「こんにちは。今、マサさんひとり?」
「おう、和津沙か。今日は俺ひとりだ」
 博雅は備え付けの年季の入ったソファーに腰掛けている。
 和津沙はすらりと長い足で用務員室を歩くと軽やかに博雅の隣へ腰掛ける。
「コーヒー飲むか? お茶が良いんだっけ?」
 博雅が腰を浮かせるのを制するように、和津沙が口を開いた。
「あのさ、マサさんさ……年末年始ってどっか行く予定ある?」
 いつもどことなく眠そうにしている和津沙の目がぱっちりと開かれて、きらきらと博雅を見つめて問う。
「いや、何処に行く予定もないなぁ」
 自嘲気味に答えた博雅に和津沙はますます顔を輝かせて、ぐっとそれを近づけた。
「じゃあさ、冬休みの間、マサさんとこ泊まってもいい?」
 博雅の目を覗き込む和津沙の目は期待に満ちている。
 あからさまなおねだりも、愛しい恋人のものなら悪い気はしない。
 博雅は笑いをこぼすと近過ぎる和津沙の頭を押しながら、髪をくしゃくしゃ撫でてやった。
「学生は良いよなぁ、冬休み。ちゃんと宿題やるならいいよ」
「やった! やるよ。ちゃんとやる」
 和津沙は端正な顔をくしゃくしゃにして笑った。
「しかし、俺んとこは良いがお前んとこのご両親は良いのか? 年末年始にじーちゃんばーちゃんの家とか行かなくて良いのか?」
 嬉しそうに破顔する和津沙は、普段の気怠げな印象に比べて随分といたいけで、可愛らしい。
 そんなかわいい息子や孫の姿が新年に見られないとなると、両親や祖父母はさぞ悲しがるだろう……
 和津沙よりもよっぽど年齢の近い保護者の心情を思うとそう長く自分のところに引き止めるのも申し訳ない気がして博雅は眉根を寄せて尋ねた。
「じーちゃんばーちゃんはどっちももういないから、平気。親は両方バタバタしてるみたいだから、別に大丈夫じゃない?」
 和津沙はあっけらかんと答え、そしてすぐに休み期間に博雅宅で何をするかを話し始めた。
「マサさん、休みいつから? 俺たちと同じ? 俺、バイト入れてるからいない時間もあるんだけど……マサさんの家から行って良い? あ、あと大掃除する? 俺も手伝うからね」
 普段よりもだいぶ早口に捲し立てる和津沙が、遠足前の子どものようで博雅は吹き出した。
「ああ、わかったわかった! いいよ、好きにしろって……うちもお前が来るなら小さいお節でも買おうかね」
「うん、いいね。年越しそばも一緒に食べよう。あ、あと初詣も……すごい、楽しみ」
 和津沙はぴったりと隣り合って座っていた博雅の肩に小振りな頭を預けてくる。ぱらぱらと和津沙の髪が肩にかかり、香りが鼻腔をくすぐった。香りから呼び覚まされる感情は、あまり職務中にはそぐわない感情で、博雅はぐっと和津沙の身体を押して離した。
「あんま近付くなって。仕事中だぞ」
「えぇ〜……誰もいないんだからよくない?」
「よくねぇよ。自重しろ」
 博雅はソファーから立ち上がり、電気ポットの方へ向かうと緑茶のティーバッグを湯呑みに放り込んだ。
 博雅の無骨な背中をじっと見て和津沙はにんまりと目を細める。短く刈りそろえた髪のせいで、赤い耳が丸見えだった。
「早く冬休みにならないかなぁ」
 待ち遠しそうに呟く和津沙へ湯呑みを渡すと、博雅は少し距離を置いて隣へ腰掛けた。
「俺んとこ来てもなんもないぞ」
「そんなことないよ。マサさんがいるじゃん」
 離れた隙間を埋めるように寄ってくる和津沙。
「近いって」
 離れるように手で和津沙を軽く押す。
 和津沙はきらきらとした目でじっと博雅を見つめ、秀眉を下げる。
「……だめ?」
 和津沙のねだる視線に、博雅は口の端を下げ、息を吐く。
 視線をそらして「ちょっとだけなら」と呻くように呟くと和津沙はただでさえ華やかな顔をパッと明るくした。
「やった! ありがと」
 和津沙の長い腕が博雅の腰を抱き、形の良い頭が懐っこく肩に寄りかかる。
 博雅は諦めたようにじっとされるがままになっていた。
 遠くから、生徒たちの楽しげな笑い声が聞こえて、博雅はかすかに身体を揺らす。
「緊張してる? 今、ちょっとビクッてしたでしょ」
 和津沙が笑いを含んだ声で聞く。
「うるせぇな……そりゃそうだろ。ここは職場で、俺は仕事中だぞ」
「あいたたた! ごめんごめんマサさん離してっ」
 からかう和津沙の顔を掴んで、博雅は指先に力を込める。
 痛みは本当だが、構われたことが嬉しい和津沙はにやけた顔ですぐ降参した。
「じゃあさ、離れるからマサさんからキスしてくれない? そしたら俺、この後のバイトも頑張れるから」
 しがみつく和津沙は肩口からじっと博雅を見つめている。
 子犬のようなつぶらな瞳に見られると博雅はなんとも断りづらい。
 しがみついてくる和津沙の腕の中でもぞりと身体の向きを変えると、細い顎を掴んで柔らかく潤った唇に口付けた。
 そっと触れるだけ、すぐ離れてそっぽを向く。
 しかしそれでも和津沙はにんまりと嬉しそうに目を細め、伸びる猫のように背筋を伸ばすと、離れる博雅にお返しのキスをした。
「ありがとマサさん! また明日ね」
「……おう、バイトがんばれよ」
 文句のひとつも言ってやろうと思ったが、晴れやかな笑顔で手を振る和津沙に毒気を抜かれ、博雅は手を上げて若者を見送った。
 冴えない用務員室に残されたのは、唇に火を灯された中年の男だけ。
 悔しさに手のつけられてない湯呑みを持ち上げてあおる。
「あちっ」
 緑茶の熱さは唇に残った肉感を、火傷と引き換えに消し去った。

