とまりぎ亭 2023/10/04 15:25

諸事情で制作が止まった作品の試し書き。殺人鬼に育てられた男子が変な女子と殺人ラブコメする話です

 やーっ!
 こんにちは! 渡辺僚一です!
 今回は、いろいろあって制作が止まった企画の試し書きをアップします!
 
 殺人鬼の父親に育てられて、いつか父親をぶっ殺そうと思っている主人公が変な女の子達とラブコメする話です!

 このまま消えていくのも寂しいのでここにあげておきます!
 結構すきな企画だったので、興味を持った人はすぐ連絡くれよな!
 書くぜ、オイ! いつでも書くぜ!
 ファックイェイ!





「人の夢を笑うのは最低な行為だッ!」
 父さんは口を大きく開けて、小学五年生だった俺に大人げなく叫んだ。
 確かにそれはやっちゃいけないことだと思う。でも、父さんは怒り出す前にこう言ったのだ。
「父さんの夢は、全人類を殺害することなんだ」
 大人がそんなことを真顔で言ったら、誰だって冗談だと思って笑う。
 だいたい、この家にある銃器や刀剣や爆発物を全部ちゃんと使っても三千人殺せるかどうかなんだからさ。撃った弾が全弾急所に命中するならもっと殺せるけど、そんなわけないもん。
「父さんにはできるもん! 人類を皆殺しにできるもん!」
 いい年の大人に、できるもん、って言われてもな。
 それが、六年前の話。
 父さんは今も警察の手をすり抜けて、夢をかなえるために邁進している。
 今日もどこかで人を殺してる。最低だ。

 ・

 学費や生活費を援助してくれる来栖さんの家を一ヵ月に一度訪れて、夕食を一緒に食べる決まりになっている。
 僕みたいなもんが幸せ家族と一緒に食卓を囲むのはいろいろな意味で厳しかったけど、この習慣が始まってもう二年。さすがに慣れてきたし楽しみでさえある。
「あのさ、お兄ちゃん」
 玄関でスニーカーを履いて帰ろうとしている俺に話しかけてきたのは、見送りに来てくれた彩希ちゃん。小学六年生。
 彩希ちゃんは嬉しそうにくすくすと笑っている。
「今日のご飯を作ったのお母さんじゃなくて私なんだけど、気づかなかったでしょう?」
「えっ? そうなの?」
「やっぱり~。お兄ちゃんはそういうのに鈍いから気づかないと思ってたんだ。何を食べてもおいしいおいしいって言うもんね」
「本当においしいから言ってるんだよ。そっか、彩希ちゃんが作ったんだ。お母さんに負けないくらい料理が上手なんだね」
 彩希ちゃんは、んふっ、と微笑むと猫みたいに頭を寄せて来た。
「頭をなでたくなったでしょう?」
 こんな言動を平然とするなんて、どんだけ両親に愛されて育ったんだろうか? 俺が父親にこんなことしたら命なかっただろうな。育ちの違いに失神しそうだ。
「彩希ちゃんはお料理が上手だね」
 なでなでしてあげると、ふにーん、と嬉しそうに鼻を鳴らした。そのうち喉をゴロゴロ鳴らすようになるかもしれない。
 もう終わりの合図に、彩希ちゃんの丸い頭をぽんぽん軽く叩く。
「それじゃ、ばいばい。ごはん、とっても美味しかったです。ありがとう」
「あのさ、お兄ちゃん」
 微笑みを消して、小さな顔を真剣でいっぱいにする。
「どうしたの?」
「もしかしたらなんだけどね……」
「うん?」
「お母さんとお父さんはさ……」二秒の沈黙を挟んで「私とお兄ちゃんが結婚すればいいな、と思ってるのかな?」
 絶句。どういう思考の迷路にはまり込んでそんな結論に達してしまったんだろうか?
「小学六年生の娘にそんなこと願う親はいないと思うよ」
「そうかな? 私はお兄ちゃんでもいいんだけどな」
 無邪気にそんなこと言わない方がいい思う。
 年上としては適当な返事をしてごまかす場面なのかもしれないけど、しっかりと答えておく必要がある気がした。
「あのね、彩希ちゃん。俺はいつか刑務所に入ったり、生きたまま皮を剥がされて逆さに吊るされたり、センチメートル刻みで体を端っこから切られて死んだりすることになるかもしれないんだ」
「…………なるの?」
「なる可能性は人より高い。だから、俺にそういうことは言わない方がいいと思う。あっ、心配しなくて大丈夫。ご両親に支援してもらったお金は必ず返すから。それまでは生きてる」
 彩希ちゃんは、ふんっ、と鼻を鳴らしてクールにため息を吐き捨てた。
「あのさ、お兄ちゃん。プロポーズされて恥ずかしいのはわかるけど、そういうごまかし方はどうかと思う」
「ごめんなさい」
「真摯に反応して欲しい」
「難しい言葉を知ってるんだね」
 信じてもらえなかったみたいだけど、こうやって少しずつでも匂わせておけば本当のことを知った時、ショックの量を少しは減らせるんじゃないかと思う。
「いい? プロポーズのことちゃんと考えておいてね」
「わかりました」
 知り合いのお子さんに、そんな冗談を言ってもらえるのは幸せなことなんだろうな。
 彩希ちゃんが手を出して「スマホ」と言うので素直に渡す。大きく口を開けながら、赤ちゃんライオンみたいに「がおぅ」と可愛らしく吠えて自撮りすると「はい」と俺に返す。
「今月のお守りです。どうぞお納めください」
 俺は頭を下げて「ありがとうございます」
 他人に愛され慣れてる行為だ。自分は他人に愛されてるって確信がなかったら、こんなことできないに違いない。
 来栖さんのご夫妻は、いつ真実を彩希ちゃんに話すんだろう? その時にどう可愛い顔が歪むのか──それを楽しみにできるくらい人間として終わってればいろいろ楽なのかもな。

