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BL小説の記事 (58)

鶯命丹 2024/06/22 00:56

 DK×ガチムチ用務員おじさん【全文10,000文字】

 【お試し読み】DK×ガチムチ用務員おじさん【全文10,000文字】
 お付き合いを始めたふたりの初めてのお泊り話

 年下攻め×年上受け・美形攻め×ガチムチおっさん受け・挿入なし、初夜・兜合わせ・攻めフェラ・♡、濁点喘ぎ
 
 受け視点
 攻めに「好き♡」って言われたから気持ちを受け入れた受けが「俺も好きだけど…でもな~、俺の好きはお前の好きと違うかもしれないしほんとにいいのかな~」ってもだもだ悩む描写あり
 攻めの方がリードされたり、喘いだりしてる
 
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「あのさ……明日金曜日でしょ? マサさんち、泊まりに行ってもいい? ちゃんと課題も持ってくし、家事も手伝うから」
 そうおずおずと聞いて来た和津沙に、博雅は一瞬固まった。
 ――これは、アレだ。とうとう来た。
 内心の動揺を悟られないように博雅は「おう、いいぞ」といつも通りに返答した。
「やった。ありがとうマサさん。じゃあまた明日」
 和津沙は嬉しそうにはにかむと、ソファーに投げ出していた博雅の手を握る。男にしては細くすらりとした綺麗な手だ。
 その手がぎゅっと自身の手を握り、愛おしげに指先が動くのを肌で感じて博雅はますます動揺した。
「ああ、また明日な」
 反射的に、和津沙の手の動きを封じ込めるように、ぎゅっと握り返して答える。
 握りしめられた手を見た和津沙はまた嬉しそうに口元を綻ばせると立ち上がり、用務員室のドアへ向かった。
 離すタイミングを見失った博雅はそれに着いて行く。
「それじゃあ……」
 別れを惜しむ瞳がじっと博雅を見つめている。
「そんな顔すんなって! また明日会うんだろ?」
 正直に、真っ直ぐに、愛情のこもった視線を向けられることが気恥ずかしい博雅は笑って誤魔化し、和津沙の背を強く叩いた。
「そうだよね……じゃあバイバイ」
 和津沙は咽せながら笑って部屋を出ていく。
 廊下を遠ざかっていく足音が聞こえなくなった後、博雅は大きく息を吐いた。

 
 最近、付き合うことになった和津沙はまだ若い。
 絆されて、つい交際の申込を受け入れてしまったが、若さ故か、和津沙の気性なのか、真っ直ぐに好きと伝えてくるその姿勢がありがたくもむずがゆい。
 嬉しい。
 嬉しいが、恥ずかしい。
 同じ熱量で返してやれないのが心苦しい。
「若さかなぁ……」
 見慣れた職場の天井を見上げて博雅はひとり呟いた。
 歳の差もあり、特段見かけの良いとも稼ぎが良いとも言えないと自負する博雅は、一体どこに若く綺麗な和津沙に選ばれる理由があるのか、理解できなかった。
 最初は断りもしたが、情を向けられ続けて避け続けるのも辛い。
 結局のところは己も和津沙を憎からず思っていたのだと気づき、付き合うことに了承はした。
 そんないきさつではあるが、決して同情だけで応じた訳ではない。
 ――そんなはずはない……けど、なぁ。
 和津沙から向けられる強い愛情に戸惑っている矢先の宣言。
 博雅も男だからわかる。あれは絶対そういうことをしたいと思っている時の目だ。
 困ったな。というのが博雅の正直な感想だった。
 確かに和津沙の気持ちは受け入れたが、博雅の心の準備は、まだ艶ごとには対応しきれない。
 ――和津沙で勃つかな……俺。
 下世話な思考だが、切実な悩みに博雅は眉間に皺を寄せる。
 今まで博雅の恋愛対象は女性だった。
 和津沙は普段、長い前髪でわかりづらいが実は綺麗な顔をしている。
 すらりと華奢な体躯ではあるが、骨格は男だ。
 肩幅はあるし、手は細いが筋張っているし、足も大きい。
 どこからどう見ても男にしか見えない和津沙に対して、そういう事ができるかわからない。
 和津沙があまりに健気に好いてくれるのを嬉しく思うが、しかしそこには、応えないと申し訳ないという罪悪感にも似た気持ちが、まったく無いわけではなかった。
 ――そうなると……そもそもこんな形で和津沙を受け入れたのが間違いだったのか? やっぱり断る方が良かったのかなぁ……
 ぐるぐると、自問自答が脳内を巡っている。
 和津沙の綺麗な顔が、悲しげにひそめられるさまを思い浮かべると博雅の胸が痛む。
「はぁ〜……」
 和津沙に悲しい顔はさせたくない……だが、気持ちに応えてやれるか不安だった。


 中略

 驚嘆と喜びに満ちた吐息が漏れ、細い腕が博雅の首にしがみつく。
「……ぁ……は、あぁ、マサさん」
 あわく開いた和津沙の唇が、何度も唇を啄んでくる。
 その感触がくすぐったく、いたいけで、博雅は少しの間共に暮らした猫の事を思い出していた。
 甘えてくる猫を撫でるように、和津沙の細いうなじを撫でると、首をすくめて小さく笑っていた。
「ふふ、くすぐったい」
 喜色のこもった吐息が唇に触れ、その熱に博雅の腹の奥がぞわりと蠢いた。
「……マサさん……」
 熱を帯びた呼びかけに薄く瞼を開くと、蕩けた顔をした和津沙がじっと瞳を覗き込んでいる。
 腹と腹がぴったり重なり、寄りかかってくるのを受け止めると、硬い感触が下腹部に当たる。
 思わずびくっと肩が跳ねた。
 端正な顔をした和津沙の男の部分を押し付けられて、博雅は動揺する。
「マサさん……好き」
 うっとりと呟く和津沙の腕が、きつく博雅の首すじに抱きつく。柔らかい唇が博雅の下唇を食み、熱い舌が挿し込まれ歯列を舐られる。
 隙間なく重なった腹に、へコヘコと擦り付けられる和津沙の肉棒を意識して、博雅は息継ぎを忘れてしまった。
「はっ、はっ! まて和津沙っ……」
 まるで初心な生娘のように固まっている博雅の手を取って、和津沙は艶然と微笑むと、それを自身の下腹部へと導いた。
 手のひらに触れた他人の性器の感触に、博雅は息を呑む。
 興奮に頬を紅くして、欲のとらわれた若い男の勢いに飲まれて、碌に制止もかけられなかった。
 戸惑う博雅の耳元に、熱に浮かされた和津沙の声が落ちる。
「俺も、マサさんの触っていい?」
 お願いの様相を呈しているが、和津沙の手は既に博雅のゆるく勃ち始めた陰茎を撫でている。
「マサさんも、ちょっと勃ってる。嬉しい」
 布団の中を覗き込んで、和津沙は嬉しそうに笑っている。
 和津沙が再びきつくしがみついてきた。
「一緒にしよ? マサさんお願い……」
 熱っぽく囁く和津沙に弱点を握り込まれ、ゆるゆると扱かれると、抗いがたい快感が腰から全身を駆け巡った。
「う、ぅ」
 思わず声が漏れる。羞恥に唇を噛もうとした瞬間、和津沙の唇にふさがれた。
 片腕は首に巻き付いて、片手で器用にスウェットと下着をずらされた。
「はっ、はぁ♡」
 剥き出しになった陰茎をじかに扱かれ、博雅は自身でも恥ずかしくなるくらい熱のこもった息を吐いていた。
「……俺のも、して♡」
 和津沙の切羽詰まった声が舌に絡まってぞくりと肌が粟立った。
 腹の奥で疼く熱に浮かされ、気づいたら博雅は和津沙のスウェットの中に手を入れていた。ガチガチに固くなっている肉棒を握り、激しく扱く。
「あっ♡あっ♡あっ♡マサさん♡あっ♡あっ♡きもちい♡好き♡んっ♡んぁ♡」
 和津沙は、面白いように博雅の手に翻弄され、甘く艶めいた声を上げて、はしたなく腰を揺らしている。
「あぅ♡うっ♡ふぁ♡……はぁ♡はっ♡あぅ♡」
 トロトロとした粘液を垂らす亀頭を撫でると、和津沙の腰がびく♡びく♡と不規則に震えた。
 喘ぐ唇が、必死に吸い付いてきて、ねっとりと濡れた舌を絡ませてきた。
「ん゛♡うぅ♡」
 縋るように絡む舌に、口内を舐られて博雅の喉から呻きが漏れた。
 快感の礼に、扱く手を速めると和津沙の背が反り甘い嬌声が上がる。 



