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ショタおじの記事 (9)

鶯命丹 2024/06/17 19:00

 ツノ舐め【全文10900字】

【お試し読み】ツノ舐め【全文10900字】



 夫婦♂になった鬼退治得意な桃瀬くんと鬼のおじさん鬼田さんが仲良く一緒にお風呂に入る話。
 攻めが受けのこと奥さん呼びしたりします。
 
 濁点喘ぎ・♡喘ぎ・いちゃらぶ・野外立ちバック・玉舐め・尻舐め
 



――――――――――――――――――


 夫婦となり、ともの暮らすようになって数日。
 桃瀬の視線が、隣で汁物をすする鬼田の髪をじっと見つめている。
 生えるままに自由に伸びてる蓬頭を見て桃瀬は「鬼田さん、髪を洗いましょうか」とぽつりと言った。
 すげなく断られるかと思っていたら、鬼田は椀から顔を上げて上機嫌に返答をくれた。
「おう、いいな。じゃあ風呂に行くか」
 思ってた以上の快い返答に、桃瀬は切れ長の目を見開いて鬼田を見返している。
「なんだよその顔」
「いえ、なんでも」
 静かに頭を振る桃瀬に、鬼田は一瞬眉根を寄せて訝しむが、すぐに飯をかきこんで昼餉を終えた。
「まぁいいや。とりあえず飯を食ったら早速行くぞ。早い方が良い」
「出かけるんですか?」
「ああ」
 桃瀬の想定としては、近くに掘った井戸から水を汲んできて沸かした湯で髪を洗うつもりだったが、鬼田はどうやら違うらしい。
「鬼田さんいつもどこで髪を洗ってるんですか?」
 慌てて昼餉をかきこみながら問いかける桃瀬に、鬼田はにやりと笑って立ち上がると、自分の食い終わった食器を土間へと運び、洗い桶につけて戻って来た。
「早く食え。先に行くぞ」
 ニヤニヤと意地悪を言う鬼田に、最後のひとくちを口に入れた桃瀬がバタバタと食器を洗い桶につけに行く。
 鬼田は、桶を出してくるとその中に洗って畳んでおいた着物とふんどし、手ぬぐいを入れ、立ち上がる。
「よし、行くか」
「どこへ行くんですか?」
 慌てて後を追う桃瀬に、鬼田はいたずらを企む子どものように含み笑いを浮かべるだけだった。

 


 棲み処から、少し山中を歩いたところに川がある。
 ごうごうと流れる川のしずくが風にあおられ、午後の明るい陽射しにきらきらと反射しながら大小数々の石が転がる川原に散っている。
「川で洗うんですか? まだ少し寒くありません?」
 首を傾げる桃瀬に向かって、鬼田はニヤリと笑うと「まぁ手伝えよ」と着ていた着物を脱ぎ、ふんどしに一丁となって川に入って行く。
 川原との境になる浅瀬に立ち、屈むと太い腕で川底を掘っていく鬼田。彼に続いて、桃瀬も着物を脱ぐ。
 川底を掘る鬼田の近くへ駆け寄ると同じように川底の石をどかして掘っていく。
 石を退かしていくたびに砂土が水中に、煙のように沸き上がり、川の水に流れていく。
 黙々と川底を掘る鬼田に合わせて、桃瀬も手を動かしていくと、もわっと水中に蜃気楼が立ち昇ったように見えた途端、手指に熱気が当たる。
「わっ、あつっ! えっ? お湯だ! これが目的だったんですね」
 突然の熱さに、驚いた桃瀬が顔を上げて鬼田を見ると彼はにっと顔を綻ばせて頷いた。
「やっと湯が出てきたな。熱いだろ。あとは俺がやるからお前は下がってろ」
「はい、ありがとうございます」
 皮膚の強い鬼は、沸く源泉の熱さを物ともせず、鬼田は川底を掘って行く。
 川原と川のはざまに出来ていく大きな窪み。
 土に濁ってた窪みの水は、鬼田の大きな手のひらが深く広く掘ることでこんこんと湧き出てる湯に押し流されて澄んで行った。
 窪みに溜まった熱い源泉の湯は、すぐ脇を流れる川との境目を曖昧に崩すと、冷たい川の水が流れ込んで来て、ちょうど良い温度に覚ましてくれる。
「そろそろ大丈夫か? おい、桃瀬。ちょっと湯を触ってみてくれ」
「すごい。あっという間に温泉が……」
 広く掘られた湯船に感心しながら桃瀬は、湯に手を入れる。
 川の水が常に流れ込み、触れる湯は滑らかでちょうど良い。
「大丈夫です。とてもいい湯加減ですよ」
「よし! じゃあ入るか」 
 顔を綻ばせ頷くと、鬼田は得意げに笑って早速ふんどしを解いた。
 ざぶざぶと湯を蹴立てて掘った湯船の中心に来ると、肩まで浸かる。
「あ〜……あったけぇ……ほら、お前も早く来い」
「……お邪魔します」
 呼ばれた桃瀬もふんどしを解き、恐る恐る湯へ足を浸ける。きちんと適温になっている湯の中に肩まで浸かるとじわぁ、と身体を包む多幸感に桃瀬もため息をついた。
「おわ〜……あったかいですねぇ……」
「そうだろ……」
「そっちに行ってもいいですか?」
「お~……」
 だらけた返事の鬼田に向かってぷかぷかと浮かびつつ近づいて行く桃瀬。
「あち! うわっこの辺、下が熱い!」
 温泉はどうやら鬼田の居る湯船の中心から湧いてくるらしい。
 足の裏をかばいつつ、桃瀬は湯船の中を跳ねながら川の水が流れ込んでくる方に逃げた。
「あれ、熱ぃか? もっと川の水が入るように掘れば良かったな」
 湯の中に後頭部さえ浸けてだらけていた鬼田が頭を上げて桃瀬を見た。
「いえ、お湯はちょうど良いんですけど、そこの辺だけ足元が熱くて」
「そっか、下から湧いてくるからなぁ。そんならここ座るか?」
 鬼田は桃瀬の方へ腕を伸ばし、腋の下に手を入れて抱き上げると自身のあぐらの上に乗せた。
「あ、ありがとうございます」
 鬼田の膝に乗せられた桃瀬は裸の肌が触れてしまわないように、なるべく小さく丸まった。
 真っ赤に染まった顔は湯の熱さだけではなく、潤んだ瞳は落ち着きなく彷徨う。
 それに比べて鬼田は、桃瀬を膝に乗せたまま湯船のふちに頭を預けてだらりと脱力している。
 無防備な鬼田の存在を裸の背中で感じた桃瀬はますます動揺した。
 桃瀬は鬼田をよこしまな目で見ているというのに、彼の方はまったくそんな事も考えつかないような素振りで、だらりと脱力している。
 純粋に温泉を楽しむ鬼田を邪魔するのは忍びない。桃瀬は腹の中にもやもやとくすぶる熱を理性で抑え付けて、鬼田の分厚い胸板に頭を預けた。この弾力を味わうくらいは許してもらいたい。
 張りのある分厚い肉に頭を擦り寄せると、ほかほかと温かい。
 目を閉じて鬼田の弾力と熱を堪能していると、川の流れる音や、木々の葉の擦れる音が意識にのぼってくる。
 閉じた目蓋越しに差す午後の柔らかい日差しに、涼しい風が熱った頬を冷ます感触に、桃瀬の気持ちも次第に落ち着いてきた。自然と深く息を吐く。
「……はぁ〜……気持ちいいですねぇ……」
「……お〜……」
 話しかけると、随分と間延びした返事が返って来た。

 

「ふぅ〜……すみません。熱くなってきたので先に出ます。ついでに鬼田さんの髪、洗ってあげますね」
「おぉ、助かる」
 桃瀬は持ってきた桶の中身を乾いた大きい岩の上に置くと、その桶に湯汲んで湯船の淵に預けた鬼田の頭にそっとかけた。
 湯をすくっては髪を濡らし、頭皮を温めるのを繰り返す。濡れ髪に持って来た櫛を何度も通して、湯で温まり柔らかくなった頭皮を指先で揉むと、鬼田は大きく長く息を吐いた。「……あぁ〜……極楽だぁ……」
「気持ちいいですか?」
「あぁ、いい心地だ……」
 ぐにゃりと脱力する鬼田を見下ろして、桃瀬は笑った。
 よく湯で洗って、櫛で丁寧に梳かしていくと、広がってボサボサとしていた鬼田の髪は真っ直ぐ流れるようにまとまってなめらかに櫛が通るようになる。
 乾いた手ぬぐいで水気を拭き取って「はい! 綺麗になりました」と桃瀬が満足げに言うと、鬼田は湯船のふちから頭を上げた。
「じゃあ次はお前だな」と桃瀬を振り返ってにやりと笑った鬼田。
「え、いや、私は……」
「いいからいいから。ほら、交代しろ」
 のっそりと湯から立ち上がると、桃瀬を抱き上げ湯船に下ろす。押し切られてしまった桃瀬はおずおずと湯船のふちに頭を預け、鬼田を見上げた。
「それでは、お願いします……あの! 優しくしてくださいね。頭の皮剥がさないで」
「そんなに乱暴じゃねぇよ」
 不安げに言う桃瀬に苦笑すると、鬼田はまとめていた少年の長い髪を解いて手櫛を通す。
 桶からすくった湯をかけて、頭皮を洗う鬼田の手つきは桃瀬が思っていた以上に丁寧で優しい。
「う、本当に優しいですね……」
「そうだろ。痛くねぇか?」
「痛くないです。気持ちいい……」
 太い鬼田の指が、慎重な手つきで髪をくしけずっていく。大切な壊れ物に触れるような丁寧な所作を感じて、桃瀬は頬を赤らめた。
「なんだ、お前顔真っ赤じゃないか。熱いか?」
「い、いえ! 大丈夫です」
「そうか? なるべく早く済ますから」
 丁寧に扱われることへの嬉しさと、気恥ずかしさに紅潮した桃瀬の顔を見た鬼田が心なしか手早く髪に櫛を通し、手拭いで髪を拭う。
 急いでいる手つきではあったが、髪が絡むことも、引っかかって頭皮に痛みが走ることもなく洗い終えた。
 桃瀬ははにかみつつ「髪を洗うの、お上手ですね」と話しかけた。
「そうか?」
「ええ。梳かされててちっとも痛くなかったです」
「痛くないなら良かったよ。おし、大体拭けたぞ」
「ありがとうございました。私は熱くなってしまったので出てますね」
「おう。俺はもう一度あったまってから出るわ」
 桃瀬は湯の中から上がり、交代するように湯の中に戻る鬼田のそば、湯船のフチに座って涼む。
 ほかほかと火照った身体に吹き抜ける川辺の風が涼しい。
「風が気持ちいいですね」
「ああ」
「なんだか贅沢ですね」
「そうだなぁ……酒持ってくれば良かったなぁ」
 桃瀬は、午後の明るい日差しの中で湯に浸かる贅沢に笑い、少し下にある鬼田の顔を見下ろす。
 鬼田の顔や肩口は赤らんでいた。
「鬼田さん。顔赤いですよ? 熱くないんですか?」
「そうか? そこまでじゃないぞ」
「真っ赤ですよ。こんなに赤いのにお酒なんか呑んだら身体に良くないですよ」
「人間じゃねえんだ、そんなヤワじゃねぇよ」
 鬼田は、湯船のフチに頭と腕をだらりと預けてくつくつと笑っている。
「本当に? だって角の根元の皮膚まで赤くなってますよ」
 鬼田の額、髪の生え際にある皮膚を突き破って生える角の根元は、顔と同じくらい赤く熟れたように色づいていた。
 赤くなった根元に指先で触れるとほかほかと火照っている。
「ああ、ほらやっぱり。ほかほかしてますよ」
「そうか?」
「ええ、こんなところも赤くなるんですね。でも角の部分は冷たい、かな?」
 桃瀬は角をよしよしと撫でた。鬼田はそれを意に介さず、じっと目を瞑ったままされるがままになっている。
「痛くない?」
「痛くねぇよ」
「感覚は、ある?」
 そう問うと、鬼田はちらりと瞼を開けて桃瀬を見た。薄くすがめた鬼田の瞳と、桃瀬の視線がかち合う。
 少し考えるように軽く頭が傾き、その後すぐに「根本のとこだけ。皮膚の境のとこだけちょっとある」と鬼田は言った。
「そうなんだ」
 呟くように返事をすると桃瀬は角を撫でていた手を下げて、額近くの、盛り上がった皮膚を指先で撫でた。
 硬いような、柔いような、不思議な感触に夢中になって桃瀬は指先でいじくり、擦り、指圧をし続ける。
 長く湯に浸かっていたせいか、ぼーっとしながら、桃瀬は指を動かして肉の盛り上がりに触れ続けている。すると低い笑い声が聞こえて来た。
「くすぐってぇよ」
 小さく頭を振って自分の手から逃げようとする鬼田がおかしく、桃瀬は手を伸ばして逃げる角を追った。
 桃瀬の指が鬼田の額に触れる。
「やめろって」
 顔を逸らして逃げる鬼田の表情は柔らかい。
 逸らされた顔を腕に抱きしめて桃瀬は角に唇を寄せた。
 ちゅっ、ちゅっ、と可愛らしい音を立てて、桃瀬は盛り上がった肉を吸い、舌先を伸ばして角と、めくれ上った皮膚とのさかいを舐めた。
「んっ、ふふ」
 くすぐったいのか、鬼田は首をすくめて小さく笑っている。
 甘い反応が返ってきた事が嬉しく、桃瀬はますます鬼田の頭をかき抱き、角に愛撫を繰り返した。
 角の先から口付けを落としていき、根本にまで降りてきたら舌でべろりと一周舐る。
「ふ、ふふ……んっ、何がそんな楽しいんだ」
「あなたの反応が可愛らしいから……あと、このめくれた皮膚が、私を受け入れてくれた時の尻の穴みたいで……♡」
 言い訳をしながらも、桃瀬の唇は角に吸い付いき、角と皮膚の間に舌先を挿しこみ、舐め回していた。
「ははっ見るもんすべてがすけべに見えて、そんでこんなに興奮してんのか?」
 鬼田はからかうと、自分の頭を抱え込み角を舐める桃瀬の細腰を抱き寄せた。
 桃瀬の下腹部には既に甘く勃ち始めている陰茎がある。鬼田はそこに、ふっ、と息を吹きかけ指先でくすぐるように裏筋を撫でた。



