ハロウィンの夜に怖い目にあう子豚ちゃんの話
ハロウィンの夜に怖い目にあう子豚ちゃんの話。
ゲームブック風にオチを三種類書きました。
バッドエンド二つ
トゥルーエンド一つ
怖さもオチも大したことないのですが、楽しんでもらえたら嬉しいです。
エロはない。
全文2400文字
オチ部分は200文字程度しかないです
――――――――――――――――――――
「トリックオアトリート」
小さな子どもの声に厚司は驚いて振り返る。
膝くらいの背丈の白い布を纏った子どもが小さなジャックオランタンを持って立っていた。
「こ、んなとこまで来たのか? ずいぶんと広まってんだなぁ」
「トリックオアトリート」
動揺を隠して話す厚司の言葉を無視して子どもは同じ言葉を繰り返す。
「あ、あ〜……家に戻れば何かあると思う……けど……」
既に暗くなった山道を小さなランタンの灯りだけで登らせるには忍びない。
どうするべきかと悩んでいると子どもが一歩進んで近づいてきた。
白い布がふわっと揺れる。すきまから細い二本の足がのぞき見えた。それが異様に細長く見えて厚司の背すじがゾッと怖気だつ。
「トリック オア トリート」
一歩近づく足。
よく見ると裸足だ。
爪がボロボロになっている。
揺れるランタンの灯りに浮かび上がる赤黒く汚れた足。
厚司は、異様さに後退る。
はっ、はっ、と短い呼吸を繰り返し叫び出すのを抑え込む。
厚司は、今すぐこの子どもに背を向け家に向かって駆け出したかった。しかし、得体の知れない相手に背を向ける勇気がでない。
子どもを見つめたままじりじりとすり足で後退り続ける厚司と、ひた、ひたと歩く子どもの距離はどんどん縮まっていく。
すぅ……と子どもの手が白い布の下から持ち上がり、赤黒く汚れた手のひらが厚司に向けられた。
むわっと蒸れた不快なにおいが鼻をつく。
「っ……」
思わず鼻を腕で覆って息を呑む厚司の目前。
あと一歩。
短い手が触れる直前の距離まで近づいてきた。
上がった手に比例して白い布が落ちていく。
音もなく地面に落ちた白い布の中には、無数の小さな子どもの顔が寄り固まっていた。
いたいけな顔がぺったりと互いに張り付いて、ぶにゅりと潰れたり、歪んだりしながら巨大な顔を形成している。そこから、枯れ枝のように細長い手足が、のびていた。
「っ……あ?」
厚司の喉は、間抜けな音を立てた。
――なんだ? あれ。
恐怖と驚愕に支配された思考を置いてけぼりにして、厚司の身体はパッと駆け出した。
「はっ、はっはっ……はぁっ、はぁっはっ……ぐっ」
暗い山道を、得体の知れない生き物から背を向けて、必死に走る。
不気味な気配は、ぴったりと厚司の背中に張り付いたままだったが振り返る勇気はなかった。
ト リックオアトリート
トリ ック
あはは
はははは は
ひひ、ひひ、ひひ、ひひ
楽しげな子どもたちの声がする。
真っ暗な闇の中をガサガサ、ガサガサガサガサ、ガサガサガサガサ、不気味な物音が追って来ていた。
「はっ、はっ……ひ、はぁっ! はっ」
厚司はただひたすら走った。思考は放棄する。
恐怖も疑問も不安も疲労も何もかも考えずただただ走った。
何事かを考えた瞬間、足がもつれて転ぶと確信していた。
うなじにかかる生暖かい息は無視した。
待って待って 待って
あははあ はは
声はずっと追ってくる。
楽しい鬼ごっこをしているのだと錯覚するほど、馬鹿みたいにゲラゲラと笑う声だけがずっとずっと追って来ていた。
喉が裂けたように痛む。
肺が膨らんでる気がしない。
汗が目に入り酷く沁みたが、構わず目を開き、必死に前だけを見た。
真っ暗な道を必死に走り続けようやく見えた家の灯り。
厚司に思考が戻って来る。
「たすっ! げほっ……ぅぐ……うぅ……」
乾燥した喉は言葉にならない息を漏らすことで精いっぱいだった。
走る事以外に脳を使った弊害に、厚司の足がもつれて地面に倒れ込む。
――あ、終わった。
倒れた衝撃と、勢いよく地面をすべって行く痛みの中で、背後の気配が喜色満面に笑んだのがわかった。
足の先から怖気立つ気配の塊が覆い被さり捕らえられたと思った瞬間――
背を覆ったのは小さな重みと、慣れ親しんだひんやりとした体温だった。
――咲夜だ。
気づいたが、顔は上げられなかった。
貴人を前に平伏する奴○のようにうずくまり、地面に顔を擦り付け、きつく目を閉じてアイツを見ないようにするしか、厚司には出来なかった。
噛み締めた歯の根すら、鳴らさぬようじっと息を潜めて黙っていた。
「この子はダメです。あげられない」
きゃはは は
いいないい ないいな
ちょうだい
ほしい
くれよ
「ダメです。この子はダメ。あげられない」
くれよ
欲しい
くれ
それくれ
腕ひとつ
よこせ