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鶯命丹 2024/06/17 19:00

 ツノ舐め【全文10900字】

【お試し読み】ツノ舐め【全文10900字】



 夫婦♂になった鬼退治得意な桃瀬くんと鬼のおじさん鬼田さんが仲良く一緒にお風呂に入る話。
 攻めが受けのこと奥さん呼びしたりします。
 
 濁点喘ぎ・♡喘ぎ・いちゃらぶ・野外立ちバック・玉舐め・尻舐め
 



――――――――――――――――――


 夫婦となり、ともの暮らすようになって数日。
 桃瀬の視線が、隣で汁物をすする鬼田の髪をじっと見つめている。
 生えるままに自由に伸びてる蓬頭を見て桃瀬は「鬼田さん、髪を洗いましょうか」とぽつりと言った。
 すげなく断られるかと思っていたら、鬼田は椀から顔を上げて上機嫌に返答をくれた。
「おう、いいな。じゃあ風呂に行くか」
 思ってた以上の快い返答に、桃瀬は切れ長の目を見開いて鬼田を見返している。
「なんだよその顔」
「いえ、なんでも」
 静かに頭を振る桃瀬に、鬼田は一瞬眉根を寄せて訝しむが、すぐに飯をかきこんで昼餉を終えた。
「まぁいいや。とりあえず飯を食ったら早速行くぞ。早い方が良い」
「出かけるんですか?」
「ああ」
 桃瀬の想定としては、近くに掘った井戸から水を汲んできて沸かした湯で髪を洗うつもりだったが、鬼田はどうやら違うらしい。
「鬼田さんいつもどこで髪を洗ってるんですか?」
 慌てて昼餉をかきこみながら問いかける桃瀬に、鬼田はにやりと笑って立ち上がると、自分の食い終わった食器を土間へと運び、洗い桶につけて戻って来た。
「早く食え。先に行くぞ」
 ニヤニヤと意地悪を言う鬼田に、最後のひとくちを口に入れた桃瀬がバタバタと食器を洗い桶につけに行く。
 鬼田は、桶を出してくるとその中に洗って畳んでおいた着物とふんどし、手ぬぐいを入れ、立ち上がる。
「よし、行くか」
「どこへ行くんですか?」
 慌てて後を追う桃瀬に、鬼田はいたずらを企む子どものように含み笑いを浮かべるだけだった。

 


 棲み処から、少し山中を歩いたところに川がある。
 ごうごうと流れる川のしずくが風にあおられ、午後の明るい陽射しにきらきらと反射しながら大小数々の石が転がる川原に散っている。
「川で洗うんですか? まだ少し寒くありません?」
 首を傾げる桃瀬に向かって、鬼田はニヤリと笑うと「まぁ手伝えよ」と着ていた着物を脱ぎ、ふんどしに一丁となって川に入って行く。
 川原との境になる浅瀬に立ち、屈むと太い腕で川底を掘っていく鬼田。彼に続いて、桃瀬も着物を脱ぐ。
 川底を掘る鬼田の近くへ駆け寄ると同じように川底の石をどかして掘っていく。
 石を退かしていくたびに砂土が水中に、煙のように沸き上がり、川の水に流れていく。
 黙々と川底を掘る鬼田に合わせて、桃瀬も手を動かしていくと、もわっと水中に蜃気楼が立ち昇ったように見えた途端、手指に熱気が当たる。
「わっ、あつっ! えっ? お湯だ! これが目的だったんですね」
 突然の熱さに、驚いた桃瀬が顔を上げて鬼田を見ると彼はにっと顔を綻ばせて頷いた。
「やっと湯が出てきたな。熱いだろ。あとは俺がやるからお前は下がってろ」
「はい、ありがとうございます」
 皮膚の強い鬼は、沸く源泉の熱さを物ともせず、鬼田は川底を掘って行く。
 川原と川のはざまに出来ていく大きな窪み。
 土に濁ってた窪みの水は、鬼田の大きな手のひらが深く広く掘ることでこんこんと湧き出てる湯に押し流されて澄んで行った。
 窪みに溜まった熱い源泉の湯は、すぐ脇を流れる川との境目を曖昧に崩すと、冷たい川の水が流れ込んで来て、ちょうど良い温度に覚ましてくれる。
「そろそろ大丈夫か? おい、桃瀬。ちょっと湯を触ってみてくれ」
「すごい。あっという間に温泉が……」
 広く掘られた湯船に感心しながら桃瀬は、湯に手を入れる。
 川の水が常に流れ込み、触れる湯は滑らかでちょうど良い。
「大丈夫です。とてもいい湯加減ですよ」
「よし! じゃあ入るか」 
 顔を綻ばせ頷くと、鬼田は得意げに笑って早速ふんどしを解いた。
 ざぶざぶと湯を蹴立てて掘った湯船の中心に来ると、肩まで浸かる。
「あ〜……あったけぇ……ほら、お前も早く来い」
「……お邪魔します」
 呼ばれた桃瀬もふんどしを解き、恐る恐る湯へ足を浸ける。きちんと適温になっている湯の中に肩まで浸かるとじわぁ、と身体を包む多幸感に桃瀬もため息をついた。
「おわ〜……あったかいですねぇ……」
「そうだろ……」
「そっちに行ってもいいですか?」
「お~……」
 だらけた返事の鬼田に向かってぷかぷかと浮かびつつ近づいて行く桃瀬。
「あち! うわっこの辺、下が熱い!」
 温泉はどうやら鬼田の居る湯船の中心から湧いてくるらしい。
 足の裏をかばいつつ、桃瀬は湯船の中を跳ねながら川の水が流れ込んでくる方に逃げた。
「あれ、熱ぃか? もっと川の水が入るように掘れば良かったな」
 湯の中に後頭部さえ浸けてだらけていた鬼田が頭を上げて桃瀬を見た。
「いえ、お湯はちょうど良いんですけど、そこの辺だけ足元が熱くて」
「そっか、下から湧いてくるからなぁ。そんならここ座るか?」
 鬼田は桃瀬の方へ腕を伸ばし、腋の下に手を入れて抱き上げると自身のあぐらの上に乗せた。
「あ、ありがとうございます」
 鬼田の膝に乗せられた桃瀬は裸の肌が触れてしまわないように、なるべく小さく丸まった。
 真っ赤に染まった顔は湯の熱さだけではなく、潤んだ瞳は落ち着きなく彷徨う。
 それに比べて鬼田は、桃瀬を膝に乗せたまま湯船のふちに頭を預けてだらりと脱力している。
 無防備な鬼田の存在を裸の背中で感じた桃瀬はますます動揺した。
 桃瀬は鬼田をよこしまな目で見ているというのに、彼の方はまったくそんな事も考えつかないような素振りで、だらりと脱力している。
 純粋に温泉を楽しむ鬼田を邪魔するのは忍びない。桃瀬は腹の中にもやもやとくすぶる熱を理性で抑え付けて、鬼田の分厚い胸板に頭を預けた。この弾力を味わうくらいは許してもらいたい。
 張りのある分厚い肉に頭を擦り寄せると、ほかほかと温かい。
 目を閉じて鬼田の弾力と熱を堪能していると、川の流れる音や、木々の葉の擦れる音が意識にのぼってくる。
 閉じた目蓋越しに差す午後の柔らかい日差しに、涼しい風が熱った頬を冷ます感触に、桃瀬の気持ちも次第に落ち着いてきた。自然と深く息を吐く。
「……はぁ〜……気持ちいいですねぇ……」
「……お〜……」
 話しかけると、随分と間延びした返事が返って来た。