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鶯命丹 2024/05/18 12:24

桃○郎×鬼(全文16000字)

「お試し読み」



 節分の時に考えてたのに出来たのは今。
 物語はフィクションです。この世の現実のあらゆる事象とは関係ありません。
 
「注意」
 飲酒・飲酒からの性行為・攻めのフェラ・年下攻め・美形攻め・ガチムチ受け・おっさん受け・人間×人外・軽度の損傷
 

「あらすじ」
 山奥でひっそりと暮らす人畜無害の鬼、鬼田さんはある日はやとちりで鬼・怨霊特攻持ちの若武者、桃瀬くんに襲われ命からがら逃げ出す。
 誤解を謝罪して傷モノにしたお詫びに鬼田さんを娶る桃瀬くんの話


「登場人物」
攻め――桃瀬。人間・若武者・美しい

受け――鬼田。鬼・ガチムチ・おっさん

――――――――――――――――――――
 

 昔々、あるところに鬼がいました。
 鬼の名は鬼田。
 ザンバラ髪からのぞくツノに、恐ろしい牙。
 七、八尺は、あろうかという巨体は筋骨隆々。
 吊り上がったまなじりに鋭い三白眼。
 いかにも鬼と言った恐ろしげな容貌の鬼は、人里はなれた山奥で静かに暮らしています。
 里に降りる事もあるが山で採った山菜や育ち過ぎた木を伐採した薪木などと、里の米や野菜と交換するためであり里の者たちとの関係は良好でありました。
 しかし、そんな人畜無害の鬼のもとに、嵐のような出来事が起こるのでした。

 

「お前がこの山に棲みつく悪鬼であるか!」
「ん?」
 森にこだまする大声に鬼田が振り返ると、そこには若武者が立っていた。
 美しい武者であった。
 緑なす黒髪をひとつに結び、すらりとした体躯は若い牡鹿のように生命力に溢れている。
 少女にも見える顔立ちは険しく、柳眉をひそめて鬼田を睨んでいた。
 腰に差した刀を既に抜き放ち、切先を鬼田の方へ向けている武者に鬼田は応えた。
「鬼狩りかぁ? オレは鬼だが悪さはしとらんぞ」
「問答無用!」
 どっこいしょ……とのんびり立ち上がる鬼田に対し若武者は力強く踏み込み、刀を振りおろす。
「おっと! いやいや、ちょっとは話を聞けや!」
 紙一重で身体捻り刀を避ける鬼田に、若武者は二度三度と剣戟を繰り出した。
 渋面を浮かべる若武者のうら若き容貌とは裏腹に、その剣戟は熟達と言っても過言ではなかった。
 ――これは、当たったらタダじゃすまねぇな。
 鬼田は内心冷や汗をかきながら、空気を切り裂く音を立て振り回される切先を避け、少しずつ後退していった。
 鬼田の足さばきから、逃走する腹積もりを見切った若武者は、自らの懐から素早く何かを取り出して鬼へと投げつける。
「うがっ!」
 それは豆だった。
 思わず右腕をかざし顔を庇う。
 ただの変哲もない豆は信仰によって鬼の苦手な物とされ、鬼田も例外なく豆が苦手だ。
 当たるとやたら痛い。当たった後もじくじくと痛み、不快なあざが長く残ってしまう。
「いででっ! こらっやめろ!」
 叫んだと同時にシュッ、と風が切る音が鳴り、顔の前に翳した腕にひやりとした感触が走る。
「い゛っ! ぐあ゛」
 翳していた腕がごろりと落ちて、鬼田の視界が開ける。
 正面には刀を振り下ろしている若武者の姿があった。
 顔を庇った腕が、若武者の刀によって切り落とされたのだと理解したとともに、鬼田の全身が痛みと熱さに支配される。
「お゛、ぐぅっ……あ゛っ……ぎ、い゛っ」
 痛みに喉が潰れ、脂汗がどっと噴き出る。
 落ちた腕は草土の上を、ぼと、ぼとっ、と跳ねて転がり若武者の方へ行ってしまった。若武者の草履が、転がる鬼田の腕を踏み付ける。
 刀を振り、切先についた血を払う若武者は、冷酷な目を光らせて再び駆けた。
 ――まずい! ありゃ相当力のある退治屋だ。分が悪すぎる。逃げ切れるか?
 背中につたう冷や汗とともに思考し、ほんの一瞬、背後の気配を探る為に走る速度をわずかに落とした瞬間。
「逃すか」
「ぎゃっ」
 鋭い声が背後からかかる。
 温度の無い冷えた声に、鬼田の顔から、さぁ、と血の気が引く。
 反射的に地面に飛び込むように転がり逃げた後、シュッ! と空気を裂く鋭い音が鬼田の鼓膜を震わせた。
 ――まずいっまずいっまずいぞ!
 地面を転がる勢いで再び立ち上がり走り出す鬼田。
 すぐ後ろから、恐ろしい殺気が追って来ていた。
 純粋な脚力では鬼の鬼田に及ばないようだが、しかし、着々と向かって来る気配は乱れることがない。
「俺が何したってんだよっ」
 悪態をつきながら鬼田はひたすら地を蹴った。
 必死で山を駆けて、駆けて、そして鬼田は滝へと追い詰められていた。
「ああっ! くそっどうする……」
 下を覗けば大量の滝の水が、ごうごうと音を立てて落ちている。
 白い飛沫を上げる滝壺が遥か下に見えた。
 滝壺は深く、常に上から落ちて来る多量の水のせいで水流が下へ下へと流れているので、一度落ちるとなかなか浮かんで来れない。
 しかし、後ろからは若武者の気配が迫っている。
「イチかバチか……」
 渋面とともに低く呟くと、鬼田は滝に飛び込んだ。


 
「滝壺に落ちたか……いくら鬼とは言え、この高さの滝から落ちれば這い上がれずに死ぬだろう……よし。これで周辺の里の者も安心して暮らせるな」
 遠目から鬼田の動向を睨んでいた若武者は、辿り着いた滝の上から、滝壺を覗き込む。
 ドドド、と轟音を立てて落ちる滝の勢いは激しく、たとえ鬼といえども片手を無くし、血を失った状況で無事でいるとは思えない。
 若武者は刀を鞘に納めると来た道を戻っていった。
 
 
 鬼と遭遇した場所へ戻ると、若武者――桃瀬は、切り落とした鬼の腕を探した。
「あった、あった。これを首級の代わりに持ち帰るか」
 鬼の腕は血溜まりの中にあった。血を失っているはずなのにいまだ血色が良く、しめたての魚のようにぴく、ぴくと痙攣している。
 鬼の屈強な腕の肘から下を、封印の札だらけにすると立ち上がる。
「これで父上は私を跡目にしてくださるはずだ」
 桃瀬は切り落とした鬼の腕にほほ笑みながら、鬼の棲家である山を降りた。

 
 
