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2023年 07月の記事 (9)

近況7/31 学問とは事実を積み重ねた先に結論を見出すものだ

「先に思いつきのような結論があってそれを証明していこうとするのは学問的な態度ではない」(キリッ

 私が最も愛する漫画作品が10年以上ぶりに続刊刊行したというので、ありとあらゆる用事を脇にのけて最優先で確保して読みました。

https://bigcomicbros.net/work/77733/

『宗像教授世界篇』……ついに帰って来たか、あの宗像教授が……!

 ……え? エッチ小説の進捗を見に来たのに、こんな劇画調ハゲオッサンの表紙を見せられても困るって?
 うん、申し訳ねぇ。でも私が好きなんだからしょうがないだろ?(キリリッ

 まぁざっくり言うと、日本神話や伝説、歴史、考古学と、ヨーロッパの神話伝説歴史や考古学を圧倒的に強引な仮説で結び付けて、あれよあれよという間にトンデモな結論をぶつけられてアゴが外れそうになる、みたいな伝奇ロマン漫画です。
 ヨーロッパからユーラシア大陸を横断して日本にやってきた古代製鉄民俗が様々な神話や伝説を持ち込み、それらを読み解くことで日本神話や伝説、歴史を全然違う解釈してやるぜー! みたいな。

 まぁぶっちゃけ、厳密な学問視点で言えば「トンデモ偽史」以外の何ものでもないんですけどね。しかし、めちゃめちゃ高い画力と、妙に詳細な考古学成果の紹介や論拠の五月雨撃ちで、なんか強引に納得させられちゃうトリップ感がクセになるんだこれがw
 最初のシリーズで、「源義経は実は生きていてそのままチンギス・ハーンになった」説を大真面目に取り上げたりしておりましたからなw でもなんか、北海道アイヌの考古遺物とか、東北地方には源義経が通過したって伝説はあるけど義経の墓を謳う伝説の地はなぜか存在しないとか、なんか妙に説得力あるところを突いてくるんだよねw

 偽史の快楽ってあると思うんですよ。
 昨今はとかく間違った情報に対するツッコミが激しくて、小説にまで学問的な正確さを求めるみたいな言説もSNSなどで跋扈していたりしますが、ぬけぬけとそこをブチ破って行くのもフィクションの楽しみの一つだと思うの。以前の近況記事(FANBOX時代ですが)で半村良の『産霊山秘録』の話をしたこともありましたがね。日本史の裏でひそかに蠢いていたヒの一族というのがあって、歴史上のあの人物やこの人物も実はその一族出身だったのだ、日本史はこの一族が動かしていたのだ……! みたいな、学問では埋められない歴史の欠落を想像で大胆に埋めちゃう楽しみってあるわけですよ。
 そもそも、「関係ないと思っていたアレとアレが実は関連していたのか!」っていうのは、真面目な学問を勉強していて最も興奮する発見の一つで。伝奇ロマンはその楽しみを大胆にジャックしちゃうジャンルですよね。なかなか敷居は高いんだけど、ハマるとめっちゃ面白いのよ、これ。SFだとホーガンの『星を継ぐもの』とかがこの「発見の面白さ、学問の面白さ」をめちゃめちゃ上手にフィーチャーしてて凄かったんですけど。ああいうの憧れるんだよね。私がもしエロ小説を書き始めてなかったら、今でも「そういう話」を書こうと悪戦苦闘し続けてたことでしょう。
 ガチに信じちゃうといろいろ問題はあるけどね。嘘を嘘として楽しむなら、これはなかなか奥深い楽しみなわけです。

 宗像教授シリーズは特に、その着眼点と、アクロバティックに関係ないものを繋げちゃう剛腕が凄くて、この手の伝奇ものの中では一番好きですねぇ。「徳川家康のブレインである天海僧正が、家康の死後、平将門を『西遊記』の孫悟空に見立てて東照宮信仰を盤石のモノにしようと暗躍していた」とか、何を言ってるかわからねーと思うが、試しに読んでみな、トぶぞ?