 

「ふぅ〜……すみません。熱くなってきたので先に出ます。ついでに鬼田さんの髪、洗ってあげますね」
「おぉ、助かる」
 桃瀬は持ってきた桶の中身を乾いた大きい岩の上に置くと、その桶に湯汲んで湯船の淵に預けた鬼田の頭にそっとかけた。
 湯をすくっては髪を濡らし、頭皮を温めるのを繰り返す。濡れ髪に持って来た櫛を何度も通して、湯で温まり柔らかくなった頭皮を指先で揉むと、鬼田は大きく長く息を吐いた。「……あぁ〜……極楽だぁ……」
「気持ちいいですか?」
「あぁ、いい心地だ……」
 ぐにゃりと脱力する鬼田を見下ろして、桃瀬は笑った。
 よく湯で洗って、櫛で丁寧に梳かしていくと、広がってボサボサとしていた鬼田の髪は真っ直ぐ流れるようにまとまってなめらかに櫛が通るようになる。
 乾いた手ぬぐいで水気を拭き取って「はい! 綺麗になりました」と桃瀬が満足げに言うと、鬼田は湯船のふちから頭を上げた。
「じゃあ次はお前だな」と桃瀬を振り返ってにやりと笑った鬼田。
「え、いや、私は……」
「いいからいいから。ほら、交代しろ」
 のっそりと湯から立ち上がると、桃瀬を抱き上げ湯船に下ろす。押し切られてしまった桃瀬はおずおずと湯船のふちに頭を預け、鬼田を見上げた。
「それでは、お願いします……あの! 優しくしてくださいね。頭の皮剥がさないで」
「そんなに乱暴じゃねぇよ」
 不安げに言う桃瀬に苦笑すると、鬼田はまとめていた少年の長い髪を解いて手櫛を通す。
 桶からすくった湯をかけて、頭皮を洗う鬼田の手つきは桃瀬が思っていた以上に丁寧で優しい。
「う、本当に優しいですね……」
「そうだろ。痛くねぇか?」
「痛くないです。気持ちいい……」
 太い鬼田の指が、慎重な手つきで髪をくしけずっていく。大切な壊れ物に触れるような丁寧な所作を感じて、桃瀬は頬を赤らめた。
「なんだ、お前顔真っ赤じゃないか。熱いか?」
「い、いえ! 大丈夫です」
「そうか? なるべく早く済ますから」
 丁寧に扱われることへの嬉しさと、気恥ずかしさに紅潮した桃瀬の顔を見た鬼田が心なしか手早く髪に櫛を通し、手拭いで髪を拭う。
 急いでいる手つきではあったが、髪が絡むことも、引っかかって頭皮に痛みが走ることもなく洗い終えた。
 桃瀬ははにかみつつ「髪を洗うの、お上手ですね」と話しかけた。
「そうか?」
「ええ。梳かされててちっとも痛くなかったです」
「痛くないなら良かったよ。おし、大体拭けたぞ」
「ありがとうございました。私は熱くなってしまったので出てますね」
「おう。俺はもう一度あったまってから出るわ」
 桃瀬は湯の中から上がり、交代するように湯の中に戻る鬼田のそば、湯船のフチに座って涼む。
 ほかほかと火照った身体に吹き抜ける川辺の風が涼しい。
「風が気持ちいいですね」
「ああ」
「なんだか贅沢ですね」
「そうだなぁ……酒持ってくれば良かったなぁ」
 桃瀬は、午後の明るい日差しの中で湯に浸かる贅沢に笑い、少し下にある鬼田の顔を見下ろす。
 鬼田の顔や肩口は赤らんでいた。
「鬼田さん。顔赤いですよ? 熱くないんですか?」
「そうか? そこまでじゃないぞ」
「真っ赤ですよ。こんなに赤いのにお酒なんか呑んだら身体に良くないですよ」
「人間じゃねえんだ、そんなヤワじゃねぇよ」
 鬼田は、湯船のフチに頭と腕をだらりと預けてくつくつと笑っている。
「本当に? だって角の根元の皮膚まで赤くなってますよ」
 鬼田の額、髪の生え際にある皮膚を突き破って生える角の根元は、顔と同じくらい赤く熟れたように色づいていた。
 赤くなった根元に指先で触れるとほかほかと火照っている。
「ああ、ほらやっぱり。ほかほかしてますよ」
「そうか?」
「ええ、こんなところも赤くなるんですね。でも角の部分は冷たい、かな?」
 桃瀬は角をよしよしと撫でた。鬼田はそれを意に介さず、じっと目を瞑ったままされるがままになっている。
「痛くない?」
「痛くねぇよ」
「感覚は、ある?」
 そう問うと、鬼田はちらりと瞼を開けて桃瀬を見た。薄くすがめた鬼田の瞳と、桃瀬の視線がかち合う。
 少し考えるように軽く頭が傾き、その後すぐに「根本のとこだけ。皮膚の境のとこだけちょっとある」と鬼田は言った。
「そうなんだ」
 呟くように返事をすると桃瀬は角を撫でていた手を下げて、額近くの、盛り上がった皮膚を指先で撫でた。
 硬いような、柔いような、不思議な感触に夢中になって桃瀬は指先でいじくり、擦り、指圧をし続ける。
 長く湯に浸かっていたせいか、ぼーっとしながら、桃瀬は指を動かして肉の盛り上がりに触れ続けている。すると低い笑い声が聞こえて来た。
「くすぐってぇよ」
 小さく頭を振って自分の手から逃げようとする鬼田がおかしく、桃瀬は手を伸ばして逃げる角を追った。
 桃瀬の指が鬼田の額に触れる。
「やめろって」
 顔を逸らして逃げる鬼田の表情は柔らかい。
 逸らされた顔を腕に抱きしめて桃瀬は角に唇を寄せた。
 ちゅっ、ちゅっ、と可愛らしい音を立てて、桃瀬は盛り上がった肉を吸い、舌先を伸ばして角と、めくれ上った皮膚とのさかいを舐めた。
「んっ、ふふ」
 くすぐったいのか、鬼田は首をすくめて小さく笑っている。
 甘い反応が返ってきた事が嬉しく、桃瀬はますます鬼田の頭をかき抱き、角に愛撫を繰り返した。
 角の先から口付けを落としていき、根本にまで降りてきたら舌でべろりと一周舐る。
「ふ、ふふ……んっ、何がそんな楽しいんだ」
「あなたの反応が可愛らしいから……あと、このめくれた皮膚が、私を受け入れてくれた時の尻の穴みたいで……♡」
 言い訳をしながらも、桃瀬の唇は角に吸い付いき、角と皮膚の間に舌先を挿しこみ、舐め回していた。
「ははっ見るもんすべてがすけべに見えて、そんでこんなに興奮してんのか?」
 鬼田はからかうと、自分の頭を抱え込み角を舐める桃瀬の細腰を抱き寄せた。
 桃瀬の下腹部には既に甘く勃ち始めている陰茎がある。鬼田はそこに、ふっ、と息を吹きかけ指先でくすぐるように裏筋を撫でた。



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鶯命丹 2024/05/21 20:00

子豚ちゃん種付け(全文7900文字)



【お試し読み】


「あらすじ」
 受けがオナホに必死に腰振って射精するところが見たい攻めの話
 吸血鬼×スキンヘッド小太りのおっさん

「注意」
 ショタ攻め・吸血鬼・吸血・カニバリズム・受けのオナホ射精(雄堕ち?)・おっさん受け・デブ受け・ハート喘ぎ・おほ声

 小太りのおっさんが美しい攻めにスケベされてると嬉しい人が読む話
 一応美少年吸血鬼×子豚ちゃんのシリーズものなので、一番最初に出した本と同じ表紙を挿入しました。
 最近雄堕ちなるジャンルを見て驚いた。これ雄堕ちであってるかな? 
 
