とまりぎ亭 2023/04/21 20:30

『dROSEra レディ・バッドエンドの初恋』発表に寄せて

バッドエンドと名前を言っても構わない例のあの人

 こんにちは、雪丸仟です。
 先日、物語におけるバッドエンドの是非がTwitterのタイムラインを賑わせていましたね。
 個人的には好きです。バッドエンド。ついこの間も極上のバッドエンド作品を摂取したばかりで、ここでも熱い思いの丈を語りたいくらいなのですが、「いやー、このバッドエンドが最高でねぇ!」なんてトークはネタバレもネタバレ、万死に値する大罪なので控えます。控えましょう。

 もちろん、ハッピーエンドも好きです。落として上げるのは物語の醍醐味です。
 最終的に幸せにしてあげるためなら、主人公に道中どれだけ酷いことをしても許されると思っています(許されると思っていそうな作品が好きです)。

 しかしバッドエンドの是非について、いくら僕の好みを語ったところで反バッドエンドの方を説得することはできかねますので、偉大なる先人を例に挙げて論じてみたいと思います。シェイクスピアです。
 僕の意見は話半分に聞いても、シェイクスピアの見解を鼻で笑える人はいないでしょう(いないよね?)。虎の威も著作権が切れているので気軽に借りていきます。
 以下に引用するのは『ロミオとジュリエット』(青空文庫)の序詞です。
 序詞とは、劇が始まる前に道化が出てきて、「今から観ていただくのはこんな劇です!」と説明するための文章です。
 現代において同劇が上演される際には、省略されることもままあるようです。

ロミオとヂュリエット ROMEO AND JULIET

シェークスピヤ William Shakespeare
坪内逍遙訳
より、

序詞

序詞役出る。

序詞役 

 威權《ゐけん》相如《あひし》く二名族《めいぞく》が、
 處《ところ》は花のローナにて、
 古き怨恨《うらみ》を又も新たに、
 血で血を洗ふ市内鬪爭《うちわげんくわ》。
 かゝる怨家の胎内より薄運の二情人、
 惡縁慘く破れて身を宿怨と共に埋《うづ》む。
 死の影の附纒《つきまと》ふ危き戀《こひ》の履歴、
 子等が非業に果てぬるまでは、
 如何にしても解けかねし親々の忿《いかり》、
 是れぞ今より二時間の吾等《われら》が演劇、
 御心長く御覽ぜられさふらはゞ、
 足《たら》はぬ所は相勵《あひはげ》みて償ひ申さん。

序詞役入る。

 えっ……と、つまりこの序詞が何を言ってるかというと、

 「2つの家が血で血を洗う争いをしていたけれど、
  両家の子どもたちが悲恋の果てに死んだことによって収まったよ!」

 ということです。

 …………ネタバレです。それはもうバチクソにネタバレです。
 ついさっき結末のネタバレよくないね、って話をしたばかりなのに。裏切ったなシェイクスピア。
 このお話はバッドエンドだけど、頑張って演じるから2時間ちょっと付き合ってね、とシェイクスピアは言っているのです。
 実際の上演時間は3時間だそうですが。騙したなシェイクスピア。

 もちろん、このネタバレには意図があります。
 さらに時を遡りギリシャ悲劇、あるいはそのもっと前の時代には、悲劇とは神話や歴史の出来事を扱うものでした。
 神話や歴史、つまり、劇を観る人々は登場人物が辿る顛末を知識として知ったうえで、逃れられない運命に翻弄される彼らに涙する——というのが、そもそもの悲劇の始まりだったわけです。

