Miserable Melancholy 2023/08/03 20:00

1500DL、3500DL記念SSまとめ

こんにちはMiserable Melancholyです。

前回の記事にいいねなどありがとうございます。

新作発売も間近なのですが、先日1作目が翻訳版も合わせて1500DL、2作目が翻訳版も合わせて3500DL。2作合計5000DLもDLしていただいたので、せっかくだから何かお礼が出来ないかとSSを書き、先んじてTwitterに載せました。
今回の記事ではこの二本のSSをテキストで載せております!
細やかなお礼で恐縮ですが、楽しんでいただけますと幸いです!

また、SSは少々修正した箇所がありますのでご了承ください。

※本編後の話です。
※2本どちらもヒロイン視点、ヒロインが喋ります。ご注意ください。

以上ご注意ください!では以下からどうぞ!(今回は短めなので全体公開です)



1500DL御礼 五十棲SS「夏はアイス?」


「あっちぃ……中引っ込まないのか?」
 バルコニーに置かれた椅子に座ってこの暑い中、意味もなく日に当たっていた。虫干しでもしている気分になりながら、ジリジリと焦げ付くような太陽を浴びる遥か下の木々を見つめていると、背後の窓が開いて叔父が不愉快そうに声をかけてくる。
 叔父は暑いのも寒いのも苦手だ。体が根本的に強くないらしい。その理由はネグレクトなのだろうなと推測すると、なんとも言えない気持ちになるが。
「何となく、ここにいたくて」
「そうか? でも、そのままだと熱中症になるぞ」
「冷たい水飲んでる」
 ふぅん、と叔父は私に何を言っても無駄だと思ったみたいな声を出し、バルコニーとリビングが繋がる窓を閉じた。
 セミが鳴いている。ワシワシと騒ぎ立てるそれは、夏を感じさせる一番の音だ。風情がない音だなと、じっくり聞いていると余計に思う。しかしどうにもその騒がしいBGM、暑くてたまらない気温とぬるい風は現実味をなく日々を過ごす私にとっては唯一実感できる現実で離れられなかった。
 背後でサッシが擦れる微かな音がしたかと思うと、急に首筋に何かが当たる。冷たいそれにビクッと思わず肩を揺らすと、隣に立っている叔父が楽しげに笑った。
「ほら、アイス食っとけ。水ももうぬるいだろうし」
「普通に渡してよ」
「首冷やした方がいいって言うだろ?」
 首に当てたアイスを何食わぬ顔をして渡してくる叔父からアイスを受け取る。独特な形をしたプラスチックを満たすジュースを凍らせることでアイスのようになるそれ、子どもの頃よく食べたそれを買ったのは叔父だ。
 ――俺これ食ったことないんだよな。
 スーパーで買い物をしていた時、子供向けにポップな柄の描かれたビニールに包まれたそれを手に取って叔父はなんだか感慨深げに言葉を漏らしていた。叔父は、なんだか常に辛気臭くて困る。
 買う予定もなかったそれを叔父の手から取ってカゴへ入れたあの瞬間、私は母のことを思い出していた。
「ん、お、うま。こういう日にいいな、さっぱりしてる」
「シャーベットだからね」
「確かに普通のアイスよりシャリシャリしてるな。お前、これ、小さい頃はよく食べたのか?」
「まあ」
 これが好きな頃はお金あったし、そう言おうとしてなんだか暑苦しいはずなのにどこか重たくて冷たい、冬の海みたいなこの空間が余計に重たくなる気がして口を噤んだ。
 セミは騒がしく、額から汗が垂れて流れている。手に持ったシャーベットだけが冷たく、まとわりつく空気はまるでサウナみたいで苦しさすら覚える。背中には汗が垂れて不愉快だった。
 夏はこんなにも、ただ暑くて湿気たものだっただろうか。


3500DL御礼 権丈SS「夏はかき氷?」


 暑い。
 という季節のはずだが、残念ながら私は夏が来たということを感じる出来事がとても少ない。
 癪だが夏を最も感じる瞬間は――。
「ただいまー」
 気だるげな声が聞こえて、出迎えるなんて殊勝なことはせずにリビングのソファに座ったまま、興味もない昼のワイドショーを見つめていた。向日葵畑の話をしているが、今年はそれどころではないほどの酷暑のようで、さっさとその場に売られている冷たいスイーツに話は移り変わる。
 向日葵をイメージした黄色いかき氷、オレンジ味らしいそれを見つめていると、彼の足音が近づいてきた。
「ただいま。また今日も迎えに来てくれなかったね、残念」
 夏になってからかきあげた前髪、その下の額にはうっすらと汗を滲ませた彼が覗き込むように私の前に顔を出す。半袖の服を着て、ほんの少し日焼けた肌をした彼がテレビ画面を真ん中で切って邪魔をする。
 腹立たしいが、この男の存在で私は夏というものを実感している。
「お、かき氷だ。うまそー」
 私の横に座った彼は呑気にテレビを見てそう言葉を漏らしていた。
「今日まじで暑いよ。きみは外に出たら溶けちゃうだろうし、当分出ちゃダメ」
 笑いかけてくる彼をじっと睨んだ。馬鹿にしているのかと言いたいが、声には出せない。私にはまだ彼のトラウマがあって、それから毎日トラウマを積み重ねるみたいに酷い目に遭わされている。そのせいで脅えて過ごしているのに、彼は私を愛しているだとかなんだとか言ってきた。
 きっとこの男は、頭がおかしいのだろう。
「あはは! 怒った顔も可愛いね。冗談冗談」
 駄目だ。やはりこの男はまともではない。
 私は一生このままなのだろうか、絶望的な気分になったせいで気持ちが沈んでいく。
 テレビは楽しげに、向日葵畑から都心のかき氷の名店と新店にシフトして、この気分に似合わないような明るい色合いをした綺麗な小さい氷山を映し続けていた。
「いいなここ。二人で行ってみる? 昔デートしたみたいにさ」
「デート……?」
 まるで記憶にないことを話され、思わず顔をあげていた。私からすると突拍子もないことを言っている彼は、覚えてねぇの? なんてキョトンとした顔をしている。
「よく行ってたじゃん。二人でさ、俺が迎えに行ってたでしょ」
 途端、蘇る金髪の男。ムスクの香りが強い、ピアスを沢山付けた彼。未だに思い出すと動悸がするその姿に、確かに待ち伏せされて脅された記憶がある。
 あれを、この男はデートだと認識していたのか。
 衝撃の事実に思わず背筋がぞっとする。
 冷たいかき氷などまるで必要がないそのおぞましい思考に、私は無意識のうちに自分の腕を強く抱きしめていた。
「あれ? どうしたの。寒い? 全く……きみってやっぱり、外に出ると溶けちゃうかもね」
 しばらくはお家にいてね、なんて笑いかけられても私は少しも笑えなかった。



以上です!
改めて2作ともたくさんのDLありがとうございます!

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