――――――――――――――――――――――――――――――
 
 夜の時間に部屋にいると訪ねてくるものがいる。
 慣れたものでノックの音に返事をすると「開けて~」と高い声がする。
 自分で開けれるだろう……とため息交じりに立ち上がるとドアを開ける。
 ドアの向こうには大きなクマがいた。
「は?」
 驚いて間抜けな声が出た厚司にぐっと押し付けられる柔らかくふわふわとしたクマのぬいぐるみ。
 思わずそれを抱えるとクマの後ろからひょっこりと咲夜が顔をのぞかせた。
「かわいいテディも一緒に遊びに来たよ」
 いたいけな笑顔を浮かべて部屋に入ってくる咲夜。
 一緒に来たテディと呼ばれたクマのぬいぐるみは厚司が一抱えするほど大きい。
「なんでこんなの持って来たんだよ」
「えぇ〜? いいでしょたまには」
 咲夜は微笑みベッドの上に腰掛けるとテディを自身の膝に乗せ「ねぇほら、見て見て!」とぬいぐるみの足を広げてみせた。
「な、んだそりゃ……」
 咲夜と変わらない大きさのテディベアの、ちょうどまたぐらの所には作り物の膣がはまっていた。
「子豚ちゃんのかっこいい種付け腰振り見たいなぁって」
「はぁ?! 何言ってんだ」
「お願いお願い! いつものおちんちんおねだりの腰振りもかわいいけど、たまには子豚ちゃんのかっこいいところも見てみたいんだもん!」
「嫌に決まってるだろそんなの」
 大きなテディベアを押し付けられたので、それを避けてしかめっ面をする厚司。
「ちぇ〜……じゃあ普通にするか〜。面白いと思ったんだけどなぁ」
「なんも面白くねぇよ」
 早々に諦めた咲夜はベッドの上にテディベアを放ると、厚司の膝の上に乗り上げた。猪首に腕を回し、頬や顎へとついばむように口付ける。
「んっ」
 厚司は無抵抗で口付けを受け入れて、咲夜の細い腰へ腕を回した。
「んっ♡ふふ♡子豚ひゃんしゅき♡んぅ♡」
 互いの唇を食み、舌を絡めて舐ると咲夜が蕩けた目を細め、華奢な喉奥から甘ったれた嬌声をこぼす。
 くちゅ、と音を立てて離れていく咲夜の舌。
 可憐な唇は厚司の顎を辿り、吸い痕を付けながら首すじへを降りていく。
「うっ♡ぐ、ん゛♡うぅっ♡」
「子豚ちゃんの首♡どくどくしてる♡」
 咲夜はぞぶ、ぞぶ、とはしたない音を立てて、厚司の首すじをしゃぶり、血管を舌でたどる。
「ん゛あ゛ッ♡」
 首すじに走る甘い刺激に、厚司の腹の奥が重く怠く疼く。それを見計らったように、ざぐ、と皮膚に深々と咲夜の牙が刺さった。
「い゛ッ、あ゛ッ!」
 何度経験しても、最初のひと口目にある強烈な痛みに慣れない。濁った悲鳴が喉からほとばしり、じゅるじゅると啜る振動に、厚司の首に緊張が走る。
「ぐっ、ぅゔゔっ……ぎっ」
 ずぶぶっ、じゅずっ
 血を啜られる音の気色悪さに鳥肌が立つ。
 ちゅく、くちっ
 舌で傷口を啜られる痛みに、眉をしかめて歯を食いしばる。
「ぐッう゛う゛……お゛、ん゛ッ……あ、あ、ふ♡う、ん♡」
 先程まで強い痛みであった血肉を啜る振動が、徐々に甘い性感の刺激となって厚司の肉体を支配していく。
「あ、あ♡……あっ♡うぅ♡ん、ぁぁ♡」
 しかめていた眉が徐々に弛んでいき、ぽかんと開いた口から、情けない呻き声が漏れるのを止められない。
 咲夜はふと首すじから顔を上げて厚司を見下ろす。獲物が蕩けた表情をしているのを見て、血に汚れた唇で艶然と微笑んだ。
「はぁ〜♡美味し♡」
「う、ぅ♡……気色わる。悪趣味め」
 甘い笑みを向けられ、厚司の腹の奥がぐるりとうねる。疼く腹の奥に羞恥して、裏腹な悪態をついた。
「悪趣味でいいも~ん」
 厚司の心の内を見透かして、咲夜は目を細めると再び首すじにしゃぶりつく。尖った牙を皮膚に当てて噛み、深く突き立てる。
「あ゛っ♡ぐ、ん♡うぅぐ♡」
 厚司の首がすくめられ、媚びの含まれた低い唸りが漏れる。肉を食む唇に肌がくすぐられ、傷口を舐る舌の感触に厚司はじりじりと身をよじって呻き続けた。
 捕食者の気が済むまでずるる、じゅぶっ、と音を立てて血を啜り、離れていく唇。
「はっ♡はぁっ♡あっ……」
 じれったい快楽が離れていき、厚司は荒く短い呼吸を繰り返しながら咲夜の姿を目で追っている。
 咲夜はにんまりと笑んだ目の奥を獰猛に光らせて、赤い唇から舌をでろりと垂らす。
「子豚ちゃんの雄っぱい♡いつ見てもかわいいねぇ♡」
 濡れた舌が厚司の乳首を舐め、赤く小さな唇が、ちゅく、ちゅくと吸った。
「ん゛ッ♡うぅ、ふ♡うっ♡んぉ♡おんっ♡」
 柔い粘膜に吸い転がされて、歯でちくちくと噛む刺激にぞわぞわと肌が粟立つ。
 咲夜のほっそりと小さな手のひらが脇腹を撫で、下腹部をぴったりと寄せ合わせられるだけで、厚司の腰がはしたなく揺れた。
「あ゛っ♡あ゛う♡うぅ……♡さ、く♡咲夜♡あ゛っ♡もう♡も゛、ほしっ♡い゛ぅ♡」
 弱火で炙られるようなじりじりとした快感と羞恥に厚司の顔はゆでだこのように赤い。恥を忍んでねだったのも虚しく、咲夜は甘く美しく微笑むだけで、身体を起こし離れてしまった。
 咲夜は意味ありげに笑みながら、ベッドの脇に転がっていたクマのぬいぐるみを持ち上げた。
「ほら見て? テディのここ、ぬるぬるになってるよ♡」
 咲夜に細い指がテディの足を広げ、その根元に開けられた穴を広げる。
 人工的に開けられた穴には、ローションのたっぷり詰まった女性器を模したおもちゃがあった。
「ここ、ぬるぬるでえっちな音がしてるでしょ? ここにおちんちん挿れたら気持ちいいと思わない?」
「はっ、あ゛っ♡うぅ……」
 喜色満面で咲夜はおもちゃのナカに指を挿入し、ぐちゅ、ぐちゅと卑猥な音を立ててかき混ぜた。
 その光景は、吸血鬼の淫毒に侵された厚司の欲情を掻き立てる。
 薄く開いた唇から荒く息を繰り返し、勃起した陰茎をびく♡、びくっ♡と跳ねさせながら蕩けた視線で咲夜の指とそれが擦るおもちゃの膣口を睨み付けている。
「テディも子豚ちゃんに種付けしてほしい♡って言ってるよ」
 咲夜は発情する厚司を見下ろしながら、テディに装着されたオナホを厚司の勃起した陰茎にあて、一気に下へ下す。
「おい! ま、待てっあ゛っ♡お゛ッ♡ぐっ♡お゛ぉ゛♡」
「ああ! すんなり入っちゃった♡ほら! 腰振って射精して♡」
「うぅっ♡くそっ! ぐ、お゛っ♡お゛ッ♡ン゛ッ♡お゛っ♡お゛ぉ゛ぉ゛♡」
 勃起した陰茎がトロトロのオナホに飲み込まれた途端、厚司は蕩けきった吠え声をあげて腰をカクカク♡と突き上げた。
「あははは! すごいすごいっ♡子豚ちゃんかっこいい~♡素敵だよぉ♡ああ♡テディが妊娠しちゃう♡はぁ~♡好きぃ♡」
 ベッドに膝を立て足を踏ん張り、必死にテディを突き上げている厚司の姿を見て咲夜は手を叩かんばかりにはしゃぎ、歓声をあげた。
「くそっ♡お゛ッ♡うお♡お゛ぉ♡お゛ッ♡お゛ッ♡ぉん゛ッ♡出る♡くそっ出るッ♡ぐッ♡」
「はぁぁ♡かっこいい♡子豚ちゃんの射精腰振り最高♡興奮する♡ああ、子豚ちゃん射精するの? いいよ♡テディに中出しして♡テディに種付けしてるとこ僕に見せて♡」
「ん゛ぉ゛♡お゛ッ♡ぐッ♡で、る゛ッ♡出る♡出るッ♡ふッ♡、い゛ぐぅ゛ッ♡」
 ぐちょっ♡ぐぢょっ♡と、結合部が泡立つ程の激しい腰振りが一瞬止まり、ぶるるっと厚司の尻肉が揺れた。上下に揺れる腰は止まらず、ぬぢゅっ♡にちゅっ♡、と卑猥な音を立て続けている。
「わぁっ! イッた? 子豚ちゃん、射精した? あぁ~♡すごい♡子豚ちゃんテディでイッちゃったの?」
「あ゛っ♡あ゛ぁ゛♡イ゛ッたぁ゛ッ♡イ゛ッたのに゛っ♡うぅ♡ぐッ♡イ゛ッ♡イッたのに止まんね゛ッ♡あ゛っ♡足りね゛ぇよ゛ぉ♡」
 厚司はぐずるように低く呻き、ヘコッ♡ヘコッ♡と絶えず腰を振っていた。
 にちゅッ♡ねぢゃッ♡とねばつく音が絶えずテディと厚司の結合部から響いている。
「あ゛ッ♡はぁ♡はっ♡あ゛っ♡はぁっ♡あ゛ぁ゛っ♡うぅぅ♡」
 厚司は喘ぎ、テディに腕を伸ばす。正確にはテディの背後にいる咲夜に取り縋るために腕を伸ばしているが、咲夜は非情にもそれを避けた。
 支えていたテディを離して厚司の胸に押し付ける。
「テディに種付けする子豚ちゃんかっこよかったよ♡もっとたくさん見たいなぁ♡」
 咲夜の手が厚司の身体を撫でる。