 で、今回の新刊もワクワクしながら読み始めたわけですが……ええ。ツボにハマりまくって、5分くらいゲラゲラ笑い続けてましたね。
 もう最高だった。「これだよ、これが読みたかった!」っていうのを期待以上のクオリティでたっぷり味わわせてもらって、まさに理想の続刊というのはこういうのだな、っていう感じでした。
 ギョベクリ・テペ(近年新しく発見されたトルコの遺跡で、先史時代の人類史を大きく塗り替えた遺跡、何気にこういう最新の考古学成果に目配りするところもさすがよね)で発見されたレリーフを強引に日本九州の装飾古墳にブッ繋げて、そのついでのようにアマテラスとスサノオの高天原神話も読み替えてしまう暴走っぷりのドライブ感、マジで最高だったw もう暴走としか言いようがないんだけど、それが気持ちいいんだからしょうがない。
 俺の宗像教授が帰ってきた! おかえり教授! また思う存分暴れてくれよな!

 いやー、良い刺激をもらいましたね。エロ小説に活かせる刺激だったかどうかは分からんけどw
 シリーズとして続くということなんで、私の生きる楽しみが増えました。ワクワクが止まらんね。素晴らしい事です。


 さて、執筆の進捗ですが。
 謎の原稿X、まぁ難航しておりますが、今日か、遅くとも明日には仕上がる予定。いつもの投稿ペースだったら締め切りオーバーですが、今回は8月後半公開予定だからセーフ!w トラブル等なければ、絵師さんに挿絵依頼して来月公開予定です。
 わりと、「これを出したらもう後には引けない」的なモノなんでドキドキではありますが、でも私自身が「これがやりたかったんだ」というのに繋げていく話でもあってワクワクも高まっておりますね。楽しんでもらえたらいいなぁ、と思いつつ。
 エッチ内容も、今までとはまたちょっと違ったテイスト、それとまた今までやったことなかった責めもあるかなーと思うので、まぁほどほどに楽しみにしていただければー。

 そんなとこです。じゃあ引き続き原稿進めてくる!


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近況7/24 パパパウワードドン

 今年も夏の魔物がやってきてますね。
 ええはい。Steamサマーセールのことですが。
 例年必死の抵抗によってやり過ごすのですが、今年は……うっかり……

 やっちまいました。

 毎回、Steamでセールやるたびにこれが値下げされてるの出てきて、「やりたいなぁ、でも買うと絶対数十時間ぶっ飛ぶの分かりきってるんだよなぁ……」と思って泣く泣くスルーしてきたんですが、今回は欲望をセーブするのに失敗しました。ええはい。
 まぁ、執筆に影響しない範囲で、空いた時間に遊ぼうと思います……。

 CIVは主に5をやってたんですけどね。人類史全体を扱うってスケールのデカさと、武力で制圧するだけじゃなく、文化力を高めたり科学力を究めたりといった、この手のシミュレーションで言うところのいわゆる「内政」特化でも勝利できるゲーム性が好きで。けっこうあれこれ遊んでおりました。
 そう、私プレイスタイルとしては内政屋です。武力制圧向かないですね、たまにアチーブメント解除のためにやってみても、大体仕掛けるタイミングを逸したまま、「有利に戦えるようにもっと戦力高めよう……科学ツリー進めてすごい兵器開発してからにしよ……」みたいなことやってるうちに結局戦機を逸してダメになるパターンですw ラストエリクサー使えない系男子なんで。

 話のスケールデカいの好きなんだよね。CIVシリーズは、なんか人類史全体を包括して概観したような気分になれるのが好き。

https://youtu.be/E6HMqoOOQDE

 なんかね、こういうロマンがすっごい好きで。
 エロ小説書きとおよそ親和性の無さそうなロマンなのでアレなんですけどw でもなんか、この「好き」の感覚は育てていきたいなぁと思ってたりします。