 来栖家を出て百メートルくらい歩いてから、肌がざわざわしていることに気づく。
 どうしてざわざわしてんのかわかんないけど、ろくなことにならない、という結末だけはハッキリと見えている。
 お腹にナイフが刺さってるのに、どうしてお腹が痛いのかしら? と悩んでいるような状態だ。
 こんなざわざわは無視して家に帰って寝た方がいいよ。そうしようよ。
 そう思いながら肌がよりざわつく方へと歩いていく。
 結局、こういうのから逃げても無駄なのだ。台所の食器と同じだ。放置すればするだけ面倒さがレベルアップする。
 口の中で小さくつぶやく。
「父さんを殺さない限りこれは終わらないんだ」
 

 
 どれだけ決意したって向き合うのが厳しい現実ってある。
 帰りたい。マジで帰りたい。勘弁してください。そう何度も心の中でつぶやきながら、結局2時間くらい歩いてしまった。すげーやる気のある人みたいだ。
 住宅地から10キロくらい離れたここはすっかり山の中。
 桜が咲き始めたばかりの季節で、軽く肌寒い。
 ぽつぽつとある家の八割以上が無人で、家も畑も自然に戻る準備をしている最高の限界集落。
 西川町は山間の街なので市街地と住宅地を離れるとすぐにそういう光景が広がってしまう。
 それでも歩けるのは人がいた時に作られたのだろう街灯が律義に光を放っているからだ。
 ……発生源はここかな?
 ボロボロの木造の建物の前で立ち止る。
 暗くでよくわからないけど、農作業の道具とかを入れておく納屋だろう。かなり大きめで、中は二十畳くらいありそう。
 ポケットの中に常に入れているコンビニのおにぎりコーナーで売ってる海苔巻きくらいの大きさの懐中電灯を構えて、スイッチを入れる。
「うっしッ、行きますか」
 小声で気合いを入れた直後に、ひぃっ、と情けない悲鳴を上げてしまった。
 懐中電灯の丸い光の中に横から、ずいっ、と何者かが入り込んできたのだ。
「いひっ!」
 腕に入れてしまった力を抜き、った、ったったたっ、ったったっ、ったたたった、と自分でもよくわからないリズムを口ずさみながら必死にバックステップを踏む。
 ──あっ、危なかった。
 条件反射的に、懐中電灯の先端で相手の喉を突いてしまう所だった。そんな異常者のような行動を俺はしない。
 懐中電灯の丸い光の中に、同い年くらいの女の子がいた。
 フリルのついた丸襟のブラウスに、レースがついた薄紅色のふわふわスカートをはいた女の子は大きな目を瞬かせながら、喉についた大きなピンク色のリボンに手をやる。
「さすが鷹栗さま。お見事です」
 なっ、何? その反応、何?
 俺は踵を上げながら気づかれないようにゆっくりと肩甲骨を回す。咄嗟の動きができる姿勢を整えておくのだ。
「お見事ってどういうこと?」
 女の子は自分の喉元のリボンをなでる。
「鷹栗さまは私の喉を突こうとしましたが、ケブラー繊維で作ったリボンだと気づいてやめましたね」
「懐中電灯で照らしただけで材質がわかるような特殊な目はしてないよ」
 ケブラー繊維は防弾チョッキや防刃チョッキに使われる繊維。そんなもんで、あんな可愛いリボンを作るなんて話は聞いたことがない。
「ご謙遜なさるなんて、奥ゆかしいです」
「喉を突くのが嫌だっただけ」
「ますます奥ゆかしいです」
 嫌だなぁ。絶対に変な人だ。怖いな。
 こんな山奥の納屋の前で原宿にいそうな女の子が立ってるなんて完全にホラーだもん。怖い。
「えっと、俺の名前を知っているようですけど、あなたはは誰ですか?」
「櫻森月葉と申します」
「櫻森さん、ですか」
「はい」
 それで説明を終えた、と言うような自信のある笑顔を俺に見せつける。
「ふつつかものですが、これからよろしくお願いいたします」
 深く頭を下げて言った。どうやら敵意はないみたいだけど、そんなのを上手に隠す人は幾らでもいる。
「櫻森さんはどうしてここにいるんですか?」
 もう、と小声でつぶやきながら櫻森さんは腰を左右に捩じるように動かす。