 鬼の棲みついていた山を降り、一番近くの集落にたどり着いた桃瀬は、村の長のもとを訪れ、得意げに語った。
「三角山の奥に棲む悪鬼は無事にこの桃瀬が調伏致しましたゆえ、どうぞ皆様ご安心ください」
「……はぁ……? 悪鬼なぞ、三角山におりましたかな?」
 息巻く桃瀬とは対照的に、村長は呆けた顔で小首を傾げた。
「いましたよ。三角山の大きな滝の上流にある洞窟の付近に棲む身の丈が七、八尺はある大きな鬼が……」
「ああ、鬼田さん。この村とも馴染みですよ。鬼田さんが見繕って持って来てくれる木材は良い物でしてね。村で使っても、よそに売っても高値がついて助かってます」
「えっ?! 助かって、る?」
「ええ。助かってます。山菜がよく採れる所に子どもらを連れてってくれたり、狩った猪の肉を分けてくれたりね」
「えっ……」
「わしらも米や芋なんかを代わりに渡したりして、上手くやっとりますよ」
 村長はそう言って朗らかに笑った。表情に嘘は見えない。本当に真実を語っているのだろう。
 桃瀬は嫌な予感に冷や汗をかきながら問いかける。
「……ち、近くにある他の集落はどうです? 鬼に攫われた女子どもやら、家畜が喰われたりとか、されてるんじゃないですか?」
「他の村で? 鬼田さんが? ナイナイ! あんな気のいい鬼田さんが人攫いだなんだとする訳ないでしょう。三角山の周辺で鬼田さんの世話になってない村は無いですし……むしろうちの娘を是非嫁にって方々から親が殺到しますよ!」
 大口を開けて快活に笑う村長を見て、桃瀬の嫌な予感は的中した。


――― 中略 ―――

酒豪を誇る鬼だとて、大きな背負いカゴいっぱいの徳利を飲み干せば、前後不覚になる程に酔っ払ってしまう。
 ヘラヘラと笑いながら壁に寄りかかって目を閉じ、盃に入った酒を舐めている。
「鬼田さん、このお酒気に入りました?」
「おう! こりゃあいい酒ら! 毎日水代わりに呑みたいぐれぇら」
 鬼田は目尻を下げて呂律の回らない物言いをしてくすくすと身体を揺らして笑っている。
 その言葉に桃瀬は喜色満面に頷くと、鬼田の身体にもたれかかり、耳元で囁いた。
「そんなに気に入ってくれて嬉しいです。実はこのお酒、私と結婚したら毎日いっぱい飲めますよ?」
 大きな鬼の耳に、桃瀬の薄い唇が触れる。
 吐息交じりに囁かれた言葉に、鬼田はぐるりと首を巡らせて酒に蕩けた目でじっと桃瀬を見つめている。
 酔った頭は桃瀬の言葉を正しく理解できず、普段であれば怒り出していただろうに鬼田はにっかりと笑って言った。
「お~! そりゃあいいらぁするか〜結婚!」
「本当に? 本当に結婚してくれますか?」
「するぞ〜! してやるからもっと酒よこせぇ~」
「ああ、嬉しい……約束ですよ」
 蕩けた三白眼を覗き込む桃瀬の瞳は重い熱情がこもっている。
 細い手で徳利を持ち上げると、それにそのまま口を付けて中身をあおる。
 酒気混じりの息を吐く厚い唇に、桃瀬はそっと酒に濡れた唇を合わせた。
「ん、ふ……もっとくれぇ~さけぇ」
 鬼田は桃瀬の小さな顔を両手で包み、若く可憐な唇にちゅっちゅっ、と音を立てて吸い付いている。
 酒の味を求めて舌を伸ばし、桃瀬の口内へと侵入した鬼田の舌は、入念に小さな歯列を舐め、舌に舌を絡めていた。
「ん♡あっ♡はぁ……♡鬼田しゃ、ん♡夫になった私がたくさん呑ませてあげますね♡」
 桃瀬は鬼田の分厚い胸を押し、唇を離すと手に持った徳利をあおる。
 口内に馥郁たる香りが満ち、舌を刺激する酒の味を与えるために桃瀬は再び鬼田の唇に唇を合わせた。
 わずかに唇を開くと、ひんやりとした酒が互いの唇を冷やす。鬼田はそれが何かいち早く気付くと、乳飲子のように桃瀬の唇を吸った。
「んっふぅ……酒……酒もっろ……」
「んん♡んっ♡あぁ♡鬼田さんたら♡一気に飲みすぎでふよ♡」
 桃瀬は、自身の舌に絡まる鬼田の舌を吸いながら笑った。
 ちゅぷ♡、と音を立てて鬼田の舌を解放すると、酒をあおる。
「ぶ、はぁ♡……うめぇ、ん」
「んっ♡あっ♡おにらひゃ♡はぁ♡あっ♡吸うのつよ♡鬼田ひゃ♡んぅ♡」
 ふたりの口付けは、深く長く、既に周囲には空になった徳利がいくつも転がっている。
「んっふ……はぁ……ぁ♡」
「鬼田さん♡私たち、夫婦になったのだから、たくさんまぐわいましょうね♡」
 桃瀬の手が、鬼田の分厚い筋肉を撫でた。
「んッ♡、ふははっおい、やめろって! くすぐったいだろ」
「鬼田さんがむちむちしてて気持ちいいから触りたくなってしまうですよ♡」
 桃瀬は鬼田の頬に吸い付き、筋肉の詰まった胸を揉みしだく。
 鬼田はくすくすと笑い、屈強な肉体をくねらせて桃瀬の手から逃げようとする。
 不安定な体勢になったのを見逃さず、桃瀬は鬼田の身体へ乗り上げた。
「うお、おっと! あぁ〜……あぶね〜だろ?」
 鬼田はごろりと仰向けになり、くつくつと身体を揺らして笑っている。
「すみません。頭とか大丈夫でした?」
「こんなもん、なんともねぇよ〜」
 鬼田は酒精にぼんやりとした目を細めて桃瀬を見ると、大きな手で桃瀬の頭をワシワシと撫でた。
「……鬼田さん」
 桃瀬は鬼田の手の優しさに感極まって、組み敷いた男の唇に食いついた。
 酒の味のする舌を舐ると、ぞわぞわと身体中に快感が広がる。
「んぶ、んっ♡……ふ、ぅ♡」
 鬼田の喉から低く甘く唸る声が漏れ、それは桃瀬の情欲を大いに刺激した。
 ちゅうぅっ♡とひときわ強く舌を吸った後、桃瀬の唇は鬼田の屈強な顎を優しく啄み、猪首を吸い、分厚い胸板を食む。
「ん゛っ、ふはっ♡……くすぐってぇ」
 脂肪と隆々とした筋肉にまみれた鬼田の胸板は肉厚であり、はむはむと甘噛みする桃瀬の歯にずっしりとした噛み心地を与えてくれる。
 機嫌良く静かに笑う鬼田の手がくしゃくしゃと桃瀬の髪をかき混ぜる。大きく皮膚の硬い手のひらが、惜しげもなく頭を撫でるその仕草は、桃瀬の心に甘い悦びをもたらした。
「あぅ♡あっ……こら♡はははっ、待て。ぐ、ふふっ……んぁ♡」
「鬼田さん、くすぐったい?」
「んふふっ、ふはっ♡く、すぐってぇよ……お♡、ふははっあ♡やめろってぇ♡」
 酒精に酔った鬼田の筋骨隆々とした肉体は、赤みを増している。盛り上がった筋肉の谷間まで赤く、桃瀬がそれを面白がってなぞると、屈強な肉体が滑稽にくねった。
「ああ……鬼田さん、かわいらしいですね♡」
 だらしない笑みを浮かべる鬼田を見下ろす桃瀬は、身の内から湧き上がる衝動に任せて、筋肉に覆われて尖る乳首へむしゃぶりついた。
「ん゛っ♡……ふ、くく、やめろ桃瀬。んっ♡……ふふふっ」
 鬼田は忍び笑いに熱った肉体を震わせている。
 低く喉から漏れる笑い声に甘さが滲んでいた。
 桃瀬は小さな舌で鬼田の肉体を味わい、硬く尖る乳首を舐め、甘く歯を立て扱く。
「うぐ♡くふ♡乳首、くすぐったいって♡あッ♡吸うなよぉ♡」
 夢中で乳首を吸う桃瀬の髪を、鬼田の手がくしゃりと握った。乳首から引き剥がそうとしているふりをして、胸に押し付けるようにする不埒な手の動きに、桃瀬はにんまりと目を細め、更に強く乳首を吸い、尖ったそこを舐めしゃぶった。
「あっ♡おいっ! ちんぽ触んなっあ♡あうっ♡ちんぽと乳首やめろってぇ♡ん゛ん゛っ♡」
「あ♡鬼田さんてば、おちんちんガチガチに勃起してますね♡ふんどし濡れてますよ♡」
 桃瀬は、乳首を吸いながら鬼田の肉体をまさぐる。ふんどしを押し上げ勃起している巨根をよしよし♡と撫でた。
「お゛ッ♡ちんぽ♡ちんぽやめ、お♡も、おっ♡お゛ん♡」
 酔いと快感が鬼田を乱れさせる。乳首を吸われ、勃起肉を撫でられた鬼田は淫猥に腰を揺らし、桃瀬の手に濡れた亀頭を擦り付けていた。
「わあ♡鬼田さんのおちんちんおっきい♡」
 桃瀬はふんどしから鬼田の勃起肉を解放する。巨躯に見合った巨根が、天をつくようにそびえ勃っている。
「鬼田さんはおちんちんまでかっこいいですね♡先走り汁もトロトロ垂れて……♡ぬるぬるでとてもいやらしいです♡」
「んっ♡ふ、ぅ♡ちんぽいい♡お♡おッ♡いいッ♡いいぞッ♡お゛っ♡ぉお゛っ♡もっと扱いてくれ♡」
 桃瀬は乳首を吸いつつ、先走り汁を垂らして勃起する鬼田の肉棒を握りしめ扱く。
 くちゅっ、ぐちゅ、ぬちゅっ
 じっとりと濡れていた肉棒は、手淫に合わせて淫らな水音を立てる。貪欲に快感を求め桃瀬の手淫に合わせて鬼田の腰がヘコ♡ヘコ♡と揺れた。
「ん゛ぉ♡お゛っ♡ちんぽいい♡ふぅ♡うッ♡うぅ♡」
「鬼田さんおちんちん気持ちいいですか? もっと気持ちよくなりたくない?」
 桃瀬は吸い付いていた乳首から口を離し、更なる快楽に鬼田を誘い出す。
 ぐちゅ、ぬちゅっ、と続く手淫は鬼田から正常な判断力を奪い、一方で快感を与え続けていた。



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鶯命丹 2024/04/26 21:00

元奴○ショタDom×武人おっさんSub【全文12200文字】

【試し読み】 

 続き物

 元奴○ショタDom×武人おっさんSub【全文12200文字】

 前回上げたDomSubユニバースもの
 元奴○のショタDom攻め×武人おっさんSub受け
 DomSubの名称を変えてたりするので、そういうややこしくて厨二っぽいのが苦手な方はご注意ください。
 
 【あらすじ】
 元奴○で身寄りのない少年マリ(Domのショタ)は、貴族のアノンデア(Subのおっさん)に養子として引き取られることになる。
 前回少ししかUPしてなかったものの続きです。
 元奴○少年は養子に、武人のおっさんは養父になりました。
 義理でも近sin相kanがあるのでご注意ください
 