 とはいえ、当面は目の前の原稿に集中しないとね……さぁゲームばっかりやってないで執筆に戻らなきゃ……うん、あと1ターンだけ……


 さて、執筆ですが、謎の原稿Xを引き続き進めております。そろそろエッチシーンに入るところなんで、ここから加速していければな、というところ。今月中に仕上げたいですね。
 8月公開予定ということで、ちょっと夏らしい要素を出しつつ……比較的エッチシーンの比率は少なめな原稿なんですけど、まぁでもエロは妥協せずじっくり書き込んでいきたいと思います。
 そもそもこの原稿自体、ネタが夏向きじゃなければもっと後に着手しても良かったはずのものなんですけどね……まだルリルナ完結の余韻を味わっていたかったところ、季節感の関係で今の時期に作業タイミングをねじ込んだ感じでもあり。
 だからこそスケジュール内できっちり終わらせたいところです。がんばります。

 そんなところで。


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近況7/18 君は生きのびることができるか

 300円コース支援者さん向けの、次月限定小説シチュアンケート、設置しております。

https://ci-en.dlsite.com/creator/15436/article/915065

 今回は夏スペシャル、ということで、夏ならではの海、夏祭り、みたいなシチュを4つ新規にご提案しております。よろしければ是非ご参加ください。


 で、現在は謎の原稿Xに取り掛かっております。詳細は出てみてのお楽しみ。
 7月中に書き上げて、トラブル等なければ8月末までに公開、という予定。

 基本的に私がやりたいことをやる、を最優先に計画を組んでおりまして、現在目論んでいるプロジェクトがどう受け止められるかは戦々恐々ではあるのですが、まぁでも、やってみるしかないよなぁ、っていう感じ。しょうがないじゃん、私が見たいんだもん! 的な。
 どうなるか分かりませんが、まぁまずは作品をつくって公開するところまで漕ぎつけないと何とも言えませんわね。まずは頑張ります。

 さて、以下は先日見てきた『君たちはどう生きるか』の超長文感想です。気になる方だけどうぞ。
 頭からしっぽまでネタバレなので、まだ見てない方には一応非推奨です。
 せっかく、前情報まったく無しみたいな公開のされかたをしてたわけで、できるなら予備知識まったく仕入れない状態でやっぱり見るのがいいのかなーという気がしてます。だってさ、宮崎駿作品をまったく先入観無しに見られる機会なんて、多分もう二度とないよ?
 私はそう思ったから、公開初日に急遽で出かけて行ったのでな。
 そういうわけで。ではでは。








 見終えて、「宮崎駿ありがとう!」って心底から思った、というのが偽らざる最初の感想でした。
 少なくとも私にとっては本当に本当に最高の映画だった。素晴らしくて、しばらく呆然と映画館の片隅で余韻に浸ってましたね。

 私はオタク人生を宮崎作品でスタートしたんです。中学の頃に『魔女の宅急便』にハマってね。それからずっと宮崎作品と共に歩んできたようなところがある。その私のオタク人生すべてが、今回の作品を見て呼応して、「宮崎駿ありがとう!!」って叫んでた。そんな視聴体験でした。これを幸せと呼ばないなら、いったい何を幸せと呼んで良いのかわからない。