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鶯命丹 2024/05/18 12:24

桃○郎×鬼(全文16000字)

「お試し読み」



 節分の時に考えてたのに出来たのは今。
 物語はフィクションです。この世の現実のあらゆる事象とは関係ありません。
 
「注意」
 飲酒・飲酒からの性行為・攻めのフェラ・年下攻め・美形攻め・ガチムチ受け・おっさん受け・人間×人外・軽度の損傷
 

「あらすじ」
 山奥でひっそりと暮らす人畜無害の鬼、鬼田さんはある日はやとちりで鬼・怨霊特攻持ちの若武者、桃瀬くんに襲われ命からがら逃げ出す。
 誤解を謝罪して傷モノにしたお詫びに鬼田さんを娶る桃瀬くんの話


「登場人物」
攻め――桃瀬。人間・若武者・美しい

受け――鬼田。鬼・ガチムチ・おっさん

――――――――――――――――――――
 

 昔々、あるところに鬼がいました。
 鬼の名は鬼田。
 ザンバラ髪からのぞくツノに、恐ろしい牙。
 七、八尺は、あろうかという巨体は筋骨隆々。
 吊り上がったまなじりに鋭い三白眼。
 いかにも鬼と言った恐ろしげな容貌の鬼は、人里はなれた山奥で静かに暮らしています。
 里に降りる事もあるが山で採った山菜や育ち過ぎた木を伐採した薪木などと、里の米や野菜と交換するためであり里の者たちとの関係は良好でありました。
 しかし、そんな人畜無害の鬼のもとに、嵐のような出来事が起こるのでした。

 

「お前がこの山に棲みつく悪鬼であるか!」
「ん?」
 森にこだまする大声に鬼田が振り返ると、そこには若武者が立っていた。
 美しい武者であった。
 緑なす黒髪をひとつに結び、すらりとした体躯は若い牡鹿のように生命力に溢れている。
 少女にも見える顔立ちは険しく、柳眉をひそめて鬼田を睨んでいた。
 腰に差した刀を既に抜き放ち、切先を鬼田の方へ向けている武者に鬼田は応えた。
「鬼狩りかぁ? オレは鬼だが悪さはしとらんぞ」
「問答無用!」
 どっこいしょ……とのんびり立ち上がる鬼田に対し若武者は力強く踏み込み、刀を振りおろす。
「おっと! いやいや、ちょっとは話を聞けや!」
 紙一重で身体捻り刀を避ける鬼田に、若武者は二度三度と剣戟を繰り出した。
 渋面を浮かべる若武者のうら若き容貌とは裏腹に、その剣戟は熟達と言っても過言ではなかった。
 ――これは、当たったらタダじゃすまねぇな。
 鬼田は内心冷や汗をかきながら、空気を切り裂く音を立て振り回される切先を避け、少しずつ後退していった。
 鬼田の足さばきから、逃走する腹積もりを見切った若武者は、自らの懐から素早く何かを取り出して鬼へと投げつける。
「うがっ!」
 それは豆だった。
 思わず右腕をかざし顔を庇う。
 ただの変哲もない豆は信仰によって鬼の苦手な物とされ、鬼田も例外なく豆が苦手だ。
 当たるとやたら痛い。当たった後もじくじくと痛み、不快なあざが長く残ってしまう。
「いででっ! こらっやめろ!」
 叫んだと同時にシュッ、と風が切る音が鳴り、顔の前に翳した腕にひやりとした感触が走る。
「い゛っ! ぐあ゛」
 翳していた腕がごろりと落ちて、鬼田の視界が開ける。
 正面には刀を振り下ろしている若武者の姿があった。
 顔を庇った腕が、若武者の刀によって切り落とされたのだと理解したとともに、鬼田の全身が痛みと熱さに支配される。
「お゛、ぐぅっ……あ゛っ……ぎ、い゛っ」
 痛みに喉が潰れ、脂汗がどっと噴き出る。
 落ちた腕は草土の上を、ぼと、ぼとっ、と跳ねて転がり若武者の方へ行ってしまった。若武者の草履が、転がる鬼田の腕を踏み付ける。
 刀を振り、切先についた血を払う若武者は、冷酷な目を光らせて再び駆けた。
 ――まずい! ありゃ相当力のある退治屋だ。分が悪すぎる。逃げ切れるか?
 背中につたう冷や汗とともに思考し、ほんの一瞬、背後の気配を探る為に走る速度をわずかに落とした瞬間。
「逃すか」
「ぎゃっ」
 鋭い声が背後からかかる。
 温度の無い冷えた声に、鬼田の顔から、さぁ、と血の気が引く。
 反射的に地面に飛び込むように転がり逃げた後、シュッ! と空気を裂く鋭い音が鬼田の鼓膜を震わせた。
 ――まずいっまずいっまずいぞ!
 地面を転がる勢いで再び立ち上がり走り出す鬼田。
 すぐ後ろから、恐ろしい殺気が追って来ていた。
 純粋な脚力では鬼の鬼田に及ばないようだが、しかし、着々と向かって来る気配は乱れることがない。
「俺が何したってんだよっ」
 悪態をつきながら鬼田はひたすら地を蹴った。
 必死で山を駆けて、駆けて、そして鬼田は滝へと追い詰められていた。
「ああっ! くそっどうする……」
 下を覗けば大量の滝の水が、ごうごうと音を立てて落ちている。
 白い飛沫を上げる滝壺が遥か下に見えた。
 滝壺は深く、常に上から落ちて来る多量の水のせいで水流が下へ下へと流れているので、一度落ちるとなかなか浮かんで来れない。
 しかし、後ろからは若武者の気配が迫っている。
「イチかバチか……」
 渋面とともに低く呟くと、鬼田は滝に飛び込んだ。