 
 冬休み初日。
 夜遅く、バイト終わりに訪ねてきた和津沙は大層ニコニコと機嫌良く博雅のアパートに現れた。
「こんなおっさんの家に来ても面白いことないと思うがなぁ」
 言いながらもアパートに迎え入れる博雅も、頬が緩んでいる。
「そんなことないよ」
 古びた上がりかまちを跨ぐ和津沙の長い足。
 すらりとした容姿の、今時の若い青年にはそぐわない古臭いアパートは、かすかに床を軋ませて和津沙を受け入れた。
「飯食うか?」
「うん、食べたい」
 冷気をまとって帰宅した和津沙に、博雅は目をすがめて風呂場の方へ視線を流す。
「寒かっただろ? 風呂、先行ってくれば?」
「一緒に入る?」
「入らねえよ」
「なんだ、残念」
 冗談めかした言い方だったが、和津沙の目は寂しそうに伏せられている。
「また今度な。これからしばらくうちにいるんだろ? ほら早く入ってこい! 風邪引くぞ」
「はぁい」
 間延びした返事をして和津沙は直ぐに風呂場へ向かった。

 
「美味しいよマサさんのご飯。俺、ずっとこれ食べたい」
 風呂上がりの濡れ髪を艶めかせる和津沙は、古くて狭いアパートと、コタツの付いたちゃぶ台に乗った雑な夕飯と大変不釣り合いに見える。
 バラエティーのコントに呼ばれたアイドルみたいだ。と博雅はぼんやり思いながら、レンジで温めたカップ酒に口を付けた。
「口にあって良かった」
「うん、合う。俺、マサさんのご飯好き」
「……俺も。美味そうに食う和津沙を見ながら飲む酒は美味い」
「えっ!」
 機嫌よく笑う博雅の表情は柔らかく甘い。
 和津沙は胸のときめきと動揺を隠せず、そわそわとマグカップを持ち上げたり箸を持ち上げたりと挙動不審に堕ちいってしまった。
「珍しい……もしかして、マサさん酔ってる?」
「あ〜……ちょっと酔ってるかも……俺も、お前が来るの楽しみにしてたし……」
 いつもよりもだらりと間延びした博雅の声に、和津沙は口の端をニマニマと緩めてくすぐったい気持ちと一緒に夕飯を噛み締めた。