 視聴後、近くの席に座ってたお若い女性の二人連れが「よく分からなかった」って感想を述べてたんですよね。Twitter見てても、そういう感想はわりと多い気がします。
 とりあえず、この物語を受容するに当たって、一つ読み解きのカギというか、作品のモードを理解するための前提があると思うんですよ。それがジュブナイルでも童話でもない、「児童文学」というジャンルに触れたことがあるかどうか、だと思う。
 私は以前たまたま、天沢退二郎の『光車よ、まわれ!』を読んだことがあったんです。鮮烈な読書体験でね。ディズニー作品よりも生々しい残酷さと現実のリアルさがあって、けれど奔放なイマジネーションが弾けてて、混じりっけ無しの冒険活劇で。
 知名度のある作品だとエンデの『モモ』が近いと思います。
 独特のリアリティラインがあるんですよ。いわゆるファンタジーにしては現実世界のディティールが詳しいし、けど現実的なリアリティとして見るには、あまりにも不思議なファンタジー的なことが起こり過ぎる。いわゆる考察みたいな整合性も整ってなくて、世界観の細部はさっぱりわからなくて。
 この辺に慣れてないと、「残酷なことが起こってるはずなのに作品中に緊張感がない」とか「世界観が明かされてなくてよく分からない」ってなると思うんだよね。ちょうど『ポニョ』の世間での感想がそんな感じだったのと同じように。
 まぁ、キャロルの『不思議の国のアリス』だってそうでしょ? ハートの女王の国の制度や統治はどうなってるんだ? とか考察しないやん? エンデの『モモ』にしたって、時間どろぼうっていうのがどこから来たどういう連中なのか、詳細な設定は作中で全然明かされないやん? そういう世界観設定をかっちり作って明かそうとする昨今のエンタメと文法が違うのよ、設定よりもリアルタイムに展開する冒険が大事なのよ。
 宮崎駿世代にとっては前提として備わっているそういう「児童文学」というモードが現代の多くの視聴者には読解困難になってて、その落差みたいなところで「分からない」っていう感想が起きやすいよな、とは思います。そこは不幸な作品だよね。でも、それを力技でねじ伏せる宮崎監督のキャリアと実績と、アニメづくりの実力が、ただただすげぇ、って感じになってます。


 予備知識まったく無しで見に行ったのが、体験としてやっぱりワクワクを増してくれた部分はありましたね。
 タイトルがタイトルですし、その上に前作が『風立ちぬ』だったこともあって、やっぱりメッセージ性の強い、というか生きる教訓みたいな堅苦しいお説教に満ちたお話である可能性も否定できなかったわけですよね。実際、冒頭で劇中の時代が戦時中真っ只中であることが明示された時点で、「少年の立志編を時代背景を入れ込みながら語るビルドゥングスロマンが始まったのでは?」という予感はけっこうあって。
 それが、お屋敷に着いて、運び込まれた荷物に群がる婆ちゃんたちのまるで百鬼夜行のような有り様で「ん?」ってなって、そこからアオサギが本気出してくる辺りで「うわぁ」ってなっていく、あの「ちげえ、これファンタジーだ!」ってなった瞬間のワクワク感はやっぱあったよね。

 序盤で「うおおおおお!?」ってなったのは、アオサギに連れ去られそうになった主人公の真人、池から這い上がってきたカエルに全身たかられて大ピンチになったところで、継母のナツコさんが放った矢ですね。あれ、鏑矢(かぶらや)という音が鳴る矢でした。源頼政が妖怪鵺を退治した時にも使われたという、由緒正しい退魔アイテムだよ。あれで「この物語の登場人物、全員タダモノじゃないのでは?」ってなって一気に見てる私のテンション上がりましたねw

 そういうマニアックなネタは随所に散りばめられてたと思います。
 たとえば真人がアオサギを倒すために、アオサギ自身の羽根を拾ってきて加工して矢にしているシーンで、本が崩れちゃうんですけど、そこで一瞬映った本の書名の中に、私の見間違いでなければ『イソップ寓話集』があったはず。
 実は、イソップ寓話の中に、自分の尾羽を加工した矢で自分が射られてしまう鷲の話があるんです。だから、あそこでイソップを一瞬映すことで、この後の展開をもう暗示してるんですよね、多分。
 そういう小ネタに気づけると、グッと面白さが増す話なんだと思うなぁ。多分私も気づけてない要素がいっぱいある。

 あと、呪術ネタも熱いよね。一時期なんかファミリー向けみたいな売り出し方されてたジブリ作品に、マニアックな伝奇呪術バトルみたいな要素が出てくるとそれだけで超興奮してしまうんですけどw なので『千と千尋の神隠し』でどう見ても式神にしか見えない紙人形呪術が出てきた時もスーパー興奮したんだけどね。今作も随所にそういうのあって楽しかったです。
 宮崎監督、実は諸星大二郎作品にけっこう傾倒しているという話があるらしいんだけど、継母のナツコさんが籠ってる岩屋、あれ完全に古墳の石室だし、そこに籠もってる女性って黄泉の国神話とか、妊婦が籠ってるとなるとトヨタマビメのイメージとかもあるんかな? そういう日本神話イメージが唐突に入ってくるの、なんというかすっげぇ諸星大二郎ちっくで良かったw 紙の幣が襲ってくるイマジネーションとかもね。