【あるもの】
 ショタ攻め・エロ・尻舐め・攻めによる手コキ・首輪をあげる・受けのストリップ・連続絶頂
 

――――――――――――――――――――――――
 
 夢の中から呼び起こされて目を開けると、窓の向こうはすっかり夕暮れの色になり始めていた。
 よく寝てましたね。と微笑むオーサ。
 マリは、うん……と寝ぼけた声で返事をしながら枕に顔を擦りつける。
「お父様ももう帰られてますよ」
「お父様って……首長様のことですか?」
 枕に頭をつけたままオーサへ問うと、彼女はころころと笑って「そうですよ。首長様だなんて呼ばないで、お父様と呼んで差し上げましょうね」と優しく諭す。
 ――親子と言っても俺らは利害が一致して一緒にいるだけだけどな。まぁ表面上はお父様で間違いないか。
 マリはひとり納得して、枕から顔を上げるとオーサへ微笑み、頷いた。

 
 夕食にもたくさんの料理がテーブルに並び、マリはそれを少年らしい勢いで料理を平らげた。
 アノンデアも、使用人も、それを目を細めて眺めている。
 穏やかな食事風景だった。

 
 マリが食事に満足し食後の茶を飲んでいると、既に食事を済ませていたアノンデアが席を立つ。
「私は執務室へ戻る」
 アノンデアは使用人の長であろう年かさの男に告げ、食堂の扉へと歩いていく。
「待って!」
 マリはテーブルを立ち、アノンデアの元へ速足で寄っていく。
 マリの動きをじっと見つめるアノンデアの金の瞳には、疑問がありありと浮かんでいた。
 マリは大柄な養父を見上げ、にっ、笑うと自身の服のポケットに手を入れて、握りしめた拳を差し出した。
「これ、渡そうと思って」
 それは、色とりどりの紐を組み上げて作った飾り紐であった。
「これ、俺が編んだやつです。故郷の村で作ってた飾り紐で、作物が育たない冬に編むんだけど……俺、これ得意だから、お父様になる首長様にあげたくて」
 差し出したマリの手元を覗き込んだアノンデアはそっと、飾り紐を摘まみ、まじまじと見つめる。そして、目元を僅かにほころばせて「ああ、ありがとう」と低く呟いた。
 唸るような声音だが、弛む表情で喜んでいるのがわかる。
 マリは再び手を出すとアノンデアの手から飾り紐をそっと取り上げて弧を描く赤い唇を開いた。
「じゃあ……“座って”お父様。俺がつけてあげます」
 マリの言葉に、目を見開いたアノンデアは崩れるように床に膝を着く。
 辛うじて、床に尻もちをつくようなだらしない座り方はせずに済んでいたが、アノンデアは驚きに目を白黒させてマリを見ていた。
 巨漢のアノンデアは、跪いてもまだマリより高い。
 マリは背伸びをして腕を伸ばし、アノンデアの太い首元へ飾り紐をかけると、するすると手早く飾り紐を結った。
「うん。よし、できた」
 太く逞しいアノンデアの首に、丁寧に編まれた飾り紐を結ぶとマリは笑った。
 給仕のために隅に控える使用人たちには、養父と養子の心温まる交流に見えているだろう。
 しかし笑みの形に細めたマリの瞳を正面から見つめているアノンデアにだけ、少年の瞳の奥に光る嗜虐性を見た。
 そしてマリもまた、人前で"戯れる”羞恥と、主人に首輪をかけてもらう快感に戸惑い、密かに身悶えているアノンデアを正面から見つめている。
 アノンデアはきつく奥歯を噛み締めて、とろりと蕩けただらしない顔にならぬように努めているようだった。
 自分のしもべに首輪をつける喜悦に、マリの心臓が早鐘を打つ。腹の奥から燃えるような熱が全身に駆け巡り、ぞわぞわと肌が粟立つ。
 きっとこの抗い難い甘い悦びを、目の前の男も得ているのだと思うと、マリは腹を抱えて笑い転げたい気分になった。
 身の内から滲み出る悦びにマリの表情が綻ぶと、アノンデアに結んだ飾り紐が動いた。間近に覗き込む金の一つ目は揺れている。噛み締めた唇がわなわなと震え、熱い息が漏れた瞬間、アノンデアは素早く立ち上がった。
「マリを部屋に案内してやってくれ。私は仕事に戻る」
 アノンデアの声が小さく聞こえたのは、顔の距離が離れたからだけではないだろう。
 さっさと食堂を出て行った男の足取りに妙なところはない、ように見える。
 食堂を出て行く広い背中を見送りながら、マリは頬を弛ませていた。
 
 
 夕食後、アノンデアは執務室で書類を睨み付けていた。
 書かれる文字を目で追うも、内容が頭に入ってこない。
「……ふぅ……」
 息を吐き、椅子の背もたれに身体を預けたとき、首元にかすかな圧迫感を得てアノンデアは首すじに手を当てる。
 そこには先ほどマリに贈られた飾り紐が付いていた。
 指先に触れる滑らかな組紐の感触は、アノンデアの背すじにぞわりと甘い痺れを走らせる。
 
 飾り紐と首の隙間に指を入れた瞬間、コツコツと扉を叩く音が響く。
「誰だ」
「俺です、マリです」
 返ってきた声に、アノンデアの肩がわずかに跳ねる。
 無意識に、ごくりと唾を飲み込むと「入れ」とだけ応じた。
 重厚な扉を開き、入室してきた華奢な身体。
 その姿を視界にとらえた瞬間、アノンデアの顔にカッと熱が昇る。
 思わず机の上に視線を落として書類を睨むアノンデアの耳に残る、ゆっくりと絨毯を踏み締める軽い足音。
 耳と気配に神経が集中してしまうのに、視線をマリへ向ける事はできなかった。
 

 
「ここがお父様のお仕事部屋ですか?」
 問いかけるマリ。視線の先には書類に向かうアノンデアがいた。
 マリの方を見向きもしないその態度は、不機嫌で無愛想な武人そのものであり、アノンデアの部下であれば恐れ縮み上がっただろう。
 しかし、マリはそんな顰めっ面のアノンデアに構うことなく無遠慮に近づき、ひょい、と彼の使う大きな机に乗り上がって腰掛けた。
「……そんなところに座るな」
 机に座ってにんまりと笑うマリに、アノンデアは口の端をぐっと下げて不機嫌な顔をする。
 だが、マリは執務室の机に座ったまま。更には机の上に完全に乗り上がって、膝で這ってアノンデアへ近づいていく。
「……おい」
 野太い声で静かに叱るアノンデアだが、マリはそれに構わず、アノンデアの目の前に来ると、再び机に腰掛ける。
 机からぶらりと投げ出されたマリの足はアノンデアの腿の上に、踏みつけるように置いた。
 鍛え上げ肥大化した筋肉の厚みと、むっちりとついた脂肪の軟さを楽しむために、マリは靴底をぐにぐにと動かす。
「……マリ、降りなさい」
 アノンデアの言葉には、先程まであった鋭さも厳しさもない。マリの視線を間近にして、眉間に険しい皺を刻んでいながらも、居心地が悪そうに瞳を彷徨わせている。
 義眼だけが、正面のマリを見つめていた。
 マリはアノンデアの注意を無視して、彼の太い首に巻き付く飾り紐に指を当てて「これ、嬉しい?」と問いかけた。
 問われたアノンデアはためらいがちに「嬉しい……だが、ああいうのはもう、止めてほしい」と懇願する。
「ああいうのって?」
「あ、あの時は、周りに人が、たくさんいて……そういう、人の前で“戯れる”のは、良くない……だから、今後はそういう事は、しないで欲しい」
「ええ? 人前でやるのが楽しいんじゃねぇの? 興奮しなかった?」
「それは……」
 アノンデアは苦虫を噛み潰したような渋面で、訥々と語っていたが、マリの新たな問いにかすかに肩を跳ね上げた。
 言いづらそうに唇を噛み、大きな手でしきりに顔を撫でている。
「“言って”アノンデアは興奮した?」
 命じるマリの言葉は、アノンデアにとって卑しい内心を暴露させる残酷なものだった。
 唇の端を上げ、意地悪く笑むマリの顔は美しい。
 美しい笑顔で、涼やかな声で、残酷な命令で、マリはアノンデアを支配した。
「こ、興奮した……主人が……マリが私の為に首輪をかけてくれて……嬉しかった……心臓が痛いほど速くなって、喜びに……叫び出したい気持ちだった」
 アノンデアは、耳まで真っ赤に染めて、心の内を告白する。
 屈強な顎を食い締め、金の目にうっすらと涙を浮かべているアノンデアの姿は、マリの笑みを一層深くする。
「そっか……俺も。俺のしもべに首輪をかけたのすっげぇ興奮したよ」
 マリが微笑むとアノンデアは嬉しそうに口元をわずかに綻ばせた。
 マリは赤く染まった猪首にかかる首輪に、細い人差し指をかけて軽く引く。
「ね。“キスして”」
 黒い瞳が、じっとアノンデアを見つめ、そしてつぅと視線を下げた。
 アノンデアは、主人の命令にこくりと深く頷くと、自身の太腿を踏み付けているマリの脚にそっと触れ、恭しく持つと、身体をかがめて少年の靴へ口付けをした。
「ふ……はぁ……マリ」
 アノンデアはうっとりと、熱い息を漏らしながらマリの靴の爪先へ額を摩り寄せている。
 マリはそんなアノンデアをにやにやと見ながら、自由な方の脚を伸ばして、彼の股間を踏みつけた。
「あ゛っ、ぐ……ぁ、マリ゛ッ……」
「はは、なんだよ。もうガッチガチじゃねえか」
 鼻で笑いつつ、マリは固く勃起したアノンデアの陰茎をぐにぐにと踏みつける。
「う、あ゛っ……マリ……はぁ、あ……ふ、ぅぅ」
「はははっ! ねぇアノンデア、このバキバキのやつ、"見せてよ”」
 マリの命令に、アノンデアはおとなしく椅子から立ち上がり、震える指でもたもたとズボンを下ろす。
 下着から解放された勃起肉は太く逞しく天を衝いている。
 アノンデアの裸の下半身。両の太腿は筋肉に覆われて太く、筋肉の溝も深い。屈強な下半身の中心にある勃起する巨根を見て、マリは下品な口笛を吹いた。
「すっげぇ巨根。こんなでっかいの初めて見たわ」
「は、ぅっ! ん……う、ふぅ……」
 足先でぺちぺちと陰茎を叩かれ、陰嚢を突かれる。
 からかわれるアノンデアは、真っ赤な顔でじっと辱めに耐えていた。
「”全部脱いで”」
 マリの言葉にアノンデアは唇を噛む。潤んだ目でマリをちらちらと見ながら、おずおず、もたもた、と服を脱いでいく。
 男らしい容姿とは裏腹に、生娘のように恥じらうアノンデアの姿はマリを大いに満足させた。
 躊躇いがちに脱いでいく仕草は、マリを楽しませるだけであるのに、アノンデアはそれに気づかない。
 震える指で衣服をすべて脱ぎ去り、裸になったアノンデアは羞恥に顰めた顔を真っ赤に染めて、執務室の机の前に立ちつくしている。
 武骨な髪は衣服を脱いだ事でわずかに乱れ、裸の肌には無数の傷がある。傷のいくつかは紅潮しており艶めかしい。
 山のような肩に力こぶの盛り上がる腕、巨大に隆起する胸、丸太のような屈強な太もも。
 その肉体は、何よりも雄々しく、猛々しい。
「すっげ……神殿の武神像みたいだ」
 マリはうっとりと呟き、目の前の裸体に手を伸ばして、傷の多い男の肌をつぅ、と撫でた。
「んっ、ぅ……」
 アノンデアは、マリの手にびくっびくっと身体を痙攣のように震わせている。
 主人の手に翻弄されるしもべは、恨みがましくマリを睨む。しかしその瞳は甘く蕩けており、恐ろしさなどみじんもない。
「顔、真っ赤。ほら“おいで”」
 呼ばれた瞬間、アノンデアは屈強な身体をびくっと跳ねさせ、よろよろと頼りない足取りで、机に座るマリの足元に跪いた。
 マリの細い指先が、自身が贈った飾り紐越しにアノンデアの首筋をぐるりとなぞると、盛り上がった喉仏が上下する。
「ははは、うっとりした顔してる。“いい子”……首輪嬉しい?」
「……うれしい……」
 アノンデアの唇から、熱い息が漏れる。
「そっか、そっか。喜んでくれて俺も嬉しいよ」
 マリの手がアノンデアの顎をぐりぐりと撫でまわしながら彼の傷付いた瞼に、頬に、唇に口付ける。
「え、あっ……マリ、ふ、ぅ……マリ、待てっ! う、ゔっ」
 アノンデアの男らしい肉厚の唇を食み、舐める。
 マリの手のひらは、アノンデアの屈強な顎を優しく撫でたまま。
「ん、ふっ……う、んっ♡」
 きゅっと唇を引き結んでいるアノンデアだが、顎を撫でられ、唇を啄まれると頑強に鍛えられたはずの腰からよろよろと力が抜けた。 
「ほら、アノンデア“口開けて”。あー、は?」
 唇を親指で撫でられ、アノンデアは震えながら薄く口を開ける。
「は、あ……」
 命令に従順に開かれた唇を食み、吸って、口内に舌を挿し入れる。
「んっ♡んぅ♡あ゛、あ゛っ♡マリ、んっ♡」
 柔い粘膜を舌先で撫でるとアノンデアの身体が跳ねた。それが愉快でマリは更に舌を奥へと伸ばし、アノンデアの舌をつつく。
 ぬちゅ♡、くちゅ♡
 甘く淫らな音を立て、舌が絡まる。
「ふ、ぁ゛ッ♡あ、はぁ♡あ♡うぅ♡」
 ぢゅる゛♡と、アノンデアの分厚い舌を啜ると、男の大きな手が、マリの手首を掴む。
「あ゛♡マリ……♡はぁ♡は♡うぅ♡」
 力は籠ってない。震える弱々しい力で、ほっそりとしたマリの手首を掴んだまま動かない。