 わかっているくせに……、というのを言外に匂わせているけど、そうされる理由がわかんない。怖い。綺麗な顔しているだけに余計に怖い。
「ここに来れば、鷹栗さまにお会いできると考えたからに決まっているではありませんか」
 櫻森さんは俺の情報を持っているようだけど、こっちは持ってない。だからって、持ってませんよ、って見せてしまったらペースを掴まれて自殺に追いやられてしまいました、ということになるかもしれない。
「鷹栗って名前もここら辺に住んでるって情報も掴んでるんだよね? こんな状況を待つ必要はなくないか?」
 櫻森さんは胸の前で手を組んで、キューッ、と体を伸ばして感極まった、という声を出す。
「さすが、鷹栗さま!」
「えっ? 何が?」
「即座に私の行動の不審な点を見つけました。さすがです」
「いや、あの……」
 不審に思われて喜ぶの、怖い。
「鷹栗さまの偽物が世の中にいるかもしれません。間違ってその人に出会ってしまったらと考えたら慎重になってしまいます」
「いや、俺の偽物なんかいないでしょ」
「またご謙遜を。鷹栗さまは矢柳さまのご子息なのですから、偽物が現れても不思議ではありません」
 俺の名前だけじゃなくて父さんの名前も知ってんのか……。
 櫻森さんは、ぶるる、と全身を震わせた。
「もし、間違った出会いをしてしまって、偽者の鷹栗さまに操を捧げるようなことになってしまったら自害は必然です。ですから、一日千秋の思いでこの日を待っていました。この状況で駆け付けるのは間違いなく鷹栗さまです」
「それがわかる、ということは櫻森さんも3Rなんですね」
「もちろんです」
「俺に敵意はないんですよね?」
「もっ、もちろんです。私、鷹栗さまと協力してこの事件を解決したいって思っています」
「……協力ですか」
 前後左右に動けるように、体の中を緊張させる。骨盤を立てて、背骨の一番下の骨、仙骨につなげる。
「この中に何があるのか確認しました?」
「まだです。私と鷹栗さまの初めての共同作業ですから、一緒に確認しようと思って我慢していました」
「そっ、そうなんだ」
 言葉の節々から、見つけたくない答えを見つけしまいそうだ。
 櫻森さんは無言でふわふわなスカートを捲りあげた。
 えっ? えっ? えっ?
 ペンライトの光を反射して真っ白な少女の足が浮かび上がる。
 あっ。
 足の付け根にある布は、スカートと同じ薄紅色だった。
 櫻森さんはスカートの中から俺のより一回り大きい手ごろな鈍器として使用可能なサイズの懐中電灯を取り出した。
「そっ、そんな所に隠す必要ある?」
「何が起こるかわかりませんから、できるだけフリーハンドでいたいのです」
 確かに、カバンとか持っていたら手を使えないけど……。
「リュックじゃダメなの?」
「リュックは咄嗟に脱ごうとした時、腕に絡みついてしまうことがあります」
 揺れないようにしっかりと固定すると外すのに手間取ったりする。
「でも、そんなとこに隠したら歩きづらくない?」
「いざという時はベルトを外して脱着します。すとん、と簡単に脱げます」
 なるほどね。意外と合理的かも……んっ? でも、その。それって、その……えっと。
 そういう時は、パンツ姿になる、ということ?
 櫻森さんは懐中電灯のスイッチを入れながら恥ずかしそうに斜め下を見る。
「鷹栗さまのエッチ」
「えっ? なっ、なんで?」
「懐中電灯で私の中を照らし続けていました。そういうのはエッチな人がすることだと思います」
「いや、それは、そんな所から出てくると思わなかったからで」
「そういうのは……その。ちゃ、ちゃんとしてからにしましょう」
「ちゃんと?」
「はい、ちゃんとです」
 櫻森さんは一方的に微笑んでから一方的に真剣な顔になって、懐中電灯で納屋の入り口を照らした。
 どういう感情の揺れ動きがあったのか、なんとなく想像したくない。
「それでは中へと行きましょう、鷹栗さま」