 しかし、シェイクスピアによる“新作”戯曲 『ロミオとジュリエット』は、歴史でも神話でもありません (ベースとなる逸話はあったようですが)。
 そこで大先生は「ほな序詞で一発カマして、神話や歴史の悲劇と同じように鑑賞してもらおうやないか」と考えたわけです。
 あえて「2時間」と上演時間を印象づけるのも、バッドエンドを知っているがゆえの、時限爆弾のカウントが進んでいくような破滅へのタイムリミットにドキドキしてほしいからなんですね。
 大河ドラマを観ていても「ああ、今回の舞台はこの戦ってことは、今日で○○死んじゃうんだな……」とその時をハラハラしながら待ってしまいますが、ネタバレ序詞によって完全なフィクションであるはずの演劇でも同じことが起こるわけです。
 かくして『ロミオとジュリエット』は大人気となり、現代において序詞が省略されがちになったのは、今や誰もが説明されるまでもなくこの劇のあらすじを知っている——つまり、神話や歴史と同格になったからなのです。いや、エグいなシェイクスピア。とてもすごい。

 ハッピーエンドの物語に「でも、もしもあの時こうしていたら最悪だったよね」なんて想像を巡らせて楽しむ人はあまりいません。
 だけど源義経がモンゴルに渡ってチンギスハンになった、などと妄想するのは正直むちゃくちゃ楽しいですよね。
 判官贔屓、なんて言葉の意味通り、源九郎判官義経の生き様が人を惹きつけるのは、彼の物語がバッドエンドだからです。
 バッドエンドだからこそ、ハッピーになれるかもしれなかった無数のifに人は夢中になり、深く長く記憶に残り続けるのです。
 いいじゃないですか、バッドエンド。不意打ちで読者の後頭部を殴りつけて昏倒させるだけが能じゃないんですよ。

閑話休題

 ここまでやたらとバッドエンドの肩を持ってきたのには理由があります。
 何を隠そう、このたび情報が公開されました拙作

 『dROSEra レディ・バッドエンドの初恋』

 は、タイトルの通りバッドエンドをテーマにした物語なのです!

 本作のヒロイン・初巳紫音は、バッドエンドに魅せられた文芸女子(文学少女、と言いたいところですが、大学四年生を少女と呼べるかは諸説アリ)。
 そのバッドエンド狂いぶりは、『好き』の範疇を超えバッドエンドでしか興奮できないとのたまうほど。
 「憧れの先輩の結婚式に呼ばれて、非の打ち所もなく綺麗な花嫁が投げたブーケを受け取り、一人暮らしの寂しいワンルームで引き出物のバウムクーヘンを食べながら泣く」のが夢というド変態です。こわい……。

 対する主人公・卯城桜太郎はご都合主義もなんのその、筋金入りのハッピーエンド厨の小説書き。
 互いにその才能を認め合いながらも、相手の性癖だけは絶っっっっっ対に認められない二人が、短編小説を通じて互いの性癖を破壊しあう性癖破壊系文学バトルラブストーリー。それが『dROSEra レディ・バッドエンドの初恋』なのです。

 ……性癖破壊系文学バトルラブストーリーってなんだ? なに? 

 かねてから「ベッドインから先を消化試合にしないラブストーリーが書きたいよね」なんて話題にしていたのですが、
 その命題に対するひとつの答えこそが性癖破壊系文学バトルであり、性癖破壊系文学バトルラブストーリーなのです。

 性癖破壊系文学バトルラブストーリーって一体なんなんだ……。

 バッドエンドにも抗いがたい魅力があるのは前述の通り。
 しかして我らが主人公は、背徳的な誘惑で初恋をバッドエンドへと導こうとする邪悪な誘い受け文芸女子に抗い、己のハッピーエンドを貫くことができるのか……!
 もしこれが決まりきった悲劇であるなら、ここでひとつネタバレの序詞をぶちかましたいところではございますが、本作の結末は、そして性癖破壊系文学バトルラブストーリーとはなんなのか! ぜひ皆様ご自身の目で確かめてみてください。
 アウトロー目いっぱいに投げ込んでこそいますが、一途な純愛ラブストーリーであることは保証いたしますので。

シナリオはバッチリ納品して収録も終わっているらしいので、安心してご予約くださいね!

https://www.youtube.com/watch?v=sEVG3JUTq6A

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