 戦時中の日本というローカルな話だったのが、「宇宙から降ってきた隕石」みたいなのを介して急に話のスケールがぐっと広がるイマジネーションもすごい良かった。あそこで、世界観や整合性の軛から解き放たれて、想像力のままに飛び立てるのが児童文学的なファンタジーの真骨頂なんじゃよね。
 日本という極東の地、世界地図の端っこに住む私たちが、それでも鬱屈せずに世界全体に思いを馳せられる、そのための重要な翼なんだよな。リアリズムに変に縛られるほど、我々極東に住む日本人はそういう観念の檻から出られない。私もだから、ああいう話が書きたいなって思うんだよ。

 ただ、もしかしたらそこは、ミスリードも含んでたのかな、っていう気もします。
 主人公があわやセキセイインコに食われそうになる(あそこで包丁持ったインコに囲まれる展開、児童文学過ぎて笑っちゃうよね)、そこでヒミという少女に助けられて一時合流するんだけど。
 物語の終盤で、実はそのヒミが過去の時間軸から迷い込んだ主人公の母親だったというのが明かされるわけですけどね。
 でも、じゃあ純粋日本人である主人公の母親が、なんであんな西洋の家に住んで、パン食って過ごしてるんだっていう疑問も起こる。
 その辺ぼんやり考えてたんですけど、しかしよく考えたら、大戦中に少年だった主人公の母親、その少女時代って大正時代とかなんですよな。だから、そもそも戦時中日本とは全然見える景色が違う。
 物語の冒頭、主人公の父親の手荷物の中に砂糖があってさ、それで婆ちゃんたちが「あるところにはあるんだね」「これでおはぎが作れる」とかってはしゃいでるわけです。つまり主人公のいる時間軸では砂糖なんてめったに配給もない超貴重品なわけ。
 でも主人公の母親が少女だった頃はそうでもないんじゃよね。
https://plaza.rakuten.co.jp/akiradoinaka/diary/201704130000/
 夏目漱石は砂糖をまぶしたトーストが大好きだった、という逸話があるそうですが。だから、今作の「ジブリ飯」シーンであるジャムをたっぷり塗ったトースト、あれも主人公真人にとってはとんでもない別世界のご馳走なんだけど、母親のヒミにとっては普通の食事なんじゃよね。
 そう、戦時中日本から見たら、たかだか1世代前の過去である大正時代がまるで別の国、外国のような別世界なんですよ。
 だから主人公たちのファンタジー世界の冒険は、実はおそらく過去の時間軸への冒険ともオーバーラップされている。我々にとって、実は自分たちの住んでるこの地の過去の姿っていうのが、もうファンタジーに等しい異世界なんだよね。そういう感覚は『千と千尋』にもあったけど、今作ではよりはっきり押し出されてる気がする。
 そして、自分たちの身近な、住み慣れた土地にも全然知らなかった別世界があるように、我々の身近にいる親しい人たちの中にも未知の姿がある。乳母役の婆ちゃんの若いころ、そして亡くなった実母の若いころがまるで別人のようにして現われてくる。
 さらに、自分自身の内面にすら、自分にとって未知の闇があるんだよね。