 中には鋤、鍬、スコップ、農具、芝刈り機、小型の耕運機などが雑然と並んでいた。
 ゆっくりと壁に沿って光を移動させる。
 俺が、あっ、と小さくつぶやくと、櫻森さんも懐中電灯の光を同じ場所に重ねた。
 ──やっぱり、こうなってるのか。
 照らされたのは、壁に張り付いた女の子の裸の死体。
 腹が俺の顔の下くらいの高さにある。左右に広げた両腕。それぞれの手のひらには大きな釘。まるで磔刑のキリスト像のようだ。
 この死体がざわざわの原因か……。
 櫻森さんはじっと死体を見つめて言う。
「変わった死体ですね」
「そうだね。どうやって固定してるのかな? あれだと肉が千切れて死体は地面に落ちてしまうんじゃないかな?」
 手のひらに釘を刺しただけでは、体重を支えるのは無理。
「私は肌に張りがなさすぎるのが気になります」
 櫻森さんは死体に近づくと、無造作に腹部を押した。
 ぷきー、と空気の抜ける音がした。
 櫻森さんの手のひらか死体に減り込んでいた。
「目立った外傷はないのに、内臓が喪失しています」
 わたぬきをして軽くしたからこの状態でもぶらさがってられるってことか。
「やっぱり、そういう殺人ってことか」
「はい。間違いなく私達と同じ3Rが起こした殺人です。この事件を解決するのが私達の初めての共同作業になりますよね」
 そう言って、俺に向かって深々と頭を下げる。
「末永くよろしくお願いいたします」
 ……末永く。
「あのさ。なんとなく聞きたくないな、って思っていたけどもう限界だ。櫻森さんは俺をどうしたいんだ?」
 櫻森さんは、ぽっ、と頬を赤らめてる。
「どう、とは、その……。鷹栗さんが望むなら、わっ、私はどのような変態的な行為でも我慢します」
「違う違う。俺がしたいことの話じゃなくて、っていうか変態的な行為なんかしないって」
「我慢なさらなくてよろしいのですよ」
「だから、違うって。櫻森さんが俺をどうしたいかの話だよ」
「そっ、それは、その……」
 露骨におろおろする。
「おっ、乙女にそのようなことを口にさせようとするなんて、鷹栗さまはサディスティックなのですね」
「くっ、口にできないようなことを考えてるんだ?」
「はっ、はい」
 そして素直に返事してしまうんだ。
「俺は櫻森さんのこと全然、知らないんだ。名前さえ聞いたことない」
「えっ? ええっ? 名前もですか?」
「うん。名前も」
「あ、あの……私のこと受け入れてくれていた雰囲気だったような気がしていたのですけど?」
「勘違いさせてごめん。なんとなく聞けなかったんだ。それで、櫻森さんは何者なの?」
 櫻森さんは綺麗に立つと、じっと俺を見つめる。
「私、鷹栗さまの許嫁です」
 やっぱり、そういうことだったか……。
 クソが! 
 あっちこっちで人殺しをしながら息子に許嫁を用意するって、あのクソオヤジ! 何を考えてやがる! 本当に最悪だな、あいつ!
 絶対にぶっ殺してやる。
「あの、鷹栗さまはご存じなかったのですか?」
「悪いけど知らなかったよ」
 櫻森さんはもじもじする。
「そっ、それでは、その……あの。改めまして、お願いします。この殺人事件の解決を私達の結婚式にしていただけませんか?」
 泣きそうな顔で無茶苦茶なことを言う。そんな結婚式、あってたまるか!
「私、ずっと鷹栗さまと結婚するってことばかり考えていて……。ですから、結婚するといいと思います。必ず結婚してよかったって思ってくれるはずです」
 まさか一日で二度もプロポーズされるとは思ってなかった。
 モテモテだな、俺。
「どうして俺は結婚してよかったって思うんですか?」
「だって、その……。私、その、大きいですから」
「大きい?」
「そこは、その……じっ、自信があります」
 櫻森さんは本気さの伝わる声で言った。

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