 
 和津沙がソワソワと食事を終わらせたのを見計らうように、博雅も自分の晩酌の片付けを始める。
 布団を二組敷いた部屋の灯りを落とした瞬間、どちらからともなく抱き合って、唇を寄せた。
「マサさんと、こうするの久しぶり……嬉しい」
「そうだな……俺も嬉しいよ」
 唇が柔く触れ合い、吐息が交じる。
 少し冷えた細い指が、博雅の身体をゆっくりとまさぐり、薄い唇が啄み、そして嬉しげに呟いた。
「今日から一緒にいられるんだよね……やば、顔にやける」
 柔らかく微笑む唇が、雨のように博雅に触れる。
 和津沙が唇のあわいから舌を伸ばすと、熱く濡れた舌が絡まる。
「ふ、ぁ♡……マサさん、好き♡……好き♡」
 和津沙の手のひらが、張りのある博雅の胸筋を揉み、尖った乳首を撫でる。
「……かづ、あ……」
 絡めあった舌の奥から響く甘くくぐもった声に、和津沙の腹の奥がざわめいた。
 吸い付く唇から一度離れて、無骨な顎に唇で触れると、博雅はくつくつと腹を震わせて笑った。
「くすぐってぇよ」
 揺れる大きな肉体が面白く、和津沙はぴったりと乗り掛りゆるむ唇に吸い付いて、手に余るたっぷりとした胸筋を揉みしだく。
「あっ! マサさん……えっち……♡」
 博雅の唇を吸い、柔らかい胸をもて遊ぶのに夢中になっている和津沙の下腹を撫でる博雅の手のひら。
 和津沙は、大胆な恋人の手ににんまりと笑み、ぴったりと腰を押し付けると、衣服越しに互いの隆起した肉が硬く擦れ合った。
「あっ♡、んっ♡……あ、マサさん、手、気持ちいぃ」
 うっとりと呟く和津沙の唇に、今度は博雅から口付けると吐息交じりの囁き声で、秘密を告白した。
「……和津沙が帰ってくる前に、風呂で準備してたから……もういける」
「えっ、マジで?」
 思わず聞き返した和津沙の顔は、驚きから淫らな喜びに変わっていく。
 好色な笑みになっても、和津沙の顔は美々しい。
 博雅はにやける和津沙の唇を吸い、細い首に腕を回す。
「ん……マジだから……早く」
 博雅の逞しい腕が、ぎゅっと縋り付く。その締め付けと、ぴったりと寄り添ったぬくもりに、和津沙の脳内は興奮と多幸感に支配されていく。
 和津沙はねだられるままに抱き締めかえし、明け渡された愛しい肉体を思う存分味わった。

 
 
 
  次の日の朝。
 和津沙は、肉の脂の焼ける良い匂いに起こされた。
 寝返りを打てば、台所に立つ博雅の後ろ姿が見える。
 昨日の甘い夜と、恋人の後ろ姿を見れる朝に、和津沙は頬を緩めて布団から這い出た。
「うぅ、寒……」
 布団の暖かさに後ろ髪引かれつつ、のっそりと歩いて博雅を背後から抱きしめて暖を取る。
「はぁ……あったか……」
「お。起きたか? 朝飯食うだろ?」
「うん、食べる」
 博雅の厚い肩に頭を預けてフライパンを覗き込むと、ベーコンがじわじわと焼けている。
 しみ出した脂の甘い匂いに、和津沙の腹が鳴った。
 博雅はその振動に忍び笑いを漏らしつつ「和津沙、今日バイトは?」と問う。
「今日はない」
「お! じゃあちょうど良いや。今日は大掃除するから、手伝ってくれ」
「いいよ」
「助かる! ありがとな」
 博雅の手が、ぐしゃぐしゃと和津沙の頭を撫でた。博雅のわずかに濡れた手はひんやりとしている。
「……うん。はぁ〜……冬休みのあいだ、ずっとこれかぁ……俺、ずっとここに居たい……」
 礼を言われた和津沙は、気恥ずかしげに笑い、しみじみと呟いて博雅の肩に顔を埋めた。