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鶯命丹 2024/03/27 01:14

 ショタ貴族Dom×獣人おっさん奴○Sub【全文22000文字】

【試し読み】 全文は支援者様限定




 ショタ貴族Dom×獣人おっさん奴○Sub【全文22000文字】
 
【あらすじ】
 DomSubユニバースもの
 DomSubユニバースものですが、理解には独自解釈が含まれます。正しいDomSubユニバースものではない可能性が高いので、そのあたりが気になる方は閲覧をお控えください。
 ファンタジー世界 

 思春期ごろにDomになった貴族のお坊ちゃまが「Subのパートナー探しに行こ」ってお父様に連れられて奴○市場に来て、奴○のミノタウロス系獣人おっさんSubを買ってパートナーにする話。クレーム?制度※すみません名前違うかも(パートナーのいないSubへの複数Domのパートナー立候補システム・DomがSubの中に体液を残すとパートナー成立的なシステム)を採用してます。
 受けのガチムチ獣人おっさんが暴力や性被害を受けていることをにおわせる描写があります。
 獣人はパーンとかケンタウロス系の半人半獣的な見た目をイメージしております。(バイソン系毛むくじゃら牛獣人)
 ガチムチおっさんをかわいいと思う人間が書いたショタDomによる、おっさんSubかわいいかわいいよしよしプレイエロ小説です。
 
【登場人物】
 攻め・Dom ラオ・ククーム・アルバトフ  ショタのお貴族様・上品で穏やか・生き物好き
 受け・Sub  ティミー          牛系獣人の奴○・巨体のガチムチおっさん・毛むくじゃら・人間の言葉苦手・人間怖い
 
 
【あるモノ】
 ショタ攻め×ガチムチおっさん受け、ハート喘ぎ、濁点喘ぎ、DomSubユニバースもの【コマンド的なプレイ、攻めの受け以外へのグレア的な表現、クレーム制度(受けを奪い合い、体内に体液を残す的な)】攻めのリード、甘々、イチャイチャ、体毛、

【ないモノ】
 英語とかできないので英単語のコマンドは無い。(GoodboyとかComeとか)日本語対応のみ。
 
 以前上げたDomSubユニバースもののプロトタイプ。
 こっちが先に考えてた設定だったけどあまりに書きづらくて変えた方が先に出来上がったから上げたのに、今度はそっちが書けなくてこっちをちまちま進めてたらこっちが書きあがってたので上げます。
 

 
 
 ――――――――――――――――――――――――
 
 「最近……なんだか体調が悪いんだ」
 ラオは色白の顔を、病的に白くしてぐったりとソファーに身体を横たえる。
「大丈夫ですか? 医者を呼びましょう」
 専属のメイドが顔を曇らせ急いで部下に指示をすると、アルバトフ家は次期当主のために急いで医者を手配した。

 とある国のとある場所、とあるところにある、なかなかやんごとなき身分の家、アルバトフ家の長子ラオ・ククーム・アルバトフが体調不良を訴えた。
「ここ数日、なんだか身体が常に重だるくて気持ちが悪いの。今日は特に、頭痛や眩暈が酷くて……ちょっと起きてられそうにないんだ」
 そう医者に告げるラオの、普段ならキメの整ったバラ色の頬は血の気がなく、可愛らしい丸い目の下には、くっきりと黒いクマが出来ていた。
 医者はラオの身体をくまなく診察し、試験管の中にラオの口内から取った細胞を付けてくるくると回すと、色が変わるのを見届けて重い溜息を吐いた。
「ラオ様。診断結果が出ました。どうやら御身はDom性であるとの結果が出ております。体調不良はそのせいでしょう」
「Dom性? それって、支配する者と言われているDom性のこと? 僕がまさか……」
「そうです。支配する者、Domの特性があると出ております。支配する者はそれが満たされないと今のラオ様のような体調不良を引き起こします。その代わりSubとのプレイを行えば、すぐに回復するでしょう」
「本当ですか? そんなバカな……こんな酷い症状、プレイしたところで良くなるとは思えない……」
 ラオは眉を下げ不信感を露わにする。
 それに対して言葉を返したのは医者ではなく、背後に控えていたラオの専属のメイドだった。
「ラオ様。モノは試しです。この屋敷に勤めている使用人の中に支配される者、Sub性の者がおりましたのでどうぞお試しください」
 メイドがそう言って背後に視線を流すと、ひとりのメイドが歩み出てきた。
「……はぁ……よろしく」
 身体を起こすのも億劫な様子で、ラオはソファーから身体を起こすとSubと紹介されたメイドへと向き直った。

 
 そうして医師の指導と、メイドの協力を得てプレイをすると、ラオを苦しめていたさまざまな身体の不調が、嘘のように消えていった。
「本当だった……確かに、さっきまで止まなかった頭痛と眩暈がすっかりなくなった」
 ラオの表情は明るい。
 先ほどまで土気色とまで言えそうなほど酷い顔色だったのが、すっかり血色が戻っている。
 クマが酷く、落ち窪んで見えた目さえ本来のきらめきを取り戻していた。
「これがDom性とSub性の特性でございます。ラオ様には今後早くにSubのパートナーを作って頂くのが得策ですな」
「パートナーですか?」
「DomとSubの性を持った者は互いに支配するものとされるものでプレイをしないと体調に異常を来します。それを防ぐ薬もあるのですが、薬の効きが悪い体質の方もおりますし、抑制するだけで特性を無くすわけではないので根本的な解決にはなりません」
「不調を断つにはSubのパートナーを作り、定期的にプレイをしないといけない。ということですね」
 ラオの言葉に医者は大きく頷いた。
「この国ではDomの特性は貴族の方々に、Subの特性を持つ者は奴○などの身分に多いという傾向があります。近いうちに奴○商をお呼びになると良いでしょう」
 医者はそう言うと、幾日か分の抑制剤を処方して帰って行った。

 
 Dom/Sub性は思春期頃に現れると言われている第二の性だ。ラオは思春期というには少し早い年頃ではあるが、そこまで不自然ではない。
 DomかSubの性質を持った者は他の人間にはない不思議な体質を手に入れることになる。
 Dom性とSub性は、それぞれ支配したりされたりすることで心身の平穏を保てるようになる。
 それをしないと、個人差はあるが、体調不良や神経衰弱など不都合が出てくるのだ。
「はぁ……面倒な事になったなぁ……」
 ラオはため息を吐く。
 Domに目覚めたその日から、それはラオの日常に強く働きかけてきた。
 少しプレイをしない時間が続くとそれはもう驚くほど体調が悪くなって仕方ない。
 はじめのうちは屋敷の中で働く使用人を呼び止め、少しプレイをしてもらっていたが、一度プレイをするとラオが満足するまで時間もかかるし、彼らは日常の業務がある。
「坊ちゃんのお言い付けに逆らうつもりは毛頭ないがこうも使用人を骨抜きにするのは困る」と家政婦から苦情が来たことを受け、家長であるラオの父は決断した。
「ラオ専用のSubを探しに行こうか」
 父が穏やかな笑顔で声をかけてきた時、ラオはズキズキと痛むこめかみを押さえながら、クッションから顔を上げた。
「僕専用のSub……パートナーですか?……いつ?」
 父の方を見て少し眉根を寄せると、彼はにっこりと満面の笑みで「今からだよ!」と宣った。
 

 
  晩餐会の形で開催された奴○市を取り仕切っているのはその地方の豪商だった。
 豪商は、財力を持って貴族社会へと入り込んだ成金である。
 財を得た成金が、己の財力を誇示するために建てた豪奢な屋敷は、日が沈みかけた橙色と夜の藍色が混じった空を背景にしてなお豪華絢爛さを主張しており、屋敷の正面に立ったラオは一瞬息を呑んだ。
 案内された会場はとても室内とは思えない広さであった。
 本当に市場のように広間のそこかしこで奴○商人たちの取り繕った上品な呼び込みが聞こえてくる。
「すごいですね……」
「そうだろう! ここならラオも気に入るSubが手に入るはずさ。さぁ好きに見ておいで」
 父親はラオを送り出し、自分は豪華なソファーに優雅に腰掛けた。
「わかりました。少し見てきます」
 ラオは護衛を兼ねた使用人をひとり連れて、市場の中を散策する事にした。