 
「滝壺に落ちたか……いくら鬼とは言え、この高さの滝から落ちれば這い上がれずに死ぬだろう……よし。これで周辺の里の者も安心して暮らせるな」
 遠目から鬼田の動向を睨んでいた若武者は、辿り着いた滝の上から、滝壺を覗き込む。
 ドドド、と轟音を立てて落ちる滝の勢いは激しく、たとえ鬼といえども片手を無くし、血を失った状況で無事でいるとは思えない。
 若武者は刀を鞘に納めると来た道を戻っていった。
 
 
 鬼と遭遇した場所へ戻ると、若武者――桃瀬は、切り落とした鬼の腕を探した。
「あった、あった。これを首級の代わりに持ち帰るか」
 鬼の腕は血溜まりの中にあった。血を失っているはずなのにいまだ血色が良く、しめたての魚のようにぴく、ぴくと痙攣している。
 鬼の屈強な腕の肘から下を、封印の札だらけにすると立ち上がる。
「これで父上は私を跡目にしてくださるはずだ」
 桃瀬は切り落とした鬼の腕にほほ笑みながら、鬼の棲家である山を降りた。

 
 
 鬼の棲みついていた山を降り、一番近くの集落にたどり着いた桃瀬は、村の長のもとを訪れ、得意げに語った。
「三角山の奥に棲む悪鬼は無事にこの桃瀬が調伏致しましたゆえ、どうぞ皆様ご安心ください」
「……はぁ……? 悪鬼なぞ、三角山におりましたかな?」
 息巻く桃瀬とは対照的に、村長は呆けた顔で小首を傾げた。
「いましたよ。三角山の大きな滝の上流にある洞窟の付近に棲む身の丈が七、八尺はある大きな鬼が……」
「ああ、鬼田さん。この村とも馴染みですよ。鬼田さんが見繕って持って来てくれる木材は良い物でしてね。村で使っても、よそに売っても高値がついて助かってます」
「えっ?! 助かって、る?」
「ええ。助かってます。山菜がよく採れる所に子どもらを連れてってくれたり、狩った猪の肉を分けてくれたりね」
「えっ……」
「わしらも米や芋なんかを代わりに渡したりして、上手くやっとりますよ」
 村長はそう言って朗らかに笑った。表情に嘘は見えない。本当に真実を語っているのだろう。
 桃瀬は嫌な予感に冷や汗をかきながら問いかける。
「……ち、近くにある他の集落はどうです? 鬼に攫われた女子どもやら、家畜が喰われたりとか、されてるんじゃないですか?」
「他の村で? 鬼田さんが? ナイナイ! あんな気のいい鬼田さんが人攫いだなんだとする訳ないでしょう。三角山の周辺で鬼田さんの世話になってない村は無いですし……むしろうちの娘を是非嫁にって方々から親が殺到しますよ!」
 大口を開けて快活に笑う村長を見て、桃瀬の嫌な予感は的中した。