足ひとつ
目玉
よこせ
「ダメです。ダメです。あげません」
咲夜の腕が痛い。身体に食い込むほど強く抱きしめられている。ギシ、ギシ……と咲夜の腕が当たる部分から骨の軋む嫌な音がした。
「うちの花壇の花をあげます。うちの山の木をどうぞ。だけどこの子はあげません。どうぞお帰りください」
咲夜の声がはっきりと告げた瞬間、まとわりついていた冷気が消えた。
じっと見つめる視線も消え、子どもの不気味な笑い声も聞こえなくなった。
骨が軋むほど絞められた腕もふっと脱力し、背中にかかる重みが増えた。
「はぁ……良かった……子豚ちゃん、もう大丈夫だよ。アレはもういなくなった」
「……ほんと、か?」
情けない鼻声になったが、構っていられなかった。
「うん。大丈夫。さぁ早く家に入ろう」
咲夜に抱えられ、急いで館に向かった厚司は早速風呂場へ連行された。
風呂場では門真がドボドボと酒を湯船に入れ、塩をザブザブ溶かしている。
「さぁお風呂だよ。温まってね。肩まで浸かって。塩すり込んで」
「いででっいでぇよ! ちょっと待て、これなんなんだよ」
ザリザリと粗塩を擦り込まれ文句を言うと咲夜はにこ、と柔らかく笑う。
ただそれだけで、何も答えなかった。
粗塩を擦り込まれた次は、ヒリヒリする身体に頭から冷水をぶっかけられる。
「ぎゃっ! つめて! ひっ! ま゛でっさぶっ! ひぃっ」
制止の声は無視された。
逃げないように腕を掴まれ、逃げられない状態でひたすら冷水を浴びせかけられた後、部屋の中に押し込められる。
「今日はもう寝ようね。起きたら朝だから」
ベッドに連れ込まれ、頭をぎゅと抱え込まれる間際に、カーテンの閉められた窓の前に盛り塩が置かれているのに気がついた。
「おい、あれって……盛り塩? 大丈夫ってさっき、言って」
「うん? 大丈夫大丈夫。僕がそばにいるから、ぐっすりお休み。あ、夜中起きても部屋から出ないでね」
付け足された一言に深く頷き、厚司は咲夜の細い身体を抱きしめ薄い胸に顔を埋めてきつく目を閉じた。
深夜。
ふと意識が覚醒し、厚司は眠い目を瞬かせ、周囲を見た。
――今、何時だ……
部屋は寝入る前よりも暗い。
咲夜は隣で丸くなって寝ていた。
もう一度眠るためにシーツに潜り込み直した後、ふと気づいた。
部屋のカーテンが少し開いている。
――カーテン……きっちり閉じてたよな?
ベッドに連れ込まれた時。盛り塩を見つけた際にはカーテンはしっかりと隙間なく閉じられていたが……気のせいだっただろうか……。
一抹の不安が、厚司の頭に飛来した時……コンコン、と軽いノックの音がした。
ビクッと大袈裟な程、身体が跳ねた。恐る恐る振り返ると再び、コンコン、と部屋のドアを叩く音がする。
――か、門真さん……か? なんかあったのか?
コンコン、とノックする相手を予測する。
この館には、門真と咲夜と厚司しかいない。
しかし、本能が告げている。
ドアの向こうにいるのは門真じゃなくアイツだ。
コンコン、コンコン、コンコンコンコン、コンコンコンコンコンコン
ノックの音が絶え間なく響く。
厚司は慌ててシーツを被り丸まって眠る咲夜を抱きしめ目を閉じた。
――何も見えない何も聞こえない気のせい気のせい気のせい。
念仏のように心の中で唱え続ける厚司の耳元でふっ、と小さく笑う声が「聞こえ てる くせに」とからかうように呟いた。
ゾッと総毛立つ。
じっとりとした冷気が耳から首筋を舐めるように広がっていく。
気色の悪さと恐ろしさで、厚司は抱え込んだ咲夜の身体に顔を擦り寄せ、震える歯の根を押さえ込む。
あははあはは
おびえ てる
かわいそう
はははは ははは
こわがっ てるよ
ひひひひひひ
かわいそう
おいで
こわくない よ
こっちをみて
ねぇ
みろみろ
み ろみろみ ろ
部屋の窓がベタベタベタベタ叩かれる。
小さな手が複数、窓ガラスをバチバチ叩く音だと厚司にはわかった。
さっき見たカーテンの隙間から覗く複数の子どもの顔が脳裏に浮かんで、厚司は震える呼吸を吐き出した。
おいで
おいでよ
はや く
こっち
はははははは
あははあは はあははあはは
ひひひひひひひ
たくさんの笑い声が、厚司の頭の中にこだましている。
恐怖で発狂しそうだった。
必死で咲夜の服を握りしめると、腕の中の咲夜がもぞりと動いて厚司の頭を抱きしめ返した。
途端……頭の中に響いていたおぞましい笑い声が消えた。
耳を覆う細い腕。頭を撫でる小さな手はひんやりと心地よく冷えている。
起きているのか眠っているのか分からない。
話がしたかった。顔が見たい。
①顔を上げる
②顔を上げない
③話しかける
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