「お父様ったら強引なんだから……」
 ひとりになったラオは、眉根を寄せて大きなため息を吐く。
 ラオの暮らす国では、奴○という制度を認めているが、ラオはその制度を嫌っていた。
 鎖に繋がれ檻に閉じ込められた獣、人間、獣人、魔族……彼らを見るだけで心が痛む。
 ――本当はこんなところでパートナーを探すなんて、したくないんだけど……
 ラオがしかめた顔で市場を見渡していたその時、少し先からワッ! と歓声が上がった。
「なんだろう?」
 盛り上がる人だかりに近寄ってみると大柄の獣人が膝をついて振り下ろされる鞭に耐えてるところだった。
 ――ミノタウロス族……かな? 可哀想に……ヒトよりも大きな身体をあんなに丸めて……
 ラオは渋面で耐える奴○の姿を見つめる。うずくまる姿は赤土でできたの大岩のようだった。
 奴○商人らしい男は、にこにこと胡散臭い笑顔を貼り付けて「コレは魔法耐性も強いので多少の魔法でしたらモノともしません」と言っている。
 その言葉に鞭を振るっていた金の髪の酷薄そうな男は、釣り上がった目を意地悪く細めて「本当だろうな奴○商」とわざとらしく疑わしそうな声を上げた
「本当ですとも! 是非お試しください」
 揉手で答える奴○商人の言葉を待っていただろう男は、片手をうずくまる獣人に向けて差し出す。そこに恐ろしいほどの火柱が上がった。
 獣人は大きな火に飲まれるも呻き声ひとつ上げず、じっとうずくまったままだった。ぷすぷすと毛の焦げた痕と、皮膚が少し赤黒くなっただけでぴくりともしない。
 ラオをはじめ、動向を見守ってたギャラリーが悲鳴とも歓声ともつかない声を上げる。
「おお! 奴○商、貴様の言ったことは本当のようだ」
 金髪の男が満足そうに口の端を上げて笑っている。
「いやぁ見事な火柱だ! ネレリー様の魔法に耐えられてホッと致しましたよぉ」
 奴○商人は苦笑を浮かべ男に媚びていた。
 二人のやり取りを聞いているのか不明だが、うずくまる獣人は少し赤黒く焦げた背を小さく上下させていた。
「それではこちらお買い上げでよろしいでしょうか? 誓約の儀はお部屋を用意してあります……」
「それには及ばないさ。ここでしよう」
 部屋へ案内するために使用人を呼ぼうと手を上げる奴○商を遮る男。その言葉に周囲がどよめいた。
 下世話な笑い声を上げて囃し立てるギャラリーに、ラオはゾッと怖気に肌を粟立たせる。
 誓約の儀はDomがSubの所有権を主張する儀式だ。
 有り体に言えば性行為を行い、Domの精液をSubの体内に残せば成立する。それを「ここで」と言うことは、あのうずくまり暴力に耐える巨躯の獣人はこの後、大衆の面前で犯され、嘲笑されるのだと想像に難くない。
 それを理解した時には、既にラオはギャラリーの輪から一歩進み出て奴○商の前に立っていた。
「僕もこの子を貰い受けたいのですが」
 そう言ってなるべく優雅に見えるように微笑む。
「小僧! 貴様、この私がネレリー家と知って邪魔する気か?」
 金髪の男がしかめっ面でラオを睨む。
 ラオはそれを無視して、手にしていたステッキを胸の高さまであげて指先でいじくり、ためつすがめつ眺めて見せた。
 男が不愉快そうに眉根を更に寄せ、ラオを怒鳴りつけようと大きく息を吸った瞬間、奴○商がラオの方は向き直り、より一層腰を折って応えた。
「ええ、ええ、まだ決まってませんよ坊ちゃま!」
 理に聡い商人は気づいたらしい。
 ラオのステッキに刻まれた紋章は家の位を表すものだ。この国で、己の家柄がそれなりの地位である事を理解しているラオはそれを商人たちに見えるようにわざとらしく持ち上げて示す。
 思惑通り、理解してくれた奴○商へにこりと微笑みかけるとラオはカツンとステッキを下ろした。
「おい! 牛よ! 顔を上げろっ。お前のような哀れなSubが選択する自由を与えて頂いたぞ! どちらのご主人様にするんだ」
 奴○商は慌ててぴかぴかの靴のつま先でうずくまる獣人の頭をノックするように踏みつけた。
 獣人はのっそりと愚鈍な仕草で顔を上げる。その顔の多くは長くモッサリとした前髪に覆われて見えないが、頑丈そうな輪郭とへの字口、髭と傷の多い顎に年齢を感じさせた。
 獣人の視線はわからない。
 モサモサと髪の毛の多い頭がかすかに、ラオとネレリー家の男を見比べるように動いているようだった。
 獣人の男がゆっくりと身体を起こす。大岩が動いたように錯覚するほど巨体が四つん這いで這ってラオの足先に額ついた。
「お前はそちらのご主人様を選ぶと言うのだな?! お客様大変申し訳ございません。この奴○はこちらの坊ちゃまのものになりましてございます。もしよろしければ他の奴○もご用意出来ますが……」
 奴○商が深々と頭を下げると酷薄そうな金髪の男は顔を真っ赤にして叫ぶ
「ふざけるな! 俺が最初に目をつけたんだぞ!」
「しかし、契約する前ならばどんなDomでもSubへの所有権を主張できますし……」
「所有権……そうだ! こんなガキに誓約の儀が行えるものか! そうだよなぁ……おい商人! 飼い主を決めるのはまだ早いだろう。こいつがきちんと自分のものに名を刻るかわからんのだ。夢精するのとは訳が違うぞ? 小僧」
 下品な物言いに眉をひそめるラオだが、男を無視して奴○商を見た。
「誓約の儀をする場所を用意してくれる?」
「はい! かしこまりました」
 奴○商が腰を折り、使用人を呼んだ。
 金髪の男が「隠れてするのか! 臆病者めっ」と異議を唱えていた。
 ラオは静かな怒りを湛えた瞳で男を睨み「僕は悪趣味ではございませんので」と冷たく吐き捨てる。
「ひっ」
 息を呑む金髪の男。
 ラオのその視線に、言葉に、強い覇気が滲む。
 金髪の男は、ラオのグレアに当てられて言葉を発することなくドサッと尻もちをついた。情けなくも膝が震えて喉から引き攣れた呼吸を繰り返している。
 哀れに震える金髪の男を睨むラオに、背後に着いていた使用人が優雅に腰を折り耳打ちした。
 ラオは使用人に頷くと、額づいたままの獣人の肩にそっと手を置き囁いた。
「立てる? 移動するけど、着いて来れるかな?」
 獣人は顔を上げたが、じっとして動かない。
 どうしたのかと首を傾げていると奴○商が「早く立て! 坊ちゃまがお待ちだぞ!」と首輪に繋がる鎖を思いっきり引いた。
 獣人の巨体では少し首を伸ばしたような仕草になっただけだが、ぐぅと小さく呻く声を聞いてラオは奴○商を睨み付ける。
「乱暴はやめてくださいっ」
「ひぃ! も、申し訳ございませんっ! しかしこやつめはヒトの言葉が不自由でございまして……坊ちゃまめのお情けもほとんどよく理解できない愚鈍な奴○です。言葉が通じないので身体に覚えさせるしかないのでございますよ。この通り頑丈なだけが取り柄ですから、手荒に扱っても死にやしませんよ」
 奴○商は早口で捲し立てたがラオは鋭い視線のまま、鎖を渡すように手を出す。
 大袈裟に腰を折って獣人の首輪に繋がる鎖を渡す奴○商。
「坊ちゃま。こいつはモンスターです。くれぐれも早々にキツイ命令を下して自由を奪うのを忘れちゃいけません」
 ラオは奴○商を一瞥すると鎖を受け取り、もう一度獣人に声をかける。
「立てる? 行こう」
 獣人に手を差し伸べるが、彼はそれを取る事なくのっそりとした動きで立ち上がった。
 ラオはホッと息を吐くと獣人の手を取り歩き出す。
「行こうか」
 小山のように大きな身体を見上げて、微笑みかけるも獣人の男は何も言わず……それどころか何処を見ているかもわからない有様だったが、彼の大きな蹄は確実にラオに付き従っている。
 ラオはそれを感じ取ってひとり頷くと案内する使用人を追った。

 
 案内された部屋は、良い香りのする蝋燭をいくつか灯しただけの仄暗い部屋であった。
「大丈夫? 入れる? 匂いが嫌なら蝋燭を交換してもらおうか?」
 獣人はヒトよりも五感が鋭い場合が多い。
 蝋燭から香る匂いが不快ならば変えようというラオの提案は獣人の男が首を横に振ることによって却下された。
「大丈夫なら良いんだけど……そしたらお風呂に入ろうか。綺麗にしてあげるよ、おいで」
 ラオが備え付けのバスルームから獣人の男を呼ぶ。ドアの前に立ったままでいた彼はのっそりとバスルームへ入ってきた。
 その姿を見てラオは満面の笑みで獣人を褒めた。
「良い子だね。ちゃんと僕のところに来れた。えらいえらい」
 ラオの言葉に獣人の耳がぴく、ぴく、忙しなく跳ねる。良い反応のような気がして、ラオはにこにこと獣人を見つめた。
「こっちこっち。ここに座ってごらん」
 手招きすると獣人の男はのっそりとラオに近付き、指し示されたバスタブの中にみっちりと入り込んだ。
「あ、思ったよりバスタブが小さいな……上手に座れたね、大丈夫? 窮屈じゃない?」
 ラオの問いかけに男はこくりと頷く。
「そう? 我慢してくれてありがとう。直ぐ終わらせようね。こう見えて僕は上手なんだよ」
 ラオはジャケットを脱ぎシャツをまくるとシャワーからお湯を出して温度を確かめる。
「じゃあお湯をかけるからね」と蹄の足にそっと湯をかけた。
 手ずから湯を当ててやると最初こそ肩をいからせ緊張していが、すぐに力が抜けていくのがわかった。ラオは表情を柔らかくして獣人に声をかける。
「撫でても良いかな?」
 問いかけると、男は小さく頷く。
「ありがとう。優しく撫でるから、嫌だったら教えてね」
 ラオは手を伸ばしひづめからゆっくりと屈強な足を撫でていく。シャワーの湯を馴染ませるように毛皮をわしゃわしゃと揉み込む。
 蹄の先に触れた時にはガチガチに緊張していた足が、ゆっくりとほぐれていくのを感じてラオは微笑んだ。
「触らせてくれてありがとう。どこか気持ち悪いところとか無いかな?」と問いかける。
「ナイ、です」
 男は首を振り、低く静かに応えた。
 それは男との初めての会話だった。
 ラオは思わず喜色満面に笑む。
「はじめて声聞けた。嬉しい」
 ラオはにっと笑うと、獣人の男の唇の端が細かく震え、そして少しだけ、くっと口角が上がった。
 きっと笑ってくれたのだろうと思うと、愛おしさがこみ上げてラオの手は自然に彼の頬に伸びていた。
 今は下がってしまった口の端を親指でそっと撫でる。
「今、笑ってた? かわいい笑顔見れて嬉しいな。ありがとう」
 頬を撫で、顎をかりかりと指先で掻く。最初はビクッと怯えたように首をすくませていたが、徐々に余分な力が抜けていき、控えめにラオの手の方へ顔を寄せてくれた。