――― 中略 ―――

酒豪を誇る鬼だとて、大きな背負いカゴいっぱいの徳利を飲み干せば、前後不覚になる程に酔っ払ってしまう。
 ヘラヘラと笑いながら壁に寄りかかって目を閉じ、盃に入った酒を舐めている。
「鬼田さん、このお酒気に入りました?」
「おう! こりゃあいい酒ら! 毎日水代わりに呑みたいぐれぇら」
 鬼田は目尻を下げて呂律の回らない物言いをしてくすくすと身体を揺らして笑っている。
 その言葉に桃瀬は喜色満面に頷くと、鬼田の身体にもたれかかり、耳元で囁いた。
「そんなに気に入ってくれて嬉しいです。実はこのお酒、私と結婚したら毎日いっぱい飲めますよ?」
 大きな鬼の耳に、桃瀬の薄い唇が触れる。
 吐息交じりに囁かれた言葉に、鬼田はぐるりと首を巡らせて酒に蕩けた目でじっと桃瀬を見つめている。
 酔った頭は桃瀬の言葉を正しく理解できず、普段であれば怒り出していただろうに鬼田はにっかりと笑って言った。
「お~! そりゃあいいらぁするか〜結婚!」
「本当に? 本当に結婚してくれますか?」
「するぞ〜! してやるからもっと酒よこせぇ~」
「ああ、嬉しい……約束ですよ」
 蕩けた三白眼を覗き込む桃瀬の瞳は重い熱情がこもっている。
 細い手で徳利を持ち上げると、それにそのまま口を付けて中身をあおる。
 酒気混じりの息を吐く厚い唇に、桃瀬はそっと酒に濡れた唇を合わせた。
「ん、ふ……もっとくれぇ~さけぇ」
 鬼田は桃瀬の小さな顔を両手で包み、若く可憐な唇にちゅっちゅっ、と音を立てて吸い付いている。
 酒の味を求めて舌を伸ばし、桃瀬の口内へと侵入した鬼田の舌は、入念に小さな歯列を舐め、舌に舌を絡めていた。
「ん♡あっ♡はぁ……♡鬼田しゃ、ん♡夫になった私がたくさん呑ませてあげますね♡」
 桃瀬は鬼田の分厚い胸を押し、唇を離すと手に持った徳利をあおる。
 口内に馥郁たる香りが満ち、舌を刺激する酒の味を与えるために桃瀬は再び鬼田の唇に唇を合わせた。
 わずかに唇を開くと、ひんやりとした酒が互いの唇を冷やす。鬼田はそれが何かいち早く気付くと、乳飲子のように桃瀬の唇を吸った。
「んっふぅ……酒……酒もっろ……」
「んん♡んっ♡あぁ♡鬼田さんたら♡一気に飲みすぎでふよ♡」
 桃瀬は、自身の舌に絡まる鬼田の舌を吸いながら笑った。
 ちゅぷ♡、と音を立てて鬼田の舌を解放すると、酒をあおる。
「ぶ、はぁ♡……うめぇ、ん」
「んっ♡あっ♡おにらひゃ♡はぁ♡あっ♡吸うのつよ♡鬼田ひゃ♡んぅ♡」
 ふたりの口付けは、深く長く、既に周囲には空になった徳利がいくつも転がっている。
「んっふ……はぁ……ぁ♡」
「鬼田さん♡私たち、夫婦になったのだから、たくさんまぐわいましょうね♡」
 桃瀬の手が、鬼田の分厚い筋肉を撫でた。
「んッ♡、ふははっおい、やめろって! くすぐったいだろ」
「鬼田さんがむちむちしてて気持ちいいから触りたくなってしまうですよ♡」
 桃瀬は鬼田の頬に吸い付き、筋肉の詰まった胸を揉みしだく。
 鬼田はくすくすと笑い、屈強な肉体をくねらせて桃瀬の手から逃げようとする。
 不安定な体勢になったのを見逃さず、桃瀬は鬼田の身体へ乗り上げた。
「うお、おっと! あぁ〜……あぶね〜だろ?」
 鬼田はごろりと仰向けになり、くつくつと身体を揺らして笑っている。
「すみません。頭とか大丈夫でした?」
「こんなもん、なんともねぇよ〜」
 鬼田は酒精にぼんやりとした目を細めて桃瀬を見ると、大きな手で桃瀬の頭をワシワシと撫でた。
「……鬼田さん」
 桃瀬は鬼田の手の優しさに感極まって、組み敷いた男の唇に食いついた。
 酒の味のする舌を舐ると、ぞわぞわと身体中に快感が広がる。
「んぶ、んっ♡……ふ、ぅ♡」
 鬼田の喉から低く甘く唸る声が漏れ、それは桃瀬の情欲を大いに刺激した。
 ちゅうぅっ♡とひときわ強く舌を吸った後、桃瀬の唇は鬼田の屈強な顎を優しく啄み、猪首を吸い、分厚い胸板を食む。
「ん゛っ、ふはっ♡……くすぐってぇ」
 脂肪と隆々とした筋肉にまみれた鬼田の胸板は肉厚であり、はむはむと甘噛みする桃瀬の歯にずっしりとした噛み心地を与えてくれる。
 機嫌良く静かに笑う鬼田の手がくしゃくしゃと桃瀬の髪をかき混ぜる。大きく皮膚の硬い手のひらが、惜しげもなく頭を撫でるその仕草は、桃瀬の心に甘い悦びをもたらした。
「あぅ♡あっ……こら♡はははっ、待て。ぐ、ふふっ……んぁ♡」
「鬼田さん、くすぐったい?」
「んふふっ、ふはっ♡く、すぐってぇよ……お♡、ふははっあ♡やめろってぇ♡」
 酒精に酔った鬼田の筋骨隆々とした肉体は、赤みを増している。盛り上がった筋肉の谷間まで赤く、桃瀬がそれを面白がってなぞると、屈強な肉体が滑稽にくねった。
「ああ……鬼田さん、かわいらしいですね♡」
 だらしない笑みを浮かべる鬼田を見下ろす桃瀬は、身の内から湧き上がる衝動に任せて、筋肉に覆われて尖る乳首へむしゃぶりついた。
「ん゛っ♡……ふ、くく、やめろ桃瀬。んっ♡……ふふふっ」
 鬼田は忍び笑いに熱った肉体を震わせている。
 低く喉から漏れる笑い声に甘さが滲んでいた。
 桃瀬は小さな舌で鬼田の肉体を味わい、硬く尖る乳首を舐め、甘く歯を立て扱く。
「うぐ♡くふ♡乳首、くすぐったいって♡あッ♡吸うなよぉ♡」
 夢中で乳首を吸う桃瀬の髪を、鬼田の手がくしゃりと握った。乳首から引き剥がそうとしているふりをして、胸に押し付けるようにする不埒な手の動きに、桃瀬はにんまりと目を細め、更に強く乳首を吸い、尖ったそこを舐めしゃぶった。
「あっ♡おいっ! ちんぽ触んなっあ♡あうっ♡ちんぽと乳首やめろってぇ♡ん゛ん゛っ♡」
「あ♡鬼田さんてば、おちんちんガチガチに勃起してますね♡ふんどし濡れてますよ♡」
 桃瀬は、乳首を吸いながら鬼田の肉体をまさぐる。ふんどしを押し上げ勃起している巨根をよしよし♡と撫でた。
「お゛ッ♡ちんぽ♡ちんぽやめ、お♡も、おっ♡お゛ん♡」
 酔いと快感が鬼田を乱れさせる。乳首を吸われ、勃起肉を撫でられた鬼田は淫猥に腰を揺らし、桃瀬の手に濡れた亀頭を擦り付けていた。
「わあ♡鬼田さんのおちんちんおっきい♡」
 桃瀬はふんどしから鬼田の勃起肉を解放する。巨躯に見合った巨根が、天をつくようにそびえ勃っている。
「鬼田さんはおちんちんまでかっこいいですね♡先走り汁もトロトロ垂れて……♡ぬるぬるでとてもいやらしいです♡」
「んっ♡ふ、ぅ♡ちんぽいい♡お♡おッ♡いいッ♡いいぞッ♡お゛っ♡ぉお゛っ♡もっと扱いてくれ♡」
 桃瀬は乳首を吸いつつ、先走り汁を垂らして勃起する鬼田の肉棒を握りしめ扱く。
 くちゅっ、ぐちゅ、ぬちゅっ
 じっとりと濡れていた肉棒は、手淫に合わせて淫らな水音を立てる。貪欲に快感を求め桃瀬の手淫に合わせて鬼田の腰がヘコ♡ヘコ♡と揺れた。
「ん゛ぉ♡お゛っ♡ちんぽいい♡ふぅ♡うッ♡うぅ♡」
「鬼田さんおちんちん気持ちいいですか? もっと気持ちよくなりたくない?」
 桃瀬は吸い付いていた乳首から口を離し、更なる快楽に鬼田を誘い出す。
 ぐちゅ、ぬちゅっ、と続く手淫は鬼田から正常な判断力を奪い、一方で快感を与え続けていた。



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鶯命丹 2024/05/03 21:00

DK×用務員さん 初デート・弁当話【全文10000文字】

試し読み

dk×用務員のおっさん
短編2本なのでひとつずつは短い

 
 約束した猫カフェ行こうねからの告白の返事
 博雅視点で少しおっさんの過去に言及してる
 作中に出てくる団体職場などはすべてフィクションです
 現実とは何も関係ありません創作です
 エロは無い
 
 後半はお互いにお弁当作ったりするふたりの話
 お付き合い後
 エロは無い
 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 
 博雅はその日、昼前に駅前に立っていた。
 休日の駅前は、平日とはまた違う混み具合だった。
 春らしいのどかな気候に合わず、佇む博雅の眉間には皺が刻まれている。
 ――どうしたもんか……
 思案の元は今日約束した相手のことだった。
 明るい日差しの中、ガヤガヤと賑やかな街並みを見ながら、約束の相手――和津沙の事を思う。
 ――お節介して余計なことに構ってるからこういうことになんのかなぁ。
 ため息とともに心中のぼやきを吐き出すも、雑踏は博雅の心中など気にもとめず、休日を楽しむ嬉々とした空気に溢れていた。


 博雅は、所属する企業から高校の用務員として派遣されている身である。
 企業は、元々は警備会社で警備員の派遣を主にしている。
 その中に学校への用務員の派遣依頼があり、博雅はそれにあてがわれた。
 所属企業の社長は元警察のOBであり、博雅の警察官時代の上司であった。
 博雅は数年前に勤務中に事故に遭い、足を怪我して退職。その時既に小さな警備会社を設立していた元上司から声をかけられて、現在の会社へと入社する運びとなった。
 高校の用務員として出向する事となり早数年。
 日々学校の雑務を執り行う地味な職務にも、博雅はやりがいを感じていた。
 