 『天空の城ラピュタ』の空賊船タイガーモス号のドーラの自室に若いころのドーラの写真だか絵だかが飾ってあって、それが現在のドーラとは見違えるような美少女、というのがあったりしますけど。『ハウルの動く城』とかもだけど、今は老齢の女性の中に若かった頃の闊達な姿、少女時代の姿が秘められてるというのがおそらく宮崎監督にとって一つの驚きの源泉みたいになってて、それがいろんな作品の中でリフレインしてるんだろうな、本当に一生念頭にあるテーマの一つなんだろうな、みたいなことも感じました。男の方にはそこまで無いんだよね、多分。男はどんだけ年食っても少年の頃と変わらない馬鹿なんでw
 主人公の父親もさ、最初の方は「家族思いではあるんだろうけど、金と権力を通してしかそれを表明できない、悲しいすれ違いを抱えた、子供世界からは遠い人」なんだろうなって思えてたのが、日本刀腰に挿して突っ込んでくる辺りで「だめだ、この人大好き……」ってなっていく感じもすごい良かったっスねw なんだかんだ、オッサンが可愛いの、良いよなぁ。
 アオサギもだよね。あのジコ坊的なところから、憎めない感じになっていくの、まさに『未来少年コナン』時代から変わらない漫画映画の真骨頂って感じで良かった。
 冒頭のアオサギが、純粋に動物の行動模写としてすっげぇレベル高いからこそ、それが明らかに鳥じゃない感じに変貌していく不気味さはやっぱ純粋に凄いし、リアルに精通してるからこそ非リアルの逸脱が描けるっていうのも、とんでもない実力持った人の力技を見せられてる感じで、もう圧倒されますよなぁ。

 あのイマジネーションのごった煮で、何が何やら、どうなってるやらさっぱり分からん混沌世界で、見てて匙を投げそうになるんだけど、でも若キリコさんの帆掛け船を操る動きの圧倒的な説得力とリアリズムね、ああいう動きの説得力で無理やりに、ワケわかんない世界観を成立させてしまうの、まさにアニメーションの真髄なので。たまらんよ。
 小説ってさ、言葉で綴るから、どうしても理詰めで組むしかなくなるのよ。だから、ああいう力技はできないんだよな。理屈としては成り立ってないのに、それが圧倒的な映像の説得力で成立しちゃう、考えるな感じるんだ、みたいな世界が構築できるの。あれこそアニメーション、映像の快楽なんよ。それを、まず理詰めで見てしまって理屈として分からないからって切り捨てちゃうのは、だからもったいない見方であってさ。
 そういう、世界観設定とか理詰めの理解とかにこだわらない小さい子が見た方がすんなり楽しめる感じの作品だと思う。今回の作品見て、宮崎駿はやっぱり一番本質の部分は児童文学作家なんだなぁ、と思わされました。
 大昔に一度言及したけど、宮崎監督が昔、読売新聞にエッセイ的な連載持ってたことがあって、そのタイトルが「僕は駄菓子屋さん」だったんだよね。なんかメッセージ性とかさ、そういうのを求められがちな国民的作家になっちゃったけど、宮崎監督本人は「駄菓子屋さん」になりたくて、だから本当に作りたいものを作ったら、ああいう作品になるんだと思う。世間からは三ツ星シェフの高級料理みたいなのを求められるけど、本当は、小さい子が遊びながらニコニコ笑って食べる駄菓子が作りたいって、そういう人なんだよね。きっと。


 最後、主人公は新しい積木を提示されて、これで争いのない平穏な理想世界を作れって言われるんだけど、真人自身が自分の中にも悪意が厳然とあって、だからその理想世界には触れられないって峻拒するの。あれは正に、コミック版『風の谷のナウシカ』で示したテーマの再話になっていて。コミック『ナウシカ』終盤のナウシカのセリフは私の人生の座右の銘なので、宮崎監督がそこに帰ってきてくれたことに、もうただただ満足してました。
 お話の舞台が戦時中日本だっていうのが、ここで効いてくるんじゃな。穏やかで平和な理想世界を拒んだら、帰る先はこれから未曽有の悲惨が待っている太平洋戦争中の日本なわけよ。でもそこへ帰っていく。高潔だからじゃなく、主人公自身もまた悪意というのをどうしようもなく抱えている等身大の人間だから。
 真人の側頭部の傷はだから、ずっと、主人公も純真無垢な聖人なんかじゃなくて、ずる賢い悪意を持っているっていう、それを隠さず抱えて生きていくんだっていう刻印になってるんですな。『もののけ姫』のアシタカの腕のあざと同じスティグマだけど、真人の傷は誰のせいでもない、自分自身の中から湧いてきた悪意の証拠であることに意味があって。でも、人間だから誰しもが大なり小なり持っている悪意、それを抱えた人間が人間なりにやるべきことをやるのが重要なんだよな。それを無かったことにして、平穏な理想世界に入ることが、作品を通して拒まれてる。
 そういう主人公を描いた上で、スクリーンの前の我々に「君たちはどう生きるか」って投げ返されてるんだよね。この映画を見ている我々がこれから付き合わなきゃいけない現実の時代も、戦時中日本ほどじゃないけど、悪意と困難がてんこ盛りに待ち構えてるのがほぼ間違いない世界でさ。でも、世界を混乱だらけにしている原因としての悪意は、同じものが我々の中にもある。じゃあどうする? っていう。