 
「狭い部屋ってのは、大掃除がすんなり終わるのが良い所だよなぁ」
 ふたりで力を合わせてようやく終わった大掃除。
 博雅は自室の狭さを自虐して笑っている。
「俺はあの部屋好きだよ」
 和津沙は博雅の隣で買い物カゴを持って笑って言った。
 時間は夕方を少し過ぎた頃。
 冬の空は既に暗く、煌々と明るいスーパーの中は夕方の買い物客で騒がしい。
「今日は疲れたし、なんか弁当とかで良いか?」
「うん。あ、俺惣菜の焼き鳥食べたい」
「お、いいな。じゃあ二人分買おう」
 混雑するスーパーを脱出すると、途端に師走の寒風が吹き抜けてふたりして「うわ寒っ」と短く悲鳴をあげた。
「うぅっ寒っ! 早く帰ろうぜ」
「うん」
「明日はおでんにするか。寒いし」
「いいね。おでん食べたい」
 人通りの多い道を通り過ぎて、アパートへ続く狭い路地に入ると、ぐっと道が暗くなる。
「あ、星……マサさん見て。星綺麗」
「ああ、本当だ。ここら辺くらいからよく見えるな」
 空を見上げる博雅を見つめて、和津沙は甘く微笑み、ピッタリと身体を寄せる。すらりとした長い腕が、博雅の太い腕に絡まった。
「どうした?」
 博雅が笑って夜空から和津沙へ視線を戻す。
「……ううん。なんか、こうして一緒に大掃除してスーパーとか行って夕飯の買い物とかしてると……結婚したみたいだなって……」
 前髪の隙間から、和津沙の幸せそうに笑う顔が、博雅を見つめていた。
 初々しく美しい笑顔に、博雅の心臓がきゅぅ、と歓喜に痛むと同時に、切ない気持ちになる。若い和津沙には、多分理解できないだろう感情は、博雅の視線を落とす。
 この後、そう遠くない未来で、和津沙の世界が広がっていけば、もしかしたらこの熱は冷めてしまうかもしれない――博雅は常に、そんな妄想に捉われている。
 それは違う。そんな事はない。と和津沙自身に否定されたとしても、この恐ろしい妄想は、博雅の心の中から完全に消える事はない。恐ろしいからこそ、考えて、覚悟をしておかないと、現実に起こってしまった時に、自分を見失ってしまいそうだった。
 しかし、どんなに悲観しても、今の和津沙の隣にいるのは博雅だ。和津沙を愛しく思う気持ちに偽りはない。物静かな和津沙から感じる真っ直ぐな愛情は嬉しい。
 結局博雅は、厄介な己の心中から目を逸らし、和津沙の若い夢物語を「はははっ! 何言ってんだよ」と笑いにかえてはぐらかすことにした。

 

  
 「今日クリスマスイブなんだなぁ。すっかり忘れてたよ」
 ニュース番組でやっていたクリスマスの話題を見て、博雅が呟いた。
 ちゃぶ台に頭を預け、コタツにあたりながら朝のニュースを寝ぼけ眼で見ていた和津沙は、博雅らしい言葉に苦笑する。
「ここ最近ずっとテレビで言ってたじゃん。クリスマスの話題」
「今まであんま意識して来なかったからなぁ」
 眉を下げて笑う博雅が、手元にあるコップを持ち上げて一口麦茶を飲み込んだ後、真剣な顔で問いかけてくる。
「……もしかして、なんか用意してたりするか?」
「秘密」
「うわ! それは用意してるやつだろ?! ……ああ〜……すまん。全然思いもよらなかった……」
 和津沙が冗談めかして答えると、博雅は額を押さえて唸ってしまった。
「いいよ。俺がしたくてしてるだけ」
「いや……そういう訳には……とりあえず今日、帰りにケーキでも買って帰る」
 しょんぼりと肩を落とす博雅の姿は、哀れだが何故か笑いを誘う。
 悲しそうにしているクマのようで和津沙は肩を震わせて笑った。

 
「じゃあ、夜はなるべく早く帰る。どっか行くなら鍵持ってけよ」
「うん、わかった。今日夕飯は俺が作るね」
 和津沙は出かける博雅を見送るために玄関に立つ。
「おう、ありがとな。楽しみだ」
「あんま期待しないで」
「火の始末だけ気をつけろよ。火傷とか、包丁もな。キッチンばさみ、置いてあるからそれ使え」
「どんだけ心配すんの。そこまで酷くないから」
 この日は、和津沙はバイトも休みで予定がなく、博雅は仕事だった。
 留守を預かる身として、鍵を受け取り、博雅の帰宅を待つというシチュエーションに和津沙の顔はゆるみっぱなしだった。
「じゃあ行ってくる」
「うん、行ってらっしゃい……あ、待って」
 ドアノブに手をかけ、出ようとする博雅を呼び止める和津沙。博雅は不思議そうに振り返る。
「どうした?」
「行ってきますのちゅー、してない」
 真剣な表情で博雅をじっ、と見つめた後、和津沙は両目を閉じた。
 博雅は、自宅だというのに視線を動かし周囲を確認した後、目を閉じた和津沙の顎を掴み、触れるだけのキスをする。
「……行ってくる」
「うん、行ってらっしゃい!」
 ぶっきらぼうに出ていく博雅と対照的に和津沙は実ににこやかに手を振っていた。



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