 
 そうしてラオがシャワーを当てて置いてあったソープで身体を摩ってやる間、獣人の男はおとなしくしていた。緊張で強張っているところもあったが「大丈夫? 辞めようか?」と手を引くと首を横に振る。
「へいき……続けて、くださイ」
 辿々しい言葉遣いで、低く訥々と言う。
 ただ、ラオの手が陰部に近づくにつれ身体の強張りが強くなる一方であったため、ラオはそっと手を引いて笑いかける。
「自分で出来るかな?」
 ラオの問いかけに、獣人の男は頷きシャワーヘッドとソープを受け取った。
 無事に身体を洗い終えたのを見届けてラオは「良い子だね」と褒め、再びシャワーヘッドを受け取る。
「頭も、洗って良いかな?」
 頷いて頭を下げる男に、なるべくそっとシャワーを頭にかけていく。
 ボサボサと広がっていた髪がひと回り小さくなった男の頭に、ラオは思わず微笑んだ。
「大丈夫? 顔に水がかかるの平気かな?」
 束になって顔に張り付く髪の毛をかき分け、顔を覗き込むとようやく獣人の男の顔が見えた。
 彫りの深い、男らしい顔立ちをしている。凛々しい眉も長くたっぷりとしたまつ毛も髪と同じ赤茶色をしていた。
 じっと見つめていると、瞼がぱちぱちと瞬きをする。深い緑色の瞳が見え隠れしていた。
「瞳が……まるで森のような緑色で、とても綺麗だね」
 ラオは獣人の男の長い前髪を横に流しつつ褒める。
 獣人の男は、かすかに目を見開き、ただラオをじっと見ていた。
 濃い緑色の瞳は美しいが、人を拒絶するような深く鬱蒼とした森の奥と同じ、暗い色を湛えている。彼のこれまでの生き様が垣間見えたようで、ラオの胸は小さく痛む。
 湧き上がった哀れみの気持ちを振り払うように明るく告げた。
「さて、これで綺麗になったね。そしたらお湯を溜めて温まろうか」
 男の身体を、洗い終えたのでバスタブに栓をしてお湯を溜める。
「お湯が溜まったら僕も一緒に浸かってもいい?」
 ラオは男の逞しい肩や毛皮に覆われた太い腕に湯をかけてやりながら聞いた。男はこくと頷く。
「いいの? ありがとう、楽しみだな」
 ラオは男の濡れた髪を撫でる。前のように怯えた様子はなかった。

 
「そろそろ良いかな」
 ラオは服を脱ぎ、シャワーを浴びてバスタブの中に身体を沈めるとじんわりと熱い湯が身体を包み込む。心地よい浮遊感に大きく息を吐いた。
「はぁ〜……気持ちいいねぇ……ねぇ、そっちに行ってもいい?」
 向かい合う男に語りかけると男は頷いた。ラオは静かに水面を揺らすと男の足の間に座り、分厚い胸板に頭を預けた。
 ビクッと硬くなる身体を背中に感じたラオは、湯の中で
硬く握りしめたままの男の拳を包み込むように柔く握った。
 実際には、獣人の男の手とラオの手の大きさが違い過ぎて拳に手を添えただけだったが。
 それでも、男の怯えを少しでも払拭してあげられれば、と思ったラオの意思が通じたのか、男は握った拳をゆっくりと広げて手のひらを向けた。そしてラオの手を弱い力で握り締めた。
 初めて見せた、男からラオへの接触。
 ラオは嬉しさを顔いっぱいに滲ませて頭を巡らせ男を見上げると、彼はひくつく口の端を小さく上げてぎこちない笑顔を見せてくれた。