 私は、そういう風に作品を見ました。
 確かに、昨今のエンタメの文法とは全然違う作りだ。でも、話の舞台が戦時中日本であること、それでいて宇宙規模のスケールを持っていること、過去と現在の交錯、そういう要素がちゃんと綺麗に作品の中で呼応してて、エンドロールを見ながら、本当に「良いモノ見せてもらったな」と思えた。勢いまかせにこんな長文を書いてしまうくらいにはねw

 そういうわけで、個人的感想でした。うーん、また見に行きたい!


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【終了しました】支援者限定アンケート夏スペシャル!

 毎月恒例の、来月の限定読み切り小説の内容を決める300円コース支援者さん向けアンケートです。
 票の多かったものを採用します。

 今回は夏スペシャル! ということで、海とか夏祭りに特化したエッチシチュを4つご用意しました。そのうち一つが採用され8月の限定小説の題材となります。
 300円以上ご支援の方はこの機会にぜひご参加ください。

【 300円コース 】プラン以上限定 月額:300円

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活動3周年!

 pixivに『ルリとルナ』第一話を投稿したのが2020年7月14日でした。本日は私の陵魚名義の活動を始めて3周年の記念日というわけです。
 というわけなのですが、そのお祝い投稿がこんな遅い時間になったのは、うっかり本日公開の映画『君たちはどう生きるか』を見に行っちゃったからなんですけれどもw いやだって、たまたま封切りの今日がお仕事お休みだったの、こんなん行くしかないやん?
 視聴しての感想は、まぁ後日あらためて近況記事ででも。

 さてそんなわけで、記念となる本日、支援者さん向け小説を投稿させていただきました。
嵐の日の敗北・ナメクジ&泥影霊W陵○

 PDF版も一緒に作って、落とせるようにしてありますので、ブラウザでもPDFでも読みやすい方をご利用ください。
 支援サイトお引越し後第一弾ということで、心機一転、こんな感じになりましたが、お楽しみいただければ幸いです。


 この活動を開始してから3年目ですが、ついに最初の連載作である『ルリとルナ』を完結させられたという、非常に大きな一年でした。合わせて、ノクターンノベルズの更新もし続けた1年でしたねぇ。当初は出張所的な位置づけのつもりだったのが、やはり小説専門の投稿場所だけあってすごいPV数があったのと、ノクターン内の「変身ヒロイン」タグの中で徐々に総合ポイント数が上がっていくのが面白くて、気が付いたらpixiv連載と同じくらいウエイトを置いて見るようになってました。その辺、気分次第でスタンスを変えていけるのは個人活動の自由さでもありますかね。

 本日から、私の活動も4年目となります。そしてルリルナ完結後の、次の展開へ向けてまた動き出す節目にもなります。
 今後もバリバリ活動していきますので、改めて、どうかよろしくお願いいたします。

 その決意表明も兼ねまして、100円コース以上の支援者さん向けに、次シリーズで痴態をさらs……げふんげふん、活躍する新ヒロインのキャラクターデザインと次作扉絵を先行公開したいと思います。
 今回も手掛けていただいたのはルリルナ挿絵でおなじみの代夜銀さんです。
 支援者の方は、ぜひご覧になって行ってください。

 さて。これを出したからには、私はもう後には引けなくなるわけなんですよね……w さぁて、じゃあまた1年、こつこつ頑張りますか。

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