 
 新学期の始まった四月。既に登校時刻も過ぎ施錠した門の前でうろうろと挙動不審の生徒――和津沙に出会ったのが、今現在の悩みの始まりでもある。
 登校途中に迷い猫を保護したという和津沙に助け舟を出し、ほんの数日猫を預かっただけだ。
 猫を心配し、様子を気にする和津沙を家に招いたのも深い意味はない。
 猫が心配なら観に来たら良い。とそれ以外の気持ちは全くなかった。
 向こうも同じだろうと思っていたが、和津沙は猫の件が片付いた後もちょくちょく用務員室に訪ねてくるので常備している茶菓子を渡すと、嬉しそうに頬張っていたので、てっきり無料のおやつ処として顔を覗かせているのだと解釈していたが……

 
 ――まさか好意だとは思わなかったなぁ。
 予想が大きく外れていた事は博雅をおおいに戸惑わせた。
「……大丈夫? ちょっと疲れた?」
 隣でスマホを見ていた和津沙が顔を上げ、心配そうに博雅を見ていた。
「ああ、いや……この辺じゃないか? 予約した猫カフェってのは」
 待ち合わせた駅前から少し離れた場所で博雅は立ち止まる。和津沙のスマホを覗き込むと、地図アプリが目的地にピンを刺してルートを示している。
「うん、そこの角を曲がったとこみたい」
 地図と、実際の道を交互に見て、和津沙は少し緊張した面持ちで頷いた。
 和津沙が博雅を気遣い、気負っているのが伝わってくる。それが妙にむず痒く、落ち着かない。
「あ、あったよ、マサさん」
 ホッとした様子で微笑む和津沙と視線が合う。前髪のあいだから覗く細めた瞳に、博雅の胸が跳ねた。
 好意を多分に含んだ視線を素知らぬ顔で受け流せる程、博雅は色恋沙汰に慣れている人生は送ってこなかった。
「あ……おう、そうか! 見つかって良かった」
 博雅は不自然に力んでしまう口角を上げて頷くと目的地の店内へと向かった。
 
 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 
 お弁当作ったり食べたりする話


  用務員室のドアをノックしてそっと中を覗くと、お目当ての人物がにっと口の端を上げて笑い、手招きをして和津沙を呼んでいる。
 その笑顔と、自分を呼んでいる事実を目の当たりにして、和津沙の顔も自然と綻んでしまう。
 だらしなく微笑みながら和津沙が後ろ手にドアを閉めると、博雅はソファーから立ち上がり保温ポットの方へ大股で歩いて行く。
「和津沙、昼飯食べたか?」
 ちらりと和津沙の方を見て、博雅は朗らかに尋ねた。
「まだ。今日マサさんひとりだよね? ここで食べていい?」
「いいぞー。お茶飲むだろ?」
 和津沙が頷くと博雅はマグカップにティーパックを入れて保温ポットからお湯を注いでいる。
 そんな博雅の後ろ姿を見つめながら、和津沙は備え付けの古いソファーに腰掛けた。
「よっこいしょ、と……ほい、お茶どうぞ」
「ありがとマサさん」
 隣に座る博雅の、そのソファーの軋みさえ愛おしく、和津沙はにんまりと頬を緩ませて弁当を広げる男を見ていた。
「……食わないのか?」
 手を合わせて箸を持つ博雅が怪訝な顔をして和津沙を見た。
「うん、食べる」
 和津沙は気もそぞろに菓子パンの包みを開けて、もさもさとかじりながら博雅を見つめた。
 博雅は大きな四角い弁当箱を持って気持ちの良い勢いで昼食を咀嚼している。
 その食べっぷりに和津沙は目を細め、胸に迫る愛おしさと一緒に乾いた菓子パンを噛み締めた。
 博雅はふと箸を置き、傍らに置いた緑茶に手を伸ばすとそれをゆっくりと啜る。
 視線を動かしたことで自分を見つめる和津沙に気づいたらしい。訝しむ博雅の表情が和津沙を見てそして、口を開く。
「和津沙、飯それだけか?」
「うん」
「足りるか?」
「うん。別に平気」
「そうか……ウインナー食うか?」
 弁当を向けて聞く博雅に、和津沙はパッと顔を明るくした。
「卵焼きがいい!」
 和津沙は図々しくも高らかに告げるが、博雅は特に気にした様子もなく卵焼きを箸で摘んで向けた。
「ほい」
「ありがとう! 頂きます!」
 差し向けられた卵焼きに食いつく和津沙の顔は、嬉しげに蕩けている。
「美味し。ありがとう」
 和津沙はニヤニヤとゆるむ口元を隠しながら礼を言うと、博雅は口の端をあげ更に「ほらこれも食え」と、卵焼きの隣にいたウインナーも箸で摘んで和津沙の方へ向けた。
 食べさせてくれる博雅に甘えて和津沙は口を開けて食事が運ばれるのを待つ。
 口の中に丁寧に落とされるウインナーを咀嚼しながら、和津沙は構われることへの幸福感を噛み締めていた。
 和津沙の家族は忙しく、一家団欒の記憶はほぼない。家族と共に過ごすことがない家庭環境だった。
 時折帰宅する父や母が、気まぐれに和津沙や家の中の様子を見て、その後、状況に合ったシッターなどの家政を取り仕切る職業の人間を派遣する。
 和津沙自身も、親に対して駄々をこねたりするような事もなく、置かれている自分の状況に疑問を呈することもなく今まで過ごして来てしまった。
 だから和津沙は、家庭的なものに興味が無いのだと自分では思っていた。
 しかし、博雅とともに過ごすようになって気付く。こうやって誰かとともに食事をしたり、お節介を焼かれたりするのはなんともこそばゆく、楽しいものだと。
 いつも博雅といると今まで知らなかった感情を思い知らされる。それは和津沙にとって、心躍る変化だった。
「マサさんと一緒に食べるの美味しいし……なんか、こうやって、食べさせてもらうの嬉しい……」
 胸の内に溢れてくる気持ちが、ぽろりと口からこぼれ落ちる。
 和津沙の言葉に博雅が「こんなもんで良けりゃ作ってやろうか?」と提案した。
 その言葉に、和津沙は目を見開きじっと博雅を見つめた。
 博雅は、和津沙の表情を不思議そうに見ていたものの、淡々と弁当を食べている。そしてたまに和津沙の方へおかずを差し向けながら言葉を待っていた。
 差し向けられたきんぴらごぼうを、ありがたく頬張りしゃく、しゃく、と噛み締めたあとようやく和津沙は「いいの?!」と返答をした。
「いいけど、そんな嬉しそうにされるようなもんは出てこないぞ。マジで大したもん入ってないからな。おにぎりだけになるかもしれないし……それでもよけりゃ次はお前の分も持ってくるよ」
 博雅は苦笑しつつ緑茶を啜る。照れているようで耳がほんのりと赤くなっていた。
「いいよ! 嬉しい! おにぎり食べたい!」
「じゃあ次のひとりシフトの時作ってくる……次はいつだっけか……」
「明後日! 明後日だよ」
 和津沙が自信満々に言う。
 博雅は和津沙の言葉に訝しみながら作業着の内ポケットから手帳を取り出すと、確かに和津沙の言う通り明後日がワンオペ勤務の日だった。
「あ、本当だ。よく覚えてるなぁ」と感心したように呟く博雅の声は、和津沙の胸に沁み渡り、得意げに顔を綻ばせた。
 褒めて欲しいという気持ちを込めて頭を差し出すと、わしわしと大きな手が惜しげもなく和津沙の髪をかき混ぜる。
「んじゃ、明後日の昼持ってくるからな。要らなくなったら前日の晩までに言えよ?」
「絶対食べる! うわ〜、楽しみだ……」
 弾む心地で齧る菓子パンはなぜだかさっきよりもずっと美味しい。
 菓子パンと、博雅がたまにくれる弁当のおかずを食べながら、和津沙の楽しい昼休みは過ぎていった。


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