  風呂上がり。
 浴室に備え付けられたタオルで、あらかた水気を拭ったラオと獣人の男はベッドへと移動する。
「今更だけど僕はラオって言うんだ。好きに呼んでいいよ……あなたの名前も教えてくれる?」
 ベッドのすぐ下の床に座する男の背後、ラオがベッドのふちに立ち、ふかふかのタオルで彼の髪を丁寧に拭きながら問いかけると、男はぽつりと呟いた。
「名前、なイ。オ好きにどうぞ」
 男の答えにラオは眉をしかめる。
 ――女奴○が子どもを産むと必然的にその子も奴○として生きる事になるみたいだし、このひとも奴○として生まれて名前がないのかな……それとも奴○になってから、元々の名前は捨ててしまったのかも知れない……
 ラオは一瞬の逡巡ののちに口を開く。
「そうか……うーん……じゃあ、ティミーと呼ぶのはどうかな? あなたが嫌じゃなければだけど……」
 男は少し間を置いてから頷く。
 ラオは赤茶の髪を拭いていたタオルを隅に置くとティミーの隣へ座り込む。そして、膝に置かれた拳に手を重ねた。岩のような拳が一瞬ぎゅっと硬く握られ、徐々に力が抜けていくのが伝わってきた。
 ラオは弛んだ手のひらに、自身の手を差し入れて握る。大きさの違う手のひらは握りきれず、結局小さな子どものように彼の人差し指を握るだけになってしまった。
 しかし、ティミーは震える指先を折ってラオの手を包むように握り返してくれた。
 暖かく大きな手のひらにラオは頬を弛ませ、そして深い緑の目を見て告げた。
「ティミー。あのね……今から僕たちがパートナーになるための誓約の儀として、君の中に僕の精液を残さないとダメになってしまったの……いきなりで、本当に申し訳ないんだけど、君の身体に触れても良いかな?」
「ハイ」
 無機質な返答に眉を下げるラオ。その返答は良いという同意より、諦めの返答だった。
 ――しかし、こうして大人しく返答を返してくれるだけでも良しとしよう。
 ラオはすぐさま微笑みを浮かべて頷くと、更に話を続けた。
「協力してくれてありがとう。それじゃあ、セーフワードを決めようか。何がいい?」
「……特には……ご主人様のお好きにドウゾ」
 ティミーは少しの間を置いて訥々と言った。無気力で投げやりな暗い声で、自分のすべてを投げ渡す言葉に、彼のこれまでの人生が滲む。
 ラオの胸が痛み、思わず眉根を寄せて歯を食いしばった。
 ラオは周囲を見渡して、何か簡単なキーワードになる物を探すと、あかあかと燃える蝋燭が目に入った。
「……えっと、どうしようかな……そしたら、あかり……あか、赤にしようか。ティミーが嫌だと思ったら赤って言って。そしたら僕はそれをやめてティミーにごめんねってして抱きしめるよ。どうかな? 赤って言ってごらん?」
 ティミーの顔を覗き込むように小首を傾げて問う。
「……赤」
「そう! ちゃんと言えたね。偉い! ……どう? 言いづらいとかはない? 違う言葉にする?」
 躊躇うように、だがしっかりとセーフワードを口に出来たティミーをラオは破顔して褒めた。握りあった手をよしよしと撫でると胸にじんわりと温かいぬくもりが広がる。プレイ特有の充足感がラオの顔をますます綻ばせる。
 ティミーの表情は長く多い前髪に隠れて見えないが首を横に振り「違うの、ナイ……です」と応えた。
「じゃあ、ティミーが嫌だったら遠慮なく赤って言うんだよ。言っても怒ったりしないからね。次は、ティミーが触られたら嫌なところとか、嫌いなプレイとか、教えてほしいんだけど……」
「ナイ……ご主人様の好きなように……」
 予想していた言葉だった。奴○として反抗することはもちろん、意見を言うことも許されない状況にいたのだろう。
 ティミーの巌のような身体に残る無数の傷が目に入り、ラオはさっと視線を彷徨わせた。
「そっかぁ……じゃあ、僕がティミーにすることで、嫌だなって思うことしてたら、すぐ教えて? 僕はすぐそれをやめて謝るから」
 ラオの言葉に、ティミーはこくりと頷いた。
「じゃあ始めようか。ティミー、おいで」
 ラオは立ち上がるとベッドへと上がり、ティミーへ手を差し出した。
 ティミーはラオの言葉に素直に従って、小さな少年の手を取り、のっそりとベッドへ上がった。
 豪奢なベッドは、ティミーの巨体がのぼっても軽い軋みひとつ上げない。
「いい子だねティミー」
 きちんとラオのそばに来たティミーの髪を撫で付けるように褒めた。彼を褒めることで、ラオの胸にも甘い多幸感が広がっていく。
 前髪の隙間から、震える口角がゆっくりと上がっていくのが見える。
 ティミーも同じものを感じているのだと確信すると、ラオはますます嬉しくなった。
「ティミー、顔を見てもいい?」
「ハイ」
 無機質でたどたどしい、低い返答を受けて「ありがと」と呟くと、そっとベッドの上で膝立ちになりティミーの顔へ手を伸ばす。
 頑丈そうな顎に触れるとヒゲがわさわさと手のひらに触れる。
 頬は弾力もなく、こけているように感じラオは両手でティミーの頬を包み込んだ。
 まだ少し冷たい前髪をそっと分けて顔を見ると伏せた目がうろうろと彷徨っている。
 不安げな瞳が哀れだった。
 ラオは震える瞼にそっと口付けて、親指でゆるゆると目元を撫でた。
 口付けにティミーの肩が跳ね、顔が強張る。
「嫌だった?」
 ラオが深い緑の瞳を覗き込む。ティミーは少し視線を揺らした後、首をゆるく左右に振った。
「へ、ヘイキ……です……」
「ほんと? 良かった……ねぇ、じゃあキスしても良いかな?」
 ラオの言葉に、ティミーはこくりと頷いた。
 その返答を待って、ラオはそっとティミーの唇へ口付ける。
「んっ……うっ」
 震える唇から低く漏れる声は、驚きと不安を含んでいた。
「ティミー、大丈夫? 嫌じゃない?」
 ラオは慰める気持ちを乗せてついばむように何度も何度も口付ける。
 顎を撫で、太い首筋をさするラオの手を、ティミーの手が柔く握った。
「イ、イヤ……じゃ、ない。へいき」
 そう答えるティミーの瞳は潤んではいるが、しっかりとラオを見つめている。そこに嫌悪の色は見えない。
「そっか、ありがとう。ティミーが受け止めてくれて嬉しい」
 感謝と親愛の気持ちを込めて、更に口付けを続ける。
「口をあけて? あ~って、できる?」
 唇を触れ合わせたまま告げると、ティミーはゆっくりと口を開けた。
 薄く開いたその隙間に舌先を差し込み、ぺろりと舐める。
「んっ! あっう……」
「お口開けるの上手にできたね。よしよし、良い子」
 褒めるラオの言葉にティミーの身体がびくっと跳ねた。
 その反応は、今までの怯えきったものと違うように思えたラオは、少し唇を離してティミーの表情を見つめる。
 ティミーの緑の瞳はうっとりと蕩け、ゆるく開いた唇からは熱のこもった吐息が溢れていた。
「ティミー、キスは好き? 嫌い? 教えてくれる?」
 ラオはティミーの両頬を優しく包むと唇を親指で撫でてみる。熱く湿った吐息が、親指にかかった。
「あ……う……いつもは、いやだ……でも、ご、主人様のは好き、です」
「本当? 嬉しいな。もっとしてもいい?」
 ラオが問うと、ティミーはウロウロと視線を彷徨わせた後、こくりと頷く。
 先ほどより緊張が和らいでいるティミーの顎に、首筋に、柔く唇で触れていくラオ。
「う、ぅ……ん……」
 低く、ティミーの喉が蠢く。出っ張った喉仏がティミーの動揺を露わにしているように見えて可愛らしく、ラオは上下する彼の喉仏に何度も吸い付いて甘く噛む。
「ぐぅ♡」
 ティミーの喉から低く甘い呻きが漏れた。その声はぞくりとラオの身体の奥から熱情が湧き上がらせ、口の端をにんまりと喜びに上げさせた。
「ティミー、そのまま横になって」
 ラオの指示に素直に従いベッドへ横たわるティミー。
「よしよし、いい子だね」
 横たわるティミーの髪を撫で、額に口付けをすると、ティミーの身体に乗り上げ再び口を吸う。
「ふ、ぅ……ん♡うぅ……ふ、ぁ♡」
 ちゅっ、ちゅっ、と何度も分厚い唇を啄むとティミーの口がゆるく開く。舌先がちろりと口内から覗いているのに気づいてラオの顔が綻んだ。
「可愛い舌♡プレゼントしてくれるの? 嬉しい、ありがと♡」
 ラオは唇を吸い舌を差し入れてティミーの舌に絡める。
「んふっ♡ふ、ぅ……♡んんっ」
「はぁ♡ティミー……♡柔らかい舌♡とっても美味しいよ♡」
 柔らかく絡まる舌にふたりに口から吐息がこぼれる。
 Subから差し出される贈り物にラオの胸はときめき、深い充足感に包まれた。
 ラオの手がティミーの分厚い身体を撫でる。
 盛り上がった胸筋を覆う胸毛をさわさわと指で梳きながら舌を絡め続ける。
「あっ♡」
 胸毛を梳いているラオの指に、ツンと尖った乳首が当たるとティミーの身体が跳ねた。
「乳首勃ってる♡かわいい♡もうひとつの乳首はどこ? 教えて?」
 ラオが見つけた乳首を、指先でやわく摘みながら問いかけるとティミーは震える指で胸毛を掻き分け、もう一方の乳首を曝け出した。
 いじらしい姿に思わずため息が漏れるラオ。
「はぁ……♡可愛い……♡ティミー、教えてくれてありがとう♡かわいい乳首にキスしても良い?」
「は、ハイ……ご主人様のお好きに……」
 相変わらずのすべてを投げ出す言葉だが、今は掠れた低い声に甘さが滲んでいる。分厚い胸が差し出されるようにかすかに反らされている。
「ありがとティミー♡お礼にいっぱいキスするね♡」
 胸毛をかき分け、差し出された乳首を唇で優しく啄み、ねろりと舌で舐るラオ。
「んぅっ♡……う、ぁ♡」
 ティミーは艶めかしく息を弾ませて、かすかに身をよじっている。
 少し前まではきつく噛み締めて緊張していた顎から力が抜け、ゆるく唇が開いていた。快楽に蕩けたティミーの様子に、ラオはホッと安堵して尖った乳頭を吸う。
「ん゛ぅっ♡うぅ♡ゔぅ゛♡」
 乳首への愛撫ですっかり蕩けたティミーは太い腕でラオの身体を抱き締める。
 逞しい腕に抱き締められて、ぴったりと身体が合わさると毛皮に覆われた下腹部の内側から盛り上がる巨根がラオの内腿に当たる。
「あ♡ティミーも興奮してる? 嬉しい♡」
 ごりごりと固く熱い肉の感触に、ラオは好色な吐息を吐き、自身の下半身を擦り付けた。
「ひっ……う」
「ティミー、大丈夫? やめる?」
 ラオの行動に、ティミーの巨躯がビクッと跳ねた。
 それは性感の悦びからの反応ではなく、恐怖や不安というような緊張の類だと感じ取ったラオは素早く身体を起こしてティミーを見下ろした。
「ダ、イ……大丈夫です」
 その言葉は、歯の根を食い縛った隙間から出てきている。
 先ほどまでうっとりと弛んでいた唇は噛み締められて、内腿に当たっていた巨根は再び存在が分からないほどに縮こまっているようだった。
「ティミー、大丈夫。我慢しなくていいんだよ。ね、起きて。ちょっとここ、座って」
 ティミーの恐れに気づいたラオは彼の巨躯から身体を離すと太い腕を持ってベッドの上に座るように促す。
 ティミーは不安げに揺れている瞳に疑問を浮かべながらゆっくりと身体を起こした。
「あぐらをかいていいよ」
「……す、みまセン……オレ……あの……ごめんナサイ……」
 起き上がったティミーは、太い首で項垂れ、小さな声で謝罪を繰り返している。
「ああ……ティミー。そんなに謝らないで。大丈夫、大丈夫だよ。僕は怒ってないからね。ね、ティミーはキス、好き?」
 ベッドの上で、小さく見えるほど背を丸め肩を落として座るティミーの顔を撫で、髪を優しく掻き分けて俯く顔を覗き込むラオ。
 怯え俯いたままのティミーは上目遣いでちらりとラオを見ると小さく頷く。
「あ……は、ハイ。ご主人様のは、好きデス」 
 ティミーのたどたどしい言葉に、ラオはにこりと微笑むとその頬に口付ける。
「教えてくれてありがとう。それならティミーの好きなことだけしようね」
 ちゅっちゅぅっ、と可愛らしいリップ音を立ててティミーに口付ける。
「んっ、ぅぅ♡……あっ♡ふぅ♡」
 唇を吸い、舌でつつくとティミーは熱く息を吐き、口を開く。
 招かれた唇に舌を差し入れると、舌先が触れる。
 くちゅ、と濡れた音を立てて舌が絡まるとティミーの肩が跳ねた。
「ティミー……乳首を触ってもいい? ティミーの可愛い乳首、よしよししたいなぁ♡」
 吐息を混ぜるように唇を触れさせながら問いかけると、ティミーは「ハイ」と甘ったるく頷いた。
 吐息ごと食むように唇を吸い、舌を絡めながら指を伸ばす。
 ふっさりとした胸毛の隙間からツンと勃ち上がった乳首を摘まみ、くりくりとつねる。
「あ♡う、ぅ♡いい、デス♡ど、どうぞ♡さわって♡」
「ほんと? じゃあもう片方もくにくにしても良い?」
 ティミーはラオの口付けを受け入れ、舌を絡めながらこくこくと頷いた。
 口付けを繰り返し、乳首をくりくりと刺激されてティミーの巨体が卑猥にくねった。
「ん゛ん゛ッ♡あ゛ッ♡……はぁッ♡」
「かわいいティミー♡雄っぱい気持ちいい? 舌をちゅぽ、ちゅぽ吸うのは嫌じゃない? 教えて?」
「んッ♡ん゛ぅ゛♡や、じゃない♡ご主人様、の゛♡手も舌も♡ん、ぉ゛♡す、きぃ♡」
 白状するティミーの下腹には、毛皮の防護を無視して勃起する巨根があった。
「またおちんちんおっきくなってきたね? 良かった♡ティミー、自分で触れる? 僕におちんちん扱いてるとこ見せて?」
「う……は、ハイ♡」
 逆らえない命令に、ティミーは身体をぶるりと震わせ、毛皮の奥から勃起した巨根を大きな手でつかむと、ゆるゆると扱く。
「あ゛♡う♡……ふぅ♡……ん゛っ♡」
 自分で陰茎を扱かせながら、ラオはティミーの首にすがりつく。震える喉仏に甘く噛み付き、首の筋を舌で登って、びく♡びく♡と忙しなく動く耳を喰む。
「んんっ♡うっ♡ぐ、ぅぅ♡あ゛っ♡」
「ティミーのおちんちんかっこいい♡筋が浮いてて太くて、すっごいおっきいね♡僕も触っても良い?」
 ティミーの耳に舌を這わせながら吐息混じりに囁くと、赤い毛並みに覆われた耳がぴくっ♡ぴくっ♡と蠢き、太い首が艶めかしく反る。
「はっ♡あ゛あ゛♡い゛、イイ♡イイですっ♡さわって♡ご、主人様にさわってほし♡い゛ッ♡ん゛ぅ゛♡」
「ありがとう♡ああ、ティミー♡おちんちんからいっぱいとろとろのお汁が出てきてるよ♡ティミーはおちんちん扱くの上手だね♡えらい♡えらい♡」
 ラオの細い指先が、透明な汁をこぼす広がった鈴口を擦り、ぺちぺちと叩く。
 とろとろとした汁はラオの指先と、ティミーの鈴口を細い糸のように繋いでいる。
「ほら、見て? ティミーのお汁とろとろぬるぬるでえっちだよ♡こんなにぬるぬるだと、ナカに指が入っちゃうね♡」
「ん゛ッ♡うぅっ♡あ゛っ♡あ゛ッ♡あ゛ん゛ッ♡ぐ……ぅ♡」
 ラオの指示に、ティミーは素直に視線を下げ、自身の鈴口が細く小ぶりな指先にもてあそばれているのを見た。
 つぽ、ちゅぽ、と鈴口の中をラオの指の先が擦り、浅く出入りしている。
「あ゛ぁ゛ぁ゛♡あ゛ッ♡あ゛ッ♡い゛♡ひぃ゛ッ♡い゛ん゛ッ♡うぅ♡」
「いたい? 気持ちいい? どうかなティミー教えて?」
「い゛ッ♡イ゛イ゛ッ♡ン゛ぅッ♡ぐッ♡イ゛イ゛♡イ゛イ゛ですッあっ♡あ゛ッ♡♡あぁッ♡でる♡でる゛ッ♡でる゛ぅ゛ッ♡♡」
「気持ちいいのならよかった♡イッていいよ♡ティミーのイクとこ見せて?」
 にっこりと微笑むラオはティミーの耳に熱い息を吹きかけ、顔中に口付けをする。
 ちゅぽ、ちゅぽ、と鈴口を擦る指先を速め、ティミーの射精を手伝うラオ。
「ひっ♡い゛ぃ゛ン゛♡イクッ♡イ、ぎゅっ♡ふぃ゛ッ……イ゛キまじゅッ♡うあ゛ッ♡あ゛ッ♡ぅ゛ぐッ♡ゔ、ゔくゔッ♡」
 ティミーの大きな手のひらがきつく自身の巨根を握りしめた瞬間、びゅく♡、びゅくっ♡と精液が吹き出す。
 たっぷりと吐き出された精液が、ティミー自身の毛皮に覆われた下腹部や、腹筋のみぞへかかった。

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